【完結】セイウンスカイは正論男に褒められたい   作:春華ゆが

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乙女たちと担い手たちのスキャット

「すごい……すごいですっ、キングちゃん! こんなにたくさん、こんなにばーっと……。しかも、すごく形もきれいです、このおにぎり!」

「おーっほっほっ! そうです、そうなんですトップロード先輩! 私はおにぎり一つ一つにも手を抜かない、真の一流ウマ娘! そう、その名は!」

「キング、ヘイロー-っ! ……よーし、私も負けてられないですね!」

 

 うわ、キングコールに乗っかってる。こりゃトップロードさん、重症だな。ちなみに乗っけてるお嬢様はもう手遅れだ。そんな感じで見たところ、二人ともすっかり出来上がってしまっている様子。そんな危険なハイテンションたちにちょっかいをかけようとしているセイちゃんの未来やいかに。なんて、面白そうだから首を突っ込むだけですけど。

 女三人寄れば姦しい、とも言いますし。まだ姦し足りないだろう、などと思いながら声をかけに行く。……と思って近づいたあたりで、逆にあっちから声をかけられた。相変わらずお米をんしょんしょと握りながら、である。

 

「あらスカイさん、自分の仕事は大丈夫なのかしら? 私は当然、一切問題ないわよ! 何故なら! 私は!」

「キングヘイローだから、だねー。ちなみに私はセイウンスカイですが、それでも今のところは問題ないよ」

「スカイちゃんも、お疲れ様ですっ! 実はこっそり、たまーにそっちを見てたんですけど……あれって、ケーキですよね!」

「そうなんですトップロード先輩、スカイさんは<デネブ>のトレーナーさん直々にホールケーキを作るよう頼まれていて。……一応今のところ問題がないのなら、心配は杞憂だったみたいだけど」

「おやおや、心配してくれてたんだ。でもキングが素直にそんなこと言うなんて珍しいね。雪でも降るんじゃない? ……って、今の季節じゃありえない話じゃないか」

「……たまには、ね。ほら、今日はクリスマスでしょう。いつも同じ時間を過ごせることの得難さを、再確認する日。……だから、たまには、よ」

 

 そんな知識がすらすらと出てくるのは、流石良家のお嬢様、といったところか。でもそこから語られた言葉は、素朴でなんだかくすぐったい。たとえば宗教的な意味合いとかは私にはさっぱりわからないだろうけど、キングの言うようなクリスマスは私にもわかる。多分、今までも自然とそうあろうとしていたものだから。みんなのために、ケーキを作る。いつものみんなで、いつもと違うことをする。なんとなく、素敵なことだと思った。この時間とこの繋がりが、きらきらして見えた。

 やっぱりキングは、私とは違うことを知っている。もちろん私はキングのことを多少知っているし、キングも私のことを結構知っている。でも全部は知らない。どちらかがどちらかを掌握することはできない。だから、互いに競い合えるのだろう。

 そんな会話のわずかな切れ間に、ふと口をはさむ人がいた。彼女もまた、素直な気持ちを口にする。いつもは頼れる先輩で、ときどき私たちを追いかける後輩。だからトップロードさんの言葉は、青く、青く響く。

 

「……やっぱり、キングちゃんとスカイちゃんの関係って、いいですね。憧れちゃいます」

「トップロード先輩には、そういう方はおられないのですか」

「いるはずですよ? 一緒に走ってくれる、ライバル。でも、本当にそうなれるかはわからないじゃないですか」

 

 トップロードさんが抱えた疑問は、あるいは私たちも抱えていたもの。期待されてデビューして、それでも期待通りにいくとは限らないのがトゥインクル・シリーズだ。現にトップロードさんは、デビュー戦を落としてしまった。ぎりぎりだけど、そのぎりぎりの差は三女神様にすら揺らがせない絶対のもの。蓋然性のみが絶対だからこそ、レースに絶対はない。それは勝てるチャンスがだれにでも平等だ、という意味ではあるけれど。

 そうではないもう一つの可能性。それはやはり、見過ごせない。勝利を見据えているからこそ。

 

「これから先、ライバルと勝負して。もしその結果、歴然とした差が開いてしまったら。……それでもライバルだと、私は言い続けられるでしょうか」

 

 気づかないうちに、全員の手が止まっていた。真剣な話だった。あるいは今日この日にはそぐわないのかもしれないけれど、今日だから話せる悩みかもしれない。なんて、私はそれなりにトップロードさんの悩みを聞いたことがあるのだけど。それと重なる話もある。つまり何度もぶつかって、迷い続ける悩み事なのだろう。

 ……とはいえ、今日は前とは違う。それならやっぱり、今日だから。今日だから、「彼女」も話を聞いている。だから、彼女が口を開く。いつもと違う口調で。いつもと同じ、「彼女らしさ」で。

 

「トップロード先輩。……少し、いいでしょうか」

「はい。なんでしょう、キングちゃん」

 

 凛と、キングはトップロードさんに向きなおって。少し米粒が散らばったエプロン姿でも、その佇まいは際立って見えた。綺麗だな、なんて。

 

「私はそこのスカイさんに、一度も勝ったことがありません。クラシック三強などと呼ばれたのも昔のことで、次の有マは十番人気です。デビュー前の期待にはもう応えられないのかと、怖くなる時はあります。今でも、です」

「……それは」

「ええ、それは今トップロードさんが持つ不安と同じものです。もちろん私は全力を尽くそうとしたつもりです。それなりの結果も出ています。けれど、今の私はスターダムにはいないのでしょう」

「きっと、辛いですよね」

 

 キングの口から弱音のようなものを聞くのは、あのダービーの後以来だった。あの時私に話したように、今はトップロードさんに話している。そして、その言葉で導けるものもあるのだろう。だからきっと、彼女は勇気を出して。声の震えさえ抑えて。自分じゃない誰かのために、自分の言葉を振り絞っているのだ。

 

「……でも、それは今だけです。辛酸を舐めるのは、今の私です。その先にいる、未来の私ではない」

「それが、キングちゃんの走る理由」

「今は泥に塗れた敗者だとしても、明日はどうかわからない。……そういうことよ、スカイさん。貴女に負けっぱなしでいるつもりはないわ」

「それはどうも。まあでもそういうことらしいですよ、トップロードさん。私も初めて聞いたかもしれません」

「……なんだか最近、後輩にアドバイスをもらってばっかりですね、私」

「そりゃ、今は私たちが『先輩』ですからね。それでもいつか一緒に走る時は、手加減なしですよ」

「はい! 楽しみにしてます!」

 

 すっかり元気になったというか、私が来る前に戻ったというか。でもそれは私が来たから気落ちしたのではなく、私がいたから吐き出せたことだ。あとキングも。そうやって悩みを言える誰かがいるというのは、当たり前のように見えて素晴らしいことなのだろう。この繋がりが、これからも続きますように。そういったところで、私なりにこの会話に結論をつける。

 そう、あっという間に三十分、すなわちあのおっきなスポンジケーキが焼きあがる頃合いだ。見ればいつの間にかおにぎりづくりは再開しているし、そのうちまた高笑いが始まりそう。

 というわけで、そそくさと退散。翻って自分の持ち場に戻るとき、窓の外の夕焼けが目に沁みた。

 

 

 さて、ケーキ作りは後半戦である。私の目の前にあるのは八号サイズのホールのスポンジケーキ。ちなみに八号とは直径24㎝であり、だいたい十二人ぶんらしい。<アルビレオ>と<デネブ>を合わせれば大体それくらいである。正確には少しだけ一人当たりが小さくなりそうだけど。

 まずこのせっかく焼き上げたスポンジケーキを横から真っ二つにする。見たことない長さのナイフらしきものが用意されていたが、ここで使うらしい。これ<デネブ>のトレーナーさんの私物ですか? いや、家庭科室の備品だと信じたい。……うお、これ切るの大変だな。

 そうしたら次はいよいよホイップクリーム作りである。ショートケーキなんだからホイップクリームは欠かせない。女子力ゼロの私でもそれくらいは分かる。……わかってはいたんだけど、用意されている材料がこれまた多い。一人で食べる量じゃないのに、なんで一人で作らなきゃいけないんでしょうか。ともあれ気合いだ。これも覚悟を決めるしかない。

 ちなみにホイップクリームを作る手順はどんなもんかというと、結局混ぜることらしい。材料が全部混ざるまで冷やしながらとにかく混ぜる。つくづく今日思うのは、料理が肉体労働だということ。トレーニングが休みの代わりに運動させられているといわれたら信じてしまいそうだ。電動のハンドミキサーがあるとか私がウマ娘だからとか諸々で楽をしている気がするが、楽してこれなのか、と言わざるを得ない。

 

(まあでも、たまにはいいかもね)

 

 なんて、声に出したら<デネブ>のトレーナーさんやフラワーに耳をそばだてて聞かれてしまいそうなつぶやきを心の中で。時間もかかるし、根気も必要だし。楽じゃないんだけど、だから楽しいのかも。人生を楽することだけに捧げるつもりだった私としては、悔しながらという感じではあるが。

 

「……よし」

 

 確かな手ごたえ。ホイップクリームが出来上がれば、いよいよ盛り付けといったところだ。まずはホイップクリームを半分にしたスポンジケーキの上に塗り付ける。べちゃーっと。これは若干おおざっぱなんだけど、その次が急に繊細になる。ショートケーキの主役、いちごの登場である。

 半分に切られたいちごを、ぐるりと一面に並べていく。ちなみにいちごはあらかじめ切ってあるものが用意されていた。用意してくれた<デネブ>のトレーナーさんには頭が上がらないような、そもそもその人に押し付けられた仕事のような。

 ふう、それにしてもいちごの並べ方にはセンスが出そうな気がするな。まあセイちゃんはそんなおしゃれなセンスがないので、円形に並べるとか隙間なく中心を埋めるとかの教科書通りを律儀にやるだけですが。あとはクリームでいちごのでこぼこを平べったくしてやれば、めでたく中心部分の完成。この上にさっき切ったもう片方の生地を乗せて……っと。

 

「あら、よくできてるじゃない」

「そりゃどーも、ですね。コック長からお褒めの言葉をいただければ、私のケーキも浮かばれるというものです」

 

 だいたいそこまでできたあたりで、<デネブ>のトレーナーさんが様子を見に来た。自分の料理は当然終わらせてきたみたい。というより、他のみんなは大体終わっていた。盛り付けをしながら、こちらにあるケーキをちらり、ちらり。……あれ、結構注目されてます? 

 

「どうかしら。これだけ注目を浴びながら繊細な作業をすれば、いい練習になるんじゃないかしら」

「まさか、それで私にショートケーキを」

「単純に器用そうだったから、というのはあるけどね」

 

 有マ記念、一番人気のプレッシャー。なんとここで判明したことは、今日もそれに向けてのトレーニングの一環だったということ。そう考えれば筋は通らなくもないけれど、若干強引というか、精神面のトレーニングみたいなのを<デネブ>のトレーナーさんが提案してくるのは珍しいというか。

 そんな疑問点は、<デネブ>のトレーナーさんの言葉ですぐに解消されることとなる。新たなもやもやの発生とともに。

 

「……まあ、一応弁明しておきたいのだけど」

「はい」

「貴女のトレーナーからわざわざお願いされなければ、私一人でこんな無茶ぶりをすることはないから」

「……ああ、全部腑に落ちた気がします。のんきにのこのこ現れたら、一言言ってやりたいかもですけど」

「それはお任せするわ」

 

 というわけで、今日の私の苦労は偏にトレーナーさんの指図によるものだったらしい。自分は一人で<アルビレオ>の部屋にこもって、料理なんかしてないくせに。というかあの人絶対料理とかできないはずだ、絶対そうだ。それなのにいっちょ前に担当ウマ娘には指図して、抗議しようにもここにはいないし。

 ……ああ、もう。今日くらい別にほっときゃいいのに、他人のことなんか考えて。今日のあなたは何も考えずにご馳走を食べてればいい。チキンとかおにぎりとか、ケーキとか。

 

「大丈夫そうね。……貴女、料理に興味とか」

「フラワーにも言われましたよそれ。前向きに検討はします。まあなにはともあれ、今日はありがとうございました」

「こちらこそ、これからもよろしく」

 

 それだけ言って、最後の仕上げに取り掛かる。全体にクリームを塗って、ケーキを真っ白にする。丁寧に、想いを込めた。おいしくできますようにって。これからもうまくいきますようにって。

 このケーキのように、綺麗なものは積み重ねでできている。最後にいちごを上にのせる瞬間が、確かに一番目立つけど。その下にある土台がなくちゃ、いちごはただのいちごにしかならない。

 クリームを等間隔に絞って、表面のデコレーションを形作っていく。周りの目を引いていて、なるほど確かに緊張する。それでも大丈夫、ここまで来たら失敗はしない。今までの準備があるからこそ、最後の最後で失敗なんてしない。

 ……だから、急にがらがらと扉が引かれても。そこに現れた人影にいの一番に挨拶してやるくらいの余裕は、私のなかにちゃんとあった。

 

「こんばんは、トレーナーさん。ぎりぎりクリスマスパーティには間に合った、って感じですね」

「こんばんは、スカイ。なにか、手伝うことはあるか」

「仕事を終えてまた仕事とは、呆れるほど勤勉ですねえ。……でも、そう言うと思ったので」

 

 そういって私は、ひとつ指をさす。扉から入ってきたばかりのあなたにも見えるように。あなたがこちらに来て、それを間近で見られるように。

 

「このケーキにいちご、乗せてくれませんか?」

 

 これで、完成だ。




次はほんとに終わると思います
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