「ねえ、君! 文化部なんか興味ない?」
「あ、俺部活には入らないんで」
翌日の朝、普段通り授業があると思って教室へ向かっているとその道中で、
多くの先輩にクラブ勧誘をされ続け、なんとか教室へたどり着くもののホワイトボードに、
今日は休校という文が書かれているのを見てようやく、今日は新勧祭であることを思い出した。
その足で帰ろうとするが史上初のレッド寮ということもあってなのか一歩歩けば、
別のクラブ勧誘が、また一歩歩けば別のクラブ勧誘が……と全く動けなくなってしまった。
「はいはいはーい! ちょっとちょっと! この子困ってるでしょ~」
「森先輩!」
その時、俺の周囲を囲んでいた人たちの間を縫って緑色の眼鏡をかけた森先輩が現れた。
「この子はね。森クラブに入るの」
「入りませんよ!」
「え~。あの時、激しくわかり合ったじゃない」
その直後、俺の周囲を囲んでいた人たち……正確には男子生徒の表情が、
ニコニコしていたものから憤怒の表情へと変化し、握りこぶしを作って握り締めた。
な、なんだなんだ……いったい何が起きてんだ!
「激しくわかり合った……だと」
「新入生の分際で森さんとわかり合うなど……断じて許さん!」
『デュエル!』
何故か、いきなり10人くらいの男子生徒がデュエルディスクを展開して、
俺にそう言ってきたがいくらデュエル大好きな俺でも10対1などという、
負けること確実なデュエルなんか絶対にしない。
ていうか10対1するなら少なくともライフは10000以上は欲しいぞ。
「ふぅ……さよならー!」
「ちょっとー! 森クラブはー!?」
少々荒っぽく周りにいた生徒を突き飛ばし、その場から逃げるとその後ろから何故か、
先ほどよりも数が多くなった男子生徒の波が俺に向かって押し寄せてきていた。
一瞬だけ後ろを振りかえって見ると近くを通り過ぎた男子生徒までもが、
まるで洗脳を受けたようにその大きな波に加わった。
曲がり角を曲がり、階段を降りたりを繰り返しながらなんとかその大きな波を振り切り、
アカデミアの外に出てもなお、ひたすら走り続けた。
「ハァ、ハァ……さすがにもう良いだろ」
呼吸を整えるために歩きながら周りを見ていると鬱蒼とした森から抜け、
目の前は海が広がっている断崖絶壁に出てしまった。
高い所にいるためか少々強い風が俺にあたってくるが走って少し汗をかいていたので、
今はちょうどいい扇風機にあたっている感じだった。
「あれ、先客?」
そんな声が聞こえ、振り返ってみると絵の具セットを右手に持ち、脇に大きな画用紙を挟み、
左手で画用紙を支える脚立のようなものを持った女子が立っていた。
「あ、すみません。すぐにどくんで」
「あぁ、良いよ別に。私、絵描くだけだから」
そう言うとその女子は俺の隣に来ると抱えていた荷物を置き、
テキパキとなれた様子で準備を行い、ほんの数分で絵を描く準備を完成させると、
早速筆を動かし始めた。
……目の前は海だけなのに何を書いてんだろ。
気になった俺はちらっと後ろから絵を見てみるとそこに書かれているのは、
目の前の海を題材に妖精ともいえる背中から翼を生やした女の子たちが飛んでいる絵だった。
「すげえ」
「そう? 私なんかまだまだよ」
あまりのうまさに声を出していってしまったけど……まるで写真を見てるようだ。
「もしかして……カードデザイナー志望とかですか?」
「よくわかったね。そうだよ。私がここに入学したのはその為……まあ、正直後悔してるけど」
一応、デュエルアカデミアはデュエリストだけを育成しているんじゃなくて、
カードデザイナーなんかも育成しているみたいだけど、
そっちの方はおざなりになっているのが今の現状だ。
「こんなことなら高校は普通科を出てインダストイリュージョン社に就職活動した方がよかった」
「せっかく、ここに入ったんですからデュエルのことも学んだらいいのに」
「最初はそうだったんだけどさ。だんだんデュエルが嫌になってきたのよ。
私はみんなに使ってもらいたいカードを作りたい……そう思ってきたのよ」
デュエルアカデミアでは二年生になればデザイナー志望コースとデュエリストコース、
ほかにもいくつかのコースがあるけど9割以上の学生がデュエリストコースに行くから、
そこばかり教員を集めてほかのところは教員がほとんどいない。
「貴方はデュエルが好きで入ったんでしょ?」
「ええ。俺、昔からデュエルが好きでもっと学びたいって思ったんですよ。
だからここに入った……でも、ここんところは負けっぱなしですけどね」
先輩は俺の話を聞きながら筆を持つ腕は止めずにひたすら動かして書いていた。
「ねえ」
「はい?」
「絵画部なんか興味……あれ? いない」
「あっぶね。危うく絵画部に勧誘されるところだった」
気づかれる前に脱出した俺は森の中を徘徊している先輩たちに見つからないように、
木々で身を隠しながら歩いていき、なんとかアカデミアにまで戻ることができた。
どうせ今日、やることなんか全くないし……購買でパックでも買うかな。
そう思い、購買部へと入るがいつもは壁にパックのイラストが表示されているのに、
何故か今日はイラストが表示されていないし、並べられている机なども、
今は全部、壁に寄せられている。
「すみません。パック買いたいんすけど」
「申し訳ありません。実は今、明日からの新作パック発売前日でしてその準備として、
全てのパックが倉庫にありますので本日はちょっと」
カウンターに立っている綺麗な店員さんにパックについて尋ねてみるとそんな答えが返ってきた。
新作パックは発売されるたびにこうやって前準備をしているのか……さすがに、
倉庫にまでいってもらってパックをとってきてもらうっていうのも迷惑だろうし……。
「ところでその新作パックってどんな内容のカードがあるんですか?」
「それもちょっと」
「そこをなんとか! パックが買えない保障として教えてくれませんか?」
「……でしたら私とデュエルをして勝ったら新作パックの情報もお教えいたしましょう!」
お姉さんは数秒ほど腕を組んで考えると小さく笑みを浮かべながら、
やけに自信ありげにそう言い放った。
「おぉ! それは是非受けて立ちましょう!」
そう言うと店員さんはほかの人とレジ係を交代してもらい、置かれている椅子などをどかし、
デュエルのスペースを作ると店の奥のほうからほこりが被ったデュエルディスクを腕に装備し、
スカートのポケットからデッキを取り出して、ディスクに装備した。
「手加減なしで行きますからね、新入生さん!」
「高槻優斗です!」
「「デュエル!」」
『LP4000vsLP4000』
「私のターン! ドロー! 私は手札から魔法カード、タイムカプセルを発動!
デッキからカードを一枚選択して裏側の状態で除外します。
そしてアステカの石像を守備表示で召喚! さらに装備魔法・ミストボディを発動!
それをアステカの石像に装備し、ターンエンド」
「俺のターン。ドロー!」
壁モンスターに破壊耐性をつけたということは手札に何かしらの、
カードを呼び込むための時間稼ぎ、もしくはただ単にアステカの石像の効果を使うか……。
でも何も伏せられていないところを見ると、ただ単なるターン稼ぎの方がしっくりくる。
今すぐにでも破壊したいところだけどサイクロンが手札にない以上、破壊できないし、
俺のデッキのモンスターに貫通効果を持っている奴もいない……ここは効果ダメージを狙うか。
「俺は連鎖・シルバービーストを攻撃表示で召喚!」
『攻撃力1800。守備力200』
「召喚に成功したことにより効果が発動し、俺は装備カードを1枚手札に加える!
そして装備魔法・連鎖の剣をシルバビーストに装備!」
『TKA 1800⇒2300』
「カードを二枚伏せてターンエンド」
「私のターン。ドロー! カードを二枚伏せてターンエンド」
「俺のターン! ドロー!」
チェーンプラスか……とりあえず今は伏せておくか。
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
「私のターン! ドロー! 2ターン前に発動したタイムカプセルの効果により、
私は選択したカードを手札に加えます。
そしてアステカの石像を生贄に千年の盾を守備表示で召喚!」
『ATK;0。DEF;3000』
フィールド上に大きな盾を持ったモンスターが出現し、俺の目の前に立ちはだかった。
出た。壁モンスターの中でメジャーなモンスター……守備力3000だからな。
やっぱり、あの人のデッキは時間をかけて完成する戦術を主軸にしたデッキだ。
俺も戦闘ダメージを狙うんじゃなくて効果ダメージでライフを削るしかないな。
「ターンエンド」
「俺のターン! ドロー!」
「この瞬間、私は永続罠・シモッチによる副作用を発動!」
その永続罠カードが発動した瞬間、俺の頭の中にすぐさまあの嫌なデッキの名前が思い浮かんだ。
プロリーグでも上位に食い込むことさえあるというあの嫌なデッキ……デッキが回れば、
恐らく一瞬の爆発力だけでいえば最強のあのデッキ。
「もうお分かりですよね?」
「ええ、嫌なくらいにね」
「リバースカードオープン! ギフトカード!」
ギフトカードは相手のライフを3000ポイント回復するカードだけどシモッチが発動してる今、そのギフトはもう最悪のギフトとなる。
「俺はチェーンしてチェーンブラスト、チェーンブレイク、チェーンプラスを発動!
チェーンブレイクの効果でシルバービーストは900ポイントアップする!」
『ATK;2600→3500』
「チェーンブラストの効果により、お姉さんに500ポイントのダメージ!
さらにチェーンプラスの効果により、このデュエル中に積まれたチェーンの数をプラス3する!」
これでチェーン数は7……あと3つ乗せれば。
「なんのこれしき! ギフトカードの効果により、貴方は3000回復しますが、
シモッチの効果で回復は全てダメージへと変わります!」
発動された罠カードからプレゼント用の包装に包まれた小箱が現れ、俺の目の前にまで、移動してきたかと思えば大爆発を起こし、俺のライフを一気に3000も削ってしまった。
「くっ! 俺は連鎖の剣のカウンターを三つ取り除き、
お姉さんに500ポイントのダメージだ!」
シルバービーストの持つ剣から電流が放たれ、お姉さんに直撃するが、
お姉さんは顔色一つ変えず、肩を揉みながら一回、二回と肩を大きく回し、
その顔に満面の笑みを浮かべて俺を見てきた。
でも、相当不味いぞ……成金ゴブリンとか来られたらそれでもう俺の敗北だ。
たぶん、タイムカプセルや封印の黄金釜なんかのサーチ系のカードは三枚積んでるだろうし、他のダメージ効果を持つカードだって入っているはずだ……俺の残りターンは、
あと数ターンとみた方がいいかもな。
「俺は連鎖・シルバーディフェンダーを守備表示で召喚!」
『レベル2。攻撃力;300.守備力;2000』
「ディフェンダーの効果発動! このカードの召喚時に、
このカード以外の連鎖モンスターがいた場合、カードを一枚ドローすることができる」
効果により、デッキから引いたカードはチェーンストライク。
そして手札には二枚目のチェーンブラスト、強制脱出装置、そして連鎖の絆。
ここで千年の盾を破壊してもいいんだけど……いや、
今やらないとチェーンブレイクの効果が消える。
それに連鎖の絆はもっと後の方に使った方が攻撃力を上げることだって出来る……。
ここは伏せるだけ伏せて奴を破壊する!
「バトルフェイズに移行し、シルバービーストで千年の盾を攻撃!」
直後、シルバービーストが剣を持った状態で駆けだし、大きな盾に剣を突き刺すと、
盾を剣が貫通し、その奥にいた本体を貫き、破壊されて光の粒子となって墓地へと送られた。
これで相手のフィールドはガラ空き。
「俺は手札のカードをすべて伏せ、ターンエンド」
『LP3000vsLP1000』
さあ、何でも召喚して来いよ……何を召喚しようが手札に帰還させてやる。
「私のターン! ドロー!」
ドローしたカードを見た直後、お姉さんは俺に聞こえるくらいに大きく舌打ちをした。
「追い詰めたかと思えばラストの一枚こないし! 私は使者蘇生を使って、
墓地から千年の盾を蘇生をします!」
「あ~そんなときにごめんだけど強制脱出装置、発動。それにチェーンブラスト、
チェーンストライクをチェーン発動。お姉さんに合計1700のダメージ」
「あぁもう!」
お姉さんはイライラを隠せなくなってしまったのかその場で何度も足で床を踏みつけ、
俺を凄い形相でにらみつけてきた。
たまにいるんだよな……デュエル中のイライラを隠さずにそのまんま相手にぶつけてくる人。
「カードを一枚伏せてターンエンド!」
『LP1300vs1000』
「俺のター……な、なんだこれ」
次のカードを引こうとした瞬間、なぜかカードの表面から、
黒い煙のようなものがたっているのが見え、
目の調子でもおかしいのかと思って目をこすり、
もう一度カードを見てみると今度は何もなかった。
な、なんだったんだ今の黒いのは……。
「お、俺のターン! ドロー! ……こいつは」
俺が引いたカードはデッキに入れた記憶のない新たなカードだった。
連鎖邪龍・チェイン・カオス・ドラゴン。
フィールド上に存在する連鎖モンスターを二体、墓地へ送ることで特殊召喚できる。
攻守ともに3000。
このまま勝てるんだけどこいつのことを知りたいし……こいつで行くか!
「俺はフィールド上の二体の連鎖モンスターを墓地へと送り、
連鎖邪龍・チェイン・カオス・ドラゴンを特殊召喚する! 来っっ!」
あ……れ……け……しき……が。
『ダメっっっ!』
「っっ!」
一瞬、視界がぶれてそのまま体が倒れていくのを感じながら目を瞑ろうとした瞬間、
頭の中に聞いたことのない少女の声が響き、その声を聞いた瞬間に、
混濁した状態だった意識が一気に覚醒した。
「来い!」
二体を墓地へと送り、そのカードをセットした瞬間、普段ならば光が溢れ出してくるはずが、禍々しいほどのオーラを醸し出す闇がフィールドから噴き出し、
そこから漆黒の体色、
そしてその体に痛々しさを感じるほどにギュウギュウに締め付けられている漆黒の鎖、
その姿はまさしく闇に染まった連鎖龍――――チェイン・ドラゴン。
な、なんだ今のは……。
カードをディスクにセットした瞬間、意識が飛んだかと思えば途端に女の子の声が聞こえ、意識を何とか持ち直すことができた。
モンスター召喚して意識が飛ぶなんて……初めてだ。
「連鎖邪龍・チェイン・カオス・ドラゴンのモンスター効果の一つを発動!
自分のフィールド上にセットされている魔法・罠カードを全て墓地へと送ることで、
相手はこのバトルフェイズ中に罠・魔法を発動することはできない!」
「う、ウソ!?」
効果を発動した直後、俺の魔法・罠カードゾーンにある全てのカードが消滅したかと思えば、相手の魔法・罠カードゾーンから鎖が出てきて鎖がお姉さんの伏せカードを地面に縛り付けた。
「バトル! 連鎖邪龍・チェイン・カオス・ドラゴンでダイレクトアタック!」
直後、チェイン・カオス・ドラゴンがその大きな口を開け、口元に闇を集めだしたかと思えば、ギュウギュウに体をしめていた鎖が解き放たれ、
地面に突き刺さり、体を固定した直後、闇をお姉さんへ吐き出した!
「キャァァァ!」
その闇の砲弾はお姉さんの前に着弾したかと思えば一気に炸裂し、
お姉さんの周囲を一瞬にして闇へと塗り込めた。
『LP0vs1000』
「…………な、なんなんだこいつは」
「ふふふ。使った使った♪君はこれからどんどん闇に染まっていくよ」
遊戯王は難しいね