ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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第五話『かごめとまやかし町の真実』③

 共同墓地から離れて、私たちはななかさんと一緒に付近のファミレスに来ていた。

 といっても私の身体を操作しているのはあくまでみことさんであって、私自身は意識として外の世界を見ているだけなんだけど……。

 ななかさんは逃げ出そうとしたり、また攻撃したりするそぶりも見せることなく、衣装を制服に戻して、素直に同行してくれた。ちなみに逆沢さんは相変わらず、手品師みたいな燕尾服のままだった。

 今回の話し合いで、みことさんのいう誤解が解けて、本当にファミレスでお茶をするくらいにななかさんとも仲良くなれたらいいな。

 

「そんで、ななみよぉ。オメーのお仲間たちとはいつ合流すんだ?」

 

 ななかさんと並ぶように席に着くなり、逆沢さんがそんなことを唐突に言い出した。

 

「……それはどういった意味でしょうか?」

 

 いきなり意味合いが分からない発言をされて、ななかさんは質問を返した。

 だけど、逆沢さんはそう返されると分かっていたようで、あらかじめ用意していたように間を空けることなく言い放った。

 

「とぼけんなって。俺たちと近くのファミレスに行くって話になった辺りで、魔法少女の服ん時、無駄に(なげ)(そで)(イジ)ってたろ? 大方、SNSで仲間に連絡取って奇襲させようって腹だ。(ちげ)ぇか?」

 

「……魔力の介在しない通信手段ならあなたの目を()(くぐ)れると考えたのですが不覚ですね」

 

 静かに目を伏せて言うななかさんの言葉から考えて、逆沢さんの推理は当たっていたのだろう。

 ななかさんが座った後、塞ぐように自分も座って、逃げ道を潰してから言う辺り抜け目がない。

 みことさんはななかさんの顔を真正面から見つめ、一言。

 

「残念だったね、ななかちゃん。せっかく、お話をしてあなたの誤解を解いてあげたかったのに」

 

 もうお(しま)いね、と言うようにみことさんは彼女に言った。

 ……やっぱり、ななかさんとは決別してしまうんだろうか。

 そう思った時。

 

「ん? いいじゃねーか。全員ここに呼べよ。どうせ、十人も居ねぇんだろ?」

 

 一人自由にメニュー表を広げて、料理を眺めていた逆沢さんは何でもないように言う。

 自分たちを狙っている集団を呼び出せという、また突拍子もない発言に当然、みことさんは怒った。

 

「ちょっとアキラちゃん!」

 

「みこと。考えてみろ。俺サマがその辺の魔法少女に負けると思ってんのか? ななかちゃん程度がダース単位で攻め寄せてきても無双すんぞ? 俺サマはべらぼーに強ぇからな」

 

 メニューから目を離し、みことさんに、つまり私の視界に不敵な笑みを送る。

 確かに逆沢さんの強さはこれまで何度も見てきたけど、苦戦するようなことは一度もなかった。

 それはみことさんも同じだ。はあ、と大きな溜め息を聞かせて、納得したように言う。

 

「分かったわ。でも、何があってもかごめちゃんの身体は守ってね。傷一つ付けたら許さないから」

 

「おう。でだ、このデミグラスソースのハンバーグセットと、ステーキセットで迷ってんだが、両方頼んでいいか? ライスは大盛りで。あと、ドリンクバーとスープバーも」

 

「両方とも単品で二千円超えるから絶対駄目。かごめちゃんの財布にダメージを与えることも許さないわ。水だけで我慢して。備え付けのシュガースティックとフレッシュは使っていいから」

 

 やっぱり、お金は私の財布から支払われるんだ……。

 今回はみことさんがとめてくれたけど、逆沢さんに財布の中を空っぽにされかねない。

 

「ケチンボめ」

 

「……何故ですか?」

 

「ん? このハンバーグセットとステーキセットに目を付けた理由か? 見ろ、このセットは期間限定のオモチャが付いてくるらしいんだ。このオモチャは全六種類なんだが、同時に頼むと被りなしで……」

 

「そうではありません! どうして、この状況で私の不義理な行為を見逃し、あまつさえ仲間の召集さえ良しとしているのか。その理由を聞いているのです!」

 

 声を張ったななかさんの言葉に対して、逆沢さんはキョトンとした表情で答えた。

 

「何だ、んなことかよ。オメーら程度のがいくらか増えたところで問題ねぇし、それに人数多い方が色々話も聞けんだろ?」

 

「話とは? 何の話を聞こうというのですか?」

 

「この神浜市をどう思ってんのか、滅んだ方がいい街だと感じるかとか、大体その辺だ。俺サマたち、それを聞きに回っててよ」

 

 逆沢さん、その話忘れていなかったんだ。

 てっきり、ななかさんの襲撃で神浜巡りがうやむやになって、忘れ去られたものだと思っていた。

 

「あまりよく分かりませんが、つまりは現在の神浜市について意見を知りたいと」

 

 ななかさん自身は彼のざっくばらんな説明にあまり納得し切れていないようだった。

 程なくして、ファミレスの入り口の扉から三人組の女の子が現れる。

 

「あ。居た居た。おーい、ななか!」

 

 三人の内、銀髪のベリーショートの女の子がななかさんを見つけて、こちらへやって来る。

 後ろに居る緑髪のミディアムヘアの子と、瑠璃色の髪を三つ編みツインテールにした女の子もその後に続く。

 

「三人だけかよ。ななか、オメー、思ったより人望ねーのか?」

 

 失礼極まりない発言を躊躇なく吐く逆沢さん。

 この人の辞書にブレーキという単語はないのだろう。多分、あっても破り捨ててそう。

 

「お前。よく分からないけど、それ以上ななかの侮辱、許さないヨ」

 

 一番最初に反応したのは瑠璃色髪の三つ編みツインテールの女の子だった。

 カタコトの発音だが、イントネーション自体に辿々(たどたど)しさは感じられない。

 日本語が下手というよりはそういう喋り方なのだと感じさせた。

 

「ほう。許さないとどーなんだ?」

 

「……かなり痛い目見るネ」

 

 制服姿のまま、彼女はカンフー映画に出てくるアクション俳優のような構えを取る。

 ニヤリと野性味のある笑みを浮かべて、逆沢さんは席から立ち上がった。

 

「いいなぁ。見せてくれよ、痛い目。今ちょうど切らしてたとこなんだよ」

 

 一触即発の雰囲気が立ち込める。

 だけど、そこでピシャリとななかさんの制止の声が飛ぶ。

 

「二人とも、そこまでにしてください! あなたの目的は話を聞くことなのでしょう? 美雨(メイユイ)さんも挑発するのはそこまでにしてください。あきらさんとかこさんも見てないで止めに入ってください」

 

「ななかがそこまで言うなら……引き下がるネ」

 

 ななかさんが止めると彼女──美雨(メイユイ)さんも構えを解いた。

 あきらと呼ばれた銀髪ベリーショートは少しバツが悪そうに頬を掻く。

 

「ごめんごめん。止めに入るタイミング見失っててさ」

 

「すみません……」

 

 喧嘩する気満々だった逆沢さんは相手に戦意を収めたと知ると、呑気な表情に戻る。

 

「おん? 何だ、やらねーのか。やらねーならいいや。仲良くお喋りしようぜ。ななか、詰めてくれ」

 

「いや、お前、向こうの方行くネ。ななかの隣、ワタシたち座る場所ヨ」

 

 彼は三人組によって、みことさんの隣の席まで追いやられる。

 反発するかと思いきや、別段文句を言わずに場所を移動に応じていた。

 身勝手なところはあるものの、あれで最低限度の社交性は持ち合わせているようだった。

 

「ななか、オメー意外に慕われてんのな。ちと見直したぜ」

 

 対面席に移った逆沢さんは感心したように褒めてみせた。

 腕組みをした美雨(メイユイ)さんはふんと鼻を鳴らして、そっぽを向く。

 代わりに苦笑いをしたあきらさんが話し出した。

 

「言い方がキツいから誤解されやすいけど、ななかって結構気遣いの人だからね。あ、そうだ。自己紹介がまだだったよね。ボクは志伸(しのぶ)あきら。さっきあなたと揉めてたのが(チュン)美雨(メイユイ)、中国拳法の使い手。で、こっちに居る彼女が夏目かこ」

 

「夏目かこ、です……。よろしくお願いします……」

 

「ほお。あきらに、かこか。奇遇だな、実は俺サマも下の名前はアキラなんだわ。俺サマは『逆沢』。気軽に逆沢って呼んでくれて構わねー」

 

 そう言えば、逆沢さんの下の名前も『アキラ』だった。正しく言うなら、中沢さんの名前なんだろうけど。

 

「んで、こっちはかごめ兼みことだ。一つの身体に二人分の意識が入ってる状態なんだわ。あ、ちなみに身体はかごめのだぜ」

 

「どうも初めまして。今は私、瀬奈みことが表側に出てるの。かごめちゃんもお話は聞いてるけどね」

 

 逆沢さんのかなりざっくりとした説明に異を唱えることもなく、みことさんは簡潔に自己紹介する。

 この説明でちゃんと伝わるのか、不安だ。

 

「それって二重人格ってこと?」

 

「うーん。どっちかっていうとかごめちゃんの身体に私の人格が間借りしている形なんだけど。対外的にはその認識でいいかな。詳しく説明すると話す方も聞く方も大変だから」

 

 あきらさんの問いにみことさんは少し考えた後、(うなず)く。

 確かに二重人格と言われると違和感があるけど、外側から見たら同じように見えるかもしれない。

 

「まあ、私たちことはこのくらいにして。皆のお話聞かせてくれない? アキラちゃんが言ってたでしょ……ああ、こっちに居る方のアキラちゃんね。今の神浜市にどういう想いを寄せているのかを」

 

 みことさんが提起すると、前に座る四人の内、かこさんが小さく手を挙げた。

 

「神浜市に対する意見、でしたよね? じゃあ、私からいいですか」

 

「どうぞ」

 

「私の個人的な主観でいいなら、この街は治安がよくないって感じます。私のお父さんが『夏目書房』っていう古書店を経営しているんですけど、土地の強引な買収、いわゆる“地上げ”をされそうになったことがありました」

 

 とつとつと彼女が語り始めた内容は想像していたよりも重たい話だった。

 

「私の家だけじゃなく、その周辺の一帯が地上げの標的にされしまって……お父さんは地域ぐるみで土地買収に反対していたんですけど、それが気に入らなかったのか嫌がらせも頻繁にされました。最終的に私の家は放火されて、全焼しました」

 

「治安ヤベーとかそういうレベルじゃねぇだろ……。親御さんは無事だったのか?」

 

 あの傍若無人な逆沢さんでさえ、かこさんの話す内容に引いていた。

 かこさんの両親の心配までしているほどだ。

 

「お父さんとお母さんは無事でした。けど、それが原因でお父さんはふさぎ込んでしまって……あ、でも、魔法少女の契約の時の願い事で今は元通りになってます。放火があったことそのものがなくなったみたいで」

 

「そうか。そいつはよかったじゃねーか」

 

 それを聞いて、胸を撫で下ろす逆沢さん。

 意外とまともな部分が垣間見れた一瞬だった。

 一旦、かこさんの話が終わると今度はあきらさんが話し始めた。

 

「じゃあ、次はボクの番かな。ボクは参京区を中心にトラブルシューターみたいなことをやってるんだけど、確かに治安はよくない街かもね。でも、神浜市に住んでいる人たちには、良いところも一杯あると思うんだ」

 

「例えば、どんなとこだ?」

 

「そうだねー。具体的には……あ! 助けてあげた時、皆気持ちよくお礼を言ってくれるところだね。ボクは人助けをすることが多いんだけど、どの人もお礼の言葉だけはしっかり言ってくれるんだ」

 

「……普通、助けてくれた相手に礼ぐらい言うモンなんじゃねーか? 別に金取ってやってるワケじゃねーんだろ?」

 

「まあ、そうだけどさ。でも、ちゃんとお礼を言ってくれるのは嬉しいものだよ」

 

「そりゃ、何も言わないよりはマシだと思うがよ……。ま、オメーがそこをこの街のヤツらの良いとこだっつーなら、そうなんだろうな」

 

 こういう時、逆沢さんは相手の意見を否定しない。

 自分勝手で、暴力的だけど、相手の気持ち自体は尊重してくれる。

 私が“神浜を滅ぼしたくない”って気持ちも()み取ってくれた。

 自分の欲求に素直な分、相手の欲求も肯定的なのかもしれない。

 

「んじゃあ、次は……」

 

 頬杖を突いて、そっぽを向く美雨(メイユイ)さんを見てから──。

 

「ななか。オメーの意見を聞かせてくれ」

 

 逆沢さんはななかさんへ話を振る。

 

「ちょっと待つネ!」

 

「何ネ?」

 

 (いきどお)る美雨さんに、語尾を真似する逆沢さん。

 またわざと煽るようなことをして、この人は本当にもう……。

 

「この流れからいったら次、ワタシの番ヨ」

 

「いや、そうなんだろうけど、喋りたくなさそうだったじゃねーか」

 

「別に話さない、言ってないネ」

 

「じゃあ、さっさと話すネ」

 

「人の口調、真似するんじゃないヨ! ……ワタシは『蒼海幇(ソウカイヘイ)』言う南凪区にある組織の一員ネ」

 

 文句を言いつつも話をしてくれるらしく、美雨さんは語り出した。

 

「『蒼海幇(ソウカイヘイ)』は中国生まれの日本人によって創設された、戦後の闇市から発展した相互扶助組織ネ……」

 

「つまり、マフィアか?」

 

「マフィア違うヨ! 相互扶助組織言ったネ! そういう世間の無理解が私たち蒼海幇、傷付けて来たヨ!」

 

「お、おう……わりぃ」

 

 不用意な逆沢さんの発言に美雨さんは訂正を促した。

 私も一瞬だけ彼と同じことを思ってしまったので、心の中で「ごめんなさい」とお詫びする。

 

「分かればいいヨ。悪いことしてた大分昔の話ネ。今じゃ率先してお祭りや清掃活動して、地道に地域へ根付いた活動やてるネ」

 

「やっぱ悪いことしてたんじゃねーかよ。謝って損したぜ」

 

「黙るネ。いいカ。今の蒼海幇、“地域に愛される元マフィア的組織”ヨ」

 

「何だ、その“街を守る良いヤクザ”くらい矛盾した存在は。つーか、今元マフィアっつったな? 元とはいえ、やっぱマフィアだったんじゃねーか!」

 

「そんな地域の皆に慕われるステキ組織・蒼海幇にも崩壊の危機あたヨ……」

 

「聞けよ」

 

 逆沢さんの突っ込みをとうとう無視して、美雨さんは遠い目で話を続けた。

 

「三年前、南凪区である事件あたネ。密輸品に絡む犯罪組織同士が衝突。殺人事件にまで発展したヨ。警察は事件と無関係の蒼海幇の構成員が検挙してたネ。香港に住むワタシの父にも嫌疑が及んだヨ。全てを隠蔽する為に犯罪組織も警察も検察も、皆、蒼海幇に罪なすりつけたネ」

 

「何でまたオメーの組織が標的にされたんだ?」

 

「多分、都合良かたネ。裏で密輸組織と警察繋がってたヨ。ちょうどいいとこ居た蒼海幇に罪押し付けて、事件解決したことにする。それが一番楽だたネ。でも、やられた方溜まったものじゃないヨ」

 

「だろうな。んで、蒼海幇は崩壊したのか?」

 

「してないネ! 今も健在ヨ! ……ワタシの魔法少女の願い事使て、この件隠蔽して蒼海幇守ることできたネ」

 

「よかったじゃねーか」

 

「お前に言われるとなんか腹立つネ。とにかく、あきらの言う通り、気持ちの良い奴らたくさんこの街居るヨ。でも、かこの言う通り、悪意持てる奴もたくさん居る。この神浜はそういう街ネ」

 

 かなり壮絶な内容だったけど、最後の言葉は前の二人の話の総括として綺麗にまとめられていた。

 すっかり美雨さんに嫌われてしまった逆沢さんだったけれど、本人は特に気にした様子もなく、何度か頷いてから話を進行させる。

 

「んじゃあ、最後ななか頼むわ」

 

「私、ですか。その前に一ついいですか?」

 

 順番が回って来たななかさんは、話を始める前に目の前に座る私──いや、みことさんへと眼差しを向けた。

 凛とした鋭い瞳には好意的な感情は見出せない。

 萎縮してしまいそうになるが、彼女の瞳に反射する私の表情は飄々(ひょうひょう)とした笑みを浮かべていた。

 

「なぁに? ななかちゃん」

 

「瀬奈みことさん。あなたが先に述べた“誤解”とは何を指しているのですか?」

 

「それはもちろん、帆奈ちゃんのことだよ」

 

 ──空気が変わった。

 むっつりしていた美雨さんも、それを苦笑い気味に見守っていたあきらさんも、静かに話を聞いていたかこさんも皆。

 『帆奈ちゃん』という名前を出した途端、表情が凍り付く。

 

「皆、帆奈ちゃんの話に興味深々なんだね。じゃあ、聞かせてあげよっか? 私しか知らない帆奈ちゃんのお話」

 

 張り詰めた雰囲気の中、みことさんの声だけが場違いなほど楽し気に響いた。

 

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