クラス対抗トーナメントの二日前の今日、俺はいつもと同じように、
ミッシェル先生の授業を教室で受けていた。
結局、スーパーブルーだのレッド寮を潰すだのの計画は消滅したらしく、
森が潰されることもなくなったと森先輩から聞いた。
まあ、それはそれで大変うれしいことなんだが……そんなことよりも今は、
俺の身に起きている異変の方が気になって仕方がない。
ソリッドビジョンで表現されているはずのモンスターの攻撃や罠カードの効果によるダメージなどで、俺の体に本当に痛みが発生している。
それにベビーマジシャンの姿がハッキリと見えたり、ほかの奴が使っているモンスターたちが何故か、召喚された直後に俺のほうをちらっと見てきたりすることも気になる。
ベビーマジシャンいわく、モンスターカードに宿る精霊らしい。
「ではここで問題だ。互いのライフは1000。自分フィールド上にはモンスターが2体。
相手の場には貫通効果をもつ攻撃力2500のモンスターが存在し、
手札枚数は互いに3枚。魔法・罠カードを使わずに勝利する方法を答えろ」
…………えっと。とりあえず手札の死者への……あ、そっか。魔法・罠カードは使えないんだっけ。
だったら手札にキャノンソルジャーが存在すると仮定してそれの効果でモンスター2体を射出すれば勝ちだな。キャノンソルジャーの効果は一体リリースするたびに500ダメージだし。
「高槻。答えろ」
「えっと。手札にキャノンソルジャーがあるとしてその効果を使えば勝てます」
「正解だ。魔法も罠も使わない場合、モンスター効果を使わない限りは召喚権は一度しかない。
最上級モンスターは生贄が2体必要なことはもう周知だろう。よってこの場合は高槻の答えが最も安全に勝てる手段だといえよう。ただ、一つの勝ち方ばかりに拘らないようにしてほしい。
デッキに二つや三つほどの切り札を忍ばせておけばたとえ一つがつぶれても、
残りで勝つことができるかもしれないからな。デッキ構築の上で大切なのは、
一つの方法にあまり特化しない方がいいと言う事だ。まあ、本人がこのコンセプトでしかデュエルをしないという考え方の奴ならば別だがな。では以上だ」
先生がそう言って教室から出て言った瞬間に授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響き、
静かな教室が一気に生徒たちの声に支配され、騒がしくなった。
いつもなら何が起ころうともスルーして休憩に入るんだけどさすがに今回ばかりはこれをスルーして休憩に入ることなんてできない。
ポケットからデッキを取り、連鎖邪龍・チェイン・カオス・ドラゴンのカードを見てみるが、デュエル中に噴き出す黒いものはどこにも見当たらない。
気のせいなんかじゃないんだ……確実にこのカードには何かがある。
最後の欄の空行だって気になるし……。
「優斗君! お昼ごはん行こうよ!」
「オッケー。行こうぜ!」
俺は真白の誘いを受け、立ち上がり、教室から出て食堂へと向かって歩きはじめた。
朝飯と晩飯は寮の隣にある小さな食堂で食べないといけいないけど昼飯に限っては、
校舎の中にある大きな食堂で食べることができる。
朝飯と晩飯で開けてくれないのはあまりにも多い生徒が一気に食堂に流れ込まれると、
対応しきれなくなるから……という理由らしい。
「コンディションはどう?」
「ん? あぁ、最高だよ。あとは本番でデュエルをするだけだ」
とは真白にいうものの正直、俺の中でコンディションは最高とは言えなかった。
カードの精霊が見えるようになったことを発端にソリッドビジョンで表現されているモンスターや、
罠カードでのダメージが実際の衝撃として俺の体に痛みを与えていること。
そして極めつけはチェイン・カオスのカードからあふれ出るようにして見える闇のこと。
……とは言っても毎回のデュエルでそんなことが起きているわけじゃないから、
命に別条はないんだろうけどそれでも気にはなるよな。
「優斗君は何にする?」
「あ、あぁ。カレー……かな」
「オッケー。じゃあ、先に席取っといてよ」
「分かった。窓際でいいか?」
俺の質問に首を上下に振ったのを見て、俺は真白に財布を渡して学生たちをかき分けながら、空いている座席はないかと周囲を見ていくがどこも満席の状態で空席はなく、
テラスの方も見てみるがすでに満席状態となっており、最悪な状況だった。
このままだったらもしかしたら立ちながら食わなきゃいけないな……どっか、
空きそうな席は……ないな。
ほとんどの奴らは食い終わっても座席に座って友達としゃべっていた。
『ねえねえ! あそこ空いてるよ~!』
「お、マジで?」
『こっちこっち!』
ベビーマジシャンを追いかけながら人込みをかき分けていきながら少し進んだところに、確かに空いている四人座席で一つのテーブルが二つほど空いており、
テーブルにはカバンなども置かれていなかった。
「ラッキー♪」
「やっと見つけた」
振り返ってみると一つのお盆に俺のカレーとうどんの器の二つを置いて持っている真白が立っていた。
汁物を選んだのに一滴も毀れていない……こいつ、なかなかやるな。
「にしてもよく見つけれたね」
「まあな。さっさと食べようぜ」
真白からお盆を貰い、テーブルに置いた瞬間、ものすごい視線を感じて周りを見てみると、男の俺から見てもイケメンだと思うくらいにイケメンな金髪の男と同じく、
二度見してしまうくらいの美女が横になって並んでおり、その後ろには取り巻きらしき、男女がずらっと並んでいてこっちを睨んでいた。
「おい。ここはお二方の座席だ。消えろ」
「鞄なんかを置いていたならともかく、なにも置いてねえから良いだろ。
先に見つけたのは俺なんだけど」
「貴様」
「まあまあ」
俺を睨みつけながら一歩踏み出そうとしていたブルーの生徒を、
先頭に立っている金髪イケメンが制止するとブルー寮は俺のことを睨みつけながらも後ろに下がった。
「確かに座席を確保していなかった僕たちが悪いね。どうかな? 良かったら、
一緒に食べないかい? 見たところ君たちは新入生みたいだから話も聞いてあげるよ。
咲さんもそれでかまわないよね?」
「……そもそも貴方と一緒に昼ごはんを食べる約束はしていない」
隣りいる咲と呼ばれた美女は心の底から嫌そうな顔をしながらそう言うが隣の金髪イケメンはなおも、
ニコニコと笑みを崩さないまま咲さんの手を取って座席に座らせた。
…………いわゆるクール美女って奴か……にしても。
伸びている足は失礼な言い方だけど他の女子と比べたら淀みがないというか真っ白というか、細いけどただ単に細いだけじゃなくてしっかりと運動なんかもしているのか筋肉もあるから、思わず見とれるくらいに綺麗だし、黒髪も真っすぐ伸びている。
……クールVerの大和撫子っていう感じか。対して。
咲さんの前に座った金髪イケメンは金髪が地毛なのかプリンになっていないし、
顔立ちも日本人のものじゃなくてフランス人っぽい。
「自己紹介しようか。僕はウリエン・アイド。2年生だ。それでこちらは」
「今泉咲」
ぶっきらぼうにそう言うと咲さんはポケットから財布を取り出すと、
五千円札を取り出し、近くにいた取り巻きの女の子に握らして何かをぼそぼそというと、渡された女子生徒は一瞬だけ頭を下げ、そのまま購買の方へと向かっていった。
「にしても今日も咲さんはお美しい」
「…………」
俺達は自分の昼ごはんを食べながらも隣の二人の会話に耳を立てているが、
アイドさんの口から出てくるのは全部咲さんに対する口説きというか賞賛の意を含んだセリフ。
それに対して咲さんの口からは一切、言葉は出てこずにぶっきらぼうな顔をしたまま、
アイドさんの言葉をすべて聞き流していた。
……ここまで清々しいくらいにスルーしている人も初めてみるけどスルーされながらも、
ここまで必死に口説き続ける人も初めて見たわ。
それはさっき五千円を握らせた女子生徒がうどんをお盆にのせて持ってきても変わらず、食事をしているときでさえ、ひたすら口説いていた。
『ねえねえ! なんで喋らないの~?』
そんな様子を面白く感じているのかベビーマジシャンは咲さんの頭に乗っかって、
ポンポンとその小さな手で頭を叩きながら尋ねるが、
ベビーマジシャンの声が聞こえているのは俺だけなので俺以外は誰も返事をしない。
そう考えていると咲さんの視線が動いて俺を凝視してきた。
……な、なんかこれはこれで怖い。
「ねえ、あんた」
「は、はい!」
「なんでそんな服着てんの」
そう聞かれたときに俺はスプーンをボチャッとカレーの上に落としてしまい、
真白は俺の顔めがけてうどん砲を発射してしまい、俺の顔に中途半端に切れた白い麺が直撃した。
真白から今にも土下座しそうな勢いの謝罪をされかけたがこの場の雰囲気に押しつぶされたらしく、
立ち上がろうとしたがすぐにまた座ってしまった。
「え、えっとですね。これは制服でして」
「制服は青か黄色だけでしょ。アイド、何か間違ってる?」
「いいえ。確かに制服は青か黄色です」
その時、咲さんの後ろに立っていた取り巻きの女子の一人が咲さんの耳でコソコソと、
何かを喋ると納得したようで顔を小さく動かした。
「そう。あんたレッド寮なんだ」
「筆記の方、頑張ったんですけど合格ラインぎりぎりだったみたいで。ハハハハ……ハハ……ハ」
笑いながらそう言うが真白以外に笑っている奴はだれ一人としておらず、
全員が俺の方をじーっと見つめてきたのでそれに負けて俺も黙ってしまった。
エ、エリートすぎるとこんなことになるのか。
「じゃ、もう帰るから。片付けておいて」
「もちろんです。おい、お見送りしろ」
アイドさんがそう言うと大勢のブルーの制服を着た男子たちがぞろぞろと歩きはじめ、
さらに咲さんの取り巻きの女子たちも一斉に動き出したせいで出口は凄まじく混雑し、
出口の付近だけ異様なまでに混雑していた。
一方、アイドさんはというと取り巻きに指令を出したとき以外はひたすらニコニコしており、食べ終わった後のお盆を運んでいるときもひたすらニコニコしていた。
「…………はぁ~! 怖かった」
「お前、後ろから取り巻きの女子たちに睨まれてたぞ」
「ほ、ほんと!? 通りで背中が重く感じたわけだ……にしてもまさか、
あの二人がそろっている現場に出くわすなんて」
「誰だよ、あの二人」
「もう有名だよ。片方はフランスからの留学生でデュエルの実力はトップクラス。
ミッシェル先生もお墨付きを与えるくらいの実力だよ」
……あの最強のドラゴンティーチャーまでもがお墨付きを与えるくらいに強いってことは、向こうのプロリーグからはすでに声をかけられているな……卒業する前に、
一回でいいからデュエルしてみたいな~。
「そしてもう片方はデュエルアカデミアの2年生女子生徒の頂点に立つ最強のデュエリストだよ。なんでも去年、行われた教員と生徒とのエキシビジョンマッチで教員をノーダメージで倒したり、1ターンキルをしたっていう噂だよ。
そのクールな雰囲気から冷美な魔女って呼ばれてる」
「なんで魔女なんだよ」
「そこで私の出番なんだなー!」
後ろから声が聞こえ、驚きながら振り返ってみると首からボイスレコーダーをかけた山本さんが、
手にメモ帳を持ちながら満面の笑みで立っていた。
「い、いつからここに?」
「何やら面白い騒動の匂いが感じてきたんだけど遅かったわね……これはさておき、
なんであの人が冷美な魔女って呼ばれているか教えて進ぜよう」
「おぉ!」
「曰く、あの人が使うデッキがほぼ魔法カードで構築されているから、だそうな。
私もカードの名前までは知らないけど50枚のデッキの中で実に枚が47枚が魔法カード。残りの2枚はモンスターカードで、罠カードが1枚入っているらしいわ」
山本さんの話を聞く限りでは今泉さんという人のデッキはマジカルエクスプローション1キルデッキ。
名推理やモンスターゲート何かを使って高速でデッキ圧縮を行って墓地に大量の魔法カードを落とし、
マジカルエクスプローションを発動して相手のライフを一瞬で0にするデッキ。
でも、モンスターカードが2枚ってもうマジカルエクスプローション専用のデッキ構築だな。
『あ、ブルーのお姉ちゃんだ!』
その時、ベビーマジシャンのそんな声が聞こえ、そちらの方を振り向いてみると以前、
森の近くで見かけた青いドレスを着た少女がジーッと俺の方を見ており、
数秒見た後に視線をはずしてどこかへと行ってしまった。
「あ、優斗君。どこ行くの!?」
「悪い。授業遅れるかもしれないって言っといてくれ」
真白にそう言い、俺は青いドレスの少女が向かった後を追って食堂から出た。
「確かこのあたりだよな」
青いドレスの少女を追いかけて食堂から出てきたのはいいものの彼女が校舎の外に出て、
森へ向かってからその姿を見失ってしまった。
ベビーマジシャンも探してはくれているがその姿は一向に見つけれていない。
その時、俺の後方から葉っぱを踏みつけたような音が聞こえ、振り返ってみるとそこに、
先ほどの青いドレスの少女が立っていた。
『…………ひどい』
ひどく悲しい表情をしながらそう一言つぶやいた。
「君はいったい誰なんだ」
『…………気を付けて。貴方が持つそのカードは闇のカード。使い続ければ、
貴方はその闇にすべてを飲み込まれてしまう。早く捨てて』
少女が言い終えた直後、突風が吹き、目の前に風で吹き上げられた大量の葉っぱが、
まるでカーテンのように俺の視界を遮り、葉っぱがすべて地面に落ち、
視界が晴れるころには既に少女の姿はなかった。
今回はデュエルシーンは無しですがこんな感じでデュエルシーンも書くと、
分かりやすいですかね……とりあえず、ご指摘よろしくお願いします