「ねえ、ご主人様?」
……死んでもいいですか?
咲さんがそう言って俺の腕に抱き付いてきた瞬間、どこかからか予想もしたくないペンが折れる音が聞こえ、さらに俺の目の前からは突き刺さるんじゃないかと思うくらいに鋭い視線が向けられてくる。
お、おかしいな。頼まれたのって彼氏役。ご主人様役なんて聞いていないな~。
「私はこの人に心を奪われてしまったわ。アカデミア史上初のレッド寮入寮者でありながら主席入学者をデュエルで倒し、上級生のブルー寮の生徒を倒し、アカデミア教員とも互角に戦う彼に。そして毎日、熱い夜を」
そう言いながら咲さんは頬を赤らめて腕に顔をうずめた。
や、止めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ! それ以上、油を注いだらマッチを入れられるどころかクラスター爆弾ぶち込まれて大爆発するからぁぁぁぁぁぁ!
先程以上の勢いで額から嫌な汗が流れ始めた。
「咲……お前、私が決めた相手と結婚する手はずだ! なのにそんな地位の低い男を選びおって!」
お、お怒りだ……非常にお怒りだ。
「恋とは誰にも予測不可能なもの。ダメな男に女が惚れるのはあり得ることです」
そう言い、腕に抱き付いている状態で俺の手に指を絡ませ、さらには頭を俺の肩にコテンと乗せ、腕を引っ張って無理やり俺をソファに座らせた。
で、でもこのままお父さんが勘当してくれたら俺の役目は終わりのはず! そうすればこの死亡フラグがビンビンにおっきしている状況も終わるはず!
「まあまあ、お義父さん。彼女の言う通り恋とは予測不可能なものです……こういうのはどうでしょう。彼と僕がデュエルを行う。もしも彼が勝てばアカデミアを卒業するまでは自由にさせてあげましょう。僕が勝てば彼とは即刻別れ、アカデミアを中退して僕に妻になる。良いでしょ?」
「ふぅ……足らん。もしもそいつが負けた場合はアカデミアを退学してもらわねば」
「お父様。それは意味がないです」
「黙れ。こんな地位の低い男が咲の体を弄ぶなど以ての外だ」
「あ、あのだったら俺からも条件が」
「黙れ! 貴様のような地位の低い男の条件など!」
「何かな? 言ってごらん」
「もしも俺が勝ったら2度と咲さんに手を出さないでくれますか」
怒鳴ろうとするお父さんを男性が手で止め、俺の方をじっと見てきた。
「それはつまり?」
「アカデミア卒業後も咲さんの自由に生きさせて欲しいんです。それが俺からの条件です。この条件をのんでくれるなら俺は負けたらアカデミアを退学するっていう条件をのみます」
「良いだろう」
男性は少し腕を組んで顔を下に向けて考えるとそう言った。
「アエラ君! 君は何を!」
「大丈夫ですよ。ただし君は自分のデッキを使うな」
「……と言いますと?」
そう言うと男性は指でパチンと鳴らすと部屋にケースを持った黒服の男たちが入ってきて、床にケースを置くとそれぞれ開けた。
そこには大量のカードが無造作に入れられており、中には開けた瞬間に雪崩のように大量のカードが崩れ出ているのもあった。
「この中からデッキを作りたまえ。万に1つも可能性はないが君が勝ったならばお義父様も君の実力を認めざるを得ないだろう。制限時間は3時間だ」
「分かりました」
「よし。お義父さん。僕たちは出ていましょうか」
男性と一緒に咲さんのお父さんも嫌そうな表情を浮かべながら俺を睨み付けつつ部屋から出ていき、部屋には俺と咲さんだけの2人きりになった。
自分のデッキを使うな……か。確かに俺が不利なようにも思えるけどもしも俺が勝つことができれば何の文句も言わせることなく俺の出した条件をのんでくれる。
「…………どうしてあんな条件を引き受けたの」
「え? なんでですか?」
「明らかに貴方が不利よ。見て見なさいよ、そのカードを」
早速デッキを作ろうとすると咲さんにそう言われ、ケースに入ったカードをがさっと出して床に広げて大まかに見ていくとどれもこれも攻撃力が低いモンスターばかりだったり、攻撃力が低いかつ通常モンスターだったり、魔法や罠カードも激流葬や攻撃の無力化や奈落の落とし穴などのカードは今のところ見当たらない。
「あいつはこうなることを予測していたのよ。こうすれば確実に自分が勝利でき、かつ最も簡単にお父様を納得させられるから」
「そうでしょうね……でも、俺早速コンボ見つけちゃったんですよね~」
そう言いながら2枚のカードを取り出して彼女に見せると彼女は一瞬だけ驚いた様子を見せるけどすぐにいつもの表情に戻り、ため息を一つ付いた。
「増殖でクリボーを増やしたから何? 生贄には使用できないわよ」
「そこでこのカードですよ」
「トークン謝肉祭……それが? ダメージは微量じゃない。仮にフィールドに5体並べても与えるダメージはたったの1500。意味ないわ」
「さらにもう一回増殖を使ってプリーステスオームを使えばダメージは増えますよ。それに幸運にも停戦協定とか悪夢の拷問部屋とかはありますからトークンを生成しつつ、アマゾネスの射手で大ダメージを与えれますし。よし、デッキコンセプトはトークンですね」
「……貴方、まさか本気で勝つつもり?」
咲さんのその質問にカードたちに目を向かせながらも首を縦に振った。
さて、プリーステスオームは三積みなのは確定だけどパッと見る限りデッキからこのカードを持ってこれる魔法カードとかはないな……お、魂を狩る死霊があるじゃん! こいつでターンを稼ごう。
にしてもほんと、あの人俺を完全につぶしに来てるな。こうなることを最初から計算してデッキを作りにくい状況にするなんて……でも、わくわくするな。
「言ったでしょ。圧倒的不利だって……それでもあなたはまだ勝つ気でいるの?」
「ええ、いますよ。こんな絶望的な状況からの勝利……漫画でもない王道パターンじゃないっすか。それに…………なんか逆にドキドキしてきましたよ。みんなが弱いっていうデッキで勝つ……最高ですよ」
「…………分からない……どうして貴方はそこまでデュエルモンスターズに本気になれるの!?」
今まで静かな話し方だった咲さんの口調がいきなり大きな声で怒鳴り散らしたので驚きのあまりカードを持ったまま後ろを振り返ると顔には怒りの表情が浮かんでいた。
「貴方はただ巻き込まれただけなのよ!? でもなんでここまで本気なの!? 私が絡んでいるから!? 私に恩を売っておいて後でそれを使って
「深読みしすぎですよ」
「え?」
そう言うと咲さんは不思議そうな顔を浮かべた。
「別に恩を売るとか、そんなん考えてないっすよ……ただ単にデュエルが好きなだけです。絶望的な状況とか絶対負けるとかそんなのそいつらが言ってるだけです……今回はたまたま咲さんの事情があったってだけで俺は純粋のこのデュエルに勝ちたい。そう思ってるんです」
「皆そう言うわ。絶対にやってみせる、任せてくださいって。でもそう言って近づいてくる人たちはみんな下心があった。貴方だって建前でそう言っているだけで本音では」
「あ、こういう組み合わせもありだと思いません?」
「聞いてるの!?」
まあ、咲さんが嫌々でアカデミアに来ている理由もわかったし、デュエルが嫌いっていうわけでもなさそうだから俺としてはホッとしたというか……何で俺、他人のことなのにこんなホッとしてんだ?
そんなことは頭の片隅に退かし、再びデッキづくりに意識を注ぐ。
「…………私だってやりたいわよ」
その言葉を皮切りにしてどんどん咲さんが喋っていく。
「昔からあの父親にギシギシに鎖でからめられていた中で唯一、何も言われなかったのがデュエルモンスターズだった。学校でも1人だった私に友達ができたのもたまたま買ったパックで1枚のレアカードが当たってそんな話をしているうちにたくさんできた……みんなデュエルモンスターズのおかげなのよ。無理やりやらされていた訳でもなかった……でも、何故かドンドンはまっていった。そしてやっと自分の力で、自分のやりたいことを手に入れられたのに……まだ、私はあの人の鎖に縛られてる」
「……じゃあ、俺がその鎖、壊しちゃいますよ」
「え?」
そう言うと咲さんは目に涙を浮かべた状態で俺の方を見た。
「俺てっきり、親に行けって言われたから来てるって思ってたんですけどそんな理由があるなら俺が好きなことを好きにできるようにしますよ……そのためには勝たなきゃいけないですけど」
そう言い、床に広げたカードを10枚くらい一気にとって効果や攻撃力などを確認して相性が良さそうなモンスターカードや、魔法・罠カードを端の方へ寄せていくと俺の視界に入るように一つのデッキが握られた咲さんの腕が伸びてきた。
「…………使いなさい」
「え、でも」
「この中にあるカードじゃいくらなんでも無理があるわ……それにあいつは貴方のデッキは使うなとは言っていたけど私のデッキを使って新しいデッキを作ることに関しては何も言っていなかったわ。私を解放してくれるっていうんだったら……このデッキを使いこなして勝って」
「……分かりました!」
咲さんからデッキを受け取り、中身を確認しつつ、端に寄せたカードを混ぜて新しいデッキを構築していき、
咲さんの意見も聞きながらベースは咲さんのデッキだけど全く新しいデッキが完成した。
「できたみたいだね」
3時間後、咲さんのお父さんとさっきの男性が部屋に入ってきた。
「ええ。貴方を倒すデッキが完成しました」
「それはあり得ないな。君のようなレッド寮に収まる程度の実力者に僕は倒せない。じゃ、始めようか」
そう言うと男性は肩にかけていたショルダーバックから銀色の光沢を放っているデュエルディスクを取り出し、
ポケットからデッキを取ってディスクに装填し、腕に装着して展開した。
俺もデッキを装填し、ディスクを展開すると液晶画面にライフが表示された。
「このディスクはアカデミアを首席で卒業した者にしか与えられない純銀製のものだ。素晴らしいだろう? ま、君では手に入れることはできないだろうがね」
「聞いてないっすよ。そんなこと」
「ふん」
「「デュエル!」」
『LP4000vs4000』
「先行は僕がいただく。ドロー!」
ドローし、手札に加えた途端に男性は口角を上げた。
「ふふふ~ん! やっぱり、僕はカードにも選ばれているよ。永続魔法・古代の機械城を発動!」
魔法カードがディスクにセットされた途端、男性の後ろに巨大な機械仕掛けの城のようなものが出現し、機械が作動したのかあちこちから金属がこすれ合う甲高い音が響いてきた。
確かあれはアンティーク・ギアモンスターの攻撃力を上げると同時に互いが通常召喚をするたびにカウンターを乗せてアンティーク・ギアモンスターを生贄召喚するときに生贄数以上カウンターがあったらあのカードを生贄にして召喚できる効果だったよな……まあ、俺の方から通常召喚するモンスターは少ないしいいか。
「さらに! フィールド魔法・歯車街を発動! その効果により、本来生贄がいるアンティーク・ギア・エンジニアを攻撃表示で、しかも生贄なしで召喚!」
『ATK:1500⇒1800』
アンティーク・ギアと名の付くモンスターは大概、ダメージステップ時の魔法・罠の発動を封じるし、今召喚された奴は攻撃終了時に俺の魔法・罠カードを破壊する効果がある……相性、微妙だな。
「これでターンエンドだ」
「俺のターン! ドロー!」
…………やっぱり、事故るよな~!
手札に加えたカードを含めても俺の手札にあるカードは6枚中4枚が魔法カードで後の2枚はすべて罠カードであり、しかも1枚は威嚇する咆哮、2枚目は落とし穴。
でも……魔法カードを溜めることはできる。
「俺は1枚セット。そして手札断殺を発動! 2枚墓地へ送り、2枚ドロー!」
お互いに2枚墓地へ送ってデッキから新たに2枚ドローするけどやっぱ俺が引いた2枚のカードは魔法カードで1枚はスケープ・ゴート。もう1枚は死者への手向け。
まあ、この場をどうにかできるから良しとしますか。
「死者への手向けを発動! 手札を1枚墓地へ送り、相手モンスターを破壊!」
カードの絵柄から包帯のような白い布が射出され、相手モンスターを雁字搦めにするとそのまま絞り、一瞬にしてモンスターを粉々に圧殺してしまった。
これで墓地の魔法カードの数は4枚……しかもデッキに入っている3枚の罠カードのうち2枚はすでに手札に来ているから後は必要なカードが手札に来ればこのデュエル、勝つことができる!
「手札から封印の黄金窯を発動。カードを1枚選択し、2ターン後まで除外。ターンエンド」
「僕のターン! ドロー! 君に拝ませてあげよう。僕の切り札の1体を! モンスター1体を生贄に捧げ、手札の古代の機械巨人を召喚!」
「罠発動・威嚇する咆哮! この効果でこのターン、攻撃宣言を行えない!」
「ちっ。小賢しい真似を。でも、もうじき君は終わる。1枚伏せてターン終了だ」
「俺のターン! ドロー! 強欲な壺を発動し、カードを2枚ドロー!」
っっ! よしっ! 必要なピースは揃った!
「手札より速攻魔法・スケープ・ゴートを発動! 現れろ!」
4回ほど連続で白煙を噴き出す爆発が小さく起きたかと思えば白煙の中から4色の体毛を全身から生やした子羊トークンが出現し、ワシャワシャと全身の毛を動かした。
そしてこいつを使えば相手に大ダメージだ!
「罠発動! トークン謝肉祭! 全てのトークンを破壊し、相手に破壊した数×300ダメージを与える!」
アマゾネスの射手を手札からディスクへセットしようとした瞬間、そんな声が聞こえて驚きながら顔を上げると俺のデッキに対して抜群の相性である罠カードが発動されていた。
「なっ! うあぁっ!」
トークンが苦痛の声を上げながら光を上げつつ、連続で大爆発を上げ、消滅すると同時に俺のライフを一瞬にして1200ポイントも削った。
別にダメージを受けたことに関してはどうってことはない……問題は何でこんなピンポイントのトークンのメタカードがアンティークデッキを使っているあの人のデッキに入っているんだ!
くそっ! 体勢を立て直そうにも手札に立て直せるくらいのカードがない!
「アマゾネスの射手を攻撃表示で召喚!」
『ATK;1400』
「これでターンエンドだ」