「承、修学旅行と世界の終わり」
日が落ちかけた砂浜で十香と歩きながら先ほど二人に言われた言葉を思い出していた。
(―――士道、明日、夕弦(耶倶矢)を選んでよ)
「で? シドー、どうするつもりなのだ?」
「………」
「シドー?」
そう言われて士道は、ハッとした。
「え、あ、ごめん。なんだっけ?」
「どちらも相手を選べ、と言われたのだろう?」
「あ――」
前を向いた瞬間、オレンジ色の髪を持つ浴衣姿の少女が目に映った。
「耶倶矢が、私を――?」
士道は体を強張らせる。目の前にいたのは、夕弦だった。
「待て、夕弦!」
「――ふざけるなッ!」
「ッ!」
夕弦から風の奔流が放たれる。士道は腕で顔を覆った。
「復唱、夕弦が、私を選べと言ったのですか」
後ろを振り向くとそこには耶?矢が。
「はん、こんな面倒になるなら最初からこうしておけばよかったのよ」
「同意。最初から、やってしまえばよかったのです」
『勝った奴だけが、勝者だ』
二人がそう文言を発した瞬間、凄まじい風圧が二人から放たれる。そして風の奔流が、二人の浴衣を精霊の絶対的盾、霊装へと変化させていく。
「〈ラファエル〉――【穿つ者】」
夕弦の右肩から無機的な翼が生え、その手に槍が握られる。
「呼応。〈ラファエル〉――【縛める者】」
耶倶矢の左肩から無機的な翼が生え、突き出した右手にペンデュラムが握られる。
士道は顔が青ざめていくのが分かる。
止めろ、止めてくれ、君たちが戦えば、奴が……
見上げると黒い機械の鎧を纏う男が刀を振り上げていた。
「うおぉぉぉぉ!」
〈イェーガー改〉を着装した一未は二人の精霊のうち、槍を持った精霊――夕弦の方に狙いを定め、刀を振る。しかし、槍で防がれる。一未は宙返りするように回転し、着地した。
「お前も我らの邪魔をするか!」
槍を持った精霊がこちらに向かって突きを放つ。それを鎬で防ぐ。接触した部分が火花が散らせる。その時、ペンデュラムのような天使を持った精霊――耶倶矢が飛びあがり、槍を持つ精霊を『攻撃した』。
「何ッ!?」
夕弦は跳びのき、一未はペンデュラムを刀で弾いた。
「不意打ちとは! 卑怯だぞ!」夕弦が叫ぶ。
「結論。勝てばいいのです」
耶倶矢が淡々と言い放つ。
「……ッ! 見損なったぞ!」
夕弦が耶?矢の元に飛び、槍を突き出す。耶倶矢はそれを避け、ペンデュラムで攻撃する。そして二人の攻防戦は風を帯び始め、大きな竜巻に発達した。
一未は息を短く吸うと、竜巻の中に突入した。
旅館の中は様々なざわめきと、ゴゴゴ――という環境音がうるさく反響していた。生徒たちは各々驚いたような反応を示していた。
――鳶一折紙を除いては。
折紙は旅館から外に通じるドアのノブに手を掛け、一気に開いた。
とにかく士道を旅館に連れ戻さなければ―――という思考が今の折紙の頭で駆け巡っていた。いや、むしろそれくらいしか考えていなかった。
外は確かに天気がかなり荒れている。もちろん風も強い。雲も月が見えなくなってしまうくらい厚かった。
その時、後ろに何かの気配を感じた。無機的な、ヒトでは無い何かの物だ。
バッ、と後ろを振り向くと、木の陰の間に不気味に光る緑色の光。ガサッ、ガサッ、とこちらに近づいてくる。折紙は臨戦態勢を整える。
そして現れたのは白いロボットだった。緑色に光るモノアイ。逆関節の細い脚部。両腕にはブレードのような刃物が装着されていた。
「ッ、邪魔しないで」
折紙が追い越そうとするといきなり突きを放ってきた。折紙はそれを間一髪で避ける。そしてそれを数回繰り返した後、追撃を止めた。
倒すのが目的ではなく、足止めが目的……?
折紙は再び身構えた。その時――。
「何をやっているのかね。鳶一さん」
教諭である村雨令音がいた。
「! 先生!」
後ろを振り向いた瞬間、ロボットが物凄いスピードでこちらに迫り、ひじ関節で後頭部を打たれた。
「ッ……!」
目の前が一瞬で真っ暗に染まり、折紙は意識を失った。
令音は折紙が倒れるのを見届けた後、直立する〈バンダースナッチ〉に近づいた。
「〈バンダースナッチ〉か。彼も本気を出してきたようだが、遅かったな。命令コード1023。シロに伝えろ。『計画は最終段階に入った』」
〈バンダースナッチ〉の側頭部にある小さなランプか数回点滅した。
「続いて、自壊コード39564。認証、祟宮令音」
すると〈バンダースナッチ〉が自分の随意領域(テリトリー)を圧縮し始め、自分の体を潰した。
「これで、いい筈なんだ……私は、何も間違っていない」
〈イェーガー改〉を転送した後艦橋は精霊に備えて緊張した空気が漂っていた。その時、一人のオペレーターが声を上げた。
「レーダーに反応! 空中艦、〈フラクシナス〉です!」
その名前にさらに緊張が走る。
「やっぱり来たか、総員、第一戦闘配備! 目標、〈フラクシナス〉!」
リーダーが言い放つと同時に第一戦闘配備を知らせるアラートがけたたましく鳴り始める。
「敵の反応、消失!」
「読取性随意領域(リード・テリトリー)有効範囲ぎりぎりまで広げろ。絶対に見失うな!」
蒼が指令を出すと、モニターにCGで合成された〈フラクシナス〉の姿が現れた。
「全砲門開け! 回路接続!」
「回路接続、完了! いつでもいけます」
「〈ペネトレイト〉、撃ぇ!」
〈ミズガルズ〉の両舷上下にある二連装魔力砲〈ペネトレイト〉から光線が発射され、〈フラクシナス〉に掠めるようにして直撃する。その瞬間、不可視化(インビジブル)が解け、損傷個所から煙を吐き出す〈フラクシナス〉の姿が露わになった。
「くっ、やはり随意領域(テリトリー)干渉が厳しいな……弾道を再計算、照準にフィードバックしろ!」
「了解!」
「敵艦反応なし、リーダー、どうしますか?」
リーダーは微動だにしない〈フラクシナス〉を見つめた後、答える。
「集束魔力砲、〈ミストルティン〉用意! 一気に叩く!」
「了解。〈ミストルティン〉エネルギー充填開始」
「照準誤差、修正完了しました」
「こちらも、エネルギーの充填完了しました」
〈フラクシナス〉艦橋はパニックに襲われていた。
「何で、〈フラクシナス〉の同型艦が!?」
「分かりませんよッ! 相手はコッチを攻撃してきてるんですよ! 敵でしょう!?」
「司令は――いや、副司令は!?」
「今、黒乃が呼んでる!」
「敵艦、高エネルギー反応!」
『ッ!』
全員が息を呑んだ。その瞬間、神無月の声が艦橋に響く。
「一時方向に防性随意領域(プロテクトテリトリー)範囲指定、座標132-50-39。範囲255・246」
『え……?』
パンパン、と神無月は手を叩く。
「ホラ、何やってんです? 早くしないと死んじゃいますよ」
「〈ミストルティン〉、撃ぇ!」
〈ミズガルズ〉の先端部分から高出力の魔力が放たれ、〈フラクシナス〉に直撃した。
モニターでは煙によって確認する事が出来ない。
「衝撃確認! ……だ、ダメージなし!」
「何だと! 衝撃は本当に感知したのか!」
「は、はい!」
蒼がオペレーターの元に駆け寄り、モニターを覗き込む。
「……リーダー。敵は我々の攻撃ポイントに防性随意領域(プロテクトテリトリー)を展開している模様です」
リーダーは苦虫をかみつぶしたような表情をする。
「まさか、そんな事が出来るとはね……」
小さく笑う。
「〈アグニ〉、全弾装填。一点を集中して攻撃して突破口を作ります。〈ペネトレイト〉もその一点だけを狙って。バレたら終わりの一回勝負。気を引き締めて」
「了解、〈アグニ〉一番から五十番まで装填……完了」
「〈ペネトレイト〉は、いつでも大丈夫です」
「〈アグニ〉、〈ペネトレイト〉、座標指定。撃ぇ!」
〈ミズガルズ〉の後方格納庫から読取性随意領域(リード・テリトリー)式誘導ミサイル〈アグニ〉が放たれ、〈フラクシナス〉に向かう。その時、虚空から何者かの光線が放たれ、〈フラクシナス〉の防性随意領域(プロテクトテリトリー)で防がれるのと同時に〈フラクシナス〉が回避行動を起こし、〈アグニ〉、〈ペネトレイト〉が全て避けられてしまった。
「気づかれた!」
「レーダーに反応、〈アルバテル〉です!」
虚空から姿を現したのは赤い空中艦、〈アルバテル〉だった。
「何で! 別任務中でしょう!?」
「ええ、そのはずですが……」
オペレーターは困惑したような顔をした。
「ちっ、欲に目が眩んだか……ッ!」
「敵艦に高エネルギー反応! 〈ミストルティン〉、来ます!」
「ダメだ! 間に合わない、回避行動!」
艦がグォォンと音を立てて斜めに傾き、衝撃が艦橋を襲う。
「後部格納庫、被弾! 火災が発生!」
「隔壁閉鎖、ダメージコントロール急げ!」
「〈ペネトレイト〉三番、沈黙!」
「武装システムの一部に障害発生!」
「MClwsは!?」
「右舷側はダメです!」
艦橋に様々な声が飛び交う。
「こうなったら……全基本顕現装置(ベーシック・リアライザ)直列駆動! 〈イェーガーシステム〉起動!」
「ま、待って下さいリーダー! そんなことをすれば……!」
「いいから早く! 艦の制御システムを全部こっちに回して、イザヤ、エレミヤは〈イェーガーシステム〉のシークエンスを開始!」
「りょ、了解!」
艦内の電源が予備電源に切り替わり、暗くなる。
〈ミズガルズ〉の外装に規則的なひびが入り、展開する。赤く光る内部がむきだしになり、そこから白煙が噴き出した。
「このまま敵艦に特攻、至近距離で〈ペネトレイト〉を浴びせる!」
「敵艦、速度上昇! こちらに向かってきてます!」
神無月は顎に手を当てる。
「そうですねぇ。ここは迎え撃ちましょう。防性随意領域(プロテクトテリトリー)を前面に展開。〈ミストルティン〉のエネルギー充填を開始して下さい」
「敵、随意領域(テリトリー)干渉区域まで、三、二、一」
干渉域に入り、力場がせめぎ合って衝撃が襲う。全員は必死に手すりを掴んで耐えた。
対空中艦戦闘艦として設計された〈ミズガルズ〉は万が一人間と対立した場合に用いられる最終兵器だった。〈イェーガーシステム〉の開発も最初はこの艦に搭載するのを目的とされたものであった。
「〈ペネトレイト〉、撃ぇ!」
「夕弦、耶倶矢……」
士道は拳を握りしめる。
「……! シドー!」
何かを察知した十香は士道に跳びつく。
それと同時に小さな衝撃波が発生し、砂浜に穴が空く。
「あちゃー。外したかー」
そこには〈シュルムカッツェ〉を装備したアジンがいた。
「何奴!」
十香は士道の前に立ち塞がった。
「来い、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉【シャッダイ】!」
十香の両手に盾と剣が握られる。
「え? ああ、十香だっけ? 一緒に来てよ、ね? あんま手荒な事したくないしさ」
「何だと……ッ!」
「そうです。そうすれば、最高の待遇を約束します」
声の方向に目を向けると白いCR-ユニットを装着したエレンがいた。
「行く訳ないだろう!」
「そうですか」とエレンは肩をすくめる。
そしてアジンの姿が掻き消え、士道の後ろを取って首に爪を当てる。
「なッ!」
「シドー!」
「さぁ? どうする?」アジンが訊ねる。
「む……むぅ」
十香は渋面を作り、武器を地面に捨てた。
「賢明な判断です――〈バンダースナッチ〉、〈プリンセス〉の確保を」
そして四機の〈バンダースナッチ〉が十香を取り囲み、結界で包んだ。
「十香!」
「うぐッ!」
一未は二人の精霊が作り出す竜巻のフィールドで苦戦していた。
「邪魔をするから、こうなるのだ! その罪、しっかりと体に刻みこんでやる!」
「断罪。くらいなさい」
二人が同時に天使を繰り出す。一未は全身に冷や汗が吹き出した。
私が力を貸してやる。
「!」
頭の中から自分では無い声が響いたと思うと、一未は自分の体を制御できなくなった。
左腕を悪魔に変え、衝撃波を発した。
「うわっ!」
「驚愕。うわー」
衝撃波は竜巻をかき消し、精霊を地面に飛ばした。
「『ふん、断罪されるのは貴様らの方だ』」
既に一未は一未でなくなり、左目は朱に染まっていた。
「『ん?』」
目を凝らして見ると〈バンダースナッチ〉に囲まれて移送される十香の姿があった。
「『あれは! まずい!』」
一未は悪魔の力で飛び、〈バンダースナッチ〉に近づく。と同時に殴って結界を破壊、十香を引きずりだし、掴んだ。
それを見たエレンとアジンがこちらに攻撃する。
「『失せろ! 人間ども!』」
悪魔から衝撃波が再び発生し、エレンとアジンの顕現装置(リアライザ)が機能を停止した。二人はそのまま海面に落下した。
「十香ぁぁぁ!」
下から士道の声。
「『悪く思うな。人間。世界の為だ』」
一未は十香を握る力を強める。
「キャアアアア!」
「止めろよ……止めてくれ……」
士道は膝から崩れ落ちた。もう分かっていた。
『十香は、助からない』
ぎりぎりと、十香の体が悲鳴を上げる。
「し、シドー……」
十香が士道に向いた瞬間、
十香は、血を撒き散らしながら、潰れた。
「ッッッッッッ!」
士道はがっくりと頭を垂れる。
頭の中を憎悪と絶望が蹂躙する。
現実が分からない。
全てが混ざり、カオスと化す。
士道は目を見開き、上を向く。その目は真っ黒に染まっていた。
――ヴヴヴヴォォォォォォォン!
地面からこの世とは思えない声が響く。
ガイアの怒りの咆哮だった。
世界が、終わる音がした。
終わりです。ざんねんながら、「デート・ア・ライブ~破戒~」は、終わりです。
今まで、本ッッッ当にありがとうございました!
嘘です。続きます。次回から完結編、「DATE・A・LIVE~再成~(仮)」を別作品として投稿します。
予告編は近日投稿予定なので、お楽しみに。
以上、Kyontyuでした。