夏休みも近くなった7月中旬。俺はレッド寮で授業のほとんどを欠席し、静養していた。
どうもあの戦いで力を使いすぎたらしく、最近の体調があまり芳しくなく、保健室に行って診断してもらうと過労に似た症状が出始めていると言われた。事情を知っているとミッシェル先生の口添えがあったかどうかは知らないが一週間の静養期間を貰うことができた。まぁ、それも昨日で終わったけど。
久しぶりの授業にどこか俺の心はルンルン気分だ。
「んじゃ、寮長行ってきます!」
「にゃっ」
猫寮長にそう言うと俺は寮から出てまっすぐ坂を上がって校舎へと向かう。
古谷はもうすでに向かったらしく、俺が起きた時にはすでに寮内には姿は見えなかった。
まっすぐ坂を上がり、自動ドアを通って久しぶりの校舎内に入るとまるで初めてこの中に入った時のようなドキドキ感が少し出てきた。
流石に一週間も来なかったら懐かしくなるか……さて、早速教室に向かう前にパックを買いますか~。
「いらっしゃい」
「あれ? 今日はあの美人な人居ないんですか?」
「今日は休みなのよ~。で、何買うの?」
全部を一パックずつ買いたいところだがさすがにそれをすると俺のポケットマネーがなくなってしまうけどどれを買いたいか今一、照準が定まってないんだよな。今のところデッキに必要なカードはほぼすべて投入しているし、罠も魔法も充実してるしなぁ。
「あ、優斗君ヤッホー!」
「山本さん、ヤッホー」
相変わらず元気な山本さんが首にカメラをひっかけてトテトテと俺のもとにやってくる。
「なに? パック買うの?」
「迷ってるんだよ。どのパック買うか」
「連鎖パックがあればね~」
「まああれはアニバーサリーパックだし、今は絶番だしな」
「ドローソース増やしたら?」
「それも考えたんだけどもう十分だし」
シルバー・ディフェンダーも条件付きでドローできるし、連鎖龍の壺が2枚、積み上げる幸福も2枚あるし、強欲な壺は制限カードだから1枚しかないけどそれで十分だしな~。
「あ、そう言えば優斗君休んでたから知らないと思うけど今日から学期末テストだよ」
「…………はぁぁ!? え、嘘だろ」
「まあ実技しかないから」
「Yes!」
これで筆記テストもあったら俺死んでるわ。1週間勉強せずに寮長可愛がったり、咲と喋ったり、デッキ調整したりしてただけだからな。
「もう大丈夫なの?」
「あぁ、もう元気もりもりだ」
「あ、もうこんな時間。早く行かないと遅れちゃうよ?」
「マジか~。おばちゃん! また後で来るわ!」
そう言い、俺は山本さんと一緒に教室まで小走りで向かった。
山本さんの言う通り、今日から2日間にかけて夏休み前最後の試験を行うとアナウンスされ、今は校舎の近くに併設されているアリーナに集合し、デュエルを行っている。
なんでも2日間でクラスの連中とデュエルを行い、その様子をデュエルディスクにあらかじめセットした小型カメラで録画撮影、それをミッシェル先生が見て評価を出すらしい。
そんなわけで久しぶりのデュエルに俺はウキウキしながら楽しんでいる。
「チェイン・カオスのモンスター効果! 自分フィールドの魔法・罠カードゾーンにあるカードを全て墓地へ送る事で相手がバトルフェイズ中に発動する魔法・罠カードを無効化できる!」
相手が発動した聖バリのカードが闇に飲み込まれ、消失したと同時にチェイン・カオスのダイレクトアタックがそのまま相手に直撃し、一気に2500あった相手のライフを0にした。
「イエス! 楽しかったぜ!」
「強すぎるだろ」
流石に同じクラスの奴らはずっと俺のデュエルを見てきたからもう俺がレッド寮だからと言う事であからさまに見下してくることは無くなったし、上級生もあまり絡んでは来なくなった。
まぁそりゃ、あのデュエルアカデミア女子最強の2つ頭の咲と森先輩と一緒にいればなぁ……あぁー! 早く2人とデュエルして勝ちてぇ!
「流石は我がクラスの代表。インタビューしちゃうぞ!」
「山本さんデュエルは?」
「終わったよ。さてさて、私が気になるのは咲さんについてなんだな~」
山本さんの嫌な笑顔が俺に突き刺さる。
ほ、ほんと一体どこからこの人は俺に関する情報を仕入れているんだ……マジで衛星通信で情報を仕入れてるんじゃねえだろうな……いや、山本さんならあり得そうだ。
「なんだか最近、咲さんを咲って呼び捨てにしてるらしいね」
「そ、それは……咲さんが良いって言ってくれたし」
まあ、本当のところは俺が呼び始めて咲が後で了承してくれたって話だけど。
「なるほど。咲さんと優斗君の仲は順調と」
「お、おい。心の記事だよな?」
「もちろん。私は他人のプライバシーはちゃんと守る主義だから」
「ならいいけど……ちょうどいいし、デュエルしようぜ!」
「いいよ。強くなった私の力見せてあげる!」
「「デュエル!」」
学期末テスト1日目が終了し、俺は今真白と一緒に昼飯を食っていた。
「また強くなったね、優斗君」
「そりゃ日進月歩。毎日強くならねえと」
森先輩が卒業するまであと半年近くしかないからその間に森先輩をデュエルで倒すことができるくらいに強くならないと決着がつかないままになってしまうからな。
「でももうすぐ森先輩も卒業だね」
「そうなんだよな。ていうかもう俺達が入学して3か月か……早いな」
「そうね」
「あ、咲」
後ろからそんな声が聞こえ、振り返るとおぼんを持った咲が後ろに立っていたので近くの余っている椅子を俺の隣に寄せるとそこに咲が座った。
「確か真白君だったかしら」
「あ、はい! 真白です」
「優斗から聞いてるわ。お触れホルスを使うんですってね」
「あ、はい。知っていたなんて」
「あ、そう言えば咲。この前作ったデッキの調子はどうなの?」
「ええ。順調よ」
前のデッキからはコンセプト自体がガラッと変わったからな。モンスターカードの枚数もかなり多くなったしフィールド魔法を張ったりとか逆に魔法の枚数はマジカルエクスプロージョンで1キルできる最低限の枚数しか入れないようにしたからな。でも順調そうで良かった。
その時、ふと視線を感じたのでそちらの方を見ると他の連中が驚いたような表情で見ており、俺と目が会うと続々と視線を逸らしていく。
俺がレッド寮だからっていう感じじゃないんだよな……何で視線を集めるんだ?
「貴方の方こそどうなの?」
「俺? 俺はもちろん順調! なぁ、真白」
「そうだね。新しい融合モンスターも入ったし益々強くなったよ」
まぁ、その新しい融合モンスターをくれたのは咲なんだけどな……とりあえずこのことは誰にも話さないでおこう。面倒なことになっても困るし。
そんなことを考えていると授業五分前を知らせるチャイムが鳴り響き、周りの連中が大急ぎで食器を片付けて行く。
やばっ! 俺も急がなきゃ遅れる!
「真白急ぐぞ!」
「もちろん!」
「じゃ、また今度な、咲!」
「ええ、またね」
アリーナに入るとギリギリ間に合ったらしく、さっさと来いとミッシェル先生に言われ、慌てて並んでいる列に加わると前にミッシェル先生が立つ。
「今日は我々教員がテストを行うが明日の最終日はプロを志望する3年生と戦うことになる。今日中にいい点数を稼いでおくようにな」
うぉぉぉ! マジか! 3年生でプロを志望してる人って言えば森さんしかいないじゃん! 入学式のあの森でのデュエル以来、全然デュエルする機会がなかったけどとうとうできるのか! 燃えてきたー!
1日目最後の相手はどうやらミッシェル先生が務めるらしく、出席番号一番の奴から先生とデュエルしていく。
俺の番が来るまでの間、暇なのでデッキを見ながら最後の調整を行う。
連鎖魔光龍・カオス・ホーリー・チェインドラゴン……咲がくれた俺の現時点で最強のドラゴン……光と闇が1つになったドラゴン……。
光と闇で思い出したがあの兄妹の2人は俺とのデュエルを行ったその日にアカデミアを出た。
1日くらい休んで行けよとは言ったんだが2人曰く、闇に沈めようとした場所で休めるかと言う事で急遽、本土の方からボートのおっちゃんを呼び寄せて本土へと帰っていった。
「やっほ~」
「山本さん」
「いや~私ヤ行だからずっと先なんだよね~」
「そう言えばそうか……」
「咲さんから貰ったカード眺めて何ニヤニヤしてたの?」
ば、ばれてたか……なんというかもう……バレバレだよな。俺が咲のこと好きだってこと……まあ俺も1週間の静養中に考えた結果出てきた答えだけど……。
「べ、別に……」
「ふーん……」
そう言いながらそれ以上は追及してこなかったけど山本さんの視線が鋭く俺に突き刺さる。
「次! 高槻優斗!」
「あ、はい! じゃ、じゃあな山本さん!」
そう言い、俺は試験を受けるために先生のもとへと走っていった。