翌日の晩、俺はブルー寮にあるノゾミさんの部屋にお邪魔しており、望遠鏡を使って外の様子を見ていた。
昨日の晩に先輩からされた話……それは最近、決まって夜の9時頃に誰かに、
見られている気がしてならないらしくその犯人を俺に見つけてほしいということだった。
それにはっきりと先輩が夜の暗がりで誰かがいるのを見たこともあるらしい。
まあ、レッド寮の俺がブルー寮に入る時、なんか凄まじいほどの場違い感と、
ブルー寮の生徒からの冷ややかな目先を感じたけどな。
にしても……。
「ここは高級リゾートホテルの一室か」
設置されているベッドはホテルなどに設置されているようなお高いベッド、
机も世界で有名な会社が作っている超お高い勉強机、そして家具、テレビ、すべてが高級品でしかも一室ごとにバルコニーまでもが標準装備されている。
ほんとにブルー寮の前に来た時は一瞬、ホテルに連れてこられたのかと思ったくらいだ。
「にしても……やっぱり、絵が好きなんだな~」
壁には先輩が書いたと思われる多くの絵が額に入れられた状態で飾られており、
そのどれもが精霊だったり、ドラゴンだったり、はたまた剣を持った騎士だったりする。
「……これって」
壁に飾られている絵を1枚ずつ見ているときにふと、見たことのあるモンスターが書かれた絵を見つけ、
思わず見いるとようやくそのモンスターが何なのか理解できた。
他のは先輩のオリジナルのモンスターの絵なのになんでこれだけ現存してるモンスターの絵なんだ。
「FGD……ドラゴン族デッキの切り札」
絵に描かれているのは赤、青、黄、緑、黒の体色をしたドラゴンの首が一つの体から伸び、
それぞれの口から破壊光線を今にも吐き出そうとしている瞬間の様子だった。
何故か、この絵だけは異様なまでに鮮明に描かれており、FGDの目の前にはキラートマト、
ドル・ドラなどの凶悪な見た目のモンスターたちが描かれていた。
……なんかまるで悪のモンスターを倒す正義のモンスターみたいな描かれかただな。
「どうかした?」
「いえ、なんかこのFGDだけ異様に丁寧に描かれているなって」
「まあね。そのモンスターは私が尊敬する人が使う切り札だから」
なるほど……その尊敬する人もドラゴン族デッキを愛用する人なんだな。
「そろそろだわ」
そう言われ、壁に身を隠しながらコソッとバルコニーの外を見渡すが暗闇ということもあり、
怪しい人影は見つからない。
まずいな……このままじゃ犯人に逃げられる……そうだ。
(先輩、懐中電灯あります?)
ボソボソと先輩にだけ聞こえる声でそう言って懐中電灯を借りてバルコニーの外に光を当てた瞬間、
ほんの一瞬だけだが木々が揺れる音が聞こえた。
「そこかっ!」
音がした方向へ光を当てると一目散に逃げていく犯人の後ろ姿が一瞬だけ見え、
2階ほどの高さのバルコニーから飛び降り、犯人の後を追いかけていく。
「待て! 変態野郎!」
草木をかき分けながら犯人を追いかけて走りまわること約5分、断崖絶壁の崖で犯人を見つけ、
引き返そうとしている犯人の前に俺が立ちふさがった。
犯人らしき人物にライトの光を当てると犯人の性別はよく分からないけど、黒いサングラスをかけ、
全体的に黒い服を纏った姿が見えた。
「もう逃がさねえぜ。ノゾミさんの部屋をのぞいていたのお前だな! この覗き魔!」
「お、おまえこそ誰だ! ノゾミさんの何なんだ!」
低い声……まさしく変態男だったわけだ!
「俺はノゾミさんの後輩の高槻優斗だ! 年頃の女の子を困らせやがって!
とにかく! 姿を現しやがれ!」
「お断りします!」
「っ! おい!」
変態野郎はそう言うと断崖絶壁の崖から飛び降りた!
慌てて追いかけて崖の下をライトで照らしてみるが光が弱すぎるのかあまり照らせず、
ただ単に波が崖にぶつかる音しか聞こえてこなかった。
「くそ! ここまで追い詰めておきながら……ん? これは」
ライトの光が地面に当たった時、一瞬だけ何かが落ちているのに気付き、
そこへライトを当てて確認してみると落ちていたのは魔法カードだった。
「…………とにかく、戻らねえと」
拾ったカードをポケットにしまい、ブルー寮のノゾミさんの部屋へと向かった。
翌日のお昼頃、ミッシェル先生担任のクラスの俺たちはクラス代表を決めるべく、
ただひたすらデュエルを行っていた。
俺はと言えば順調に勝利しており、今戦っている相手に勝利すれば俺のグループの代表が決まる。
「連鎖邪龍・チェイン・カオス・ドラゴンの効果発動! 自分の魔法・罠カードゾーンに存在するカードをすべて墓地へ送り、このバトルフェイズ中に相手は魔法・罠カードを発動することはできない!」
「なっ! そんな!」
「バトル! チェイン・カオスでプレイヤーにダイレクトアタック!」
チェイン・カオス・ドラゴンの開かれた大きな口に闇が凝縮されていき、
それが吐き出された瞬間、漆黒の破壊光線が相手に直撃し、爆ぜると同時に周囲に闇がばら撒かれた。
こいつを使い始めてからというもの連戦連勝が続いていた。
チェイン・ドラゴンよりも召喚しやすいし高攻撃力だからフィニッシャーにもなるし、
攻撃する前に罠・魔法カードを無効にもできるから除去されることも少ない。
「っしゃぁ! 俺の勝ちだ!」
「くそっ! なんで俺が落ちこぼれのレッドなんかに!」
これで俺が入っていたグループの一番上は俺に決まった。
あとの二つのグループは知らないけどたぶん、一つは噂の真白だろうし、
それにまだこのクラスの連中の名前、数人しか知らないからな。
「お前、なんかズルしただろ!?」
「してねえよ。デュエルでズルなんか俺はしねえよ」
「ありえねえ! イエローの俺がレッドに負けるなんて!」
落ちこぼれと称されている俺に負けたことが相当腹立たしいのか黄色い服を着た男子が鼻息荒く、俺の胸倉を掴んでくるが俺はそれを窘めながら掴んできた腕を払った。
口には出さなかっただけでどうやらほとんどの連中は俺が所属したレッド寮を落ちこぼれの受け皿、そんな風に考えているらしい。
これだったらまだ山本さんたちみたいな言い方の方が俺としては良い。
「ねえ、真白君。苦戦してない?」
そんな声が聞こえ、そちらのほうを向いてみると真白ともう一人の生徒がデュエルをしており、ライフは互いに1000。だが真白のフィールドには王宮のお触れとホルスの黒炎竜レベル6しかない。
なんで進化させないんだあいつ……レベルアップくらい三枚積みしてるだろ。
相手の場にいるモンスターは守備力3000の千年の盾にミストボディを装備している。
そして真白が光の護封剣を発動したらしく、二人の間に光の剣が二本、立っていた。
……つまり、レベルアップが来る前に相手があの壁を立てたのか。
それでもターンは相当経ってるからレベルアップがデッキに来てもいいんだけどな。
「真白さん、やっぱり三枚積みじゃなかったせいだろ」
「いや、真白さんによると落としたらしいぞ」
「マジかよ」
周りの奴らの話を聞く限りではあいつはレベルアップを三枚積みしていなかったらしい。
レベルアップってノーマルの魔法カードだからパックを買えば当たるだろ……なんで、
あいつパックを買ってまでして三枚用意しなかったんだ。
それにホルスのレベル6って魔法の効果を例外なく全て無効にするから突進とか巨大化とかで、自身を強化することはできないしな。
それに王宮のお触れも発動しちゃってるから相手モンスターを除去しようにも、
罠が発動できない状態だし。
…………そういえば昨日拾ったカードよく見てなかったけどもしかして。
ポケットに入れていたカードをちらっと見てみるとそれはレベルアップだった。
……まさかあいつが覗き魔……いやいや。レベルアップなんて魔法はLvモンスターを使う奴なら一枚入れてる魔法カードだし、あいつしか持っていないなんてことはないだろ……でも現実に今、あいつは苦戦してるわけだし。
それに落としたって……偶然ということで片付けるにはできすぎている気が。
「僕は速攻魔法・サイクロンを発動し、王宮のお触れを破壊!」
相手がサイクロンを発動し、王宮のお触れを破壊して罠カードの制限がなくなった。
「そして僕は千年の盾を生贄に捧げてエメラルドドラゴンを召喚! ターンエンド」
ホルスを上回る攻撃力を持つモンスターが召喚されたな。どうすんだ、あいつ。
「ドロー! 僕は手札から魔法カード、死者へのたむけを発動!」
手札を一枚墓地へ送り、モンスターを破壊してガラ空きになった相手にホルスでダイレクトアタックし、真白はなんとか勝利を収めた。
その様子を見ていた周囲の生徒たちはまるで自分のことのように胸をなでおろしていた。
…………まさかな。
「これでようやく三人が決まったな」
後ろから声が聞こえたかと思えば俺の横を通り過ぎてミッシェル先生が歩いていき、
フィールドの真ん中に立って俺たちを見下ろした。
「三日目の明日の放課後より、クラス代表を決めるデュエルを行う。
勝利した数が最も多い奴がクラス代表だ。今日は解散!」
その声とともに授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響き、次々と生徒たちが出口へ向かっていく。
「真白、ちょっといいか?」
「ん? あぁ、良いよ。先に行って場所取っといて」
そう言うと女の子たちは若干、がっかりしながらもそそくさとアリーナから出て行った。
「あ、君とは初めてだったよね。僕は真白。よろしく」
「高槻優斗だ。よろしく……ところでなんで今日、レベルアップ使わなかったんだ?」
アリーナから俺たち以外の人がいないのを確認し、真白に対して質問をぶつけた。
「あぁ、あれね。手札に来なかったんだよ」
「ふ~ん。一枚しか入れてないから?」
「まあね。僕の考え方で1枚しかデッキに入れてないんだ」
「…………話は変わるけどさ。実は昨日、覗き魔が出たんだよ」
「ほ、本当!? それは大変だ。犯人は捕まったのかい?」
「いや、まだなんだけど……その時に犯人が落としたカードがこれなんだよ」
俺はそう言いながらポケットに入っているレベルアップを取り出すと、真白は一瞬、
驚いた表情を浮かべるがすぐさま普段の表情に戻った。
……この感じだとこいつか。
「さっき、周りの連中がお前がレベルアップのカードを落としたって言ってるんだけど……まさか、この落としたカードの持ち主が真白、だなんてないよな?」
「もちろんだよ! 僕がそんな反社会的なことするはず……ないじゃないか!」
今の間は何だったんだという突っ込みをしたかったなここはなんとかグッとこらえた。
「……ありがと。時間取らせて悪かったな」
「う、うん。じゃあね」
そう言い、真白は額に汗を滲ませながらアリーナから出て行った。
状況からするにあいつなんだろうけど……なんか微妙なんだよな……それに1枚しかデッキに入れてないのも自分の考え方からみたいだし……ま、良いか。
「腹減ったー!」
俺も空いた腹を満たすべく、アリーナを出てレッド寮へと向かった。