28年前……史上最大の空間震である「ユーラシア大空災」の直後にヤマル半島に大きな陥没穴のような物が発生した。この穴の大きさはヘリコプターが数機入れるほどの大きさだった。中に入った調査隊が見つけたのは、パワードスーツのような形をした深緑色の謎の機械。科学者達の分析によると、この機械はコンピューターの演算結果を現実に『顕現』させるという科学で魔法をやるような夢の機械であった。
研究の結果、かろうじて内部構造を理解することが出来たが、外装を構成する物質は解析することが出来なかった。しかし、コンピューターを使う事や、外装表面に彫られた言語から察するに、何らかの文明が作ったことが分かった。
その機械は『顕現装置(リアライザ)』と名付けられ、今回出現した顕現装置(リアライザ)は外装に古ノルド語で「Jormungandr」と刻まれていたことから「ヨルムンガンド」と呼ばれるようになった。
そして、「ヨルムンガンド」は当時最大手と呼ばれるシンクタンク、『ゼニス・コーポレーション』に研究が委託された。
二年後
クルガン州の郊外に存在し、ゼニス・コーポレーションが所有する研究施設、「クルガン技研」ではこの「ヨルムンガンド」の初めての試験運転が行われようとしていた。
少し薄暗い大型のガレージには多数の観測する機械類が置いてあり、その周りを作業服を着た研究員が緊張の面持ちで機械を操作していた。
『カウフマン、気分は問題ないか』通信機から研究チーフのイーサンの声が聞こえる。
「ああ、問題ない。『ヨルムンガンド』の調子も良好だ」
『了解、天候は問題なし、航空機も通らない……システムの最終チェックも完了した。いつでもいいぞ』
「オッケー」おれは感覚を確かめるために一歩踏み出す。
「大丈夫だ。ちゃんと動いたぞ」
「ヨルムンガンド」に増設されたHUDには様々な情報が映し出されている。気温、湿度、天候、周囲の空間を測定しているゲージ等々……
とてもじゃないが、すべてを理解することは難しい。
『……分かった。それじゃあ次は『随意領域(テリトリー)』を展開してみてくれ』
「了解、演算核(コア)始動、半径三メートル範囲で展開」
すると急に自分の知覚が拡張されたような感覚に襲われた。今なら領域内の全てを把握することが出来る。材質から、分子構造までもが、『感覚的に』理解出来る。
試しに地面のコンクリート塊を抉って浮かばせてみる。ふむ、中々面白い。
『気分が高揚するのは分かるが、今回の目的はデータの収集だ。次行くぞ』
「お、おう。すまない」
なんとなく申し訳ない気持ちになった。
『……それでいい。次は飛んでみてくれ。ジャンプじゃないぞ。フライだぞ』
「了解」
おれは数歩助走をつけてジャンプするのと同時に随意領域(テリトリー)を使って飛んだ。
「これはすごい! まるで自由に大空に羽ばたいている気分だ!」
おれはきりもみ、ロール、様々な軌道を描きながら飛ぶ。これでなら出勤できるなら退屈はしないだろう。
『そうだろうな。顕現装置(リアライザ)は人の脳波を読み取って動いているから……ん? 待てよ、カウフマン、モニターの左下の数字は今、何を示してる?』
左下を見るとゲージが急上昇、急降下を繰り返している。
「……なんかプラスとマイナスをいったりきたり――」
『――カウフマン! 急いでそこを離れろ! 『空間震』が来るぞ!』
「えっ、何だって!?」
そう答えた瞬間、空間が丸く歪んだかと思うとそこから凄まじい衝撃波が放出された。
「ぐわっ!」おれは地面に打ち付けられる。
朦朧としかけた頭を振って強制的に覚醒させて、衝撃波が放出された方を見る。
「一体なんなんだこりゃ……って、え?」
そこにはショートヘヤーにした黄色い髪、大量の黄色い花で飾った羊飼いの短く白い服を柔らかく纏っている『美しい』としか形容できない少女だった。
「き、君! そこで何をやっているんだ!」
そう呼びかけると少女は微笑みながらこっちを向き、
「何言ってるのよ、サル」
と、言った。
「さ、サル?」さすがに面喰らう。
「そうよ、サル。知能はそこそこあるみたいだけどまだ底辺。だからサル」
おれは「ぐぬぬ……」と唸る。
「君は一体誰なんだ!」おれは少女を指差す。
「あんたに名乗る名はないわ。でも、あんた達が使っている言葉を借りれば、私の呼称は『精霊』」
「精霊……だと……?」
「そう。それにしてもつまんない所に来ちゃったわね。市街地だったら良かったんだけど……あ。あなた、わたしの遊び相手になってよ」
「何?」
少女はフフッと笑うと右手を地面に向けた。
「来なさい! 〈醜美双刃(ミカエル)〉!」
すると地面から長さの違う二本のレイピアが出現した。長い方は金に輝いており、もう片方は錆のようなもので覆われていた。
「さぁ、わたしと戦いなさい」
「戦わなければ、どうする?」
少女はしばらく逡巡した後、「付近一帯を吹き飛ばしてあげる」と言った。
表情から窺うにおそらく脅しではないだろう。
『……繋がった! カウフマン、無事か!』通信機からイーサンの声。
「大丈夫だ。これから精霊と交戦する」
『おい、ちょっと待――』通信を強引に閉じる。
そしておれは腰にマウントしてあった長さが一メートルほどの黒い棍を取り出した。
「それで何をする気?」
「さぁな――」おれは大きく一歩を踏み出す。
「――何も聞いていない!」大きく振りかぶって少女に向かって振り下ろす。
少女はそれを二本のレイピアを交差させて防いだ。
「不意打ちとは、なかなかやるじゃない」
「そりゃどうも」さらに力を加えて少女を地面に押し込んでいく。地面がメキメキと音を立てて沈んでいく。
「でも――負けるわけにはいかないのよねェェェェ!」
棍を弾いて鳩尾あたりに強烈な蹴り。痛みは緩和されているが、それでもかなり痛い。
肺から空気が漏れる音が聞こえたのと同時に地面に衝突した。
HUDを見るとユニットのダメージを受けた部分が赤く点滅していた。というか、全身真っ赤に点滅していた。
「これはマズそうだぞ……」
「何がマズイって!」そう叫んだのと同時にレイピアがこちらを突く。
「ッ!」
完全にその一瞬を油断していたおれはなんとか避けることが出来たが、切っ先が頬に掠ってしまい、血が流れ落ちた。
その後も何度か突かれるも全て避け、棍で押し返すことで何とか状況を打破することが出来た。
おれは血を流す頬を右手のひらで拭った。深緑の装甲に血が滲んだ。その時、何かがおれの頭を掠め、そして『思い出した』。このユニットの真の力を。
「そうか……分かったぞ!」
おれは棍を高く掲げ、地面に突き刺した。すると、大地が呼応するかのように揺れ始める。
「……何!」
少女が下を向くと、地面から大量の土の柱が出現した。
「クッ……!」
少女はそれを間一髪で避け、空に飛んだ。しかし、それを追うように土の柱が吹き出す。
「一体なんのマジックよ……ッ!」
後ろばかり見ていたせいか、真下の土のごく小さな揺れを認識できていなかった少女はしたから現れた二本の巨大な柱に挟まれてしまった。
「何よコレ……! 抜けないじゃない!」
「……これぞまさに『大地の拘束(ガイア・ロック)』と言ったところか」
そして棍を引き抜き、飛び上がって少女に止めの一撃を与えようとした、その時――
「――何ッ!」
少女は、突如としてその姿を消した。
見えなくなったのではなく、本当にその場から煙のように消えてしまった。
おれはフワリと着地し、膝をつく。
「ふー、なんとか、なったかな」
そしておれの意識は闇の中へ落ちて行った。
その日以降、人類を脅かそうとしていた『精霊』という存在は、顕現装置(リアライザ)による撃退が可能、ということが広く認知されるようになり、世界各国で顕現装置(リアライザ)を量産するための研究が、始まったのであった。
今回はなんだか新しいオリジナル精霊が出てきましたね。名前は考えておりませんが。
結構本筋に関わってきたりしていますので『幕間』と呼ぶにはちょっと大きい話ですね……
あと、もう一本新しいデアラの連載を始めましたので、そちらの方も、どうかご覧ください。
では、感想、コメント、待ってます!