「起、山猫の遊戯」
一か月前
デウス・エクス・マキナインダストリーズ本社
アイザック・ウェストコットは隣にエレンを侍らせ、自室でテーブルの上に映し出された今までの精霊のデータを見ていた。
『M・ウェストコット。お客様がお見えになっております』
画面の左下に小さく受付係の顔が映しだされる。
「今日は面会の予定はないはずだが?」
『え、ええ。しかし、どうしてもお会いになりたいと』
「……分かった。通せ」
『了解しました』
そして通信が終了した。
「エレン。いつでも戦闘出来るように用意しておいてくれ」
「了解しました」
エレンが頷くと部屋のドアが開き、二人の男と一人の高校生くらいの女子が入って来た。先頭の黒ふち眼鏡の黒いスーツの男は後ろに同じスーツを着たオールバックの男を従えている。女子は黄色い派手な服を着てちょろちょろと動いている。
「お初にお目にかかります。私の名は水無月、水無月シロと言います。そして、後ろの男はクローズド・エンダー。私のボディーガード。そしてこちらの女の子は……後で紹介しますので。どうぞよろしくお願いします」
シロは手を差し出す。ウェストコットも手を握る。
「私の名前はアイザック・ウェストコット。もしかして、君がOZの……?」
「ええ、ええ! 覚えていてくれたんですか! それは話が早い! ではでは、早速商談としましょうか!」
「商談?」ウェストコットは豪華なソファに掛けながら訊ねる。
「ええ、その通りです。単刀直入に申し上げますと、あなた方が保護している『精霊』の血液サンプルをもらい受けたい」
するとエレンが流れるような動きでシロの首にレイザーブレイドを当てる。イオン臭が部屋に漂い始める。
「どこでそれを聞いた」
しかし、シロはフッ、と笑った。
「何が可笑しい?」
「君のボスを見てごらん?」
「ッ!」
ウェストコットの後ろにはエンダーが既に回っており、どこから取り出したのかウェストコットの首には角が角ばった特徴的な刃が突きつけられていた。
「そういうことだ。エレン。武器を下ろしなさい――すまなかったね。ウチの部下が」
「いえいえ。話し合いは穏便に、ね」シロはエレンにウィンクしてみせる。
エレンは嫌そうな顔をしてしぶしぶ刃を消した。
「それで、一体何故精霊の血液を?」
「私達は精霊の死体を回収し、研究を続けた結果、人と精霊は似たようなものであるという仮説に行きつきました。そして、今我々は人を『精霊にする』研究をしていまして、それにはやはり本物のサンプルが欲しい訳ですよ。あ、もちろん、タダとは言いません。譲ってくれるのであれば、それなりの礼はします」
「礼、とは?」
「彼女と、我々が研究をして開発した顕現装置(リアライザ)、ニュー・コンセプト・ジェネレーション、NCGの初号機です」
「顕現装置(リアライザ)は戦闘用のかね?」
「ええ。あなたの製品にも、引けを取りません。どうです? 余興として模擬戦をやるというのは」
「……ふむ。いいだろう。戦闘場の手配をしておく」
「それでは、また後で」
シロが仰々しくお辞儀をし、OZの三人組は部屋から出て行った。
「今回の模擬戦、私に出させて下さい」
エレンがウェストコットの目の前に立って言った。
「おや、珍しいね――いいでしょう。行ってきなさい」
「必ず、勝利を」
「期待しているよ」
そしてエレンも準備する為に部屋から出て行った。
シロは「更衣室」と書かれたドアを開けた。するとそこには着替え途中の少女――アジン・神山がいた。
「おっと、着替え中だったか……」
「まぁ、いいじゃない。あなたは私の『父』なんだし――で、何の用?」
「今回はデモンストレーションだ。いつものように殺してはいけないよ。今回はアピールするのが目的なんだから」
「えー、面倒だなー。殺しちゃダメ?」
「ダメだ。それに、精霊は必ずいつか出現するんだ。その時でもいいだろう?」
アジンは頬を膨らませた。
「ぶー。分かったよ」
「それじゃあ、ね」
シロは更衣室から出て行った。その際、多数の警備員に囲まれたことは言うまでもない。
本社地下サッカーコート三面分の深さに設置された特設戦闘場の上に二人の魔術師(ウィザード)が立っていた。片方は白い〈ペンドラゴン〉を装備したエレン。片方は体に纏わせるような形のユニットで、黄色をベースにした色彩が特徴のNCGy-001〈シュルムカッツェ〉を装備したアジン。
(アイクが見ている……失態を晒す訳にはいかない!)
エレンは大型レイザーブレード〈カレドヴルフ〉を構えて飛びだした。
それに反応するように〈シュルムカッツェ〉の両腕のクローが展開し、刃に随意領域(テリトリー)を纏わせる。
そして刃がぶつかり火花が散る。
アジンは〈カレドヴルフ〉を弾くと宙返りをして後退した。
「どうしたの? 世界最強は伊達?」
「貴様……ッ!」
再び〈カレドヴルフ〉を構えて突進、しかし、エレンが振り下ろした瞬間、アジンの姿が消えた。
「何……?」
後ろを振り向くと、そこにはアジンがいた。
「ッ!」
「遅い!」
背中に強烈な痛み、肺から一気に空気が抜けていく。
「一体……どうやって……?」
エレンはよろよろと立ち上がる。
随意領域(テリトリー)は確かに自分の思った事を現実に顕現させることが出来るが、瞬間移動など、この場一帯を覆わなければならない。仮に出来たとしても気づかない筈はない。
「教えてほしい?」
「うっ……」
アジンは後ろからエレンの髪の毛を掴んで持ち上げた。
随意領域(テリトリー)の範囲内にいるはずなのにアジンの存在はツルツルとしていて掴めない。
「私たちはね。『空間震』を操ることが出来るのよ」
「何、だと……?」
「『空間震』は本来、世界を壊す為に存在している訳じゃない。精霊をこの世界に引っ張る為のもの。精霊はあなたたちが思っているほど単純じゃないの――」
すると髪を拘束していた力が無くなり、エレンは落下し始める。
「――だから、こうやって使うの」
再び瞬間移動したアジンが目の前に現れ、ひざ蹴りを一発顎に喰らった。エレンの体が持ち上がる。
アジンは目にも止まらぬスピードで瞬間移動を繰り返しながら攻撃し、更にエレンを持ち上げていく。
「バッアア~イ」
そして最後に腹部に踵落しが炸裂し、地面に打ち付けられた。
「あっ……くっ……」
エレンは痛みに悶えながら立ちあがる。もう骨の五、六本は持っていかれたようだ。上にはアジンが悠々と浮かんでいる。
「あらあら、そんなものなの? 顕現装置(リアライザ)がなきゃ、ただの『凡人』じゃない」
それを聞いたエレンの心の中に炎が灯った。その炎は激しさを増していく。
「なめてんじゃねぇぞ。このクソアマ」
「おお? やる気になった?」
〈カレドヴルフ〉を構えて飛ぶ。そして激しい打ち合いの応酬が始まった。
火花が散り、二人の間には赤い花が咲いているように見える。
「わたしは、アイクの為に、負けない!」
すると力を込めた一撃が防戦一方だったアジンのガードを破った。
「そこだぁぁぁぁぁ!」
エレンが〈カレドヴルフ〉を突き刺す。と、同時に目の前に〈シュルムカッツェ〉のクローが迫っていた。
その時、ブザーが鳴り響いた。
『両者、そこまで、今回の模擬戦は引き分けです!』
エレンは驚いた。相手が自分を仕留める一歩前まで迫った事ではなく、自分の剣を抱え込んで相討ちに持ち込もうとしていたのだ。普通の人間が模擬戦でここまで出来るとは到底思えなかった。
「もう一つ、いい事教えてあげる」
「?」
「私には魂が無い。だから畏れも、感じない」
その後、アジンは何も言わずにゆっくりと地面に降りて、そのまま来た道を引き返していった。
昨日、トランスフォーマー4、見てきました。3Dだとやはり迫力が違いますねぇ。オプティマスもカッコよかったし、最高でした!
と、本文と全く関係ないことを言うKyontyuでした。
また次回もよろしくお願いします!