「……ん」
眩しい光を感じ、目を開けるとカーテンの隙間から太陽の光が俺の目に差し込んできていた。
……朝か。デッキづくりに集中しすぎていつ寝たのかも忘れたわ……なんか重いな。
寝返りをうとうとするが腕に何か重いものが乗っており、動かせないでいたので腕の方を見てみると咲さんの寝顔が真っ先に入ってきた。
…………あ、そうだ。俺、確か昨日咲さんの部屋にお邪魔したんだ。で、そのまま寝落ちして……っっっ!
自分で考えていると凄まじい事実に気づき、一気に思考がクリアになった。
お、お、お、お、俺ってば咲さんと一緒のベッドで寝たのか!
と言う事はつまり、腕に乗っているのは……咲さん!
よく見てみると俺の腕をまくら代わりにして咲さんが眠っていた。
な、なんという幸せ! アカデミアの中でも美人ランキング常時上位の咲さんと一緒のベッドで眠ることができるだけでなく、腕枕をさせてあげるなんて!
「有難き幸せ」
「ふぁぁぁぁ……あら、おはよう」
「おはようございます」
「…………」
咲さんも今の状態に気付いたのか顔を赤くして飛び上がるように起き上がり、寝癖がついている髪を手櫛で慌てて何度も同じ場所を整え始めた。
あのクールな咲さんがこんなにも慌てるなんて……なんというギャップ萌え。
「ご、ごめんなさい。私、いつのまにか寝てて」
「だ、大丈夫ですよ。俺もいつのまにか寝てましたし」
と、互いに相手を慰めるために言ってはみたものの1つの部屋で同じベッドの上で寝てしまったという事実を再確認させる羽目になってしまい、余計に恥ずかしくて互いに顔を赤くしてしまった。
こ、ここまで顔が熱くなったのは初めてだ。
【ずいぶんとお熱いご関係だこと】
……全部、見てたのか。
【えぇ。仲睦まじくデッキの構成をしている貴方たちと彼女が貴方の腕に頭を乗せて眠る瞬間もバッチリ! 見させてもらったわ。あ~熱い熱い。羨ましい限りだわ】
随分と不機嫌そうな声音で話す彼女の表情は分からないがとりあえず怒っているのだけは分かった。
「と、とりあえずシャワー浴びてくるわ」
「は、はい」
そう言うと咲さんは俺から隠すようにタンスから色々と取り出し、シャワールームへと駆け込んだ。
「……何やってんだ俺」
今の状況に俺は頭を抱えた。
「というわけで修学旅行だ」
『いえぇぇぇい!』
総勢60人の男女たちが大きな教室全体に響き渡るほどの大きな声で歓声を上げた。
あれから早1週間、あっという間にアカデミアに入学してから初めての定期試験は終了し、結果も返されたこの瞬間に言われたせいで周りのテンションはやけに高い。
デュエルアカデミアは普段は生存競争が激しいところ。負ければ評価を落とされ、勝てば勝つほど評価はうなぎのぼりに上がっていく。だからなのか1~3年までに毎年一回ずつ修学旅行へと行く……なんだけど正直、今の俺はそんなことを喜んでいられる状況じゃなかった。
最悪だ……咲さんに嫌われてしまった。
あの気まずい雰囲気の中、いったん別れたのは良いんだけど後々たまたま、購買で出会ったときに話しかけようとするとそそくさと咲さんに逃げられてしまう。
はぁ……まさか女の子に嫌われることがここまできついとは。
「はぁ。最悪だ」
「だよね。女の子と一緒のベッドで寝るなんて刺激が強すぎるよね」
「そうそ……な、なんで知ってるんだよ、山本さん」
冷や汗を額から流しながら右側を向いてみるといつの間にか山本さんが座っていた。
そう言いながらウインクする山本さんの背後には何故か鉛筆とメモ帳を標準装備した悪魔のような生物がにやにやと嫌な笑みを浮かべながら俺の方を見ているのが見えた。
あ、悪魔だ……ここに悪魔の記者がいるぅぅぅぅぅぅ!
「大丈夫だって。他の皆には言わないからさ。私だってプライバシーは守るよ……その代わり、何か面白そうなことがあったり、遭遇したりした時は私に教えてね」
「は、はい。是非ともそうさせていただきます」
何故か同世代の山本さんに敬語を使ってしまった。
こ、これが飴と鞭を自由自在に操ることで情報を抜き取ると言われている新聞記者の中の新聞記者……政治家とか芸能人が異様に新聞記者とか芸能記者を嫌う理由が分かった気がする。
「でも、ここまで差別があからさまだとなんだかねえ」
そう、山本さんの言っていることは正しい。修学旅行は行く先が寮によって決められており、ブルー寮は二泊三日の沖縄旅行、イエロー寮は東京ディザスター・ランドに同じく二泊三日の修学旅行。そして俺だけが所属するレッド寮は偶然か否か、俺の実家があるすぐ近くの遊園地だった。
去年もその一昨年もクラスごとに行き先が分かれているから今年からってわけじゃないんだろうけどさすがにここまで露骨な差別の仕方だとハッキリ言って気分が悪い。
「はぁ。何で実家近くの遊園地なのかね」
「……私も行くよ。高槻君の実家近くの遊園地」
「へ? 山本さんはブルー寮だから沖縄だろ?」
「そうなんだけど……高槻君だけ写真がないだなんてそんなの悲しすぎるじゃない。だから私は高槻君の写真を撮るために貴方と一緒に修学旅行に行くの」
「……何もないぜ? 俺んちの実家近く」
「大丈夫! 良い写真は日常の中にあるっていうし」
そう言い、笑みを浮かべる山本さんはポケットから俺に先生に提出する用の用紙と自分たちで所持する用の2枚の紙を俺に渡してきた。
「本当なら真白君とで3人で行きたかったんだけど真白君はなんだかこのクラス代表として色々とやらなきゃいけないことが多くて抜け出せそうになかったの」
「そっか……良いさ。真白も山本さんも俺のこと考えてくれてるし」
そう言いながらちゃちゃっと2枚の用紙を完成させ、提出用を先生に渡し、全員分を用意するために所有用をコピーするために休憩時間になってから、コピー機が置かれている部屋へと入った。
「30円投入っと。コピー開始!」
小銭を入れ、コピー開始ボタンを押すと順番にコピーされていく。
… …それにしてもまさか、咲さんみたいな美人な人と同じベッドで眠れるなんてな~。
今でも眠っている咲さんの表情が思い出せる。
「仲直りとして咲さんを昼飯にでも誘おうかな~」
「ほ、ほんとかしら」
後ろからそんな声が聞こえ、振り返ってみるとそこには薄く赤い顔をして恥ずかしそうにしている咲さんが1枚の用紙を持って俺の後ろに立っていた。
「そ、その……う、嬉しいわ」
「あ、はい……あ、あの良かったら昼ご飯一緒に食べませんか? 学食ですけど」
「え、ええいいわよ」
お互い、あの時の光景が頭の中にある状態で喋っているらしく、俺も顔が熱くなってきたし、咲さんも顔がどんどん赤くなっているように見える。
は、恥ずかしー! お昼ご飯に誘うだけでこんなにも恥ずかしくなるもんかよ!
「あ、あのコピーしたいから」
「あ、す、すみません!」
俺は慌ててコピーされた用紙を手に取り、ダッシュでコピー機が置かれている部屋から去った。
な、何を俺テンパってんだ……ただ単にかわいい女の子と話すだけなのに。
「はぁ。なんか俺、おかしいぞ」
そう呟きながら教室へと戻った。
その日のお昼休み、俺は学食である人物を待っていた。
さっきの休み時間中に一緒にお昼ご飯を食べようと約束した咲さんとである。
とはいっても向こうは選抜クラスの2年生、こっちはまだクラス分けすらされていないレッド寮の1年生なので授業が終わるタイミングが違うらしく、まだ咲さんは学食に姿を現していなかった。一応、座席は取っておいたけどさすがに昼飯も食わずに10分以上待つことはマナー違反というかこれから食べようとする人に迷惑なので5分で来なかったらもう、この席を離れる予定なんだけど……遅いな。
一応、咲さんが遅れることも考えて冷やし中華を頼んだんだけど……あ、来た。
学食の入り口をジーッと見ているとドアが開き、そこから先さんの姿が一瞬見えたので立ち上がって手を軽く振っていると咲さんの方も気づいたのかこっちに駆け寄ってきた。
「お待たせ。授業が延長されてしまったの」
「大丈夫ですよ。んじゃ、いただきます」
どうやら咲さんは自分で作ってきたらしく、袋に入れられた弁当を取り出して食べ始めた。
「「…………」」
……なんか嫌な沈黙だな……よ、よし! ここは男の俺から話しを切り出すか!
「「あの」
と、相手も思っていたらしく同時に同じ言葉を口から出してしまった。
数秒間固まっていたが咲さんはそんな状況が面白かったのか小さく笑みをこぼし、俺もその小さな笑みを見てそれにつられてか笑った。
「貴方と作ったデッキ、中々の良さだったわ。ありがと」
「いえ、俺はただ単に助言をしただけですし」
「それでもありがたいわ。助言をしてくれただけでもね」
そう言い、笑みを浮かべる咲さんを見て、またもや俺はドキッとしてしまった。
……やっぱり、なんかこの状況おかしい。どうしちゃったんだ俺?
「やっと見つけた!」
突然、金髪のブルー寮の生徒が割り込んできたかと思えばよく見たらアイドさんだった。
「咲さん、今日は僕とお昼ご飯を食べるって約束だったじゃないですか」
「今までにそんな約束したことないわ」
さっきまでの楽しそうな声はどこへ行ったのか、一気に冷めたような目と冷たい言葉に豹変し、アイドさんの質問に冷たく返答を返した。
おぉ、温度の下がり方が半端ねえっす!
「それにデッキコンセプトも変えたらしいじゃないですか。どうして僕に相談してくれなかったんですか」
「どうして貴方に相談する必要があるの? 今、私は彼と食事をしているの。話なら後でするわ」
咲さんがそう言うと話なら後でもするわ、という部分にだけピコッ! と反応したのか子供みたいに嬉しそうに満面の笑みを浮かべて取まきと一緒に去っていった。
なんか分かりやすいというかなんというか。
「ごめんなさい。せっかくの食事中なのに」
「いえ、大丈夫ですよ」
あ、また声が元に戻った……なんか不思議な使い分けしてるんだな。森さんとかは普通の話し方なのに俺の時は楽しそうに話すし、アイドさんと話すときは何故か心底嫌そうな顔で話す。
まあ、アイドさんと話すときは前から嫌そうな顔はしてたけどさ。
「そう言えばもうすぐ修学旅行じゃないかしら」
「あ、はい。俺は実家近くですけど」」
「そう。私たちも1年生と同時に行くみたいね。私は沖縄だけど」
羨ましい限りだ。慣れ親しんだ実家に修学旅行に行くというのもまたおかしな話だけど。
「……ねえ」
「はい?」
「そ、その……夏休みに入ったら貴方はどうするの?」
恥ずかしそうに顔を赤くしながら咲さんにそう聞かれ、夏休みの予定を考えてはみるがアカデミアに残ってもやることはないし、たとえ残ったとしても猫寮長と毎日一緒にいるだけだ。
実家に帰るって言っても1か月近い日数実家で過ごすっていうのもな~。
「今のところは何もないですね」
「そ、そう……だ、だったら私と一緒に兄がやってる会社に行かない? 珍しいカードとかもあるわよ」
「お兄さんがしてる会社? でも、確かお兄さんがお父さんの会社を継ぐって」
「今は兄は支社の社長よ。本社の社長に上がるってことよ」
あぁ、なるほど。支社の会社で社長としての経験を積んでから本社の方でその経験をいかんなく発揮して会社経営をするってことか。でも、珍しいカードか……興味はある。
「ぜひ」
「分かったわ。また終業式の日に話すわ」
「了解です」
その後も俺たちは会話をしながら昼休みの昼食を楽しんだ。