【完結】セイウンスカイは正論男に褒められたい   作:春華ゆが

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刻々拍動とスティルチルドレン

 古の時代から新しいものごとというものは、人をことごとく悩ませるものである。特に私のような、不真面目な人間にとっては。

 

「うえ……これほんとに私がやるんですか」

「そうよ。あなたなら出来ると思ったから」

 

 そう私がぐちぐちと指差したものは、先程<デネブ>のトレーナーさんが目の前に持ってきたケーキの材料一式。あなたなら出来るって、この大量の粉とか道具とか、一つも今まで見たことないんですけど。

 

「無理そうだったらヘルプを頼むつもりだけど、できればやり遂げてほしいわね」

 

 そう言ってコック長もといトレーナーさんは、傍をちらり。その先にいるフラワーは食パンを何やら型でくり抜いているし、キングは一心不乱におにぎりを握っている。ちなみにさっきまで「なんで私がおにぎりなのよー!」と嘆いていたのだが、それでも既に己の仕事に取り組んでいる。

 そうなればやはり、私だけ逃げ出すわけにはいかない。少なくともそう思い、若干消極的な決意を固める。……いやでも、私だけ大変じゃないですか?

 

「じゃあ私も、自分の料理に取りかかるから」

「ちなみにトレーナーさんは、何を作るんですか」

「鶏の丸焼きよ。昨日下拵えはしたから、あとは詰めたり焼いたりだけど。メインディッシュは、他人には任せられないわ」

 

 言って、きびきびと<デネブ>のトレーナーさんはどこか──すなわちチキンの調理──に向かっていく。なるほどそれに比べたら、私に与えた仕事は任せてもいいもの……なのだろうか? 料理など詳しくないから、さっぱりやっぱりわからない。

 あるいはそれくらいこの人が私を信頼してるとか、期待してるとか。そんなことも少し考えて、それを打ち消せるほどの材料はなくて。ならばこれにも応えたいと、願いを一つ閃いた。

 

「よし、頑張りましょっか!」

 

 そしてもう一つ。意外な仕事を成し遂げたなら、あなたも驚いてくれるかもしれない。おそらくまだ一人トレーナー室で書類と格闘している、私のトレーナーさん。ちゃんとデザートには間に合うかな? 

 それは私にはどうしようもないことだけど、だからこそ私は私のことができる。私なりのやり方で、あなたにできないことができる。なんて、そんな大げさなことじゃないかもしれないけどね。

 それでも今日の私にできることは、言い訳できないくらいに決まってしまった。いややっぱり、作りながら泣き言を言うかもしれないけど。だけど頑張る。うん、いつものトレーニングと同じ。手に何やら持ってひたすら待つのも、だいたい似たような経験がないわけじゃないし。

 そんな感じで、色々考えたり。

 それでも結論は決まっていて、その思考は一瞬で過ぎ去る程度のものだったり。

 そして私は、ぱんぱんとエプロンを叩いたりして。

 そっと、気持ちを切り替えた。

 

 

 まずは土台を作らなきゃいけない、とレシピには書いてあった。スポンジケーキ作り、というやつだ。私が小さい頃にも、たまーにケーキを食べさせてもらえることはあった。

 その丸い形が当たり前のように崩れないのを見て、「どうしてケーキは丸く出来上がってるんだろう」と考えたことがあったんだけど。実際作ってみる段になると簡単な話で、型にはめて焼けばいい、というだけらしい。何事も便利な道具があるということである。

 とはいえ今回用意された型は見たことのない大きさだ。それは当然、それだけ大人数で食べるから、ということだろう。などと適当な思考と共に、作業を進めていく。

 こうして実際にやってみると調理工程とはなかなかどうして面白いもので、全ての工程に意味があるのがわかる。

 たとえば型にクッキングシートを敷いておくことは、生地と型の間に隙間を作り抜き取りやすくする意味がある。

 たとえば今のうちからオーブンを予熱しておくことは、後で実際にオーブンを使う時にしっかり最初から熱が通るようになる意味がある。

 そういうことは素人ながらわかって、納得がいく。納得がいくというのは、理論がしっかりとしているということ。……うん、<デネブ>のトレーナーさんが料理が好きな理由がわかるな、これは。というより料理が好きだから、<デネブ>のトレーニングは理論を重視しているのかも? 

 そんな横道にそれた疑問も交えつつ、とりあえずまずは下準備。型にクッキングシートを敷いて、小麦粉を振るっておく。オーブンを予熱する。あとはスポンジケーキを作った後のために、あらかじめホイップクリームを作る時用のボウルを冷やしておく。などなど。やることは多い。

 なんとも序盤から忙しいが、後のための仕掛けのようなものだ。そう思えば我ながらめげずに大量の作業をこなせた。ひょっとして、向いてるかも。

 などなどと、時間は緩やかに進み。

 

「遅くなってすみません! ちょっと頼まれごとをしてしまってて……」

「遅いですよ、トップロード先輩!」

「わっ、キングちゃんごめんなさい! ……そのおにぎり、すっごく綺麗ですね!」

「……と、当然! 一流のおにぎりとはこのことなんですから!」

 

 そんな会話が聞こえるように、トップロードさん含めて他の子が家庭科室に集まってきた。その様子はチーム<アルビレオ>とチーム<デネブ>のまさに混合であり、そしてみんな来た順番に<デネブ>のトレーナーさんの指示で各々の作業を始めていく。キングやフラワーのところで手伝ったり、サラダとかの新しい料理を作ったり……それはいいんだけど、いいんですけど。

 私のところには一人も応援が来ない。正確には<デネブ>のトレーナーさんも相変わらず一人でチキンやその他のメインディッシュに近いものを作っているようだけど、あの人は好きでやってるんじゃないか。いや私も案外料理は嫌いじゃないみたいだけど、一人でやるのは大変な気がしてきた。

 とはいえたとえば今やってる生地作りなんかは、手伝えばなんとかなるものでもないし。まずは卵と砂糖を混ぜて、そこにさらにバターを混ぜて。これが終わったら電動のハンドミキサーに持ち替えて、更に混ぜる。正確には高速設定で混ぜた後に速度を落としてもう一度らしいが、とにかく混ぜる。二人で混ぜて二倍の速度になるとはどこにも書いていなかった。先程までは理論を感じたのに、ここにあるのは純粋な根気の問題な気がする。まるで<アルビレオ>の練習みたいな。私の苦手なやつじゃないか。

 やれやれとボウルの中身を混ぜ続けていたところで、とんとんと肩を叩かれた。後ろを振り返ってみれば、もちろん見慣れた小さな姿があった。エプロン姿は見慣れていないかもしれない。

 

「どうですか、スカイさん?」

「わっ、誰かと思えばフラワーじゃないですか。自分の持ち場を離れたら、サボりで言いつけちゃうよ〜」

「からかわないでください。……ちょっと他所を見てくるからって他の子に任せたのは、ほんとですけど」

「おやおや、まあ今回は見逃してあげましょう」

 

 そうフラワーと話すと、少し息抜きになった気がする。気づかないうちにかなり集中していたようだ。こんなひたすら根性で続けるようなことにも集中できちゃう人間になっちゃったか、私。

 そんな私の心の内を見透かすように、ふふっと笑ってフラワーは言葉を紡ぐ。そんなことばかり上手くなって、私みたいな悪い大人にならなきゃいいけど。

 

「スカイさん、楽しそうですね。ちょっと心配してたので、安心しました」

「楽しそうに見える? 悪戦苦闘の極み、だけどね」

「はい。本気で嫌々やってたら、トレーナーさんに抗議するつもりでしたから、私」

「そりゃ過激だ。そうならないなら、良かったのかな」

「もちろんです。スカイさん、普段から弁当とか作ってみるのはどうですか? 楽しいですよ、お弁当作り!」

「うーん、前向きに検討しておきます……」

 

 やはりフラワーも料理愛好家の類であったか、というのはさておき。他の人からもそう見えるのなら、私は結構向いてるのかもしれない。料理そのものというより、何かを作り上げることだと考えると筋は通る。策を練り上げ、理屈を捏ねる。そういうことはやっぱり楽しい。

 でも、それだけでもなくて。

 

「まあでも、昔の私なら多分すぐにやめてたよ」

「そう、ですか?」

「うん。だって私が目指してたのは、一人気ままに楽して生きることだからねー」

 

 物事に含まれる要素は、一側面だけではない。どうしてもコインの裏表のように、楽ありゃ苦ありのバランスがある。以前の私なら、その片方しか受け入れられなかった。たとえば料理の工程を見るのは楽しくても、実際自分でやる根気はなかった。

 そうでなくなったのは、トレセン学園での生活があったから。私は数々の繋がりから、「セイウンスカイ」を変化させていた。誰かのおかげで、私自身の力でもある。そんな成長が、今の私にこうさせている。今の私は、こうしたいと思えている。

 

「さて、そろそろ生地をオーブンに突っ込めるかなあ」

「お疲れさまです!」

「ありがと。それにしても、結構体力使うもんだね」

 

 ボウルで生地を混ぜて、小麦粉を加えて更に混ぜて、バターも加えて更に更に混ぜて。本当に根気の要る仕事だった。まあでも、<アルビレオ>のトレーニングに比べたら楽勝だ。これもひょっとしたらトレーナーさんのおかげと言えるかもしれない。

 何はともあれ、ようやく。出来上がったどろどろの生地を、最初に用意した型に流し込んで。これまた最初に温めておいた、オーブンの中に突っ込んで。ようやく。

 

「ようやくひと段落、だね」

「焼き上がるまで、ちょっと休憩した方がいいですよ」

「フラワーみたいに、ね」

「あはは、そうですね……。でも、根を詰めすぎないのは大事ですよ?」

「そうだね。じゃあ今度は私がフラワーのところにちょっかいかけに行こっかな」

「それは、あの。緊張して、集中できる気がしないので……」

「冗談だよ。これ以上フラワーをサボらせるわけにはいかないしね」

「……もう」

 

 というわけで、オーブンで焼くこと三十分。その三十分の潰し方は、別のところに求めるところにした。今ひらひらと手を振って見送ったフラワーとは、別のところ。

 

「キングちゃん、追加で炊き上げました! これでお米は全部、ですっ!」

「ありがとうございますトップロードさん! ……たったの十合、一流が全部『握って』見せるわーーっ!」

 

 ……うん、別のところ。なんだか私とは、別の意味で根を詰めている気がするし。ちょっと流石に面白そうで、ちょっかいのかけがいがありそうだし。そう思ってそちらに歩き始める前に、少しだけ窓の外を見て。

 聖夜はまだ、始まってすらいなかった。




クリスマスもう一回くらい分かれそうです
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頑張ります
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