アリーナ前に到着したのは試合が始まる3分前だった。
おぉ、緊張する……といっても観客なんて1年生くらいしかいないんだろうけどさ……まあ、
史上初のレッド寮がいるから物珍しさに見に来るっていう人もいるかもしれないけど。
でも、緊張するな~。
【だったら私が解してあげようか?】
「いい。この緊張の後にデュエルが楽しめるんならそれもまた一興……そう思わないか?」
【思わない。少なくともあんた以外の人間はそう思ってないんじゃない?】
「かもな……よっしゃ! 行くぜ!」
時間となり、フィールドへと繋がっている扉を開けた瞬間、耳の鼓膜が破れるんじゃないかと思うくらいの爆音ともいえる観客の歓声がこのアリーナ全体を満たしていた。
慌てて周りを見渡してみると2年生の時とは比べ物にならないくらいの大勢の観客が席に座っており、
ぽつぽつと見えていた空席も今はどこにも見当たらなく、それどころか立ち見客さえ見えた。
…………そんなに俺って注目されてんのか?
【そんなわけないでしょ。全員の視線は向こうさんに注がれてる】
そう言われ、前を見てみると俺の対戦相手らしきブルー寮の制服を着た男子生徒が……あれ?
確か入学した時は男子って全員、一番高くてイエローから始まるんじゃなかったっけ?
そんで2年に進級してからブルー寮に配属されるって……?
『皆さんお待たせしました! これより今年度の主席入学者であり、史上初の1年生からのブルー寮配属となった古谷浩二と史上初のレッド寮配属となった最下位入学者の高槻優斗によるクラス対抗トーナメント、
1年生の部、決勝戦を行いたいと思います!』
スピーカーから司会者らしき人物の大きな声がアリーナに響き渡った。
へぇ。あいつってそんなに注目されてるんだ……一体、どんなデッキ使うんだ?
『では、ここで古谷君に一言をいただきたいと思います。古谷君、意気込みの方は?』
すると古谷の足元の床に長方形の小さな穴が空いたかと思えばそこからスタンドマイクが伸びてきて、
古谷が話しやすい位置まで伸びた。
「実力を出し切り、相手を倒すと同時に皆さんを私のデュエルで魅了させて見せましょう」
一言そういうとスタンドマイクが戻っていき、それと同時に観客席にいる女子生徒軍団から黄色い声援が360度、全方角から飛んできて古谷は慣れたように小さな笑みを浮かべて周りに手を振ると、
さらにその姿に黄色い声援が噴き出した。
俳優って言われても納得するくらいだしな……ワックスか何かで肩の辺りまで伸びている髪を整え、
ブルー寮の印である青いコートの第2ボタンまで外し、首には高そうなネックレス……くぅー!
1度でいいから俺もこんな声援受けてみたい!
【男の無様な感情ね】
男はみんな、一度はそう思うもんだ!
『さらにスペシャルゲストとして3年生最強と言われている森さんと同じく冷徹の魔女と言われている2年生女子最強の今泉咲さんが特別席で観覧しております! お二方、何か一言を!』
『特に期待していません……手早く終わらせてください』
張りがない声で一言そういうと古谷は何故か頭を少し下げ、まるでわかりましたとでも言いたそうだった。
『え~っと。2人とも面白いデュエルしてねー! お姉さん応援してるから~!』
さっきとは対照的に張りがありすぎる声が聞こえただけではなく、遠く離れた場所にいる俺でさえ、
森さんが観覧席で両手を大きく振っているのが小さく見えた。
お姉さんというか同年代か下にしか見えねえよ。
『ではお二方、デッキシャッフルを』
ポケットからデッキを取り出し、よくシャッフルしてから相手に渡して相手のデッキをシャッフルしようとした瞬間、古谷のデッキから赤いオーラのようなものが湧き出ているのが見えた。
熱そうだな……炎族で固めたデッキか?
【驚かないのね……まあ、あんなことを経験した貴方にとっては小さなものね】
相手のデッキもよくシャッフルし、互いのデッキを受取ってディスクに装填しながら相手から離れ、
程よい距離まで離れた後に互いに見合った。
んしゃ! 楽しむぞ、このデュエル!
『準備はよろしいですね? では』
「「デュエル!」」
同時にその単語を叫び、同時にデュエルディスクを展開した。
『LP 4000vs4000』
「先行は俺が行く。ドロー! 俺は炎王獣ガルドニクスを守備表示で召喚!」
『ATK;700 DEF;700』
相手のフィールドから炎が噴き出したかと思えばその炎の中からモンスターが出現した。
やっぱり、炎族で固めたデッキか……。
「カードを一枚伏せてターンエンド」
「俺のターン! ドロー!」
死者へのたむけか……ここで発動しても良いんだけどこんな初っ端から発動したとしても相手フィールド上にいるのは下級モンスター……ここは後に取っておくか。
「俺は連鎖―――――シルバー・ガンマンを攻撃表示で召喚!」
『ATK;1500 DEF;500』
俺の目の前に銀色の狙撃銃を持ったスナイパーが現れ、早速スコープを覗いて照準を相手に向けた。
「シルバー・ガンマンで炎王獣ガルドニクスを攻撃!」
その宣言の直後、銀色の銃口から銀の弾丸が放たれ、相手モンスターを貫通したかと思えば、
相手モンスターが一瞬にして火の粉になって消滅するが散り散りになった火の粉が1か所に集まり始めた。
「破壊されたガルドニクスの効果発動! その効果で俺はデッキから炎王獣キリンを特殊召喚する!」
デッキからカードが射出され、そのカードを受け取った古谷がディスクにセットすると、
1か所に集まって火の粉がモンスターへと変化し、真っ赤なキリンが出現した。
リクルーターだったか……となるとあのモンスターも怪しいな。
「この瞬間! リバースカードオープン! 連鎖破壊!」
なっ! あのカードは確か攻撃力2000以下のモンスターが3つの召喚のいずれかで召喚された時、
そのコントローラーのデッキ、手札から同名モンスターをすべて破壊するカード!
自分で破壊したということはあのカードもデッキからカードをサーチするのか。
「ふん……これでもう俺の必勝パターンへの道筋は確定したぞ。破壊され、
墓地へ送られたキリンの効果発動! このカードが破壊され、墓地へ送られた時、
デッキから炎王と名のつくモンスターを墓地へ送る。破壊されたのは2体なので2枚墓地へ送る」
墓地へ送ったカードは恐らく、切り札となる強力なモンスター……まずいかもな。
開始早々、結構追い詰められてるじゃねえか、俺。
「俺はカードを2枚伏せ、ターンエンド」
「ふん。為すすべなく貴様を潰してやろう。俺のターン! ドロー!
俺は手札から永続魔法・補助部隊を発動! これにより、カード効果で破壊された場合、
俺はカードを1枚ドローする。さらに魔法カード・死者蘇生を発動!
墓地の炎王神獣ガルドニクスを特殊召喚!」
目の前から先ほどとは比べ物にならないほどの量の炎が噴き出したかと思えばその炎から巨大な影が見え、
炎から赤い手が出てきたかと思えばその手が下にまっすぐ振り下ろされ、炎を真っ二つに切り裂き、
そこから巨大なモンスターが出現した。
「ありゃ? 咲ちゃん、もう帰っちゃうの?」
「ええ。もう彼の負けは決まりましたから。キリンの効果ですでに彼の墓地には2体のガルドニクスが存在する。そして彼の手札には既にガルドニクスを能動的に破壊するカードがあるはず。負けですよ。
貴方が面白い子がいるからと来てみましたが……」
「確かにね~。周りの子はみんなそう思ってるでしょうね……私も彼じゃなかったら、そう思ってたけど彼って結末が想像できないのよ。最後の最後でどんでん返しが来るんじゃないかって思うの。
悪いことは言わないから、最後まで見ていきなよ。ね?」
「……あなたがそこまでいうのなら」
「これが俺の切り札! 炎王神獣ガルドニクスだ! 行け、ガルドニクス!
奴のモンスターをその炎でもってして消し去れ!」
「罠発動! 聖なるバリア・ミラーフォース!」
ガルドニクスの大きな口から火炎が放射された瞬間に俺の目の前に見えない光のバリアが出現し、
そのバリアが放射された火炎をはじき返し、奴のモンスターに直撃させて破壊した。
よし、これで……なんであいつ、笑ってんだ。
せっかく高速で呼び出した切り札のモンスターを破壊されたにもかかわらず、古谷は何も言わず、
ただただ小さく笑みを浮かべていた。
確かにカード効果で破壊されたことでデッキからドローできるけど……一体、何があるんだ。
「これでターンエンドだ。さあ、お前の実力、見せてみろ」
「俺のターン! ドロー!」
とにかく、あいつが何をやってくるか分からない……注意しねえと。
ただ、今のところ連鎖モンスターが手札に来てねえからあの永続魔法は破壊できない……ここはドローしつつ相手にダメージを与えていくか。
「俺はカードを3枚伏せてターンエンド」1枚
「俺のターン! ドロー! そしてスタンバイフェイズとなったこの瞬間! 先ほど破壊された墓地のガルドニクスの効果が発動! ガルドニクスはカードの効果で破壊された時、墓地から特殊召喚することができる!さらにこの効果で特殊召喚された際、このカード以外のモンスターをすべて破壊する!」
「なっ!」
だからあの時、切り札が破壊されても笑っていたのか!
「ハハハハ! ガルドニクス以外のモンスターは全てこの炎に包みこまれる! エンドフレイム!」
「俺はその効果にチェーンブラスト、チェーンストライク、積み上がる幸福、さらに連続して、
積み上がる幸福を発動! 2枚の積み上がる幸福の効果により、俺はカードを4枚ドローし、
チェーンストライクの効果により、お前に1200ポイントのダメージを与え、
チェーンブラストの効果でさらに500のダメージだ!」
「この程度のダメージでこの状況は変わらん! 消え去れ!」
墓地からガルドニクスが復活した瞬間、ガルドニクスが立っている足元から全方位に向かって炎が放たれると敵・味方関係なくフィールド上に存在しているすべてのモンスターが炎にのみ込まれ、
完全に焼き尽くされて消滅した。
「炎王獣キリンの効果により、俺は炎族モンスターを墓地へ送る。永続魔法の効果により、
俺はカードを一枚ドローする。行け、ガルドニクス!」
「うあぁぁぁぁぁ!」
ガルドニクスの足元から放たれた炎が波のように揺らぎながら地面を進んでいき、
俺に覆いかぶさるとガルドニクスの攻撃力分だけ俺のライフが減った。
熱いな、おい……おそらく、あのモンスターを2体並べることが奴にとっての必勝条件。
片一方のカード効果で破壊されることで次のスタンバイフェイズによみがえり続ける……そして、
永続魔法の効果でカードを1枚ドローできる……無限ループか。
恐らく、あいつの手札には自分のカードを破壊するカードがあるはず。
……このターンで決着をつけなければ俺は負ける!
「これで俺はターン終了だ」
『LP 1300vs2300』
「俺のターン! ドロー!」
……こんな時に来るなんてな……観客の度肝を抜かしてやる!
「相手にモンスターが存在し、俺の場にカードがない場合、シルバーナイトを特殊召喚できる!
俺は攻撃表示でシルバーナイトを特殊召喚!」
『ATK;2000』
「さらにベビーマジシャンを召喚! そして手札から速攻魔法・運命の連鎖扉を発動!」
直後、俺の目の前に鎖でがんじがらめに固められている石の扉が現れた。
「このカードはフィールド上に存在する連鎖モンスター1体を選択する。そしてデッキの上から、
5枚墓地へ送り、そのカードの中に選択したモンスターよりも攻撃力が高いモンスターが存在する場合、
そのカードを通常召喚扱いとして召喚する。もちろん5以上は生贄を捧げて召喚する」
ここで連鎖邪龍を引き当てることができれば特殊召喚じゃなくて生贄による通常召喚できる。
さてと……わくわくするな。ここで連鎖邪龍じゃなくてビーストハイパーを引き当てたら、
その効果で攻撃力が半分になって絶望的だけど引き当てたら一発逆転……行くぜ!
「1枚目! 魔法カード・連鎖の剣! 2枚目! 罠カード・攻撃の無力化!」
2枚引いた時点でモンスターカード以外か……まだまだ!
「3枚目! モンスターカード・シルバー・ビースト! 4枚目! シルバー・ディフェンダー!」
4枚引いた時点で連鎖邪龍はなしか……ラスト!
「5枚目!」
俺が5枚目のカードを引いた瞬間、さっきまで騒がしかったアリーナが一瞬にして静まり返り、
俺が次に何をするのかを待っていた。
5枚目に引いたカードを確認するとこの学園に来て初めての友人から受け取ったカードだった。
「最高だ……俺はベビーマジシャンを生贄に捧げ、ホルスの黒炎竜LV6を召喚!」
「なっ! ホルスだと!?」
シルバーナイトのカードを墓地へと送り、ホルスの黒炎竜LV6のカードをフィールドへセットすると、
目の前に円形に炎が現れ、そこからまっすぐ上に向かって炎の柱が立ち上ったかと思えば、
そこから銀色の鱗をし、銀色の翼を持った龍が出現し、炎をかき消す勢いの咆哮をあげて、
フィールドへと現れた。
「馬鹿な! なぜ、貴様のデッキにホルスが入っているんだ!」
「奇襲性は最高だろ? 俺のここでの初めての友人のエースカードだ!
さらに俺は手札から魔法カード・レベルアップを発動し、ホルスを進化!」
直後、ホルスが光に包まれ、その形を変え始めたかと思えばLV6よりも一回り大きい姿へと進化を遂げ、
周囲に咆哮を上げると同時に翼をはばたかせ、上空へと飛翔した。
「行け、ホルスの黒炎竜LV8! ガルドニクスを攻撃! ブラック・メガフレイム!」
ホルスが大きな口を開き、上空から巨大な火球を放つとガルドニクスに直撃し、大きな爆発が起き、
辺りに爆風がまき散らされると同時にガルドニクスが欠片となって消滅し、
差額分がライフから削られた。
「っっ! 馬鹿な! 俺が! 俺がこんなところで!」
「行け、シルバーナイト! プレイヤーにダイレクトアタック!」
「っうぁぁぁぁ!」
シルバーナイトが俺の宣言を聞いたのと同時に空高く飛びあがり、急降下の勢いを利用し、
持っている剣を振り下ろし、古谷をまっすぐ切り裂くとシルバーナイトの攻撃力分だけ、
古谷のライフが削られるのと同時にライフがゼロになった。
「っっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
と、喜んでいるのは俺と森先輩と真白、山本さんくらいで後の連中は驚きすぎて何も言葉を発することができず、アリーナは俺の喜んでいる声だけが異様に響いていた。
『勝者! 高槻優斗ぉぉぉぉ! 拍手拍手!』
アリーナに突然響いた森先輩の声の後にチラホラと拍手がアリーナのあちらこちらから聞こえてきた。
『では、これにてクラス対抗トーナメント戦を閉会させていただきます』
『乾杯!』
クラス対抗トーナメントが閉会されてから数時間後、いつものメンバーと一緒にレッド寮の食事室みたいなところで祝勝会をあげていた。
各々が持ってきた飲み物をコップに注いで飲みほし、女性陣が作ってくれた大量の食事を頬張りながら、
トーナメント戦の感想なんかを言い合っていた。
「でも、まさかマー君のホルスを高槻君がデッキに入れていたなんてね」
「僕も最初、聞かされたときはびっくりしたけど意外と受けはよかったみたい」
「でも、これから忙しくなるわよ~」
森先輩の言う通りだ。
史上初の一年生からのブルー寮配属という偉業を成し遂げた古谷をまさかの正反対の地位にいた俺が倒したことで周りからの俺に対する評価もガラッと変わったと思う。
それは嬉しいことなんだけどそれ以上に敵を多く、作っちゃったかもな。
「まあ、そんなことは後々、考えましょう。んじゃ、もう一度」
『カンパーイ!』
俺がそういうとみんながコップを上にあげ、カチンと軽くたたき合わせた。