「‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐!」
なんか誰かの声が聞こえるけど……眠いから良いか。
『高槻優斗ぉぉぉぉぉぉ!』
「ぉぉがっ!?」
突然、拡声器で何倍にも大きくした音量の声が寮内に響き渡り、驚きのあまり飛び起きた直後、
天井に頭をぶつけてしまい、悶絶しているとボトッと何かが落ちた音がし、頭を摩りながら下を見てみると
キョトンとした様子の寮長(猫)が畳に落ちていた。
「なんなんだよ、たっく」
ガラッと玄関のドアを開けてみると寮のすぐ近くのところに拡声器を持った古谷が腕にディスクを装備し、
さらには足元に段ボール箱をいくつか置いて立っていた。
…………何で、ブルー寮のこいつがここにいるわけ?
「あの、どうかしたのか?」
「どうしたも何もない! 貴様に負けたせいで俺はレッド寮にまで落とされたんだ!」
つい先日まで行われていたクラス対抗トーナメント。
三年生はこれまでの授業での総評価とお偉いさん方の見定め、二年生は中間報告、そして一年生はその余った期間を消化するための消化試合をしていたわけで決勝で古谷と当った俺は見事勝利し、
晴れて一年生最強……まあ、面倒くさいとか言う理由で辞退した凄腕の奴もいるかもしれないが、
一応の称号を手に入れることができたわけなんだが……やっぱり、落とされたか。
「で、レッド寮に入寮しに来たと」
「そうだ……くそっ! 何でこの俺様がこんなボロッちい寮などに入らねばならんのだ」
「……」
「あ、おい! 閉めるな!」
何も言わずに寮の扉を閉めてやるとドンドンとドアを叩く音がするがとりあえず、無視をすることにした。
「そんなに不満タラタラなら入らなくて結構。ねえ、寮長」
「にゃっ」
寮長も床に言葉が書かれている四角いパネルを並べてその通り! と言われている。
「ぐぐぐぐぐ! こ、こんなぼろいところにこの俺様は入らん!」
「そうか。別に俺はいいんだけど確か今日はお昼頃から雨だって言ってたよな。
それにディスクって確か雨とかにぬれるとすぐに壊れるらしいし、ディスクの値段て結構、
高いんだよな。壊したら次からは自費だし」
「………ボ、ボロイといったことは謝る。だから入らせてくれ」
とりあえず、扉を開けると先程とは違ってしょぼんと肩を落とし、二つの段ボール箱を手に持った古谷が中に入ってきて、畳の上に段ボール箱を置いた。
弱肉強食と言われているデュエルアカデミアだから負けた奴には手痛い罰を下すとは思っていたけど、
まさか二階級も寮のランクを下げるとは……恐ろしいぜ。
「高槻。トイレはどこだ」
「外でて左に食堂があってその中にある」
そう言うとつい、先日までの高圧的な雰囲気などどこへ行ったのかどんよりとした雰囲気を醸し出しながらふらふらと食堂にある便所へと向かった。
……あいつ、今まで負けたことなかったんだろうな。
『あらあら。ずいぶん気落ちしちゃってるじゃない』
そんな声が聞こえ、肩のあたりを見ると頭をのせているアダルトマジシャンの姿があった。
青いドレスの少女が俺の中に入ってからというものの今までベビーマジシャンしか見えていなかった姿も今では俺のデッキのモンスターすべての精霊が見えるようになってしまった。
まあ、大概はアダルトマジシャンとベビーマジシャンしか出てこないんだけどさ。
「…………あいつ、遅くね?」
小便に行ったにしてはかなりの時間が経ったので不安になって食堂の中に入ってみると食堂の椅子に座り、
常備されているスナック菓子をポリポリ食べながらどこか明後日の方向を向いていた。
……こりゃ、重症だな。
「な、なあ。気分転換にデュエルでも」
そう言った瞬間、スナック菓子が砕かれた音がし、さっきまでどんよりしていた空気がさらに重苦しくなり、
本当に真っ白に尽きる一歩手前状態にまで行ってしまった。
「高槻君いる?」
「あ、森さん」
後ろから声をかけられ振り返ってみると食堂のドアの近くに一枚のファイルを持った森さんが立っていた。
「どうしたんですか?」
「今日の晩にね、私の部屋でみんなを集めて遊ぼうかなってね」
森さんの部屋か……ブルー寮の部屋には一度、ノゾミさんの時に行ったことがあるけど豪華な設備が標準装備だし、後から聞いた話によると追加料金を支払えばさらなる豪華な設備を加えられるとか。
だから金持ちのボンボンの家の奴らはバンバン金を出して追加装備を付けているらしい。
「良いですね。あ、こいつも良いですか?」
「良いよ~。んじゃ、今日の九時に」
そう言い、森さんは去って行った。
ふと、古谷の方を見てみるが先程と比べて若干はよくはなっているもののやはり先程の俺の不用意な発言のせいでひどく、落ち込んでいる様子が継続している。
「古谷。今日の九時に森さんの部屋行こうぜ」
「森さん……なんだとぉぉぉぉぉ!?」
突然、大声をあげながら立ち上がったかと思えば俺の方を向いた。
「も、も、森さんのお部屋に行けるのか」
「う、うん。さっき遊ぼうってお誘いが。お前も気分転換にどう?」
「行く! いや、行かせてください!」
よ、よくはわからんが一時的な気分転換にはなったみたいだな。
そんなこんながあり、古谷のお引越しの手伝いのためにブルー寮の古谷の部屋を訪れているんだが、
ノゾミさんの時と同じようにその室内の豪華さにあいた口がふさがらなかった。
ベッドはふかふか、部屋に置かれている家具は某高級家具メーカーのもので統一されており、
テレビはなんとつい先日発売された壁に貼り付けるテレビ。
「な、なんかすごいな」
「これでも俺は低水準な方だ。アイドさんの部屋はこの部屋以上らしい。入ったことはないがな。
さらに扉の前には二人のSPらしき男が立っているとも聞く」
「す、すげえ」
「凄いことではない。アカデミアは才能ある者には惜しみなく金を使う。逆に才能がないもの、
失敗したものに関しては手痛い罰を与える。今の俺みたいにな……そういえば貴様、
昇格の話はなかったのか」
「なんかミッシェル先生曰く、反対多数だったらしい」
トーナメントが終了した翌日の朝、ミッシェル先生が俺の部屋を訪れて昇格のことに関して、
職員会議にあげてくれたらしいんだけど教員何十人といる中で賛成票を入れてくれたのは数名、
ほとんどの教師が反対したらしい。
その中にはあのガチガチのエリート思考でロックデッキの先生もあったらしいけど。
「だが、俺は必ず舞い戻って見せる。貴様を倒したうえでな」
……今までブルー寮の奴らと何回かデュエルしたけどほぼ全員、俺を見下したうえで負けた時にはイカサマしたなどという決めつけをしてきたんだけどこいつはほかの奴等とは違う……俺も強くならないと、
次やった時は負けるかもしれねえ。
「ところで……案外、お前かわいい物好きなのな」
机の上に置かれているケースにはハムスターが二匹入っている。今は寝ているけど。
「動物は良い。癒してくれる時もあれば励ましてもくれる。口を動かさずに腕を動かせ」
「りょ」
…………ところでなんで俺ってこいつの引っ越しの準備の手伝いをしてんだ?
「にしても追加オプションだらけだな」
「俺が頼んだのではない。親が勝手に付けただけだ。こっちは終わったぞ」
「じゃあ、行くか」
カードなどが収められている大量のファイルを段ボール箱に突っ込み、古谷の元部屋から出ると、
ドアの近くにブルー寮の制服を着た奴らが野次馬のように大量に集まっていた。
噂によるとブルー寮の中でも格付けがあるらしく、そこに年齢の壁なんかはなくて、
強い奴は弱い奴から搾取するなんて言うのは日常茶飯事だとか。
「ん?」
その時、曲がり角のところで一瞬だけ誰かが隠れるのが見え、曲がり角まで走っていき、
そこを見てみるが誰もいなかった。
…………気のせいかな?
「なにをしている高槻。行くぞ」
「あ、あぁ」
今のは……。
「ようこそ~」
古谷のレッド寮への引っ越しも無事に終了し、夜の九時となった時間、
俺たちはブルー寮女子階の最上階にある森さんの部屋にお邪魔していた。
女子階層と男子階層は建物自体から分けられており、普段は男子が女子階層に入ることすら、
禁じられているんだけど住人の許可さえあれば入れるらしい。
とはいうものの……。
「なんというか植物だらけですね」
「まあね~。さ、どうぞどうぞ」
周囲には観葉植物と言われるような鉢植えに植えられている植物が大量に置かれており、
家具などよりもそういう系統のものが多く置かれていた。
部屋にある日常生活に必要なものはベッドと机、そして本棚くらいか……まあ、私服はどうせこの場所にいる限りは制服が標準だから持ってこなくてもいいんだけど。
「真白たちは呼ばなかったんですか?」
「まあね。さて、今回貴方たちを呼んだのはある理由があるからよ」
「ある理由とは?」
「それはね……怪談話をしたいのよ!」
…………こういうのって何か俺たちに頼む、とかそういうのだと思うんだけどな~。
「なんかここの女の子たちってみんな敬語でさ~。さて、ルールはね、超簡単。
寄せ集めたカードのデッキ一枚づつ引いて行って話をするのよ。
魔法カードなら面白い話。モンスターは怖い話、罠カードは何でもおっけー。それじゃ、じゃーんけん」
反論する暇も与えられずにそう声が発せられ、仕方なく俺はチョキを出すとほかの二人はグー。
一人負けか……まあ、いいか。
「んじゃ、俺からですね。ドロー……クリッターですか」
「さあ、行っちゃってー!」
この人、いつも以上に楽しそうにしてるな……まあ、いいか。
「実は俺、友人に俳優をしている奴がいてですね。そいつから聞いた話なんですけど」
某月某日。
普段通り、あるテレビ局での番組の収録が終わり、帰宅しようとしていた矢先、
後ろから自分の芸名を呼ばれ、振り返ってみると廊下を走ってスタッフの女の子が一人、
小包をもって走ってきました。
どうしたのか? と聞くとそのスタッフの女の子はもう遅い時間だし、家でこれ食べて。
そう言われ、渡されたものを持ってみるとほんのりと温かさが感じられた。
ありがとう、そうお礼を言おうとした時、ふと彼女の人差指に包帯が巻かれていることに気づき、
その子に、その指どうしたの? と聞くとその女の子は、料理してる時に切っちゃって。
と恥ずかしそうに言ったそうな。
それから二、三ほど雑談を交わし、別れて自宅へと帰った。
時間はすでに日付が変わろうとしている時間帯。
一人暮らしをしている彼にとってこの時間帯に料理は面倒くさい……そんな時にスタッフから、
食べ物をもらったことを思い出し、その袋を開けた瞬間!
「うっ!」
凄まじい鉄のにおいが袋の中から噴き出し、その強烈なにおいに思わず顔を背けてしまった。
慌ててそいつが袋の中から入っているものを出すと入っていたのはコロッケ……だが、
三つある中で一つだけ、異様な姿をしていた。
普段なら茶色い色をしている衣が異様なまでに赤色になっており、赤い液体が漏れ出ていたのだ。
慌ててそいつが包丁を取り出し、その真っ赤なコロッケを半分に切った瞬間!
――――――――――――ゴリッ
「きゃぁぁぁぁぁ!」
結末を言い終わった瞬間、森さんが甲高い声で叫びだし、小さく平気ですよアピールをしているのか笑みを浮かべながらも、鳥肌が立ったのか仕切りに腕を摩っていた。
古谷も腕を組みながらそんな話、怖くとも何ともないわっ! とも言いたげた感じだったが、
俺はちらっと見えている肌に鳥肌が立っていることを見逃さなかった。
「な、なかなか怖い話をするじゃない。で、でもお姉さんからしたらまだまだね!」
そう強気な発言をする森先輩だがさっきまで俺たちに近かったのに今では俺たちから離れて、
ベッドの一番端っこの壁に背をつけて俺たちに話しかけていた。
怖い話を聞いた後ってなんか背中が怖くなるよな……なんでだろうな。
「じゃあ、次は私から行くわ! ドロー! ふむ、クリボーか……そうね。
これは私が二年生の時に聞いた話なんだけどね」
ブルー寮の女子の間ではとある噂が広まっていました。
それはかつて使われていたという旧レッド寮で好きな人と一緒にその廃寮になった寮の屋上まで行って、
そこでずっと手をつないでいることができたらその人たちは結ばれるという噂。
どこからそんなうわさが流れ始めたのかはわからないけど次々とブルー寮の女子たちは好きな人を誘って真っ暗な中廃寮となったレッド寮へと足を踏み入れました。
「どう!? 怖いでしょ!? 好きな人と勝手に結ばれるというこの怖さ!」
一連の森先輩の話を聞いて分かったことがある……この人は最悪なまでにトークが下手な人だ。
トークが下手だから自然と身振り手振りがほかの人と比べて大きくなるし、笑かそうとテンションがやけに高くなってしまう……たまにいるよな、こんな人。
「だが、それは俺も聞いたことがある」
「そう言えば古谷ってブルー寮だったっけ。やっぱり、そんな話があるのか?」
「俺も何度か誘われたことがある。まあ、そんなものすべて断っていたがな」
まあ、なんか古谷って色恋沙汰とかの話とか嫌いそうな顔してるもんな。
「では俺のターンだな。ドロー」
古谷が引いたカードを見た瞬間、一瞬難しそうな顔をして俺たちにも見えるようにカードを置くと、
置かれたカードはなんとレベルの数が最大の融合モンスター・FGDだった。
攻守ともに5000、融合モンスターで最もレベルが高いモンスター。
というかこのカードを持っている人、このアカデミアに多くないか?
「ふむ。こいつが出たと言う事は……実際に体験してみろと言う事だな」
「というと?」
「行くのだ! 廃寮となったレッド寮に!」