【完結】セイウンスカイは正論男に褒められたい   作:春華ゆが

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芽吹け紡げよスターティングワン

 天高く、ウマ娘肥ゆる秋。なんて言っても私たちは食欲に任せて太るわけにはいかなくて、やはりレースのためのトレーニングに身を捧げる毎日なんだけど。あれからスズカさんはリハビリに日々勤しんでいるらしく、その様子はスペちゃん越しに毎日のように伝え聴いている。私はやっぱりどちらかと言えば部外者で、エルやグラスちゃんほどにはその話題に気持ちを寄せれるわけではない。だけどやっぱり、よかったと思う。大切な友達の、大切な人。だから本当に、よかった。もちろんいつかは私だって、スズカさんと仲良くなりたいし。……まるっきり縁がないのにお見舞いにまで行くのは、どうしても憚られてしまったのだけど。まあ、それはそれ。

 ともかく今は、秋。厳密に言えば、秋の日の放課後。練習中。つまりここまでの回想にどういう意味があったかといえば、概ねサボりか暇つぶしである。いや、有マ記念に向けて諸々頑張らなきゃいけないのは、その通りなんだけど。こと今のチーム<アルビレオ>においては、もう少し手前にもう一つ大事な一戦があるのだ。チーム<デネブ>にも相変わらず協力してもらいながらの、それくらいに大事な一戦。そりゃあ年末の中山ほどじゃないんだろうけど、それは単なる規模の話。ほら、未来の主役は目の前に。今日だって、誰よりもひたむきに真摯にトレーニングに勤しんでいるその人。

 

「……はい! もう一本、走りますっ!」

 

 満を辞して。そんな形容ができそうな、ナリタトップロードさんのデビュー戦。それが今の、「私たち」の最優先事項だ。

 

「……スカイさん、大丈夫ですか?」

「ああごめん、ちょっとぼーっとしてたかも」

 

 なんて、そんな人の心配ばかりしていられないのもまた事実。フラワーに心配というか、注意されてしまった。腑抜けてないかーって感じで。さて、なんと言い訳しようか。そもそもぼーっとしていたと白状してしまったような。などと考えていると、フラワーの方から話を広げてきた。

 

「トップロードさんのこと、見てたんですよね」

「……まあね。やっぱり気になるよ」

「去年のスカイさんはどうだったんですか?」

「どう、とは」

「デビューする時のことですよ。それって、他の人へのアドバイスになるかもしれないじゃないですか」

 

 そう言われてみれば、という感じだった。私には微妙に思いつかなかった。他人へのアドバイス、かあ。いつも誰かのことを考えてるフラワーならではの、やはりこれもアドバイス。それにしても、私の場合はどうだったかと言われると。

 

「……うーん」

「どうしたんですか?」

「いや、あんまり参考にならないかもなと思って」

 

 こういう経験は、大体みんなの中で成り立ちが違うものだろうし。たとえば私はトレーナーさんに一回デビューを空振りさせられたけど、トップロードさんはそんなことない。トレーナーさんが人を見て判断を変えてるというのは、今更ながら意外ではあるんだけど。私の時は、気持ちの問題だった。けどそれはやっぱり、トップロードさんにそのままは当てはめられない気がする。そんな悩み悩みの私に対して、フラワーはあくまで提案をしてくる。これも彼女なりのアドバイス、だった。

 

「私は、もし私なら、ですけど。スカイさんのデビューの話、聞けたら嬉しいって思います。……私もまだ、デビューはしていないですけど。やっぱり、不安はいっぱいですから」

 

 その言葉を引き金に、胸に去来する回顧録。そういえば、デビューの時は色々悩んだ。強くて眩しいみんなが、自分を置いていくんじゃないかという恐れ。自分が期待を背負う立場になることへの、裏返しの不安。結局今となっては、その時の見え方はコインの一側面でしかなかった。みんな私が思うほど強いばかりじゃないし、私自身にも思ったより、強いところと弱いところがあった。それは今になってわかること。でも、あの時はわからなかったことだ。となるとつまり、フラワーの言いたいことは。

 

「同じ悩みかは、わからないけど。私も不安だったよって、言ってあげることはできる」

「はい。スカイさんなら、それができると思います」

「そっか。フラワーが言うなら間違いないね」

 

 それだけ評価されるのは、少しくすぐったいけれど。今の私は、昔よりは素直に期待を受け止められている。そして、それに応えたいと言う気持ちも。そしてその気持ちはどちらかというと、もっと昔の幼い私に近いもの。変化は時に温故知新。過去と現在と未来さえ混ざり合って、ここに私は出来ている。

 

「……ニシノフラワー! 少しこちらへ来てくれる?」

「あっ、トレーナーさんに呼ばれちゃいました」

 

 練習の合間の会話なんて、唐突に打ち切られるためにあるようなもの。フラワーに言われた通りトップロードさんと話すのも、ちゃんとトレーニングが終わった後の方が良さそうだ。なんて本題のついでに、ふと思うのは。

 

「にゃはは、フラワーもサボりが板についてきたね」

「……もう! でも確かに、スカイさんの影響かもしれませんね」

 

 なんてこと。フラワー、昔よりおしゃべりになったね、なんてね。これもやっぱり変化の一つだとして、果たしていい変化と言えるものなのやら。そんな私の心配に反して、君は朗らかに笑いながら。

 

「私がこんなにお節介になったのは、スカイさんの影響、ですから!」

 

 そう、めいっぱいの笑顔を残して。ふわりと尾を揺らしながら、フラワーは向こうへ走っていく。本当に、いつの間にそんなずるい言い回しができるようになったのやら。ずる賢いウマ娘に影響を受けたというのも、なるほど説得力があると言うべきか。まあ何はともあれ、私のやることは決まりだ。フラワーから受け継いだお節介のバトンを、トップロードさんに渡す。

 そうやって受け継ぐことで、人はかけがえのない誰かになれる。未来に向けて、変わってゆける。

 

 

 練習を終えた皆を見下ろす、カラスも鳴き始めた秋茜の空。そんな濃く深い橙を見上げているトップロードさんがいた。そのまま見ていたら彼女の方が吸い込まれそうなくらいに、ずっと空の奥を見ていた。邪魔しちゃ悪いかな、なんて思いつつ。

 

「お疲れ様です、トップロードさん」

「あっ、お疲れ様です! スカイちゃん、有マ頑張ってくださいねっ」

 

 思いつつも恐る恐る声をかけてみると、ちょっとびっくりしているような返事が返ってきた。やっぱり声をかけてはいけなかったかも。だって、その言動の通り誰かの心配をできるような人の挙動じゃない。ぴんと手足が張ってるし、耳は忙しなく動いている。

 

「それを言うなら、じゃないですか。トップロードさんも、頑張ってください」

「……はい」

 

 表面的には元気だけど、滲み出る緊張はやはりというべきか。少しつつけばそのままバランスを崩して倒れてしまいそう。いつも活力に溢れている印象の強い人だからこそ、今はそこに落ちる影がくっきりと表れている気がした。……いやむしろ、今まで見ていたその姿は、コインの一側面に過ぎなくて。この人にもやはり、表裏一体の裏がある。それなら、私がやるべきことは。

 

「トップロードさん、このあと時間ありますか?」

「はい……? あります、けど」

「それは良かった。なら、ご迷惑でなければという感じなんですけど」

 

 ぱん、と両の手を合わせて。思えばトップロードさんは、色々なことで親身になって助けてくれた。チームから抜ける子が出たあの時も、キングとの距離に悩んでいたあの時も。自分だって思い悩むたちなのに、いつでも受け止める側に立ってくれる。私にとって一番の、素敵な先輩だ。そんな人に、私がやるべきこと。私がしたい、恩返しは。

 

「トゥインクル・シリーズの『先輩』として。今から私を、頼ってください」

 

 いつもの反対。いつもの裏返し。人の関係性だって、表裏は全く決まっていない。だから助けられてばかりの私だって、誰かの力になれるはず。それは多分、このチームに入ってからわかったこと。そして<アルビレオ>に入った理由の一つには、あの日のトップロードさんの精一杯の勧誘がある。ならこれも先輩のおかげ。私にはこの人に返さなくちゃいけないものが、まだまだたくさんある。トップロードさんは、言葉なくこちらを見つめていた。瞳は揺れて、尾も揺れて。心の揺らぎが表に出ているようだった。そんな彼女に、私は言葉を連ねる他なかった。それが、一番だった。

 

「いつかトップロードさん言ってたじゃないですか。『辛いことを一人で抱え込ませたくない』って。こうも言ってましたね。『適度な距離感だから言えることもある』とか」

「そんなこと、言いましたっけ」

 

 日も落ちてだんだん暗くなってきたけど、その表情くらいは見えますよー。「痛いところ突かれたな」って顔。そういうことを言えるのに、そういうことを言われるのには慣れてない顔。人を頼るのが苦手なのは、私も全く他人のことは言えないのだが。まあそういう相手には、無理矢理手を伸ばすべきだと相場は決まっている。これもトップロードさんから教わったこと。……そうやって言われたことのおうむ返しでちくちくやろうかなんて思っていたところで、一ついいアイデアが浮かんだ。

 

「はい、言いました。……そして、こうも言いました」

 

 まだ、空は黒色にはなっていない。たとえそこまで暗くなったとしても、星空の下というのもオツなものだろう。

 

「『一緒に走った後なら、なんだって言える』。『スカイちゃんとも、走りたい』。……なら、今からやるべきは一つです」

 

 そこまでもったいぶって、私は誰にでもわかる結論を宣言する。トップロードさんも同じ答えに至るだろうというくらい、わかりやすい結論。二人で、同じことを考えていた。

 

「走りましょう。今から、です」

 

 しんと声が震えて響く、誰もいないグラウンド。練習メニューはとっくに終わった、ほんの少しのオーバーワーク。その時間と空間を二人で共有できるのなら、それはやはり。未来のライバルを互いに見据えて、また一つ走ることを重ねるのであれば、やはり。

 

「……はい! 初めての勝負、ですね!」

 

 やはりこれも、「最高」の一つ。それはこの先も光のように溢れていくのだと、互いに言葉と未来を紡いでいこう。

 誰かと。みんなで。私たちで。

 

 




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