その日の晩、俺はノゾミさんの部屋があるブルー寮の近くに生えている大木の枝に座り込んで、
覗き魔が来るのを近寄ってくる蚊を蚊取り線香を手に持った状態でただひたすら待っていた。
一番手っ取り早いのはこの方法……なんだけど一度、取り逃がしている以上、
俺が張り込んでるっていうのは容易に想像できるから来ないかも知れない。
それはそれでいいんだけどどうせ、数カ月したらまたやってくる。
だったらもう張り込んでとっ捕まえるしか方法ない。
腕時計を見て時間を確認するとすでに時刻は夜の9時を10分ほど回っていた。
「やっぱり、来ねえのか……ん?」
顔を俯かせてため息をついた瞬間、一瞬だけ何かが動いたのを感じ、再び顔をあげて、
目を凝らしてよく見てみると懲りずに覗き魔らしき人物がしゃがみ込んでいた。
あの野郎……今度こそとっ捕まえてやる!
「この覗き魔野郎!」
「うわぁ!」
枝から飛び降りて犯人に飛びかかり、地面に押さえつけて懐中電灯の光を当てると、
覆面をかぶり、黒いサングラスにマスクをして自分の顔を完全に隠していた。
「さあ、正体を表せ!」
覆面を掴んで脱がすと出てきた顔はなんと。
「やっぱりお前だったか。真白!」
覆面の下にあったのは入学者成績主席、ホワイトカンパニーの御曹司でもある真白だった。
すでに正体が露見し、観念しているのか真白は抵抗は一切しなかった。
「大丈夫!? 高槻君!」
外の騒ぎを聞きつけたのか寝間着姿のノゾミさんが大慌てで部屋から出てきて、
俺と地面に押さえつけている犯人のそばにまで近寄ってきた。
「捕まえましたよ、先輩! 犯人はこいつです!」
地面に押さえつけていた真白を体だけ起こさせてノゾミさんにその顔をよく見えるように、
懐中電灯の光で照らしたがなんのリアクションも感じられなかったので不審に思いながら、
ノゾミさんのほうを見てみると何故かノゾミさんは驚いたように口元を手で軽く押さえていた。
「……あの、先輩?」
「マ、マー君!?」
「……ノゾミさん」
「……お知り合い?」
「な~んだ! 二人は付き合ってたんですか~!」
事情を聴くべく、ノゾミさんの部屋にお邪魔して事情を聴くとなんでも上の名前だと、
思っていた真白という名前は下の名前らしく本名は大竹真白というらしい。
ホワイトカンパニーの御曹司というのもどうやら誤りのようで周りがただ単に名前だけで、
勝手に早とちりしていたということだった。
ちなみに実家は農業をしているらしい。
「幼馴染でね。私がデュエルアカデミアに入学するために離れるときに告白してくれたの」
そう頬を赤らめながら言っている先輩の横で真白もかなり顔を赤くしていた。
「紛らわしいことをしてごめん。故郷ではいつも夜の9時に会っていたから、
いつも夜の9時に待っていたんだ。やっぱり真正面から行けばよかったな」
「でもよかったよ。マジの変態じゃなくて。でも、なんであんな格好してたんだよ」
「いやぁ。デュエルアカデミアは他寮生が不用意に近づくことを禁じているから、
ばれないようにと思ってあんな格好を」
確かにデュエルアカデミアはいろいろと差別を感じさせる規則が存在しているが、
その最たるものがレッド寮がブルー寮、イエロー寮に近づことを禁じていたり、
イエロー寮はレッド寮に近づいても良いけどブルー寮には近づくなとか、
ブルー寮はイエロー、レッド寮に自由に出入りしても良いなど。
「あ、そうだこれ。返すわ」
そう言い、ポケットに入れていたレベルアップの魔法カードを渡すと、
真白は安心したような表情を浮かべながらレベルアップの魔法カードをデッキケースの中に収めた。
本当に大切にしているんだな。レベルアップっていう魔法カードを。
「このカードは初めてノゾミさんに貰ったカードの一つなんだ。
落としたことに気づいたときは本当に生きた心地がしなかったよ」
「でも、なんで三枚積みしないんだよ。レベルデッキなら三枚積みは普通じゃないのか?」
「まあね。でも僕はレベルアップなんかに頼りたくないんだ。このカードを使えば、
楽にレベルアップはできるんだけどそれじゃデュエリストとして全く成長ができない。
だから僕はレベルアップを一枚しか入れないんだ」
……流石は1年生でブルー寮に最も近い男。本当にどうやったら強くなれるかを考えてる。
「あ、そうだ。明日のデュエルなんだけど一人辞退したよ」
「え、なんで」
「代表をやる気がないって本人が言ってたんだ。だから明日のデュエルは僕と君の一対一だ」
「そうか……主席入学のお前に勝ってやる。そして俺がクラス代表になる!」
「ただで勝利を譲る気はないよ。主席入学とかじゃなくて僕は君に勝つ。
そして勝って僕がクラス代表になる!」
互いに火花を散らせるがすぐにその火花は消え、何故か笑ってしまい、
それにつられて真白も笑みを浮かべた。
デュエルアカデミアでここまで本気で勝とうとしてる人と会うのは初めてだからかな。
明日のデュエル。超楽しみだ!
その後、用もなくなったのでノゾミさんの部屋から出て途中まで真白一緒に帰り、
イエロー寮の近くで分かれ、レッド寮へと戻った俺はすぐにベッドに横になって就寝した。
翌日の放課後。
アリーナの中央に設置されているデュエルスペースの一つで俺は真白と向き合っていた。
デュエルスペースを囲うようにクラスの連中が立っていてデュエルが始まるのを今か、
今かと待ち続けていた。
結局、今日の朝の授業の最初で真白は自分が、
ホワイトカンパニーの御曹司ではないことをクラス全員に伝えた。
そうすると面白いことに今まで目をキラキラさせて真白の周囲にいた連中の姿は見えなくなり、
今までのように真白が女子に囲まれることはなくなった。
ホワイトカンパニーの御曹司ってだけでお零れを貰おうと周りについてたんだな。
「高槻君。楽しいデュエルをしよう」
「あぁ、代表とか関係なしにな!」
「「デュエル!」」
『LP4000vs4000』
「先攻は僕から! ドロー! 僕は手札より死皇帝の陵墓を発動!
このカードは生贄の数×1000払うことで生贄の代わりにすることができる。
僕は1000払い、ホルスの黒炎竜Lv6を召喚!」
『ATK;2300 DEF;1600』
フィールから光があふれ出し、その光の中から銀色に輝く二足歩行の竜が出現し、
俺に向かって大きく咆哮をあげた。
いきなり出てきたか……ホルスの黒炎竜Lv6。でも、まだあいつを倒す方法はいくらでもある。
「カードを二枚伏せてターンエンド」
「俺のターン! ドロー! 俺は連鎖・シルバーナイトを特殊召喚!」
『ATK;2000 DEF;200』
「さらに連鎖・シルバーディフェンダーを守備表示で通常召喚!」
『攻撃力;300 守備力;2000』
「この瞬間、ディフェンダーとナイトの効果がチェーン発動!
ディフェンダーの効果でカードを1枚ドローし、ナイトの効果で400ポイントのダメージを与える!」
シルバーナイトの効果が発動し、所持していた長い槍の先端から光が迸り、
弾丸のように光が放たれると真白の体を貫き、ライフポイントを400減らした。
ホルスの攻撃力を上回ることは今はできない……でも、このカードなら。
「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」
『LP2600vs4000』
「僕のターン! ドロー! バトルフェイズに移行し、ホルスでシルバーナイトを攻撃!」
真白の宣言とともに銀色の竜がその大きな口を開けて炎を凝縮させ、
シルバーナイトめがけて凝縮された火球を放った瞬間!
「速攻魔法・連鎖の絆を発動! このカードはフィールド上に存在している連鎖モンスターの攻撃力を自身を除いた連鎖モンスターの数かける300ポイントアップさせる!」
『ATK;2000→2300』
「これによってシルバーナイトの攻撃力はホルスと同等の数値になる! 迎撃しろ!」
「そうはさせない! 速攻魔法・月の書を発動! フィールド上のモンスター1体を選択し、指定したモンスターを裏側守備表示にする! 僕はシルバーナイトを選択!
それにより、シルバーナイトの迎撃はなくなる! 行け、ホルス!」
「くっ!」
真白が発動した魔法カードの絵柄から書物が出現し、それが独りでにページを開くとそのページから、光がシルバーナイトめがけて照射され、その光を受けたシルバーナイトの姿が消滅し、裏側守備表示となったシルバーナイトにホルスが吐き出した火球が直撃し、大きな爆風をあたりにまき散らしながら戦闘破壊された。
マジかよ! 戦闘でホルスがモンスターを破壊したということは!
「速攻魔法・手札断殺を発動。互いに手札からカードを2枚墓地へ捨て、2枚ドローする。そしてエンドフェイズに移行したこの瞬間! ホルスは最強の姿へと進化する!」
真白がエンドフェイズに移行した瞬間、ホルスの銀色の体が光輝きだし、光の輝きの中で、その体を変形させていき、銀色の翼を大きく羽ばたかした瞬間、周囲に暴風が吐き出され、光の輝きが散り、ホルスの最終の姿があらわになった。
「確実に破壊できるディフェンダーを狙わなかったのは月の書があったからか」
「まあね。シルバーナイトがいたら攻撃力を少し増大するだけでホルスの攻撃力を上回られるかもしれなかった。だから敢えて僕はディフェンダーを残したんだ。
ディフェンダーの攻撃力をホルス以上にしようと思ったら、
少なくとも2500以上のアップが必要だからね。ターンエンド」
「俺のターン! ドロー!」
この時点であいつの場に伏せられているカードが発動されなかったということは王宮のお触れじゃないと考えてもいいってわけだ……いや、でもあいつだって、
俺と闘う前にデッキのコンセプトを研究しているはずだ。
チェーンデッキであることを知っていれば例え場に伏せていたとしても、
長いチェーンを組んだ後に王宮のお触れをチェーンすればほとんどのチェーンを潰せる。
「俺は手札から永続魔法・連鎖の救済を発動。このカードは一ターンに1度だけ、
フィールド上に存在する連鎖モンスターを一枚選択し、その選択したモンスターと、
同名モンスターが墓地にあれば可能な限り特殊召喚できる。
ただしこの効果で特殊召喚したモンスターは効果は無効化されるうえに一度蘇生すれば、同じ種類のモンスターは蘇生できない」
「つまり一度、ディフェンダーを蘇生させればそのあと2度とディフェンダーは蘇生できない」
「そのとおり! 俺はシルバーディフェンダーを選択し、2体のディフェンダーを特殊召喚する!」
発動した永続魔法からソリッドビジョンで映された鎖が二本放出され、
その鎖はくねりながら俺のディスクの墓地へとはいって行き、出てきたかと思えば、
その鎖で手札断殺の効果によって先ほど、墓地へ送られた2枚のディフェンダーを結び、フィールド上へ放り投げると2体のディフェンダーが出現した。
『ATK;500 DEF;2000』
「ホルスの効果、発動しなかったんだな」
「直接的なダメージを与える魔法、もしくはフィールドリセット、
ホルスを破壊する魔法以外は破壊しないことに決めてるのさ」
「なるほどね。だったら俺は手札から強欲な壺を発動し、それにチェーンブラスト、チェーンストライクをチェーン発動する!」
「この瞬間! 僕はチェーンストライクの発動に対してホルスの効果を発動し、
さらに最後に王宮のお触れをチェーン! それにより王宮の効果でそれ以前に、
発動されたすべての罠カードは無効化される!」
『LP 2600vs4000』
ホルスの翼から放たれた衝撃波がチェーンストライクを破壊すると同時に、
王宮のお触れの効果により、俺がチェーン発動したすべての罠カードの効果が無効化されて、不発となって墓地送りとなってしまった。
でも、発動自体を無効化していないのでチェーン自体はたまったし、
たった1ターンだけで連鎖龍・チェインドラゴンの召喚条件の半分が溜まった。
ただ、今の俺の手札が3枚っていうのは少し厳しいな。
それにまだ連鎖邪龍も手札に来ていないしそれを持ってくるカードもデッキにはない。
とりあえず、まだ耐えられることは耐えられるんだ。慎重に行こう。
「俺はターンエンド」
「僕のターン! ドロー! バトル! ホルスでシルバーディフェンダーを攻撃!」
ホルスが大きな口を開け、そこから火球をシルバーディフェンダーめがけて一発放った。
その火球がディフェンダーに直撃した瞬間、大きな爆発をあげてシルバーディフェンダーが、一瞬にして粉々に破壊され、墓地へと送られてしまった。
「僕はこれでターンエンド」
「俺のターン! ドロー!」
王宮の効果で罠カードが発動できないのは向こうもおなじ……つまり、あっちのデッキには、攻撃の無力化や聖なるバリア・ミラーフォースが投入されていないと考えることができる。
ただホルスの効果によって全ての魔法は無効化されてしまうので実質、
戦闘で破壊するしかこのロック状態を脱出する方法はない。
それにハイパーモードが使えないからシルバービーストハイパーにも頼れない。
ただ、今手札にあるカードでは対応でき……待てよ。方法はある!
このロック状態を一発で抜けることができる方法が!
あとはモンスターカードさえ、手札に来てくれればこのカードを使えば!