ということで古谷の提案から実際に廃寮となった旧レッド寮に向かうこととなった。
それに森先輩の話に関連してなんだけどちょっと気になる話を小耳にはさんだ。
なんでも旧レッド寮……まあ、俺と古谷が在籍しているレッド寮も例に漏れないんだけど、そこはギリギリの成績で入学できた奴が押し込まれるクラス。
そこに集まるのは基本的に実力の水準が低い……ということで昔はよく、デュエルで使えないようなカードたちのゴミ捨て場として、もしくはレッド寮に対するお恵み感覚で投げ込んでいたらしい。
だから夜な夜な旧レッド寮に近づくと何もしていないのに明かりが勝手に消えたり、
デュエルディスクが勝手に起動したりするらしい。
時々、誰かのうめき声が聞こえたりなど。
「ぜ、絶対に離さないでね」
というわけで森さんを真ん中に挟み込む形で俺たちがそれぞれ森さんの片方の手を握り、廃寮となった旧レッド寮へと入っていった。
【気を付けて。なんだかすごい重みを感じるわ】
了解……とはいっても今のところは変なものとかも見当たらないし感覚的にはよくある心霊スポット感覚なんだけどな……本当に変なことでも起きるのか?
「ず、ずいぶんと趣があるわね」
「そうですね……でもまあ、廃寮になってからそんなに経ってませんけどね」
「そ、それを言ってはま、まずいぞ。高槻優斗」
いつもの俺様口調ではなくなっている古谷の方を見てみると一瞬だけあいつの目が左右にうろちょろしているのが見え、それに加えてかなり大股になっている。
そんなに怖いかな……まあ、あんな闇のデュエルとか経験した俺だし、精神的にはタフになってるかもな。
その時、森さんの歩みが止まり、彼女の方を見てみると恐ろしいものでも見ているかのような表情をして前方の壁を見ていたので俺もそちらの方を向くと壁一面に千眼の邪教神のカードが貼り付けられていた。
……な、なんかすごい景色だな。レベル1、攻守ともに0……使えないカードの中でも伝説級の知名度を持つこいつだけど愛されているのはコレクターたちくらいか。
「凄い枚数ですね」
「こ、こんなのどうってことないわよ。さ、次に」
森さんが曲がり角を曲がろうとした時、濡れている紙を踏んだような音がし、下を見てみるが、真っ暗で何が落ちているのかよくわからないので一時、森さんの手を放し、
デュエルディスクのライト機能を使って床を照らしてみると、そこには
「ひっ!」
「……い、いい趣味とは思えないな~」
床一面にワイトのカードが貼り付けられていた。
いや、確かに単体ではどうかと思うけどサポートカードとかいろいろ出てきてるから、
上手くデッキを構築出来たらそこらのデッキよりも強いぞ……あ、でもワイト夫人とかワイトメアが出てきたせいでワイトデッキにワイトがなくても十分機能するようになったんだっけ……待てよ。
確か今度の新作パックでワイトメアとかいうカードが出てくるんだっけ……ま、いっか。
「だ、だ、大丈夫よ。こ、こんなことどうってことないわよ!」
……そう言う森さんの手が俺の手を思いっきり握っていることは彼女の名誉のために言わないでおこう。
「じゃあ、先に行きましょうか」
「結局、屋上まで来ましたけどあんまりでなかっ……どうしたんですか?」
十分後、俺たち三人は無事に屋上まで着いたのだが俺以外の二人は顔を真っ青に染め上げて、額から嫌な汗をかいてがたがたと体を震わせていた。
あんまり遭遇しなかったんだけどな……遭遇したって言っても岩石の巨兵が俺たちの目の前にひらひらとどこからか落ちてきたり、壁と壁の間の隙間にさっきまで何もなかったのに次見たときはワイトがヒョコッと顔を出したり、デビルツムリというモンスターが本物のカタツムリの甲羅に刺さっていたりなど。
「ど、どうしたもこうしたもないわよ! あんなけ色んなことが起きているのに怖くなかったの!?」
「怖くない怖くない怖くない怖くない」
怒っている森さんの隣で三角すわりでただひたすらうつろな目をしたまま怖くないという言葉を吐き続けている古谷という凄まじい景色が目の前に広がっていた。
「まあ、怖くないっちゃあ嘘ですけど出てきてるのカードですしね」
「だけど出方が怖すぎるのよ!」
「怖くない怖くない怖くない」
「とりあえず帰りますか?」
そう言うと森先輩はまた、あの怖い道を通らなきゃいけないのとでも言いたげな表情をして俺を睨み付けてきたがここは旧レッド寮の屋上であり、そんな非常用のスロープなども設置されていないので、
必然的にもと来た道を帰らなければいけなくなる。
「し、仕方がないわね。古谷君! 帰るわよ!」
「怖くない怖くない怖く……はっ! ここはどこ?」
だめだ。恐怖のあまりここまでの記憶全部なくなってるぞ。
とりあえず記憶喪失にまで陥ってしまった古谷を立ち上がらせ、階段へと続く扉を開けようとした瞬間、
触れていないドアノブが一回転した。
「な、な、何よ何よ何よ」
突然のことに錯乱状態一歩手前に陥る森さんの後ろに隠し……というか森先輩が俺と古谷を楯にするように後ろに下がった。
ガチャッとドアノブが一回転し、数秒が立つとドアがキィッという音を立てながら開いた。
「「でたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
扉が開き、そこに立っていたものの姿を見た瞬間、後ろから叫び声が聞こえたかと思えば、ゴツン! と嫌な音が後ろで二つ聞こえ、振り返ってみると気を失ったのか屋上の床に背中から倒れこんでいる森先輩と古谷の姿があった。
扉の開いた先に立っていたもの……それはローブを被り、身長が180㎝ほどの骸骨の顔をした大男が腕にデュエルディスクをセットした状態で立っていた。
さ、さすがに闇のデュエルを経験した俺でも一瞬ビビったけどデュエルディスクを装着しているのを見て一瞬で恐怖が覚めてしまった。
よく見るとそのディスクは学園で配られているもの……つまり、目の前にいる男は仮装しているこの学園の生徒と言う事になる。
「な、なんだお前は」
『わが名はローレ……貴様らが捨てたカードの憎しみによって生まれた存在だ』
……入学する以前はそんなことあり得ないって一蹴できたけど今じゃ精霊が見えるくらいだからな。
それに骸骨の目の隙間から何も見えないから……もしかしたらリアルにそうかもしれない。
『カードたちの恨み。ここで晴らす』
そう言い張るや否や奴の腕に装着されたデュエルディスクが展開され、さらに屋上につながる階段から大量のモンスターの聖霊たちが蛇口から名が出ててくる水のようにあふれ出てきて、俺たちの周囲を囲み始めた。
『その青い目……貴様、いったい何者だ』
「青い目? ……これは」
奴にそう言われ、ディスクの反射板に顔を移してみると確かに俺の両目が青色に染まっていた。
【私の力よ。私があなたの中にいることで力が移ったのよ】
そっか……これ以上に心強いことはない。行くぜ、俺がカードの憎しみを消滅させてやる!
「行くぜ!」
『「デュエル!」』
『われのターン。ドロー……800のライフコストを支払い、手札の魔の試着部屋を発動。デッキの上から4枚めくることでその中にあるレベル3以下の通常モンスターを特殊召喚する。この効果により、我は2体の岩石の巨兵を特殊召喚する』
『ATK1300 DEF2000』
奴がデッキの上から4枚のカードをめくった瞬間、その中の2枚のカードが輝き、
ディスクにセットされると文字通りの岩石の体を持つ巨大なモンスターが出現し、
前方で腕を交差して跪いた。
いきなり2体の壁モンスターを出してきたか……。
『さらに我は手札のモンスターカードを裏側守備でセットし、
カードを1枚伏せてターンエンド』
裏側守備か……モンスター情報を公開させたくない奴なのかそれともただ単に反射ダメージを狙ってか、もしくはリバース効果を持つモンスターなのか……ただ、これはあくまで感じだけど、魔の試着部屋がある時点で奴のデッキコンセプトはローレベル……よし。
「俺のターン! ドロー!」
シルバービーストが来れば岩石の巨兵を一体倒せたのによ……ここは守備を固めるか。
「相手にのみモンスターが存在することで手札から連鎖・シルバーナイトを攻撃表示で特殊召喚!」
『ATK2000』
「そして連鎖・シルバーディフェンダーを守備表示で召喚! この瞬間、
2体のモンスター効果が同時発動! まずナイトの効果により、このカード以外の連鎖モンスターが召喚されたことにより、相手に400ポイントのダメージを与え、ディフェンダーの効果により、
俺はカードを1枚ドローする!」
デッキから引いたカードを確認すると速攻魔法のサイクロンだった。
あの伏せカード少し気になるな……くそ。この前の課題の時についでにローレベルのデッキのコンセプト調べておけば良かったな。でも、面倒な伏せカードだったら困るしな……発動しておくか。
「俺は手札から魔法カード・サイクロンを発動! 魔法・罠ゾーンのそのカードを破壊する!」
発動し、目の前に現れたサイクロンのカードから文字通りのサイクロンが放たれてまっすぐ相手の伏せているカードに直撃し、破壊した後に墓地へ送ったけど特に効果は発動しなかった。
よし……面倒なカードじゃなかったみたいだな。
「俺はカードを三枚伏せてターンエンド」
『LP4000vs2800』
『我のターン。ドロー……行くぞ、モンスターの魂よ。手札から儀式魔法・イリュージョンの儀式を発動』
「なにっ!? イリュージョンの儀式っていうことは」
『この召喚するモンスターの中で唯一の効果モンスターであり、切り札だ。
手札のデビルツムリを儀式の生贄とし、手札からサクリファイスを儀式召喚する。
怨念を力として現れろ……サクリファイス!』
目の前に黄色い壺が出現したかと思えばそこに周囲を囲んでいる精霊たちの魂が吸収されていき、さらに手札のモンスターが壺の中へ入るとその壺に次々とひびが入っていき、パリン! と壺が砕けるとそこから青黒い体をした一つ目のモンスター……サクリファイスが現れた。
ヤバいぞ……調子に乗ってシルバーナイト出しちまった!
『サクリファイスのモンスター効果。相手のモンスター1体をこのカードの装備カードとして装備し、装備したカードの攻撃力、守備力の数値がサクリファイスの攻撃力となる。ダークホール』
「俺はその効果にチェーン発動! チェーンブラスト2枚と積みあがる幸福!
積みあがる幸福の効果により、俺はカードを2枚ドローし、ブラストの効果で1000ダメージだ!』
直後、サクリファイスの目が真っ赤に輝いたかと思えばシルバーナイトがフラフラとサクリファイスに近づいていき、相手の近くにまで寄った瞬間、サクリファイスがその両手でシルバーナイトをつかむと、
サクリファイスの腹が左右に大きく割れ、そこに収められてしまった。
『ターンエンド』
『LP4000vs1800』
「俺のターン!」
っ! チェイン・カオス。悪いな。お前の出番はもう少し後だ。
今のところはディフェンダーで守れているけどサクリファイスがいる以上、迂闊に高攻撃力のモンスターを出すことができないし、サクリファイス、それにローレベルとなるとあのカードが眠っている可能性だってある。
早いところサクリファイスを片付けないと負ける。
ただ、あいつの場には2体の壁モンスターがいる……くそ。
「俺は連鎖・シルバーマジシャンを守備表示で召喚し、効果発動!
召喚時にチェーン数が3以上の場合、デッキからカードを二枚ドローできる」
『攻撃力300;守備力800』
これで俺の手札は5枚……シルバービーストとハイパーモードがきたな……よし。
次のターンからガンガン攻め込んでいってやる。
「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」
『我のターン。ドロー』
さあ、次はどうくるんだ?
『我は手札から融合賢者を発動。デッキから融合を手札へ加え、ターンエンド』
融合……やっぱり、あいつあのカードをデッキに……そうはさせるか。
「俺のターン! ドロー! 俺は連鎖・シルバービーストを攻撃表示で召喚!」
『ATK1900』
「その効果により俺は装備魔法・連鎖の剣を手札に加え、ターンエンド」
今、装備してもいいんだけどどの道、ハイパーモードになるんだから後で装備した方がいい。
『我のターン。ドロー……我はフィールドの2体の岩石の巨兵を生贄に捧げ、
ゴギガ・ガガギゴを攻撃表示で召喚する』
『ATK2950』
ゴギガ・ガガギゴ……あいつのデッキはローレベルじゃなくて通常モンスターか。
邪魔なモンスターをサクリファイスの効果で取り除いて攻撃力が高いモンスターの攻撃が通りやすいようにする戦法……サクリファイスの効果も相まってなかなか面倒くさいな。
『そして天使の施しを発動。3枚ドローし、2枚を墓地へ送る。さらに強欲な壺を発動。デッキからカードを2枚ドローする。そして愚かな埋葬を発動し、
デッキからモンスターカードを1枚、墓地へ送り、ターンエンド』
あれ? ゴギガ・ガガギゴで攻撃しない……ダメージを与えるチャンスだったのに。
「俺のターン! ドロー! 罠発動・ハイパーモード! フィールドのシルバービーストを墓地へ送り、デッキから連鎖・シルバービーストハイパーを特殊召喚!」
『ATK2800 DEF900』
シルバービーストよりも二杯ほど体が大きい銀色の毛並みの獣が出現し、両腕には鋭く尖った牙のようなものが生えており、さらにお尻の所からは二本の別れたしっぽが生えていた。
「さらに! 連鎖の剣を装備!」
『ATK3300』
目の前に剣が現れるとビーストハイパーはそれの持ち手を咥えた。
サクリファイスを攻撃したらダメージが俺にまで届くけどもう、
相手のライフは1800!
「バトル! ビーストハイパーでサクリファイスを攻撃!」
『サクリファイスのモンスター効果により、装備カード扱いのモンスターを墓地へ送り、戦闘での破壊を無効にし、我の受けるダメージを貴様にも与える』
「ぐぅ!」
ビーストハイパーが飛び上がり、急降下の勢いを利用して咥えている剣でサクリファイスを切り裂こうとするがその直前にサクリファイスの腹部から吸収されたシルバーナイトが出され、振り下ろされてきた剣をサクリファイスの代わりに受け、さらに砕けた破片が俺に向かって飛んできて俺にもダメージを与えた。
だが、これで相手のライフは残り500。チェーンブラストさえ来れば俺の勝ちだ。
「ターンエンド」
『LP2700vs500』
『我のターン。ドロー……もう1枚の愚かな埋葬を発動し、モンスターカードを墓地へ送る。そしてこの瞬間、墓地の罠カード・サクリファイスレベルチャージが発動する』
直後、奴のディスクの墓地ゾーンから火の玉のようなものが5つほど出てきた。
な、なんだ?
『サクリファイスレベルチャージはセットしたカードが破壊されて墓地に存在し、
かつLPが500以下であり、墓地のモンスターが5体になった瞬間に強制的に発動するカード。墓地に存在しているモンスターのレベルの数×自身のLPの数値分、自分フィールド上に存在しているもともとの攻撃力、守備力が0であり、レベルが1のモンスターの攻撃力をアップさせる。墓地に眠りしモンスターのレベルの数は31.よって攻撃力は15500アップする!』
「は、はぁ!? 攻撃力15500!?」
さっき愚かな埋葬を2枚発動したときにレベル12のモンスターを2体も墓地に送ってたのかよ!
ていうかレベル12のモンスターって効果モンスター……そんなことよりもサクリファイスの攻撃力がFGDの攻撃力の約3倍にまで膨れ上がりやがった。
『これが貴様らがレベル1だからと言ってここにカードを捨てていった者たちの力だ!
たとえレベルが低くても! 攻撃力がなくても一致団結すれば私たちは強くなれるんだ!』
……ん? 私たち?
今まで我って言ってたのに急に僕になったな。
「もしかしてお前……この学園の生徒か?」
そう言うと奴は一瞬、体をびくつかせたが観念したのかローブを脱ぎ捨てて骸骨の仮面を捨てると、
その仮面の下には女の子の顔があった。
しかもよくみると着ている服はブルー寮の生徒である証の青いコートをノースリーブの形に改造したものを羽織っているが高校生にしては体が小さいのでぶかぶかだ。
「そうよ……デュエルアカデミア・2年生の明石涼」
「そうだったのか……でも、なんでこんなことを」
「……許せなかった。レベルが1だからって……攻撃力が0だからって使えないカードの烙印を押して廃寮になったここにカードたちを捨てていくのが。レベルが低くたって使い道はある。
攻撃力が低かったらサポートカードで底上げすればいいのにそんな事すら考えない。
だから私が捨てられたカードの恨みを晴らすんだ! サクリファイスレベルチャージを使ったターン。
私はバトルフェイズを行うことはできない。ターンエンド」
「明石さん。あんたの気持ち、よくわかる……俺だって許せないさ。カードを捨てていくなんて。
それに今俺、すっげえドキドキしてんだ」
「ドキドキ? 今にも負けそうなのに?」
「あぁ! 効果モンスターはサクリファイスだけであとは通常モンスター。
そしてサポートカードを使って攻撃力が1万越えをたたき出すなんてすごいデッキじゃん! でも、俺も負けてられないんだ。この状況、覆してやるぜ!
俺のターン! ドロー!」