咲さんの御家の事情が終わってから早数日が経過した。
結局、あれから俺に対しても実家に対しても何も嫌な予想が現実になった様子はなく、一応電話で確認をしたんだが逆に不審がられたくらいにいつも通りの平和な家庭だった。
もちろん、途中で抜け出した最強教師決定戦の行方は生で見ることはかなわず、全て録画されたもので確認する羽目になったけど最強の座に着いたのはまあ、予想通りっちゃあ予想通りだけど用務員のおっちゃんだった。
決勝は用務員のおっちゃんとミシェル先生の一騎打ちとなり、ファイブゴッドは出るはダークネスメタルは出るわ、サイバーツイン、エンド、フォートレスなどのすべての融合モンスターは勢ぞろいするわでもう凄かった。
ただ残念だったのは生で見れなかったことくらい。
そしてアカデミアもテスト一週間前に突入し、実技の授業は大幅に削られ、座学の授業にほぼなった。
「ふぅ……一週間前か」
「だね~。真白君、ここどうやるの」
「あ、ここはね」
アカデミアの自主学習用の大教室に集まり、俺、真白、山本さんで集まり、一週間後の定期筆記試験対策勉強会なるものを開いて、一緒に勉強していた。
アカデミアの定期試験は主に2つある。一つはさっき言ったような座学の筆記試験。
数学や物理のテストもあるけどデュエルモンスターズに関する座学の試験ももちろんある。
過去問を確認してみるとチェーンの組み方やタイミングを逃しているか否か、複雑な処理の処理方法などを書かせる問題などがあった。
そしてもう1つの試験が実技の試験。教官と一対一でデュエルを行い、その過程、および結果を評価する。
まあ、実技は別にいいとしてだな……問題は筆記なんだよな~。
デュエルモンスターズに関しての座学は良いにしても通常科目の試験が……が、そんな事よりもさらに意味が分からない現象が俺の傍で起こっている。
――――――それは
「そこはそう置換するんじゃないの。℮のx乗をtと置くの」
「は、はぁ」
何故か俺の隣には教科書を持ち、足を組んで綺麗な生足を見せている咲さんがいた。
いや、まあ眼福なのは眼福なんだけどさ…………周りの目が痛いというか。
「ま、ここに入学できたことはあって基礎学力は高いわね。ただ、応用がいまいちってとこかしら。
よくこれで入学できたわね。アカデミアの筆記試験は全部応用でしょ」
「ま、まあ気合と根性で」
そう言うと咲さんは小さなため息をつくのと同時にふっと小さく笑った。
最近、咲さんと出会って会話していると時々、俺の言ったことに対して小さく笑うことがある。
いや、まあ……可愛いからありだけどさ。
「あの咲さんはやらなくてもいいんですか?」
「何のために特待生になったと思ってるのよ。普通科目の勉強なんてとっくに終わらせたわ」
天才発言出たー! でも、実際にヤバいくらいに頭が良いし、容姿も抜群にいいからそう言う発言も様になっているというかなんといいますか。
「そこ違うわ」
「へ?」
「ここよ」
「っ!」
指摘された場所が分からず探しているとグイッと咲さんが脇に入り込んできた。
その瞬間、髪の毛から良い臭いがするとともに咲さんの息遣いも大きく聞こえてきて体も若干、
密着しているからかなりドキドキする。
……デュエルモンスターズを学べること以外にここに入ったことを改めて嬉しく思ったの初めてだ。
「あ、こ、ここっすね。えっと……正負逆じゃん」
「そういうミスを無くせば貴方も十分、上位に入り込める素質があるのにね」
「そ、そうっすか? うれしいっす」
褒められたことを嬉しく思いながら間違っている部分を消しゴムで消して新しく計算し直すことで修正しているとガラッとドアが開いた音がし、その後からついてくるかのように小さくざわざわと騒ぐ音が聞こえてきた。
ここで学んだことがある。静かな場所で急にざわざわしだすと大体、アカデミアの中で最強クラスの実力を持った人か学内中に情報が行き届くほど有名な人のどちらかだ。
「お、普通科目か~。私も入学したての頃はやったな~」
「森さ……何してんすか」
「ピンポーン。どう? このお花可愛くない?」
後ろを振り返ると両手に綺麗な花が咲いている植木鉢を二つ持っている森さんの姿があった。
「森さん。室内にお花を持ってきていいんですか?」
「もともとこの子たちは観葉植物だし、テスト前でピリピリしてる皆のリラックスになればいいなと思って持ってきたの。ほら、ここってちょうどお昼頃から夕方にかけて太陽当たるじゃない」
自習室なので小さく喋りながら森さんは観葉植物を2つ、日の当たるところに置いてこっちに戻ってきた。
「森さんも特待生ですか?」
「ううん。なんで?」
「いや、さっき普通科はやったなって」
「私、プロに行くからね」
なるほど……確か学年が1つ上がるたびにプロに行くか、それとも普通に外部の大学に進学するか、
もしくはカードデザイナーの道に進むかなどの進路を聞かれるらしい。
まだ、俺ははっきりと将来のイメージはつかめてないけど。
「ま、頑張りたまえ。後輩君」
そう言い、俺の肩を軽くたたいて森さんは自習室から出ていった。
「こっちも再開するわよ」
「はい」
その日の晩、一通りの勉強を終えて飯を食って風呂に入って部屋に入って寝る……はずだった。
「ここがレッドの寝室ね」
何故か部屋に入ると咲さんが俺がいつも使っている2段ベッドの上に座っており、周りを見渡しながら寝転がったり、起き上がったりしていた。
古谷からは憎しみやら嬉しさやらが籠った眼をずっと向けられているがとりあえず、目を合わせないようにすることで無視を決め込んでいたがさすがに咲さんを無視できない。
「あ、あの咲さん? これは一体」
「監視の目もなくなったし自由に生きることにしたの。手始めに男しかいないレッド寮に来てみたわ」
確かにこの前の一件以来、咲さんを見ていた監視役は生徒を含めて全員いなくなった。
やっぱり金の引力ってすごいんだなと言う事を改めて感じると同時に人ってこんなにも簡単には慣れていくんだとも思った。
何人かは本当に尊敬してるやつだっていてもいいものなのに。
「ねえ」
「はい?」
「新しいデッキを作ろうと思うんだけど手伝ってくれないかしら」
おぉ、マジカルエクスプロージョン1キルデッキを止めて新しいデッキを作るのか。新しいデッキを作る時ってなんか妙にワクワクするんだよな。
まあ、20分も経てば大体は不完全燃焼になっちまうんだけどさ。
「はい。で、どんなコンセプトで……どこ行くんですか?」
「私の部屋よ。貴方も来るのよ」
咲さんがベッドから降りてきながらそう言った瞬間、机が置かれている方向から何かを粉砕したような音が聞こえ、そちらの方を向いてみるとフルフル震えている古谷がヒマワリの種を潰しており、ペットのハムスターは何が起こっているのかはわかっていないが主人が怒っているのは理解しているらしく、我関せずの態度だった。
「同居人さん。少し彼、借りるわね」
咲さんにそう言われた古谷は怒りと戸惑いを露わにしながらも首を小さく縦に振った。
そのまま咲さんに軽く手を握られ、レッド寮を抜け出し、夜道を歩きだした。
「アカデミアがここまで広いと思ったことは今までないわ」
「そうですか?」
「どこに行ってもSPや護衛の奴らがいたし、私が男子と話そうとすれば離し、私が授業をサボろうとすれば父親に連絡すると言われ……正直、ここには自分の意思で入ったつもりが好きじゃないのに行かされてる場所みたいになっちゃってたわ。でも、もうそいつらはいないわ……貴方のおかげでね」
そう言い、満面の笑みを浮かべる咲さんの笑顔を見るたびに何故か俺は一瞬、ドキッとしたというか咲さんの表情をずっと見続けることが出来なくなってしまったというか。
なんか本当に色々とアカデミアに来てから初めてのことばかりに遭遇するな……モンスターたちの精霊が見えたり、モンスターをソリッドヴィジョン無しで実体化できたり……そして今のこの心情だったり。
「そうですね……これからもっと楽しくなりますよ」
「そうね……行きましょうか」
咲さんと一緒に歩くこと5分、ブルー寮に到着し、エレベーターを使って女子階層にまで上がり、
咲さんの部屋までの廊下を歩いているとちらちらと視線を感じるが咲さんと一緒にいるのでとりあえず、
何も考えずにスルーしておいた。
「皆貴方のことが物珍しいのよ。男子がここに来ることなんてないし」
確かに男子が女子階層に入るには当人の許可とその階層の責任者の許可が必要らしいんだけど何故か、
今回は責任者の許可なく女子階層に来ている。
そう言えば女子階層の責任者って誰なんだ? ミッシェル先生? 魔坂先生か?
「ここよ。入ってちょうだい」
「失礼しま……」
部屋に入った瞬間、目の前の光景を見て言葉を詰まらせてしまった。
確かブルー寮って追加料金払えば追加でオプションが増やせられるんだったよな……なんで咲さんの部屋はごくごく普通のホテルみたいな部屋なんだ?
部屋にはそんな豪華な設備があるわけでもなく、テレビ、机、シャワールーム、タンスなどとごくごくありふれた生活必需品しかなかった。
まあ、なんかお父さんが振り込んできたお金は使ってないとか言ってたし。
「とりあえず所持してるカードを集めてみたわ」
そう言い、ベッドに置かれたのは俺みたいにもっさりと盛られているカードの山ではなく、カード枠ごとに輪ゴムで綺麗に止められたカードが入れられた専用のケースだった。
この専用ケース結構、値段張るから俺買ってねえんだよな。
「結構、持ってるんですね。あ、懐かし~。これって昔のパックに入ってるやつじゃないですか」
輪ゴムを外し、1枚1枚カードを見ていくと結構懐かしいカードなども入っていた。
でも、あれだな……結構、魔法使い族関連のカードがたくさんあるんだな。
エンディミオン、マジシャンズサークル……昔は魔法使い族デッキを使ってたみたいだけどどこからどうやって今のマジカルエクスプロージョンデッキに傾倒していったんだ?
「昔は魔法使い族しか使ってなかったのよ。でも、それだと勝率が悪かったから勝ちに徹したデッキに変えてみたの。それが今のデッキよ」
「なるほど……じゃあ、今のデッキの要素を残しながらも強力な魔法使い族モンスターを入れてみますか。
これだと……エンディミオンとマジカルエクスプロージョンを軸にしたりとか」
「なるほどね。だとすると魔法都市エンディミオンは3積みかしら」
「ですね。あとテラフォーミングも必須ですかね。手札で腐ってもエンディミオンで墓地へ送ればフィールド上のカードを1枚破壊できますし。そうなると名推理よりもモンスターゲートの方がよさそうですね。
エンディミオン自体は通常召喚可能ですからモンスターゲートで出せますし。
後マジカルエクスプロージョンが墓地へ行ったときように闇の仮面は必須ですね」
「そうなる前に封印の黄金窯でサーチね。そうするとエンディミオンは2枚程度でよさそうね」
そんな感じで俺たちは時間のことなんか忘れてただひたすら新しいデッキ作りに集中した。