デート・ア・ライブ~破戒~   作:Kyontyu

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第5話

「起、願い、救われぬ命」

 

 

 空間震が起きた周辺のビルの屋上に『ミズガルズ』から射出されると、基本顕現装置(ベーシック・リアライザ)を起動させて反応があるポイントに向かった。しかし既にASTが精霊と交戦中だった。

「……さて、お手並み拝見だな」

 そう呟いて物陰からしゃがみこんで見ることにした。

「……? あれは……」 

 ASTの中に他のCR-ユニットとは全く違うCR-ユニットで戦う少女の姿が見えた。拡大して表示させると、そのCR-ユニットは濃い紫色の装甲は全身を覆い、両腕両足が極端に大きく、両肩にはホースのような物を巻いたドラムが見える。その少女は両腕から伸びたケーブルを巧みに使い、精霊を追いこんでいく。他の隊員も弾薬をおしみなく使い、それをサポートする。

 そして一斉にミサイルが放たれ、俺の出番は無いか、と思ったその時、異変が起きた。

 ミサイルが着弾する直前、精霊が右手を上げ、「〈氷結傀儡(ザドキエル)っ……」と呟いてその腕を振り下ろしたのだ。そしてミサイルが着弾し、精霊がいる場所で爆発した。

 

 リーダーは<イェーガ->から送られてくる視覚情報を確認していると、紫色のCR-ユニットが目に入り、コンソールに身を乗り出した。

「! これはっ! 暮空副長、ちょっと来てください!」

 下の階で指示を出していた暮空は急いで、階段を上り、画面を覗く。

「『ヘル』……どうしてここに」

「分からない。でも、こんな所でお目にかかるとは……世界で最初のCR-ユニット『三神器』の一つ……」

「とにかく、いそいで『機関』に報告を。ASTにいるという事は裏で大きな力を持ったバックがいる。そちらの方の調査も黒乃に依頼してくれ」

 了解、と通信オペレーターの冠地雪(かんちゆき)が答える。その瞬間、モニターで映されている場所が爆発した。

「強大な霊波反応を確認! 天使が、顕現しました!」

「立花!」

 

「了解!」

 立花は隠れていた物陰から走って跳び出し、斬りかかろうとした瞬間、天使が吠える。天使の背には精霊が張り付いていた。

 ―――ウウウウウウォォォォォォォォォォォ!

「!」

 機械の駆動音のような音が響き、天使から放射状に白くなっていく。そして白い部分に突入した瞬間、前方に展開していた防性随意領域(プロテクト・テリトリー)が『凍る』。フェイスマスク越しに冷たい冷気が頬を撫でる。

「なっ!」

 そのまま凍った随意領域(テリトリー)ごと天使に衝突し、その場に落ちる。

 立ちあがろうとするが、CR-スーツの関節部が凍っていて、よろよろとしか立ちあがれなかった。ぱりぱりと音を立てて装甲(ボディー)に張り付いた氷が落ちていく。

 しかしASTはそれに臆することなく向かって行くが、天使から先ほどよりも大きい駆動音が響き、天使が身を反らせた。

「来るかっ!」

 立花は動かないスーツをテリトリー・サポートモードにして無理やり動かしてそこから退避する。それに合わせてASTも空中に退避した瞬間、天使の口から青い光線が放たれた。そして光線が放たれた後、空から氷の塊が二つ、落ちて来た。

 随意領域(テリトリー)を操作して、その塊をスキャンすると、生命反応が確認できた。

「やはり、随意領域(テリトリー)を凍らせることが出来るのか……精霊はそれほどでもないが、天使が厄介だな……」

 そしてこちらを振り返った天使と数秒目を合わせた後、天使は跳びあがってしまった。

 上からは大粒の雨が降っていて、随意領域(テリトリー)を展開していない装甲(ボディー)に雨が当り、当った瞬間に氷と化した。

 ASTは逃げた天使と精霊を追って既に姿は見えない。

「……まずいな……」

 急いで随意領域(テリトリー)を再展開し、氷を全て弾く。町は天使の力によって一面が銀世界となっていた。田t花は精霊の反応をたよりに飛んでいると、天使に向かって走る士道の姿が見えた。さらにその後ろには天使に向かって砲門を掲げる折紙の姿が見える。

『四糸乃ぉぉぉぉぉぉぉーーー!』

「……!」

 立花は急いで精霊に何かを渡そうとしている士道めがけて急降下する。そして立花が士道に触れるのと折紙の砲門が火を吹くのは殆ど同時だった。

 なんとか士道を掴み、上昇した瞬間、光線の射線上に躍り出てしまうが、とっさに展開した防性随意領域(プロテクト・テリトリー)に着弾し、爆発した。しかしそのまま上昇する。拡張知覚は想定の範囲内のダメージと告げた。

「おい、お前何している! 生身で精霊の前に行くなんて自殺行為だぞ!?」

「っ! 離してくれ! 俺は四糸乃の所へ行かなきゃダメなんだ!」

 士道はそう言い放ち、もがき始めた。

「お前何言って……おわっ!」

 もがいていた士道はその努力が報われたのか、腕のホールドを外す事が出来たが、地上50メートルの高さから落下することになってしまった。

「しまっ……!?」

 随意領域(テリトリー)を展開して掴もうとするが、展開するよりも早く士道が領域から出てしまい、掴むことが出来なかった。そしてそのまま落下したが、一瞬士道の身体が赤く光ったと思うと立ちあがって精霊の元へ走っていってしまった。

「一体何者なんだあいつは……」

 そして次の瞬間、士道の方向へ天使から青い光線が、放たれた。

 

 五河宅の天井裏にパソコンのキーボードをひたすら叩く少年の姿があった。彼の名前は黒乃 鈴木(くろの すずき)、『クリフォト』諜報部に所属している。鈴木は三カ月前に任務で五河士道の観察を命じられ、この家に宿なしの人としてこの家に居候していた。まぁいろいろあって今は屋根裏に自分の城……もとい部屋を獲得して、観察を続けていたのだが……こう……なんかご愁傷様です、みたいな感情で見続けていた。

 そして今日、任務中に初めて指令が届き、今調べ終えたところであった。

「監視カメラの情報から見ると……ああ、あのテン・エンジェルスの構成員ね……各地で精霊の情報開示を求めて暴動を起こす下品なテロ組織がよくここまでできたなぁ。空中艦一隻まるまる強奪なんて……まぁ、とりあえず報告、報告っ……と」

 そして鈴木はエンターキーを叩いた。

 

 士道に向かって青い光線が放たれ、士道の死を覚悟した瞬間、『それ』は現れた。

 士道の前に立つその金属のような物でできた豪奢な玉座はまさしく〈プリンセス〉の天使〈鏖殺公(サンダルフォン)〉だった。

「士道に力を封印されたはずではないのか」

(……どうやら封印された後でも精霊の力を使うことが可能らしいな……計測値からみて全開放というわけでもなさそうだが……実に厄介だ)

 そうして浮かびながら考え込んでいると巨大なウサギのような天使が凄まじい速度で逃げて行ってしまい、それを追い掛けるべく、空を蹴った。

 

 遅れて到着した立花は目の前に広がる光景に唖然とした。

 目の前には白い半球10メートルのドームがあり、その周りにはASTが浮かんでいた。

「くっ、余計な事を……っ」

 その時『ミズガルズ』から通信が入る。

『立花、聞こえる?』

「聞こえてます。リーダー」

『さっき、あのドームをスキャンしたら魔力を纏った氷弾が荒れ狂っている結界のようなものだということが分かったの』

「なら、随意領域(テリトリー)で弾いて侵入すれば……」

『それが出来るなら苦労はしないわ』

「どういう事ですか?」

『あれは結界に侵入した魔力に反応して防性を局地的にあげてるようなの……随意領域(テリトリー)を凍らせてしまうぐらいにね』

「……ならば随意領域(テリトリー)を展開せずに突入すればいい」

『! αユニットがあるか!』

 俺は頷いて続ける。

「そうです。物理的なシールドを展開してあの吹雪に突入します」

『なかなか強引なプランだけど、それなら行けそうね……分かったわ。行ってちょうだい。そしてサクッと終わらせましょう』

「了解」

 俺は随意領域(テリトリー)を解除して地面に降り、背面の二対の「αシールドブレード」を両側に固定して走りだした。途中でこちらに気づいたASTの隊員がミサイルを発射するが、俺はそれを無視して跳びあがり、身をシールドで隠すように丸まって結界に突入した。

 結界に突入した瞬間、目の前が真っ白に染まる。両側のシールドに当る氷弾のせいでバランスを崩しそうになるが、なんとか持ちこたえてドームを抜けて着地した。

 中には泣き崩れる精霊の姿とその天使の姿があった。そして精霊は俺に気づいたように顔を上げ、驚いたような顔をした後、天使の背の二つの穴に両手を入れ、天使を動かし始めた。

 ―――クワォォォォォォォ!

 その咆哮と共にこちらに走ってくる天使を目の前に捉え、左腰から赤いプラズマを迸らせる「斬」を引き抜く。

「来い!」

 天使は左足で踏みつけようと脚を振り下ろすが俺は刀でしのいで弾く。そして飛び上がって刀で左脚を斬り付け、そのまま回転して頭部を斬ろうとするが、天使の前歯で防がれてしまう。しかし、その反動で天使がよろめく。立花はそれを見逃さず、右足で「斬」を掴んで跳び上がる。そして右足を高く上げ、踵落しの要領で足を振り下ろした。

 天使は真ん中で切断され、斬られた断面ににパキパキと氷の結晶を作りながら倒れた。そして天使は雪の結晶のような物になってなって消滅した。

「う、わっ……あ、っ……」 

 精霊はがっくりとうなだれ、両手を頭の両横にあてる。

「さあ、終わり……」

「ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」 

 俺が精霊の首に刀を添えた瞬間、精霊が叫んだ。そして精霊の身体から黒いオーラのようなものがとめどなく溢れ始めた。

「こ、これは……っ!?」

 網膜に表示された霊波のメーターが0を下回り、マイナスになっていく。するとリーダーの焦ったような声が聞こえた。

『立花、早くその精霊を……っ!』

 俺は再び刀を掲げて精霊の首を落そうと振り落とそうとした瞬間、違う人間の首が現れた。

「お前は……士道!」

 目の前に立ち塞がったのは全身から血を流す五河士道だった。

「止めてくれ!」

「お前! そこを退け!」

「いやだ!」

「! ならば、お前の首ごと……っ」

 俺は刀を握る手に力を入れようとするが、少しのためらいの後、士道を思いっきり蹴り飛ばす。

「ごふっ……」

 士道は肺から空気を出したような音と共にドームから飛び出していった。

 立花は短く息を吐き、精霊の首筋に刀を当てた。首筋からスッ、と血が流れる。

「はぁっ……!」

 「斬」を高く掲げた。

 

「ごふっ、ごふっ……」

 外に出された士道は腹を抱えて咳き込んだ。腹部からはジンジンと痛みが染み出してくる。

 するとふっ、と掻き消えるように結界は消え、空が晴れ始めた。

「一体……」

 士道が立ちあがると、さっきの黒い機械を纏った男が出て来た。しかし、今は身体が真っ赤に染まっている。しかも右手には色を失った宝石のような物が握られていた。

「おい……嘘、だろ……?」

 士道は崩れ落ちた。

「そんな……俺は……あの子を助けられなかった……俺は……俺は……ッ!」

 士道は拳を地面に打ち付けた。この出来事を決して忘れぬように。何度も、何度も。

 

『立花、反応は消えたわ。帰投して』

「……了解」

 立花は右手に握った宝石を力を込めて割った。後ろからは士道の慟哭が響いていた。

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