デート・ア・ライブ~破戒~   作:Kyontyu

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第2話

「起、ファースト・コンタクト」

 

 立花は窓の隙間から入り込む光で目が覚めた。普段なら朝の五時には目が覚めるのだが、今日は任務などが無いからなのか安心したのかはたまた疲れたのかは分からないが久々に良く寝た。

 カーテンを開け、大きく伸びをして頭のスイッチを入れる。そして急いで高校の制服に着替えて一階に行くと、同じく中学校の制服を着たうずめが先に朝食をとっていた。

「おはよう、兄さん」

「おはよう、うずめ」

 そう挨拶して席に座る。今日の朝のメニューはスクランブルエッグとベーコンとサラダという健康的なメニューだ。スクランブルエッグに胡椒をまぶして一口頬張る。

「ん、これはうずめが作ったのか?」

「もちろんだよ兄さん。うまいでしょ」

 うずめは少し誇らしげに頷いた。そしてしばらくそのまま朝食をとっているとうずめが口を開いた。

「……ねぇ兄さん、アメリカはどうだったの?」

 その問いに俺は俯いて箸を止める。

「都市部は復興が早かったけど、田舎の町の周辺は穴だらけだった。復興のめどはなかなか立っていないようだ。それに対してここは平和だな。資料によれば精霊の現界数が多いそうだが」

「まぁ、そうだね。最近も大きいのが一個あったし」

 うずめは遠くを見つめながらそう言った。

「そうか。確かこの家にもシェルターがあったな」

「そうね……まぁ、兄さん、食べよう? 冷めちゃうよ」

 立花は小さく笑った。

「そうだな」

 そして久々に家族全員で再び朝食をとり始めた。

 

 この緊張は戦闘とはまた一味違うなと思いながら教室のドアの前に立つ。小さい頃から紛争が絶えない所に住んでいたから学校生活や、友達関係などの経験は皆無なのだ。

 一応渡されたマニュアルは読んだが……大丈夫なのだろうか……

 そう心配していると中から「では立花くーん、入って来て下さーい」と、担任の教師の声が聞こえたので、ドアを開けて中に入る。そして黒板に自分の名前を書いて前を向く。

「えーと、立花 一未(たちばな かずみ)です。分からない事が多いと思いますがよろしくお願いします」

 そこでリーダーの助言を思い出す。

『どんな時でも第一印象は大切よ。だから相手に好印象を与えるためにはまず最初に爽やかに笑うことが一番効果的だわ』

 俺はその助言に従って『爽やかに』笑いかける。すると教室に沈黙が流れた。

(やはり難しいな……)

 冷や汗を流しながらそう思った刹那、教室に歓声が溢れた(主に女子)。 隣では先生がみんなを静かにさせようとあたふたしている。

おいおい、大丈夫なのかこの教師は、と思いながら苦笑いする。この騒ぎが収まるまで実に数分かかった。

 

「え、えーと、鳶一さんの隣の席が空いているので、立花君はその席に座って下さい」

 岡峰珠恵先生(通称タマちゃん)に指示された通り、教室の真ん中の辺りに座る。

 ここから学校生活が始まるのだ。

 

今日は家庭科の授業があり、その内容はクッキーを作るというものであった。無論立花も授業に参加していた。そしてちらりとターゲットの五河士道の方へ向くと二人の女子に囲まれて四苦八苦している様子が窺えた。

「ん、焼けたか」

 監視し続けるのも暇なので作ってみたのだ、クッキーを。

「……なんだこれは」

 しかし、取り出したクッキーは真っ黒で原型を留めていなかった。いや、もはやこれはクッキーではない。何かの毒物だ。

 生唾を飲み込み、一つ一気に口の中に入れた。

 その瞬間、脳髄へ衝撃が走る。口を押さえ、廊下に駆け込んだ。

(本当に高校生になる必要があったのだろうか……?)

 そしてすべき事をして家庭科室に帰ってくると、女子の大半が涙を流しながら卒倒しており、生き残った何人かが倒れた人を介抱するという地獄絵図が広がっていた。

 

 今俺は予報はずれの雨が降っている中、走っていた。傘は無く、バッグを頭の上に乗せて走っていたが、降りしきる雨の前にそれは意味を無くしていた。全速力で家に向っていると五河士道がなにやら緑色のフードを被った小柄な人と話しているのが見えた。

「おーい、五河くーん」

 と、手を振りながら士道を呼ぶと五河と話していた人は走って逃げてしまった。

「あっ」

「ちょっとお取り込み中だったかな?」

「え、いや、別に……って、お前家どこにあるんだ?」

「え、僕? ここをもう少し行った所だよ」

「ちょっと遠いか?」

「うーん、少し」

 本当は士道の家の隣なのだが、今回は嘘をつく事にする。

「じゃあ、俺の家に雨宿りしていきなよ」

「本当? それなら助かるな」

(……ここは行っておくべきだな)

「じゃ、早く」

 士道に手招きされた方へ少し走り、家の前に立つ。ドアの鍵は開いており、そのまま玄関に入った。

「ただいまー」

「お、お邪魔しまーす」

 玄関には五河にとっては小さい靴が二足置いてあり、兄弟がいることが分かる。

「あ、今タオル持って来るから、少し待ってくれ」

「ああ、頼むよ」 

 そして士道はタオルを取りに洗面所へと向った。

 その時、事件が起きた。

 

「出ていけぇー!!」

 その少女の声と同時にカポーン!というプラスチックで出来た桶のような物が何かに当たった音が聞こえ、立花は急いで靴を脱いで士道のもとに駆け付けた。

 すると士道は脱衣所の前で顔を抑えてうずくまっていた。

「……ねぇ、何やったの?」

「だ、脱衣所に十香が……」

「……夜十神さんが……脱衣所……」

 顎を撫でながら、考える。

(夜十神 十香、<プリンセス>反応消失とほぼ同時期に来禅高校に転入した生徒、恐らく士道に霊力を取り込まれた元『精霊』である確率が高い……か)

「くっ……琴里ぃぃぃぃ!!」

 そんな事を考えているとうずくまっていた士道は恨みの籠った声を発し、台所の方へと走って行ってしまった。

「お、おい、五河くん!!」

 

「あ、お兄ちゃんお帰り。それと……お客さん?」

「あ、はい、今日来禅高校に入学してきた立花 一未です」

「あれ、昨日隣に越してきた人と同じ名字だ」

「え、き、気のせいですよ。アハ、アハハハ」

 立花は無理やり作り笑いをして誤魔化す。

 兄の髪の毛が青いと思えば妹は赤い……恐らく血は繋がっていないのだろう。

「って、なんで十香が家にいるんだよ!!」

 士道がソファーに座ってテレビを見ている琴里に問いただす。 

「むふふ……なんと十香がこの家に住むことになったのだぁー! ちなみに異論は認めません!」

 琴里はソファーの上に立ちあがって腰に手をあて、ナハナハと笑う。

「な、なんと理不尽なッ!」

「言ったとおりさ」

 少し気だるそうな声が聞こえたと思うと台所からマグカップを持ったいかにも不健康そうな女性が出てきた。

「れ、令音さんも……どうして

 令音と呼ばれた女性はマグカップの中を覗いた。香りからして恐らくコーヒーだろう。

「む、砂糖を入れすぎたか」

「確かに入れすぎですけど、そうじゃないですよ!」

 令音ははぁ、とため息をつく。

「どっちなんだね、君は……それより、その恰好をどうにかした方がいいんじゃないか? そちらの名称不明の少年も」

『あ”……』

 そこでやっと二人はずぶ濡れだということに気づいた。

 しかし、名称不明と呼ばれた事に腹が立った。

 

 俺は五河の部屋で体を拭き、五河に借りたジャージに着替えていた。

「な、なぁ、立花……お前過去に何があったんだよ……」

「ん? まぁ、いろいろとね」

 引き締まった体躯につけられた沢山の傷が過去の凄まじさを物語っていた。

「じゃ、じゃあ、俺は琴里と家族会議をするから少し待っててくれないか」

「そうだね、僕も他人の事情に首を突っ込むほど、野暮じゃないからね」

「じゃ、じゃあ、また後で……」

 五河はそう言って部屋を出て行った。

 全く……バレバレな嘘だよ。

「……緊急着装」

 俺はそう呟くと、体が光に包まれ、黒と青のCR-スーツ<イェーガー TypeG>が体に装着される。

 このCR-スーツは<イェーガー>に比べると装甲が薄く、刀も一本しか装備されていないが、TypeGは特殊装備である「ギュゲスの指輪」を装備しており、パーマネント・テリトリーを展開することで「不可視迷彩(インビジブル)」を発動することができる。もちろん、発生する魔力も隠せる。

 俺は音を立てないようにドアを開け、階段を下る。そして重力場を壁に作り、壁に張り付いた。

 (……一体どんな情報を提供してくれるのだろうか)

 

「リーダー、立花君が<イェーガー TypeG>を着装したみたい」

 リーダーが艦橋に戻ると随時立花のバイタルサイン等を計測している鞍馬副主任がモニターを見ながら言った。

「精霊が出たの?」

「いや、違います。どうやら精霊についての重大な情報を見つけたようです。ついでに読取性随意領域(リード・テリトリー)の三次元データと音声データが送られてきています。メインモニターに映します?」

「映して」

「了解」

 鞍馬がコンソールを操作すると目の前に浮遊するポップアップが現れ、三次元データを元にシュミレーションされた五河家の様子がリアルタイムで映し出されていた。

「ふぅむ」

 リーダーは右手で顎をしゃくった。

 

「アフターケアー、ですか……」

「そうだ。十香は君の力によって封印された。今の君達の間には見えない小径(パス)が通った状態になっているんだ」

「封印って、何かしましたっけ、俺?」

「あの時説明したでしょう? 士道は好感度を上げてキスをすると精霊の力を封印できるって」

 五河の質問にいつの間にか司令官モードになっていた琴里が答えた。

 

 その時『ミズガルズ』のブリッジは騒然となった。

「おいおい嘘だろ……まさかあいつら本気でそれをやるつもりなのかよ!?」

 立花の戦闘オペレーターのイーガンが両手を頭にあててそう言った。

「これが……ウッドマン卿の選択なのね」

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