「んん~」
デュエルアカデミアの購買部のすぐ近くにあるテラス。
俺はそこに設置されているリクライニングシートに座って1週間の疲れを癒しながら、
目の前に広がっている大きな海を眺めていた。
今日は土曜日。デュエルアカデミアは土曜日、日曜日は学校は休みの日ではあるが、
孤島にデュエルアカデミアが作られているので全員と言ってもおかしくはないほどの数の生徒が、
自分の寮の部屋でゆっくりしている。
無論、フリースペースとして開かれているアリーナで友人とデュエルをしている生徒や、
後ろにある購買部の机の上などでパックを開けている生徒もいる。
ちなみに俺もさっきパックを買って開けてみたらクリッターがあたり、
早速俺のデッキに入れた。
連鎖モンスターじゃないけど攻撃力1500以下のモンスターをサーチできるのは強いよな~。
クラス対抗トーナメントまで残り3日……そのデッキ調整も着々と進んできているし、
真白からアドバイスをもらったり、新聞部の山本さんから情報を仕入れたり。
『あ~! 森のお姉ちゃんだ!』
…………そしてベビーマジシャンが見えるようになった。しかも前は俺から触れなかったけど、
今では俺からもベビーマジシャンに触れることができるようになってしまった。
「どうしたんだ? あ、森先輩」
リクライニングシートから立ち上がってテラスの下のほうを見てみると森先輩が歩いていた。
でも、何故かその表情はイライラしているというか不機嫌そうな表情をしていて、
声をかけようにもその雰囲気から声を掛けられなかった。
いつも笑ってるような感じだったのに……まぁ、こんなこともあるか。
「こんなとこにいた」
「よっ、真白」
リクライニングシートにもう一回座りなおした直後に後ろから声が聞こえると同時に、
黄色い服の裾が見え、視線を上にあげてみると俺の横に真白が立っていた。
あのデュエル以来、仲良くなり、よく昼飯なんかを食べたりもしている。
「クラス代表さんがこんなところで座ってていいの? みんないろいろしてるけど」
「良いの良いの。テストと同じでその時の実力でぶつかるもんだし、
当日まで残り3日のこの日から何をしても上がらないだろ? だったら、
ゆっくり体を休めて当日に臨んだ方が楽しいデュエルもできる」
「言ってることは正しいけど……まあ、3日や2日でデュエルの技能が上がれば、
こんなところに来なくてもいいんだけどね」
そう言って、真白も黄色の上の服を脱ぎ、隣に空いていたリクライニングシートに座った。
「山本さんから聞いたんだけど他のクラス代表もなかなかの実力者みたいだよ」
「でも、当日までデッキ内容は公表されないんだろ?」
ミッシェル先生曰く、トーナメント当日まで出場するクラス代表のデッキ内容は公表されず、
対戦相手が分かった時点で初めてデッキ内容が公表されると同時に当日はデッキの調整は禁じられ、
その前日に提出したシートに記されているカード以外のカードが入っていれば即刻失格。
なんでも過去に……つってもこのデュエルアカデミアができて10年も経ってないから、
結構、最近なんだけどクラス代表の間で賄賂沙汰があったらしく、
それ以来、デッキレシピの提出を義務付けたんだとか。
「反対です!」
『あわわ!』
上の方から怒鳴り声が響き渡り、あまりの大きさにベビーマジシャンは小さな帽子を手で、
押さえつけてそのまま俺のデッキの中にもぐりこんでしまった。
俺たちは一瞬、顔を見合わせた後に同時にリクライニングシートから立ち上がって、
階段を走りながら登って行き、テラスの真上にある校長室まで向かい、
扉を少しだけあけて、その隙間から中を覗いてみると、
森先輩が校長の机に両手をたたきつけたような格好で校長に詰め寄っていた。
「第一、あの森にはたくさんの野生の動物たちが住んでいるんです!
それを人間の勝手な理由で住処を奪うだなんて許されません!」
「森君の言っていることはわかる。ただ、生徒たちのよりよい教育環境の整備の為には、
致し方のないことなんだよ。何も森全部を崩すわけではないんだ。許してはくれないだろうか」
「我々からすれば小さな森の区画でも森の動植物からすれば大きな区画なんです!」
今の先輩と校長の言いあいの応酬を聞く限りではよりよい教育を俺たち生徒に受けさせるために、
この島の森の一部を伐採しそこに何らかの教育施設を建てるっていう計画があり、
森部の先輩は反対していると。
確かにあの森にはたくさんの動植物が過ごしているだろう。
「とはいっても既に決まったモノナンデス! 生徒がゴチャゴチャ口を挟まないでクダサイ!」
何故か文末の言葉だけが片言の日本語が聞こえ、狭いドアの隙間から部屋の奥の方を覗いてみると、
ブルー寮の生徒がきている制服とおなじ上の服を羽織り、下は黒いズボン、
そして髪は白い髪色をしている教員らしき男が先輩に言い寄っていた。
(誰だあれ)
(あの人はブルー寮の寮長兼ブルークラスの最高責任者だよ)
(ブルークラス? なんだそれ)
小さな声でそう言うと何故か真白は呆れたように小さなため息をつきながら、頭を抱えた。
(デュエルアカデミアでは二年生になるとクラスが成績によって分けられるんだ。
トップの集まりがブルークラスってわけ。その最高責任者であるのがあのワイト先生)
「そもそもブルー寮の貴方がどうして分からないのデスカ? それに最近、
落ちこぼれのレッド寮の生徒ともよく遊んでいるソウジャナイデスカ」
「ワイト先生もそれまでに。とにかく森君。何度君が来ても変わらないんだ」
「~~~~~~っっ! この分からず屋のお鍋腹!」
そう叫んでツカツカとこっちに来た森先輩の姿を見て、俺たちは慌てて、
ドアの前から退いて柱の陰に隠れると扉を蹴とばしたのかと思うくらいに強く、
扉が開けられると同時に壁にぶつかり、俺たちがいる空間に凄まじい衝撃音が響き渡り、
森先輩の足音もこの空間にひどく木霊した。
「……見た?」
「うん。見ちゃった」
俺たちはそう言いあったあと森先輩の後を追ってアカデミアの外に広がっている森へと向かい、
二手に分かれて森の中を捜索していると大量の小動物や鳥たちが一か所に集まっているのが見え、
そこへ行ってみると大量の動物たちに囲まれている森先輩の姿があった。
「あ、優斗君」
そう言い、森先輩がこちらへ向くと同時に動物たちが蜘蛛の子散らすように四方八方に散った。
「アハハハ。優斗君、動物に嫌われるタイプの人間でしょ」
いつものように笑みを浮かべながら喋っている森先輩の姿はいつもよりも弱弱しく感じた。
「ええ。昔から…………この森、無くなっちゃうんですか?」
「さっきの聞いてた?」
先輩の質問に俺は何も言わずに首を上下に振ると先輩は諦めたような顔を一瞬した後、
ぽつぽつと小さな声で現状を話しだした。
「私ってさ昔から動物が好きだったの。ここに入学してからこの森に入ったら、
すっごいたくさんの動物に出会えたの。リス、シカ、サル……動物園でしか見ないような、
動物たちがありのままの姿で人間の近くで生きていたのよ。それ以来、私は森が好きになった。
多くの動物たちを抱擁するこの大きな森が好きになったの……だから余計に許せない。
人間がもっと賢くなるっていうだけのために動物たちが追い出されるなんて。
だってそうでしょ? 他人が自分の家を勝手に取り壊してたら怒るでしょ!?
動物だって同じ……でも、動物は喋ることができない。だから私が代わりに怒ってる。
それでも……先生はもう決まったことだからってやめてくれない」
…………人間の勝手な理由のためにここの動物たちは住処を追い出され、
まともに生きることができなくなり、この世を去っていく……それがこの地球で、
当たり前のように起こっている現状……。
『大変大変!』
その時、ベビーマジシャンの声が聞こえ、そちらのほうを向いてみると汗を流しながら、
俺の方に大慌てて飛んできた。
『すっごく大きな機械がいっぱいいっぱい来てるよ!』
「っ! 案内してくれ!」
「優斗君!? どこ行くの!?」
ベビーマジシャンに言われ、俺は彼女が飛んでいく方向へ走りだすと森先輩も俺についてきて、
最初にいた場所から200メートルほど走ったところでベビーマジシャンが止まり、
必死にその小さな指で指している方向を見てみるとショベルカーやダンプカーなどの、
巨大な人工物が平穏な森を壊しながら進んでいた。
「やめて! 動物たちが泣いてるじゃない!」
森先輩は悲哀に満ちた声を上げながら進んでいるダンプカーの前に立ちはだかると、
ダンプカーは急停止した。
「危ねえだろうが!」
「工事はまだ一月先のはずよ! なんでもう重機が運ばれてるのよ」
「私が前倒しサセタノデス!」
後ろから文末が片言の日本語の声が聞こえ、振り返ってみるとそこには腰に手を当て、
俺を見下したような眼で見下ろしているワイト先生が立っていた。
「どういう意味ですか!」
「ここはブルークラスの生徒が使う教室ニナリマス。もっともっと勉強シヤスクスルノデス!」
「もう十分なくらいに施設は整ってるでしょ。これ以上に何を与えるんですか」
既にブルー寮の生徒の学習環境はイエローやレッドとは比べ物にならないくらいに充実しており、
一人一台の最新型ノートパソコンは当たり前、文房具に関してはブルー寮やタダ同然の値段、
そしてブルーの生徒が住む寮の部屋には高級ホテルさながらの部屋が与えられているし、
ブルー寮の生徒専用の自習室だって与えられている。
これ以上に何を与えるっていうんだよ。
「ブルークラスの中でもさらに優秀な生徒を集めたスーパーブルークラスを作るノデス!
そして落ちこぼれのレッド寮など産業廃棄物以下の寮は取り壊しマス!
私は貴方もスーパーブルーに推薦しようと思っているノデスヨ? 森サン」
「多くの動物たちが住処を奪われた上で勉強なんてしたくありません!
この森は動物たちの住処! ここは人間が手を加えちゃいけないんです!」
「俺も反対です。別に森を無くすくらいならレッド寮を潰してそこに、
スーパーなんとかの寮を立てればいいだけの話じゃないですか」
そう言うとワイト先生は大きなため息をつきながら人差し指を立てて左右に振った。
「もちろん、レッド寮は潰しマス。レッド寮跡にも、ここにも校舎を建てるノデス!
ここはエリートデュエリストを育成する機関! エリートを育てるための建物は必要デス!」
「…………だったらデュエルで決めませんか?」
俺がそう提案すると隣にいた森先輩も前にいた先生までもが驚いたような表情をして、
喋るのをやめて俺の方をじっと見てきた。
「ここはデュエリストを育てる機関……故にここではすべてがデュエルで決まる。
もしも俺たちが先生に勝ったらこの森を潰す話は無しにしろ」
「んふふふふふ! そんなバカバカしい話、受けるはずがアリマセン!」
「ふ~ん。落ちこぼれのレッド寮の俺に負けるのがそんなに怖いんだ」
「…………大人を侮辱するのもいい加減にスルノデス」
「じゃあ、俺とデュエルしようぜ、先生。俺が勝ったらこの森を潰す話は無し、
俺が負けた時は…………このデュエルアカデミアを辞める!」
「………良いデショウ。その覚悟に免じてデュエルシテアゲマショウ。
ただし、貴方だけでは負けるのは確実なので二人同時にかかってキナサイ。
私のライフは8000、あなた方が4000のトライアングルデュエルです」
……確かにここの教師の人たちはどの人もかなり強い。俺一人じゃ勝てないかも知れないし、
この提案をするっていうことはよほど自分の実力に自信があるっていう証拠……よし。
森先輩の方を向くとすでにディスクにデッキを装填して準備を終えていた。
「分かりました。んじゃこの森の存亡をかけて」
「「「デュエル!」」」
『LP 4000vs4000vs8000』
今日、成績発表だ……怖いですな