「ふっ! んあぁぁぁぁ~」
鳴り響いている時計のアラームを止め、起き上がって体を伸ばすと寮長もちょうど起きたのか、
早速、床に餌の皿を置いて肉球あたりでコンコンと軽くたたいていた。
「へいへ~い。御飯ですよ~ふあぁぁぁぁ」
寮長の餌が入った袋の口を開けて餌皿に餌を入れながら欠伸をしつつ、背中を空いている片手で、
ポリポリと掻くとよっぽど腹が空いていたのか寮長は結構な勢いでがっつき始めた。
まあ、朝はよく腹がすくっていうし……人間も動物もそこら辺は同じなのな。
俺の下のベッドの方を見てみると半分起きているような感じの顔をしている古谷が上体を起こし、
ボサボサの髪の毛を触り、ポケーッとどこかを見始めた。
あの後聞いた話によると結局、真坂先生は選挙に出ること自体を辞退したらしく、俺たち生徒の間でもっぱら噂になっているのはあの最強ドラゴンティーチャーとエリート至上主義のガチガチロックデッキの先生が決勝でぶつかり合うだろうと言われている。
まあ、慣れたと言っても一クラス分の人数で慣れただけであって全校生徒がいるのとでは違うしな。
「お~い、古谷さん。御飯ですで」
「……うぬ」
お前はどこのお偉いさんだ。
心の中でそう突っ込みながらも寮の隣に設置されている食堂へ行こうと寮の入り口を開けた瞬間、
俺の視界に青色のスカートの端が見え、そのまま視線を上げていくとドアの前に少し驚いた様子の今泉咲さんが立っていた。
「あ、おはようございます」
「おはよう……ねえ、今暇かしら」
「今から朝飯ですが」
「そう……だったら」
「おい、高槻。さっさと」
「私の彼氏役をしてくれないかしら」
直後、俺の後ろでガシャーン! という音が聞こえ、慌てて振り返るとあり得ないといった表情をしている古谷とその足元にデュエルディスクが落ちていた。
とりあえず、放心状態の古谷をその場に放置して隣の食堂へ咲さんを案内し、朝飯を食べながら咲さんの話を聞いてみると要するに咲さんのお家はどこかの会社の社長だかで咲さんはそこの愛娘らしく、
もう17だからという理由で縁談が浮かび上がったらしい。
……なんか一昔前のラブコメディにありがちなパターンだよな。そのまま彼氏役を引き受け、
んでヒロインはそのかっこいい姿を見てFall in loveというパターン。
「でも、なんで俺なんですか? アイドさんなんかがちょうどいいんじゃ」
「私の父親は婿は日本人って決めているらしいのよ。国際社会の今の世界でね」
呆れ気味に咲さんはそう言った。
「でも、縁談だから後で断れるんじゃないんですか? 婚約じゃないんですし」
パンにバターを塗り、人齧りしてそう尋ねるが咲さんは何も言わずに首を左右に振った。
「縁談っていうのは結婚の約束みたいなものよ。数年先のね」
パンを飲み込み、コップに牛乳を注ぎ込んでゴクゴクと飲みながら咲さんの話を整理するが今の話を聞いても何故、俺を彼氏役に引き当てたのかが分からない。
いわば俺はデュエルアカデミアで一番地位が低いレッド寮の生徒だし、アカデミア生徒なら俺がデュエルで勝っているっていうのを知ってるけど外の人は肩書きだけで判断せざるを得ないんだしブルー寮で良いお家柄のそこらへんにいる男を引っ張ればいいのに。
そんなことを考えているとのぞき窓から寮長が入ってきてのそのそと咲さんの傍に歩いていき、
ピョンと飛ぶと彼女の膝の上に座り込んだ。
「うわさに聞く猫寮長ね……貴方を選んだのは父親に勘当されるためよ。地位が低い男を好きになればあの人も私に失望して家から追い出してくれる……だからあなたを選んだの」
……なんかえらい言われようだけど言っていることは理解はできる。
「まあ、それは建前で本音はあなたに興味が湧いたの」
「俺にですか?」
そう言うと咲さんは寮長の頭を優しくなでながら首を縦に振った。
「最下位のレッド寮でありながら入学主席者を倒し、三年最強と言われている森さんに面白い子と言われ、
挙句の果てには教師ともほぼ互角に渡り合う貴方を見ていると不思議に思えるのよ。
何故、貴方は強いのか。本当に落ちこぼれという器に治まっているべきなのか」
貶されたかと思えば今度が褒められてしまった。
まあ、アカデミアの物差しで測ったならば俺は落ちこぼれ何だろうけど……にしてもこの人、
声に抑揚がないというか静かにしゃべるよな。
「とりあえず今度の休日は開けておいてちょうだい。迎えに来るから」
そう言うと咲さんは膝に乗っていた寮長を抱きかかえてテーブルの上に置くと寮長の寂しそうな声に振り返ることもなくそのまま食堂から出ていった。
とりあえず俺も朝飯を食い終わったから皿を軽く洗ってから食堂を出ると空が雲で覆われて、
空気がどんよりとしていた。
「選挙当日だっていうのにずいぶん、天気が悪いな」
そう呟いて校舎へと向かって歩き始めた。
校舎へと近づくにつれてチラホラと他の寮の奴らの姿が見えてきて入り口の近くにまで来た時にはすでに、
一つの入り口が大勢の生徒でごった返していた。
なんでアカデミアは金いっぱいとってんのに入り口別に作らないんだ?
10分ほどかけてどうにかして校舎内に入った俺はそのまままっすぐ今日の集合場所となっている実技授業などで使われているアリーナへと向かう。
…………やっぱり、ミシェル先生に投票するかな。
ポケットから投票用紙を取り出し、ミシェル先生の名前にまるがついているのを再確認し、
アリーナ入口に設置されている投票箱に入れてアリーナに入ると既に3年生が多く来ていた。
「やあ、高槻君じゃないか」
「……ア、アイドさん」
後ろから声をかけられ、振り返るとそこにはブルー寮の証である青いコートを着た取巻たちを数多く従わせている3年生のアイドさんが立っていた。
「聞いたよ。咲さんの投票権を譲ってもらったんだってね」
「え、ええまあ」
「咲さんはデュエルモンスターズにはあまり興味がなさそうだったからね。
良かったら僕と一緒に観戦しないかい? 一人じゃ寂しくてね」
「え、ええ是非」
とりまき抱えてる時点でどこが寂しいんだと言う事を必死に我慢しながら笑みを浮かべてアイドさんが歩くのを後ろからついていくと通路に集まっていた他の生徒たちがササッと道を開けたのが見えた。
凄いな……まあ、アイドさんからしたら当たり前なんだろうけどさ。
「ここが一番、見やすいね」
そう言い、空いている席に座ったアイドさんの隣を一つ開けて座席に座ると確かによくフィールドが見える。
今泉さんなら喜んで隣に座るけど……アイドさんもとい男の隣にわな~。
そんなことを思っているとアリーナ全体にマイクを叩いているような音が響き、フィールドの方を見てみると中央に鍋腹先生が立っていてマイクテストをしていた。
『え~聞こえますね。改めまして……投票権を勝ち取ったみなさん……まあ、ほとんどが3年生ですが。それはともかく、今日、デュエルアカデミア最強の教師を決める大会を開催するにあたり、我々は非常に苦労しました。カリキュラムを前倒ししたりなど……さて。今回、行う方式はトーナメント方式といたします。実技を行える教員数は全部で20人。その内、大会期間として確保できたのは残念ながらこの日だけ。
ですがすぐに決着も付く部分もある事でしょう……では、まず初戦はこちら!』
校長先生がそう叫ぶと同時に壁に貼り付けられている大型モニターにトーナメント表が表示され、ずらっと横一列に対戦相手を表示していた。
こうしてみると層々たるメンバー……なのか?
真坂先生は辞退したし、俺がデュエルしたことがある先生は……あれっ!? 用務員のおっちゃんいるし!
表の端っこの方にピースをしている用務員のおっちゃんの姿が見え、思わず身を乗り出した。
これはすごいことになりそうだぞ……最強のドラゴンティーチャーと最強のサイバーおじいちゃん……両方とデュエルしたことあるけどどっちも勝つ可能性がある!
『さあ! 始めましょうか! 最強を決めるデュエルを!』
校長がそう言うと同時にアリーナ全体に歓声が響き渡った。