「俺とデュエルしませんか!?」
「他当たってくれ」
翌日、校長が発表した教師最強決定戦の投票資格を得るために俺は朝から上級生のイエローやブルーの人たちに声をかけ続けているんだがこの前のクラス別トーナメントの結果の影響なのか声をかけた人すべてに次々に断られていき、今ので30人目になってしまった。
「高槻君。諦めたら? みんな成績落としたくないから受けてくれないよ~」
「そうは言うけどさ、山本さん……森さんに申し込もうとしたらほかの奴らに妨害され、
ノゾミさんに頼んだら速攻で断られ……はぁ。ただ単にデュエルしたいだけなのに」
「仕方がないよ。同年代の子に負けるならまだしも、年下の。しかも言い方は悪いけど、
最下層のクラスの子に負けたら将来、お先真っ暗になっちゃうもん」
山本さんの言っていることは事実であり、実際に俺がチェイン・カオスの闇に囚われている時にデュエルを申し込んで俺が勝った時の相手は大きく評価が落されてしまったという。
とはいうもののな~。追加情報で最上級生は無条件で投票資格が与えられることになったし、
三年生なら受けてくれてもいいもんなのにな。
「ところで真白は?」
「真白君は五分前に2年生のブルーの生徒に勝ったよ。圧勝だった」
「そっか……仕方がない。あの人に頼む」
「あの人って?」
「今泉咲さん」
「…………私の勘違いじゃなかったらその方はアカデミア女子の中で最強の一人なんですけど」
山本さんのその言葉に俺は迷わずに首を縦に振った。
「これ以上、断られるわけにはいかない」
「で、でも期限まであと6日あるんだよ?」
「ちゃちゃっと資格をもらって先生のデッキみたいじゃん! てなわけで探索じゃー!」
「……でも、これはスクープのチャンスかも! 探索ジャー!」
俺の後ろに山本さんが付き、2人で一緒に広いデュエルアカデミアの隅々を咲さんを見つけるために疾走していくが食堂にも姿は見えず、アリーナにも行ったがいない。ダメもとで購買へ行ってみるがそこにも姿が見えず、最終的に残ったのはブルークラスの教室がある階だけとなってしまった。
ブルークラスはアカデミアで最も実力がある連中が集まるクラスであると同時に高等学校の学習内容でもアカデミアの中での上位陣が集まっているクラス。
さらにそこからプロリーグへ行く組と教員になる組、そしてその他組に分かれるという。
「さて、あそこが入口なわけですが」
「はい」
「……なんで黒服スーツのいかついおっさんがいるの?」
「さあ?」
階段をひたすら登っていき、ブルークラスの教室がある階へ到着したのは良いもののそこは自動扉が設置されており、さらにはそこに黒服スーツのいかついおっさんが二人立っていた。
くそぉ……あの自動扉さえ通れたらブルークラスがあるのに!
「山本さん。GO」
「無茶だよ~。アカデミアの出席はすべて機械で行われていて何かしらの自動ドアを通ると自動的に出席が確認されるし、ブルークラスは本当にブルーしか入れないらしいの」
「マジか……ここまでか」
「残念だけど今回は諦めるしかないよ。あの自動ドアは通れないよ……あ、でも」
「でも?」
「確か今泉先輩って茶道部に入ってるって噂があるよ」
「……それをもっと早く言おうよ」
そんなわけで山本さんの案内で茶道部の部室の扉の前にいた。
山本さんの情報で予習をしてみたところどうやら茶道部は部員数はアカデミアで最も多いんだが、
実際のことを言えばほとんどが咲さんの正装姿を見たいだけの奴ららしい。
ちなみに山本さんは部活の集合をかけられたので今はいない。
「……にしても金かけてるな~」
まず部室への扉からして金がかけられているのがよくわかる。
襖だし、部室が設置されている場所も茶道という静けさが必要なことを考慮してか周りには頻繁に使われるような教室は設置されておらず、あったとしても便所や保健室くらいだ。
「し、失礼しま~す」
静かに襖を開けると目の前に畳の床が広がり、部屋の中央に正装姿の今泉さんの姿があった。
「……何かしら」
「い、今いいですか?」
そう尋ねると今泉さんは何も言わずにお茶を入れ始めた。
……こうも静かだと喋りかけるのも一苦労だな。
「そこに座りなさい」
「は、はい」
普段のすべてに飽き飽きしているような声ではなく、力がこもっているというかその声を聴くと、
何故か文句も言わずに体が勝手に従ってしまう……そんな声だ。
「ねえ、それ外してくれない?」
「え? ……あ、はい」
俯いていた俺がその声を聴いて顔を上げるとジーッと俺の腕の方を見ているのが見え、その視線の先を見てみるとそこには俺の腕に装着されているデュエルディスクがあった。
特に断る理由もないのでデッキをポケットに直してから腕からディスクを外した。
「何の用かしら? 貴方も野次馬希望者……だとは思わないけど」
「えっと……先輩。俺とデュエルしてください」
「……とりあえず、理由を聞こうかしら」
「一応、名目としては一週間後に行われる教師選挙の参加資格が欲しいんです」
「本心は?」
「強い人とデュエルがしたいからです!」
俺はそう言うが先輩は面白くないのか表情一つ変えるどころか俺の方を見ることもなく、
自分で入れたお茶を飲んでいた。
「そう……でも、悪いけど私はする気がないの」
一言そう言うと今泉さんは飲み終わった茶碗を床に置き、そこにもう一度、お茶を入れた。
……この前のクラス対抗別トーナメントでもそうだけどなんでここまで今泉さんはデュエルを面白くなさそうにするんだ……ほかのブルーの奴らは確かに性格が最悪な奴だっているけど全員、少なくとも顔に面白なさを表してやっている奴はいないのに。
「そんなに資格が欲しいなら代わりに私のをあげるわ。興味ないし」
「……デュエルモンスターズが嫌いなんですか?」
「……別に……ま、貴方には分からないわ。好きでもないのに入った人の気持ちがね。
教員には私から言っておくわ。これで貴方の用はなくなったでしょ。帰ってちょうだい」
今泉さんとのあの会話はすでに5時間以上経過して空は真っ暗になっており、
俺は古谷とともにレッド寮に隣接する形で作られている食事室で晩飯を食べていた。
「……どうした。ボーっとして」
「いやさ……なあ、アカデミアの中でデュエルモンスターズが嫌いな奴っているのか?」
古谷に声をかけられた俺は今日の今泉さんとの会話の中で言われたことを古谷に尋ねてみると、
古谷は特に表情を変えないまま話し始めた。
「アカデミアはデュエルモンスターズ専攻ということで下に見ている連中もいるが実際のところはこの国の高等学校の中ではトップクラスの偏差値だ。無論、勉強ができるだけではここには入学もできず、
デュエルモンスターズができると言って入学できるわけではない……ただ、中には入学するためだけに最低限の事柄だけを押さえておき、勉学のためだけに来ているものも少なからずいる。
まあ、中にはどれにも属さない奴もいるみたいだがな。お前は典型的にデュエルモンスターズバカだ」
「馬鹿は余計だ」
多分、今泉さんは古谷が言っていたどれにも属さないタイプの人間なんだと思う。
デュエル中のあの人のことを見ていても面白くなさそうにカードをプレイングするし、
かといって勉強のためだけに来ているのかと言われればなんか違う気がする。
やっぱり、俺って周りの奴らとの温度が違うんだろうな。
「ところで貴様はどうするんだ」
「何が?」
「教員選抜選挙だ。貴様も資格は貰ったんだろ」
そう……今泉さんの言う通り茶道室から出て寮でダラダラしていた俺のもとにミッシェル先生が来て、
校長が言っていた選挙にて配られる教員たちの軽い履歴が書かれた用紙とデッキレシピがくわしく書かれた用紙が前者は1枚、後者は20枚ほどの用紙が入ったファイルを渡してくれた。
「お前こそどうするんだよ」
「俺は適当に投票する。先に風呂を使わせてもらうぞ」
そう言い、古谷は皿を軽く洗って台に置き、風呂場へと向かった。
翌日の朝、俺はいつも通りに教室に来て椅子に座り、待機状態のディスクからデッキを取り外し、
デッキを構成しているカードの一枚一枚を眺めていた。
「温度が高い俺が悪いのかな~」
『そんなことか』
「……いきなり出てこられたらビビるわ」
後ろから声が聞こえ、振り返るとそこには体をぎゅうぎゅうに漆黒の鎖で締め付けているチェイン・カオスの全身があり、俺の右肩のあたりに顔を近づけていた。
デッキから勝手にベビーマジシャンが出てくるのはよくあることだけど他の奴らが出てくるのは珍しいな。
『気にすることではない。貴様は貴様の温度で行けばいい。その魅力に気付いたものが自ずと貴様の後ろへついてくるだけの話だ。いつとて強者は温度が違う。覚えておくがいい』
そう言うとチェイン・カオスはスーッと姿を消していき、デッキの中へと戻っていった。
……俺はいつもの俺でアカデミアを生き抜いて行けってことだよな。
「さて、誰にしようかな」
デッキをディスクに戻し、今度はポケットからこの前に渡された教職員のデッキレシピの紙を取り出し、
上から順に流しながらデッキの構成を見ていった。
岩石族、ヴァンパイアデッキ、闇属性……やっぱデュエルモンスターズの専門学校に来ると先生たちが使うデッキもかなり上質なものだよな。実際にデュエルを見ていない人がほとんどだけどやっぱり、
俺の中で一番優勝候補なのはドラゴン族デッキのミッシェル先生だよな。
……まあ、あのガチガチのエリート思考のワイト先生のロックデッキも強いとは思うけどさ。
ふと、用紙の最後に目を通したときに魔法使い族デッキのレシピが書かれているのが見え、
そのデッキを使っている人の顔写真を見てみるとこの前、ぶつかった先生の写真があった。
「この人魔法使い族デッキ使うんだっけ……ていうかなんで、写真で顔伏せてんの」
「お教え進ぜよう!」
「うぉ! いつから」
周りの奴らの声に埋もれるくらいに本当に一言小さく呟いただけなのに隣に山本さんが現れ、
コートのポケットからメモ帳を取り出した。
ほんと、この人神出鬼没だな。
「本名・魔坂瑞樹。幼い頃からデュエルモンスターズの実力は高く、アカデミア入学後、すぐにプロで活躍するのは必至だと思われていたんだけど何故だかプロに入って数か月で引退しちゃったの。
一説によると極度の対人恐怖症と上がり症だからっていう噂だよ」
「どこからそんな情報手に入れんだよ」
「聞きたい?」
そう言う山本さんの表情がどこか悪魔的なものに見えたので何も言わずに首を縦に振ると、
いつも通りの明るい表情に戻り、友達の輪に戻っていった。
でも、あがり症なのは事実かもな……今度会ってみるか。
「……ここだな」
今日一日のすべての授業が終了し、ミッシェル先生に魔坂先生の部屋の番号と教員棟に入る許可証をもらい、
俺は先生の部屋のドアの前に立っていた。
レッド・イエロー・ブルー寮という風に生徒たちが分けられているのとは違い、どのクラスの教員だろうが校長だろうが何だろうがすべての教員は一つの建物に部屋を設けられていた。
普段は教員の許可なく教員棟に入ることは許されておらず、無許可で侵入した場合は即刻退学らしい。
そこまで厳しくするわけとしては教師と生徒のあちゃ~なことを防ぐらしい。
このデュエルアカデミアがこの国にできてからまだ10年ちょっとしか経っていないせいか、
教員の年齢は若い目であり、中でも女性教師の平均年齢は25歳だとか。
「失礼します。魔坂先生」
ドアを軽くノックしながら数秒待ってみるがドアが開く様子はおろか中から音さえ聞こえない。
………………あれ? いるんじゃないの?
ミシェル先生に許可証をもらうときに一応確認してもらったけどこの時間帯は必ずいるはずって聞いていたんだけどな…………ドアノブを回してみたら開いてるっていうパターンだったりして。
「開いた」
俺が想像したパターンだったことに少し驚きながらドアを開けて中に入ってみるとシャワー音がしているわけでもなくテレビが付きっぱなしでもない生活感が全くない部屋だった。
鍵閉めずに出かけるのもいささか危機管理にかけると思うんだけど……まあ、ここは女性階層だから、
男どもが上がってくることもないから安心してあけっぱってわけか。
「いないんじゃ仕方がないか。今日はもう帰」
「ぁ」
誰もいない女性教員の部屋に男が一人いたら変な勘違いをされそうなので部屋から出ようとドアの方へ振り返ったと同時にドアが開いて俺の視界にピンク色のフリフリの服装にテレビで放送されている女の子向けの魔法少女の仮面をかぶった女の人らしき人物が立っていた。
「「…………」」
……さて、この状況をどうやって打破しようかね。
「え、えっと許可証はあります。俺は決して変態な目的があるわけじゃないんで」
手に持っている許可証を魔法少女の仮面をかぶっている人にヒラヒラと見せびらかしながら、
どうにかしてこの状況を収めようとするがいつまでたっても魔法少女はピクリとも動かない。
―――――プチン
「「は?」」
千切れるときに聞こえるそんな音が聞こえたかと思えば目の前の魔法処女の仮面が少しずつ落ちていく様子がなんかものすごくスローな現象として俺の視界で処理されているかのように仮面が落ちる速度が遅く見え、
それに遅れるように女性の腕が仮面を抑えようとするが仮面は腕を避けるかのようにするりとひっくり返って空中で向きを変えて、地面に落ちた。
顔を隠していた仮面が落ち、仮面の下にあった顔は
「ま、魔坂先生?」
そう。この前、廊下の曲がり角で思いっきりぶつかった女性教員の顔がそこにはあった。