青いドレスの少女の警告を受けた日から二日後。
遂にクラス対抗トーナメントが開催される当日、俺は教室でデッキを広げて確認していた。
規則があるからデッキ自体は代えられないけどサイドデッキとの交換は認められており、サイドデッキにおいてあるカードとデッキのカードとを睨めっこしながら調整していた。
「よし。完成だ」
一時間ほどかけて試合前の最後のデッキの調整が終了した。
多分、皆驚くだろうな~。なんせ俺のデッキにはあのカードが……みんなの驚く顔が目に浮かぶぜ!
「優斗君! もうそろそろ2年生の試合が始まるよ~!」
「あぁ、すぐ行く!」
1年生はまだ入学して右も左も分からない状態なので先に2年のクラス代表のトーナメントを行い、
次に俺達1年、最後に3年が2日ほどかけて試合をするという形式になっている。
デッキを専用のホルダーに入れてポケットにしまい、サイドデッキはそのまま上着のポケットに直し、
山本さんと一緒に小走りでアリーナへと向かうと近くへ行くだけで大勢の観客がいるということが分かるくらいにアリーナから声が漏れ出ていた。
「座席は取っといてもらったから。あっち」
山本さんについていき、取っといてもらったという座席の方へ向かうとすでに、
真白が二人分の座席を確保した状態で座っており、俺達に気づいて軽く手を振ってきた。
「グッドタイミングだよ。今から2年の試合が始まるんだ」
真白の言う通り、大きなモニター画面には2人の男子生徒の姿が映し出されており、
もちろんその二人はブルー寮の制服を着ており、自信に満ち溢れた顔をしていた。
一体どんなデッキ使うんだろうな~。楽しみだ!
「えっと奥の方に立っているのが2年D組のクラス代表、手前がC組のクラス代表だよ。
デッキ内容は…………これはデュエルのなかで確認した方が面白そうだね」
「……あの人は」
観客席よりも遠い位置に立っているクラス代表の女性を見るとその女性は先日、
食堂で出会った咲さんだった。
あの人のデッキって確かマジックエクスプロージョンの1ターンキルデッキだったよな。
『お集まりいただいた皆さん! お待たせしました! これよりクラス別トーナメント、
2年生の部を開催いたします! それでは両者!』
『『デュエル!』』
『俺のターン! ドロー! 俺は手札から魔法カード・おろかな埋葬を発動!
デッキから馬頭鬼を墓地へ送る!』
「おぉ。アンデッド族か」
「となるとアンデッドワールドもあるだろうから相手はちょっと厳しいかな」
「え? なんで?」
「アンデッドワールドはアンデッド族以外のモンスターの生贄召喚を封じるんだ。
それに墓地、フィールドのすべてのモンスターをアンデッド族に変えてしまうからな。
でも、多分だけど女の人のデッキには影響はないかも」
山本さんに説明している間にもデュエルは進んでいき、先攻の人が、
精気を吸う骨の塔を守備表示で召喚、1枚カードを伏せてターンが終了した。
『私のターン。ドロー』
会場内に響き渡る咲さんの声に一斉にファンらしき男子生徒の歓声がアリーナに響き渡った。
でも、俺からすればその声には面倒くさい……そんな感情がふんだんに込められてる声に聞こえる。
……なんで、あんなに楽しくなさそうにデュエルするんだ。
『私は手札より死者へのたむけを発動。手札を1枚コストにし、相手モンスターを破壊する』
フィールド上に出現した魔法カードの絵柄から包帯が射出されたかと思えばその包帯が精気を吸う骨の塔にからみつき、ぎゅうぎゅうに締め上げた瞬間、光の粒子となって包帯ごと消滅した。
咲さんのデッキから魔法カードが墓地へ送られれば送られるほどマジカルエクスプロージョンで与えるダメージもそれに比例して増大していく。
1枚につき200ポイントダメージを与えるから少なくとも20枚が墓地に送られた時点で、
手札をゼロにしていれば勝利が確定する。
この時点で送られた魔法カードはおそらく2枚……。
『さらに手札抹殺を発動』
互いのプレイヤーが全てのカードを墓地へ送り、先ほどまで持っていた手札のカードの枚数だけ、
デッキから新たにカードを墓地へと送った。
……これで墓地へ送られたカードの総数はおそらく、5枚。
『さらに私は速攻魔法・手札断札を発動』
互いに2枚のカードを墓地へ送り、デッキからカードを二枚、新たにドローするカード……やっぱり、
手札を墓地へ送る効果の魔法カードを多く積んできたか。
『そして私は名推理を発動』
相手にレベルを指定させてデッキからひたすらカードを墓地へ送って行き、
モンスターカードが出てきた場合、相手が指定したレベルとおなじカードならばそれを含めて墓地へ、
外れていた場合は通常召喚可能なモンスターの場合のみ、特殊召喚する。
咲さんのデッキにはモンスターカードは1枚のみ、確かにモンスターカードを引く確率は低いけど、
逆に最初の1枚で引いてしまったら発動した意味がない。
『俺はレベル8を指定する!』
『そう。じゃあ、行くわよ』
咲さんがデッキが収められているスペースに手を伸ばした瞬間にデュエルディスクの機能により、
自動的にどこがモンスターカードなのかがカードがデッキから押し出される形で示され、
それよりも上のカードをデッキから抜き取り、墓地へと送り、モンスターカードを見せた。
『レベル10。残念ね』
咲さんがモンスターを召喚するとそのステータスが電光掲示板に表示されるが……。
「こ、攻守ともに0のモンスターがレベル10なの!?」
「いや。恐らくあのモンスターの効果で自身の効果の影響で強制的に下がったんだと思う。
でも、あんなモンスター見たことがないよ」
フィールドに特殊召喚されたモンスターは黄金の輝きを放ち、黄金の杖を持ってはいるが、
攻守0ということもあり、周りの生徒たちには弱いモンスターとしか映っていないと思う。
俺も今までにあんなモンスターは見たことがない……いったい。
『私は手札のカードをすべて伏せて、ターンエンド』
『俺のターン! ドロー! 何を召喚したのか分からねえけど攻守0なら、
怖くとも何ともないですよ! バトル!』
『この瞬間、罠発動。マジカルエクスプロージョン』
出た! 咲さんのデッキの最強のダメージを相手に与えるエースカード!
『手札が0枚のときにのみ発動可能。墓地の魔法カードの数×200ポイントダメージを与える。
私の墓地に存在している魔法カードの総数は23枚』
『2,23枚!? デッキの半分以上の枚数!』
『私のデッキにモンスターはこの子だけでいい……デュエルの勝敗はモンスターで決めるのではなく、
魔法で決めるものよ。貴方に4600のダメージを与える』
発動されたカードの絵柄から青色に輝く極太のレーザーが放たれ、相手プレイヤーを飲み込んだ瞬間、
凄まじい爆音を響かせながら爆発を起こし、一瞬にして4000あったライフを削りきってしまった。
一度もフィールド上に通常召喚せずに効果ダメージだけで勝つなんて……しかも、
マジカルエクスプロージョンは制限カードに指定されているからデッキに入れられるのは一枚だけ。
…………よっぽどデッキを信じているのか。手札に来るのを。
『では次のデュエルへとまいります』
そう、音声が出されるとフィールドに一人の女子生徒と食堂で遭遇したイケメンのアイドさんが現れ、
互いにデッキをシャッフルしたあとディスクにセットし、準備を整えて互いに向き合った。
アイドさんはいったいどんなデッキを使うんだ……ていうかなんか対戦相手の女の人、
なんかやけに嬉しそうな顔してるような気が。
『『デュエル!』』
『私の先攻です! ドロー! 私はモンスターをセット。カードを一枚、伏せて、ターンエンド』
『僕のターン! ドロー! 異次元からの生還者を召喚! カードを二枚伏せてターンエンド』
異次元からの生還者か……となると次元の裂け目とかマクロコスモスとかそう言った除外カードが伏せられてるかもな。
異次元からの生還者がデッキに入っているなら似たような効果の異次元からの偵察機も入ってるだろうから、
おそらく生贄召喚を軸に据えたデッキか。
対戦相手はいきなり1800のモンスターを出され、それを超えるモンスターが手札にいないらしく、
何もしないまま、ターンを終了してしまった。
相手もクラス代表なんだからそれ相応に強いよな……どんなデッキなんだろ。
『僕のターン! ドロー! 僕は永続魔法・次元の裂け目を発動!』
次元の裂け目……何らかの要因で墓地へと送られるすべてのモンスターカードを墓地へは送らずに全て除外してしまう魔法カード……やっぱり、生贄召喚狙いか。
『そして異次元の偵察機を守備表示で召喚し、さらに永続罠・血の代償を発動!
500ライフを払うことで召喚権を再び行使することができる!
僕は1000ライフポイントを支払い、二回の召喚権を得る!
そして異次元の偵察機、帰還者を生贄に邪帝ガイウス! 風帝ライザーを召喚!』
「すごい。1ターンキルだよ」
「え? なんで?」
「風帝ライザーの効果はフィールド上のカード一枚を持ち主のデッキの一番上に戻す。
邪帝ガイウスの効果は生贄召喚時にフィールドのカードを一枚選択し、除外する。
さらにそれが闇属性のモンスターだった場合、持ち主に1000ポイントのダメージを与えるんだ」
俺の説明を聞いて納得したのか山本さんは小さな声で“あぁ”と呟くと、
決着の瞬間を写真に収めるためにカメラのレンズをフィールドの二人に向けた。
『二体のモンスター効果により、一枚をデッキの一番上に、もう一枚を除外!』
風帝ライザーから竜巻のようなものが発生したと同時に邪帝ガイウスが手のひらの間に闇を凝縮させ、
真っ黒な球体を作り出すとその球体を放ち、それと同時に竜巻も放たれた。
竜巻がカードを巻き込むとそのまままっすぐ上がっていったかと思えば途中で軌道を変え、
相手のデッキの一番上にもぐり込むように竜巻が突っ込むとカードがデッキトップに戻され、
さらに放たれた真っ黒な球体がセットされたモンスターカードに直撃すると、
球体が巨大化し、そのカードを飲み込んでそのまま消滅してしまった。
帝デッキの最大の強みは生贄召喚した直後に効果が強制発動し、
相手、もしくは自分のフィールドから容易にカードを除去できることにある。
おそらく、アイドさんのデッキは帝モンスターを召喚することに特化したデッキ。
『バトル! 二体の帝で相手プレイヤーにダイレクトアタック!』
竜巻と闇の球体が対戦相手に直撃し、一瞬でライフを削りきった。
……なんでこうも、上級生っていうのはじっくりデュエルをやろうとせずに、
一瞬でけりをつけようとするんだ……いや、まあデッキの特性上、1キルの条件が最初から、
手札に揃うってことはあるんだけどさ……相手のデッキ見たかったな~。
『本日のデュエルはこれで終了といたします』
「もう終わり!?」
「仕方がないよ。特に2年生っていうのは実力差がハッキリと出てくる時期だから、
強い人と弱い人の実力の壁はかなり大きいんだ。強い人は強いし、弱い人は本当に弱い。
アカデミアにとって大切なのはその強い人だけ。弱い人に対しての救済なんかないも同然だよ」
「それになんで3年生が数日行われるかというと後々のアカデミアの経営成績に影響があるから。
しかも3年生の試合の日にはプロリーグのお偉いさんをVIPとして招き入れるっていう噂もあるの。
さ~てと! 私は帰って記事を作ってきますか! また明日ね!」
そう言って、山本さんはカメラを専用のケースらしきものに入れると同時にそのまま、
人をかき分けながら素早くアリーナから出て行った。
ちぇっ。もっと長くやってくれるのかと思ったらまさかの10分で終了か。
「つまんなさそうだね」
「だって、もっとデュエルを見れると思ってたし。ていうかあの2人が強すぎるんだよ」
「仕方がないよ。2人ともブルークラスの2大勢力だからね。強さも凄まじいよ。
アイドさんはすでにプロリーグからの視察も入ってくるんじゃないかっていう噂だよ」
強い奴は強い……弱い奴は弱い……か。確かにゲームである以上はその2つに分かれるのは、
仕方がないんだけどデュエルアカデミアの仕事ってその二つの差を縮めることじゃないのか?
強い奴にだけ恩賞を与え続けて弱い奴には冷遇……その最たるものが寮なんだけどさ。
「僕たちも行こうか」
「そうだな。あ~! 明日も早く終わるんだろうな~」