人生で初めて心霊現象というものを目の前で見たあの日から早一か月が経ち、
すでに月齢は五の数字に進もうとしており、俺たち新入生もこの学校に慣れ、
友人もちらほらと出来始めてきた。
「あぁー! 難しすぎ!」
そう叫びながら俺――――高槻優斗は机の上に広がっているプリントの上に顔を引っ付けた。
なんだよ偏微分って……なんだよ回転行列って!
「まさか僕もここまで難しいとは思わなかったよ。ちなみに森さんいわく、偏微分は軽く大学生の範囲らしいよ。まあ、筆記がダメでもデュエルが良ければいいんだけど……これはちょっとね」
早すぎる……なんでわずか一か月ばかりで高校の範囲が終わって大学生の範囲になってんだ!
「I am high school student!」
私は高校生です! と今の心境を思いっきり叫んでみるが教室には俺と真白の二人以外はおらず、
ただたんに俺のむなしい叫びだけが教室内に響き渡った。
デュエルアカデミアはデュエルモンスターズを学べる唯一の機関であると同時に高等学校卒業資格も取れる高校なんだがその高校の偏差値が高すぎる。
よく、俺こんなところに筆記の点数では入れたな。
「とりあえず今はここまでにしてお昼食べに行こうか」
「そうだな……はぁ。先が思いやられる」
勉強道具を片付け、教室から出ようと自動ドアを通ろうとしたその時、俺のギリギリのところをブルー寮の明石であるブルーコートを着ている奴が通り過ぎて行った。
「危なっ! 廊下走るな!」
と、叫んでみたが走り去っていくやつは見向きもせずに一目散にアリーナの方へと向かっていく。
「なんか凄く急いでいたみたいだけど」
「大変大変大変!」
今度は大慌てな声が聞こえ、そちらの方を見てみると新聞部の山本さんが首にカメラをぶら下げ、
手にはボイスレコーダーを持った状態で俺たちに近づいてきた。
「そんなに急いでどうしたんだ?」
「い、今アリーナで凄いことが行われてるの! とにかく一緒にいこ!」
「お、おい!」
そう言う山本さんに腕を引っ張られる俺についてくるように真白も走り、
アリーナへ近づいていくと徐々にブルー寮の奴らの姿がチラホラと見えてきて、
アリーナの観客席側の入り口に入るとほとんどの座席がブルー寮の生徒で超満員になっていた。
な、なんだこれ。この前のクラス対抗トーナメントの時でさえ、ここまで超満員になってなかったぞ。
よく見てみるとアリーナの中央にあるデュエルフィールドには大勢の教員が横一列に並んでおり、
その中央から一人分の距離を開けたところに校長の鍋腹先生がいた。
『あーあ。みなさんこんにちわ。校長の鍋腹です。今回、我々がここにいるのは他でもありません。
ここにいるデュエルアカデミア実技教員の中でNo.1を決めたいと思います』
……つまり、先生の中で一番強いのは誰かっていうのを決めるのか。
ん~まだ二人と先生としかやったことないけどミシェル先生と……まあ、俺は嫌いだけど、
ワイト先生とかが最強になりそうだよな。片一方はプロからの誘いを断って、
教員になったドラゴンティーチャー。もう片方はエリート至上主義みたいな考え方だけど、
使うデッキはガチガチのロック+バウンス除外。
『これだけでは皆さんの気持ちも乗らないでしょう。よって1週間前の会議で決定したことですが、
皆様にご褒美を上げましょう。今日から1週間、それぞれの教員のデッキレシピ、
および簡単な履歴書を皆様に配ります。その中から最強を当てた人には』
そこまで言って先生が手をパンパン! と叩くとシモッチバーンデッキを使う美人な店員さんがカートを押しながら校長の隣までやってきて被せられていたシートを剥がすとそこには大量のパックが収められていた。
『このパックを皆様に分配して差し上げましょう。もちろん、限定パックも絶版パックもあります。
ルールは簡単です。君たちが一体誰が最強になるのかを投票するのです』
直後、アリーナのあちこちから歓声が響き渡った。
絶版パック……も、もしかして連鎖パックも
『ちなみに連鎖パックは大人の都合から入手できませんでした』
「何故そんなピンポイントなんだ!」
「よしよし。泣いちゃだめよ」
ガックリと跪いた俺を山本さんが撫でてくれる。
『ただし……このゲームに参加するには一つ条件があります』
ハァ……俺、参加するの辞めようかな。
『その条件……それは一度でも良いのでブルー寮の上級生に勝つこと! ただそれだけ!』
上級生に勝つ……つまり、森さんとか今泉さんとかとデュエル出来るってことか!?
「高槻優斗。出場します」
「うわっ。復活早」
が、周囲の反応はあまりよくなく中にはブーイングに近い内容の言葉を吐いている奴も見られた。
『では頑張ってくれたまえ』
そう言い残し、鍋腹先生がフィールドからいなくなるとともにほかの先生方もいなくなっていき、
それに連れられて集まっていた奴らもぞろぞろと帰っていく。
でも、上級生と、しかもブルー寮の人たちのデュエルさせてくれる場を作ってくれるなんて鍋腹先生もなかなかいいことしてくれるな! さすがはアカデミアの校長!
「早速デッキ構築するか!」
「あ、ちょっと高槻君!」
居てもたっても居られずドアを通り抜けて外へと繋がる扉へ向かおうとしたその時。
「ぐうぇ!」
「きゃっ!」
曲がり角から同じように走ってきた誰かとぶつかってしまい、盛大に背中から転んでしまった。
「ちょっと大丈夫?」
「廊下走るなって自分で言ってたのに」
「イテテテ。すみません、大丈夫ですか?」
「は、はいぃぃ! だ、だ、だ、大丈夫でしゅ! そ、それでは!」
えらく早口で、それに慌てたように散らばった書類をササッと集めて俺とぶつかった女の人はそのまま廊下を爆走して去っていってしまった。
制服着ていなかったから先生なんだろうけど……あそこまで頼んない先生も初めてみたな。
「あ。あの人魔女さんだ」
「魔女さん?」
「うん。教員の中で魔法使い族を使わせたら最強の人だよ。確か2年生のブルークラスの先生で実技担当なんだけど確かワイト先生の次に偉かったような」
ふ~ん……でも、あの慌てようを見る限りではあんまりそうは見えないんだけどな。
まあ、人を見た目で判断するなとはよく言うし……。
「デッキ構築をするのもいいけど勉強も大事だよ」
「……教えてください」
真白に勉強をレッド寮の部屋で教わりながらどうにかして今まで習った範囲の復習は終わった。
そこに古谷も入れようとしたんだが用事があるとか何とか言って寮を出て行って以来、
5時間ほど帰ってきていない。
そんな古谷を心配しながらも俺は明日からの資格獲得期間のため、誰もいない購買部の机の上でデッキの最終調整を行っていた。
「あ、高槻さん」
「あ、どうも」
後ろからそんな声が聞こえ、振り返ってみると俺の後ろに購買部の制服を着たあのシモッチバーンデッキの美人なお姉さんが立っていた。
「見ましたよ。この前のトーナメント。凄かったです」
「ありがとうございます」
「ところで魔法少女のうわさ知ってます?」
……魔法少女?
「なんでも夜な夜な校則違反をしている生徒を見つけてはデュエルでコテンパンにやっつけるって言う噂なんですけどね。その人がしている格好がどう見ても魔法少女らしいんですよ」
「へぇ……魔法少女」
まだ店の片づけが残っているのか美人のお姉さんはそのまま店の奥へと姿を消した。
校則違反を正す魔法少女か……まさしく正義の味方だな。
そんなことを思いながらデッキを専用のホルダーにしまい、それをポケットに直して机の上に広がっている大量のカードを缶かんの中に戻し、購買部を出て寮へと向かって歩き始めた。
「そう言えば古谷の奴、晩飯も食わずにどこに行ったんだ……ん?」
その時、視界の端で何かが映り、そっちの方を向くと生い茂っている森の中へ黄色いコートを着た奴が入っていくのが一瞬だけ見え、俺もそのあとを追って森の中へ入っていくとすぐにブルーのコートを着た男子生徒と女子生徒とイエローの奴が一人、木の近くで話をしているのが見えた。
何をしてるんだ、あいつらは……。
その時、イエローのコートを着た男子生徒がブルーの男子にポケットから出した財布から一万円札を取り出し、それを渡すと受け取った奴が一枚のカードをイエローの男子に渡した。
おいおい。学生間でのトレードは許されているけど金が絡む売買は禁止のはずだろ・
その光景を黙ってみていられるはずもなくその場へ踏み込もうとしたその瞬間!
「とうっ!」
どこからともなくそんな声が響くと同時に木から一つの影がその現場に落ちてきて、それに驚いたのかイエローの奴は腰が砕けてその場にへたり込んでしまい、後の二人は音もなく、去ってしまった。
「学生間でのトレードはありですが金が絡む売買は禁則事項ですよ」
「へ、へへ……あんたにはわからねえさ。デュエルアカデミアで生き残るにはやっちゃいけねえことでもやるしかねえんだよ! ちょうど良い! このカードをてめえで試してやる!」
「この正義の魔法使いが君の悪の心を打ち砕く!」
そう言うと両者ともデュエルディスクの腕に付け、展開した。
「「デュエル!」」
「俺のターン! ドロー! 俺はモンスターをセットし、カードを1枚伏せてターンエンド!」
相手がモンスターをセットしたその時、ほんの一瞬だけカードの淵から黒い何かが出ているように見え、
もう一度目を凝らしてカードを見てみるがカードからは何も出ていなかった。
気のせいか……まあ、こんな暗いしな。さて、魔法少女のターンだな。
「私のターン! ドロー! ふふふ……見せてあげましょう! 正義の魔法使いの力を!
私は手札を一枚捨てることでTHEトリッキーを特殊召喚!」
『ATK2000』
「速攻魔法・ディメンションマジックを発動! フィールドのTHEトリッキーを墓地へ送り、私は手札の時花の魔女-フルール・ド・ソルシエールを特殊召喚!」
『ATK2900 DEF0』
うぉ。後攻2ターン目にして大型モンスターを特殊召喚、しかもまだ⒈ターンに1度の召喚権を使っていないからまだモンスターを出せるから……あのモンスターが手札にあったら後攻1キルができるかもしれない。
「そしてディメンションマジックの効果により、セットモンスターを破壊!」
相手がセットしたカードの真上の空間が歪んだかと思えばそこに穴が開き、ブラックホールのようにすべてのものを吸収し始め、モンスターを吸収して消滅させた。
「そして魔導戦士 ブレイカーを通常召喚!」
『ATK1600→1900』
「その効果により、召喚に成功したことでブレイカーに魔力カウンターが1つ乗り、
カウンターを取り除き、効果を発動! 相手の魔法・罠カード1枚を破壊します!」
「そ、そんな!」
剣を持った剣士が現れたや否やその剣士が剣を大きく縦に振るうと斬撃の衝撃波が放たれ、伏せられていたカードを真っ二つに切り裂き、墓地へと送った。
すげぇ……後攻1キルをあっという間に成立させた。
「バトル! 2体の魔法使い族モンスターでダイレクトアタック!」
「うあぁぁぁぁぁ!」
『LP0vs4000』
がら空きの相手へ2体の魔法使いの攻撃が直撃し、相手のライフを一瞬にして4500も削り、わずか1往復で一つのデュエルを完結させた。
すげぇ。手札が良かったっていうこともあるんだろうけど……これが魔法使い族デッキ。
「さあ、貴方がお金で買ったカードを元の持ち主へ返してきなさい」
「は、はいぃぃぃ!」
そんな情けない声を上げながらイエロー寮の制服を着た男子生徒はその場から去っていった。
にしてもまさか、今日聞いた噂をその日にこの目で見ることができるなんてな……今だったら、デュエル申し込んだら受けてくれるかな……思い立ったが吉日!
「あのすみません!」
「ひゃっぁ!? な、なんですかいきなり!」
「さっきのデュエル見てました! できれば俺とデュエルしてください!
俺、強い人とデュエルするのが大好きなんです!」
「え、あ、ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
俺がデュエルの申し込みをした瞬間、さっきまでのオーラはどこへ行ったのか急に弱弱しいものになると俺が止める間もなく、魔法少女は俺のもとから一目散に爆走して去っていった。
……え? 俺、これって断られた形式?