翌日の朝、俺はミシェル先生の授業を教室で受けていたのだが内容は頭に入ってこず、
頭の中では昨日のあの黒い龍のことについてでいっぱいだった。
召喚した途端に闇が溢れて、一瞬だけ意識を持って行かれかけただけじゃなくて頭の中で女の子の声までもが聞こえた。
俺……どうかしちまったのか。
あれから確認のためにブルーの人とデュエルを行って連鎖邪龍を召喚したけど、
闇が溢れることはなかった……気のせいですませていいのか。
「―――――!」
でも二回目のデュエルでは何もなかったんだし……。
「―――――槻!」
お姉さんは見えていなかったみたいだし……。
「高槻!」
「は、はい!」
「聞いているのか」
「あ、すみません」
「しっかりしろ。もう一度説明するが来週からクラス別対抗トーナメントが開かれる。
そこではクラスから一人、代表を決め、学年別でトーナメント戦を行う。
なお、今回の戦績に関しては成績評価には加味しないが積極的に参加するように。
では、代表を決めたいと思うが」
今はあの闇のことは忘れよう……その方がいい。
にしてもクラス別対抗トーナメントか……俺的には全学年ごちゃ混ぜのトーナメントで、
上級生の人とデュエルしたかったな。
それだったらもしかしたら森先輩とのデュエルもできるかもしれなかったのに。
「私的にはある人物を推薦したいが教員が個人を特別扱いするのは規則違反だ。
よって、これから三日ほどかけてこのクラス最強を決めるトーナメントを行う!」
デュエルアカデミアでは一クラス大体60人ほどの男女混合で構成されていて、
三日かけてトーナメントをやるんだったら大体、一日あたりに20くらい試合をするのか?
「これから袋を回していく。1~20が書かれた紙が入っているからそれを一枚取れ」
そう言って先生は三つの紙袋を用意すると出席番号一番目の生徒に袋を渡した後に、
21番目の生徒にもう一つの紙袋を、最後に41番目の生徒に紙袋を渡して、
それぞれ一枚ずつ数字が書かれた紙を取らせていった。
なるほど。20人グループを3つ作っておいてそれぞれのグループでトーナメントをやって、
そのグループの優勝者同士でまたデュエルをするってわけか。
「もう分ったとは思うが三つのグループ内でそれぞれ最強を決めてもらう。
そして最後にクラス最強を決めるというわけだ。ではAグループはアリーナの右半分、
Bグループは中央、Cグループは右半分で行え。では移動を開始する」
先生がそう言うと同時に全員が立ち上がってデュエルディスクとデッキを持ち、
教室を出てアリーナへと向かっていった。
「高槻」
俺もアリーナへと向かおうとした時に先生に後ろから呼ばれ、立ち止まった。
「なんですか?」
「推薦したいと思っていたのはお前だ」
「……お、俺ですか!?」
「あぁ。どいつもこいつも将来のこと、成績のことしか考えずにデュエルをしてないからな。
この学園で本当に心の底からデュエルを楽しんでやっているのはお前くらいなものだ。
これから先、いろいろと苦難があるだろうがその心を絶対に失うなよ。失えば、
お前もあいつらとおなじ状態になる。言いたいのはそれだけだ。おまえも行け」
「は、はい」
先生の話を聞き終わった後、俺も教室から出て小走りでアリーナへと向かった。
そう言えば森でサイバーデッキのおっちゃんにも似たようなこと言われたよな……ま、いいか。
教室から出ておよそ500メートルほど歩き、別会場でアリーナと校舎を繋いでいる通路を通り、
アリーナの中へと入るとすでに数人の生徒がデュエルを行っていた。
「あ、高槻君! こっちこっち!」
声がした方向を向くとそこには今日はいつもと違って肩くらいまでの長さの髪を、
ゴムで1か所で縛って一本の紐のようにだらんと垂らしている山本さんがいた。
女の子って髪型一つで雰囲気全体が変わるよな。
何というか今日の山本さんはいつもよりも真剣さを感じる。
「もしかして初戦の相手って山本さん?」
「そっ! 手加減なしで行くからね!」
「それはこっちのセリフだ!」
「「デュエル!」」
『LP4000vsLP4000』
「私のターン! 私は魔法カード」
「ちょちょ! ドローフェイズ飛ばせないって」
「あ、そうだった。ドロー!」
大丈夫かこの子。ドローフェイズ飛ばすって初心者でもやらないようなミスだぞ。
「ん~と。私はペンギンソルジャーを攻撃表示で召喚!」
『ATK;750 DEF;500』
目の前に小さな剣を持ったペンギンが召喚された瞬間に俺は唖然とすると同時に、
入学する場所を一瞬間違えたのかとも思った。
ペンギン・ソルジャーは裏側守備でセットし、表側にすることで、
効果が発動するリバースモンスターでその効果はフィールド上のカードを、
二枚まで持ち主の手札に戻すことができるというなかなかに強力なもの。
なんでそれを表側、しかも攻撃表示で出すんだ。
「あ~山本さん? リバース効果って知ってる?」
「……あ、もしかしてペンギンちゃんってそれ?」
リアルで間違えた人初めて見たわ。ていうか思いっきり効果テキストにリバースって、
書いてあるだろ……正真正銘の初心者ちゃんか……それでよく、ここに入れたな。
「えっと、じゃあ……罠カードを伏せてターンエンド!」
初心者がやることその①;伏せたカードの種類を言ってしまうこと。
俺もよく昔はそう言いながらリバースカードをセットしてたもんだ……。
「俺のターン。ドロー……俺は連鎖―――――シルバー・ナイトを特殊召喚!」
『レベル5。ATK;2000 DEF;200』
光があふれ、そこから銀色の甲冑に身を包み、銀の槍を持った騎士が出現した。
「あり? レベル5なのに生贄いらないの?」
「そう言う効果なの。相手にモンスターがあり、自分のフィールド上にカードが何もない時、
生贄なしで特殊召喚できるっていうね。俺は連鎖――――シルバービーストを攻撃表示で召喚!」
『攻撃力1800。守備力200』
「シルバービーストのモンスター効果発動! さらにそれにチェーンして、
シルバーナイトの効果も発動! まずはチェーン2の処理。シルバーナイト以外の、
連鎖モンスターが召喚されたとき相手に400ポイントのダメージを相手に与える!」
「あわわわ!」
「さらにシルバービーストの効果により、俺は連鎖の剣を手札に加え、発動!
シルバーナイトに装備することで攻撃力が500ポイントアップし、
チェーンが組まれるたびにこのカードにカウンターを乗せ、
三つ取り除くことで相手に500ポイントのダメージを与える。
行け、シルバービースト! ペンギンソルジャーを攻撃!」
銀色の毛並みの獣が空高く跳躍し、落下の勢いを利用して両腕の鋭い爪で相手を切り裂くと、
ペンギンソルジャーが真っ二つにされ、
光の粒子となってその差額分のダメージが山本さんを襲った。
「そしてシルバーナイトで攻撃!」
「きゃぁぁ!」
銀色の甲冑を身に纏い、剣を手に持った騎士が駆け出し、山本さんの目の前まで行くと、
剣を十字を描くようにふるい、相手を切り裂くと、
シルバーナイトの攻撃力分だけ彼女のライフが削られた。
「俺は一枚伏せてターンエンド」
『LP150vs4000』
「よくもペンギンちゃんを~。私のターン! ドロー!」
まあ、ペンギンソルジャーの効果を熟知していたら、
ダメージを受けずにターンを終えられたんだけど。
「ここから反撃しちゃうんだからー!」
「いや、ごめん。もう終りなんだ。チェーンブラストを発動。
相手に500ポイントダメージを与える」
「うっそ~」
リバースカードが発動し、フィールド上にあるチェーンブラストの絵柄から光が放たれ、
山本さんに直撃すると150あった彼女のライフポイントを0に持っていき、
デュエルが終了し、フィールド上のモンスターたちが消滅した。
「はぁ。負けちゃった……でも、頑張ってね!
君が代表になったら私の新聞に載せてあげるから!」
「え、新聞部なの?」
「うん。タイトルは新聞部のエースを倒した新入生! なんてどう?」
新聞部のエースが山本さんなら平の部員の実力はどうなんだという疑問が抱いたが、
とりあえずその疑問は一生聞かないことにした。
二年、三年になった頃にすごい化け物デュエリストに化けることだってあるし。
「ところでこれ、どうやってんの?」
「ん~。真白君によると勝った人同士で戦うらしいよ。ほら、あれが真白君」
山本さんが指を指している方向を見るとそこには黄色いコートを着た男子生徒がいて、
そのフィールドにはホルスの黒炎竜、そして王宮のお触れがあった。
お触れホルスデッキか……となるとホルスの黒炎竜が出てきた時点でそれを潰すか、
手札に戻すかしないと面倒だな。
「結構なお金持ちの家でね。ほらホワイトカンパニーってあるでしょ」
ホワイトカンパニー……デュエルモンスターズ関連の会社の中で急成長を遂げている会社か。
つまりあいつはその会社の御曹司か何かか……それにしては、
金持ちって雰囲気を一切感じないんだけどな……それどころかどこか、
田舎っぽいって言ったら失礼だけどどこかほんわかした雰囲気を感じるんだよな。
「ちなみに早くもブルー寮にランクアップに最も近い生徒だって先生から評されてるんだ。
カッコいいよね~。お金持ちの家の生まれなのに、
そのことを鼻にかけていないというか。それでもって相手をリスペクトするデュエルの仕方も」
そう話している山本さんの目はすでに御曹司の方に向いており、心なしか、
雰囲気がポワポワとピンクなものになっているようにも感じられる。
が、それは山本さんに限る話じゃなくて周りにいる女子生徒に共通することだった。
「僕は手札から守備封じを発動し、アステカの石像を攻撃表示に変更!」
魔法も罠も封じ込められた相手はアステカの石像にミストボディを装備して、
持ちこたえようとするが守備封じを発動され、攻撃表示にされてしまった。
ホルスのレベル8の攻撃力は3000対して相手のライフはすでに2000以下。決まったな。
「バトルだ! ホルスでアステカの石像を攻撃!」
ホルスが銀色の口を大きくあけるとそこから炎が放出され、アステカの石像に直撃し、
その後ろにいた相手プレイヤーにまで炎が飛び火し、ライフを削りきった。
「ありがとう。良いデュエルだったよ」
そう言いながら真白は笑みを浮かべ、対戦相手に近づいて手を差し伸べ、
相手と固い握手を交わした。
その光景を見ていた周りの女子生徒たちは釘付け状態になっており、
同性の男子も尊敬の念らしきものを抱いているように見えた。
……まあ、確かに爽やか系の男子だよな。
いまどきの男子みたいにワックスなんかを使って髪の毛をいじっている様子はないが、
身だしなみには気を付けているらしく、普通は留めないであろう第一ボタンもしっかりとめ、
靴下も派手な色ではなく単調な黒色のもの。
「次の対戦相手は君かな? よろしくね」
そう言い、近くにいた女子生徒と握手を交わしてから互いに距離を取って対面し、
デュエルディスクを展開し、デュエルを開始した。
「えっと、君が高槻君?」
「あぁ、もしかして次の相手?」
「うん。私はルシエル・クロックス。ルシでいいよ」
「おっけー。じゃあ、ルシ。楽しいデュエルをしようぜ!」
「「デュエル!」」
「今日の晩御飯ですよ~」
「んにゃ~」
日課となった寮長の餌やりを行いながら部屋の隣に設置されている小さな食事室で、
俺の晩飯を作りつつ、テーブルの上に置いた俺のカードたちを眺めていた。
今日買った新作パックでグレイブフォースも手に入れられたし、本格的にベビーマジシャンと、
アダルトマジシャンにはデッキに入ってもらいますかね。
グレイブフォースが手札に来た時用の対策のカードはもう既に打ち出の小槌があるから良いとして、
問題はグレイブフォースの効果で誰を召喚するかだ。
「おっと。できたかな」
デッキのことを考えつつもフライパンの上で良い色になった肉を皿の上に盛り付け、
椅子に座っていただきますをした後に俺の食事が始まった。
「ビーストハイパーを特殊召喚してもいいんだけどハイパーモードの効果で出さないと、
もともとの攻撃力が半分になるからな~。やっぱりグレイブフォースで送るのはこいつかね~」
グレイブフォースの隣に置いているチェイン・カオス・ドラゴンを見ながらそう呟いた。
別にこいつでもいいんだけど……なんだかな~。
連鎖邪龍・チェイン・カオス・ドラゴンの効果は2つ。
召喚ルール効果も含めると3つ。
まずは連鎖モンスターを2体墓地へ送って特殊召喚できるという召喚ルール効果。
2つ目は自分の魔法・罠カードゾーンのカードを墓地へ送ることで、
相手の罠・魔法の発動を押さえつける効果。
そして最後の効果はデッキから連鎖モンスターをチェーン数が10になるように墓地へ送ることでこのターンのみチェーン数を10にする。
……ただ、一番下の枠に文が1行入りそうな空欄があるんだよな。
エラーカードか?
「カードを見る限りそうなるわね」
「ぶふっ!」
突然、後ろから声が聞こえ、咀嚼していたモノを思いっきり吹きだしてしまった。
噴き出す直前に下を向いたからカードにはかからなかったものの折角の寝まきが汚れてしまい、近くにあった布巾で拭くをふきながら後ろを振り返ると絵画セットを持った先輩だった。
「あ、あんたは……そう言えば名前聞いてない」
「ノゾミ。日本人っぽい名前だけど列記としたアメリカ人よ。
まあ帰化してるんだけどね」
「なんでノゾミさんがここに」
「……ちょっと相談があってね。聞いてくれる?」
「……もちろんです」
先輩の真剣な雰囲気に押され、俺は頷いて先輩の話を聞くことにした。
ようやく夏休みです。更新再開です