ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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第六話『かごめとまやかし町の真実』④

 みことさんは(うた)うように語り始めた。

 それは更紗帆奈という一人の魔法少女の話。

 それは更紗帆奈という一人の友達の話。

 

「帆奈ちゃんは皆が思ってるより、ずっと普通の女の子だったよ」

 

 その台詞を皮切りに話し出した内容は、みことさんの大切な思い出話だった。

 帆奈さんと出会った時のこと。

 仲良くなるために散々空回りをしたこと。

 みことさんとはあまり好みが合わなくて、実は相性が合わないんじゃないかと心配になったこと……。

 

「いや、前置き(なげ)ぇーだろ。いつまで俺サマたちをオメーの赤裸々(せきらら)過去話(カコバナ)に付き合わせる気なんだよ」

 

 話の途中でとうとう逆沢さんの我慢が限界が訪れた。

 

「なあ、みことよぉ。オメー、もうちょっと簡潔に話せねぇのか?  犬と猫どっちが好きかだとか、好きなチョコ菓子がくるみ派閥かどんぐり派閥かだとか、明らかに本題と関係ねーだろ。それとも何か? このチョコ菓子の好みが感動の伏線になるんかよ?」

 

 私もちょっと思ってたけど、口に出すのは躊躇(ためら)われることを逆沢さんはズバズバ言っていく。

 やや(ひる)んだ声でみことさんが返答した。

 

「ふ、伏線にはならないけど……私と帆奈ちゃんの好みの相性が合わなかったってエピソードっていう……」

 

 ……ならないんだ。

 

「ならねーのかよ。んじゃ、端折(はしょ)れよ。折り畳め。カットしろ。スキップして進め」

 

「うう……。じゃあ、スキップして帆奈ちゃんが最期に私に言い残した台詞から始めるね」

 

「どこまでスキップしてんだよ、オメーは! チャプター機能ない昔のビデオテープかよ! それもうほぼクライマックスも終わって、ラストシーンじゃねーか! もうちょい刻んでけよ!」

 

 切れ味のある指摘でみことさんを一刀両断。

 ボケで光ると本人は言っていたけど、この人ツッコミの方が向いていると思う。

 視界に映るななかさんたちも凍り付いていた表情がすっかり氷解して、呆れ半分笑い半分になっていた。

 みことさんも逆沢さんも決して、ふざけている訳じゃないのに漫才じみたやり取りにしか見えないのだからしょうがない。

 

「言ってること矛盾してるよ~」

 

「してねぇ! 本題だけをピックアップしろっつってんだよ!」

 

「じゃあ、アキラちゃんの言う本題って何なの? 私としては帆奈ちゃんのことは全部本題だよ?」

 

「だ~か~ら~、オメーの話は相手の聞きてーことをちぃとも考慮してねぇんだよ。こいつらが聞きてーのは帆奈ってヤツの本質だろ。そこんとこ理解して話せっつってんだ」

 

「分かったよ。帆奈ちゃんの本質……本質ねぇ。うーん。それじゃあ、あそこから話そうかな?」

 

 みことさんはうんうん(うな)った後、何か(ひらめ)いたように話を再開する。

 それから語り出したのは、更紗帆奈という人物が起こした“非道な行いの数々”だった。

 彼女は魔法を使って魔女を操り、様々な悪事を起こした。

 被害に遭った人達の中にはななかさんたちも含まれていた。

 ななかさんのお父さんの弟子たちを惑わせ、『華心流』を常盤家から奪わせる。

 かこさんの実家の古書店を地上げ屋を操って放火させる。

 あきらさんの後輩を後輩たちを連れ去る。

 美雨さんが支えている蒼海幇や親しい商店街の人たちを地上げ騒動で危機に陥れる。

 これらはあくまで行いの一部だという話だったけれど、それでも充分過ぎるほどの邪悪な凶行。

 

「でもね、それは帆奈ちゃんなりの信念があっての行動だったみたい」

 

「……彼女にどのような信念があったと?」

 

 低く押し殺したようなななかさんの台詞からは、煮え(たぎ)る怒りを必死で抑え込んでいることが感じられた。

 他の少女たちも言葉こそ発さなかったものの、同じように感情を堪えている様子だった。

 そんな彼女たちを前にして、みことさんはいつもの軽い調子で喋り続ける。

 

「『悪役(ヴィラン)の心意気』って言ってたかな? 帆奈ちゃんは悪役(ヴィラン)である自分が戦って負けることで、この世界にもいいところがあるんだって、そう言ってた。正直、聞かされた私にもよく分からなかったよ」

 

 少しだけ悲し気な声で笑う。

 それはきっと、友達のことを最後まで理解してあげられなかったことへの自嘲。

 

「だけど、帆奈ちゃんは帆奈ちゃんなりの覚悟や信念があったんだよ。ただ単に意味もなく悪いことを続けてたって思われてるのは我慢できない。ちゃんと考えて、ちゃんと悩んで出した結果からの行動なんだから」

 

 そこまで話すと、ななかさんたちが(せき)を切ったように言葉を発する。

 

「だから、何ですか? 信念があれば、どんな行動しても許されるとでも? ふざけないでください! 彼女がやった悪行に何ら変わりはしない。むしろ、逆です。そんな理不尽な理由であれだけのことを仕出かした彼女を私は心から軽蔑します」

 

「ボクもななかと同じ意見だね。そんなことでこの街に厄災を振り撒いていたなんて許せないよ」

 

「私も同じ気持ちです。……みことさん。あなたにとっては大切なお友達なのかもしれません。でも、帆奈さんは大勢の人たちを不幸にした酷い人です」

 

「もう、お喋り大会はお終いネ? これ以上、戯言聞かされたくないヨ」

 

 突き刺すような言葉と一緒に彼女たちは一斉に敵意の視線を向ける。

 私だったら、俯いて頭を抱えてしまいそうな瞳に囲まれながら、みことさんは堂々と彼女たちを見つめ返す。

 

「許さない? それはこっちの台詞だよ。私は帆奈ちゃんを奪ったあなたたちを絶対に許さない。話してたら、思い出せてきたよ。あの時の怒りと憎しみをね。帆奈ちゃんへの()()も解けたことだし……アキラちゃん。もうやっちゃっていいよ~」

 

 呼ばれた逆沢さんは、待ってましたとばかりに凶暴な笑みを(たた)えた。

 

「やっとかよ! 待ちくたびれたぜ! ……だが、まー、その甲斐(かい)あって、お互いやる気満々ってワケだ。やっぱ相互理解ってのは大事……だ、よ、なぁ──っ!」

 

 バギンと激しい音がして、テーブルの天板が跳ね上がる。

 座った状態の逆沢さんが支柱から蹴り()がしたのだと気付くまで数秒かかった。

 天井付近にまで舞い上がった天板はランプ型の照明と衝突して、ガラス片を撒き散らす。

 雨のようにガラス片が舞い落ちる中、対面席に座っていた四人の姿は魔法少女の衣装らしき格好に変わっていた。

 蹴り飛ばされた天板がななかさんの真上に落ちてくる。

 それを見上げることもなく、白刃を振るった彼女に斬られ、二枚の板へ分断された。

 逆沢さんとななかさん。二人の間に転がった二枚の板切れはまるで両者を(へだ)てる境界線のように映った。

 近くの席に座っていた他のお客さんが悲鳴を上げる。

 別の席へ料理を運んでいた店員さんは驚いて固まっていた。

 “一体何が起きたんだ” “誰か警察を呼べ” “これだから大東区は”

 騒がしくなるファミレスの中で、ななかさんのよく通る凛とした声が響いた。

 

「逆沢さん。やはり、あなたも『私の敵』のようですね」

 

「あ? なーに言ってんだ、オメー。んなこたぁ、出会った時から分かり切ってただろーがよ。それともちぃと話しただけで仲良くなった気で居たんかよ?」

 

「……不思議でなりません。私の固有魔法は真の敵を見極める力。なのにあなたからは一向にその効果を発揮しません」

 

「そいつは俺サマの力が否定の魔法だからじゃねーか? どうにも常時発動型の魔法に対しては自動で消しちまうみてぇなんだわ」

 

 両手に漆黒のトンファーを生み出しながら、逆沢さんは答えた。

 ななかさんの瞳が鋭く細まる。

 

「『否定の魔法』……そして中沢さんと瓜二つの姿。では、あなたの正体は──果てなしのミラーズが作った中沢さんのコピー!」

 

「いや、別に騙してたワケでもねぇんだから、その『真実に名推理で辿り着いた私』みてーな口振り止めとけ。言いたかねぇけど、オメー……べらぼーにハズいぞ?」

 

 肩を竦めて軽口を返しているけど、ななかさんたちへ向けられた殺意は微塵も揺らいでいない。

 怒りも悪意もないのに、自然体でさっきまで会話をしていた相手に本気の殺意を抱ける彼が恐ろしかった。

 何より、あのコミカルなやり取りをしていた逆沢さんも、今こうして命の奪い合いを楽しんでいる逆沢さんも何一つ変化していないという事実が堪らなく怖かった。

 

「もう戯言聞きたくない言たネ!」

 

 真っ直ぐに伸びた三本爪の暗器を手元がすっぽり覆われた両手の袖から生やし、美雨さんは駆け出す。

 先手必勝というように身体を捻り、体重を乗せた斬撃を放つ。

 斜めに跳ねた美雨さんは空中で半回転し、遠心力と共に三本の刃を顔面へ目掛けて振るった。

 その身軽に宙を舞う姿はさながら海面から跳ねたトビウオ。

 当たれば、逆沢さんでも斬り刻まれる必殺の一撃。

 だけど、三本の爪が彼の顔へ届くことはなかった。

 

「……! 」

 

「そりゃ悪かった。なら肉体言語(こっち)で存分に語ろうや」

 

 トンファーの長い方の棒が、刃の隙間へ垂直に差し込まれ、止められていた。

 猫科の肉食獣を想起させる凄絶な笑みが逆沢さんから(こぼ)れる。

 まさか片手のトンファーのみで、それもこんなにあっさりと止められるとは思っていなかったんだろう。

 美雨さんの表情に一筋の動揺が走ったのが分かった。

 次の瞬間、彼女の身体が床へと叩き付けられる。

 払い退けるように、爪の間に差し込んでいた逆手のトンファーを真下へ思い切り振り下ろしたからだ。

 

「美雨!?」

 

「美雨さん!」

 

 あきらさんやかこさんが悲鳴じみた声で彼女の名前を呼んだ。

 

「やっぱり強いね。アキラちゃん(ウチの子)は」

 

 他のお客さんが逃げるように退店する中、空いた席に座って観戦しているみことさんは独り言なのか、私に対して話しかけているのかポツリと呟く。

 

「……でも、流石は魔法少女。受け身くらいは取れてるみたいだね」

 

 背中から床へ激突した美雨さんだったけれど、落下寸前で両手の暗器を光の粒に変えて、床を叩いていた。

 最初は意図が分からなかったけど、みことさんの言葉を受けて、あれが受け身だったんだと理解する。

 多分、床に背中が接触するとほぼ同時に、広げた両手で床を叩くことで衝撃を逃した……で合ってるのかな?

 横たわった美雨さんはすぐに転がって逆沢さんの近くから離れると、ハンドスプリングで身を起こした。

 

「けほっ、こほっ……なんて馬鹿力。ゴリラ並ネ……完全には威力殺せなかたヨ」

 

「それ、褒め言葉か? もっとこう、ライオンとかトラとか、そういうカッコ付く動物で例えろよ」

 

 相変わらず、雑談でもするかの気軽さで話す逆沢さん。

 だけど、かえって、それがどんな脅し文句よりも周囲を威圧する。

 

「美雨! 君、一人じゃ駄目だよ。この人、すごく強い……」

 

「私も、戦います!」

 

「ここは四人で戦いましょう。彼もそれをご所望のようですしね」

 

 ななかさんたちも構えを取った。

 ななかさんは、二振りの刀を。

 あきらさんは、両手の籠手(こて)を。

 かこさんは、穂先が凹型の金属板になっている槍を。

 美雨さんは、再び両手から三本爪を。

 それぞれが、武器を握り、逆沢さんと対峙(たいじ)する。

 

「おう。まとめて来いよ。ハーレムプレイをされてくれ」

 

「それじゃあ──全力で行くよ!」

 

 最初に前へ飛び出したのはあきらさんと、美雨さんの二人。

 籠手で覆われた拳と鋭い刃の三本爪が挟み撃ちする形で逆沢さんを襲う。

 

「てやあぁ!」

 

「ふっ!」

 

 あきらさんの右拳が彼の左頭部を捉えて、美雨さんの左の爪が彼の左脇腹を狙い定めている。

 どちらかの対応に対処すれば、どちらかの攻撃を受けざるを得ない同時攻撃。

 鉄拳か、爪刃か。防御か、回避か。二つに一つ。

 でも、逆沢さんはどちらも選ばない。

 そんな選択をする人間じゃない。そんな普通の答えを出す存在じゃない。

 獰猛な笑みを浮かべ、あきらさんの右拳を片方のトンファーで真下から突き上げた。

 ほぼ同じ瞬間にもう片方のトンファーで左の爪を叩き落とす。

 

「なっ!」

 

「く……っ!」

 

 だけど、そこへかこさんの構えた槍の先端から、緑色の光線が放たれる。

 あきらさんたちの同時攻撃を(さば)いていた逆沢さんに、真正面から撃たれた光線は(かわ)せない。

 それでも、逆沢さんの顔から笑みは消えなかった。

 右手のトンファーを手放すと、黒い布へと早変わりする。

 ひらりと舞った黒い布は一人でに広がり、緑の光線を遮る。

 光線が布に触れた瞬間、緑の光は初めからなかったかのように掻き消えた。

 

「……否定の魔法。とうとう使いましたね」

 

 空中を舞っていた黒い布が斬り裂かれ、その隙間からななかさんの顔が見えた。

 彼女はかこさんの光線に隠れて、直進していたんだ。

 逆沢さんが近接攻撃を弾き、遠距離攻撃を防いで無防備になった状態を狙うために。

 三段構えの戦術。

 真打ちはななかさんだった。

 いや、更に逆沢さんの両脇には初撃こそ防がれた二人が体勢を立て直し、身構えている。

 対して、彼は片方のトンファーを失っている。

 三方向からの攻撃に今度こそ対処できないはずだ。

 けれど、彼はなお笑みを絶やさない。

 

「そんなに否定の魔法(コイツ)が見たかったんか? んじゃあ……」

 

 迫る三人の攻撃を前にして、背後へ身体を傾け、左手のトンファーを握り潰す。

 黒のトンファーは砕けながら、金色のコインに変化した。

 

「──見せてやるよ」

 

 金色に光るコインが指先で弾かれる。

 一番最初に指弾の標的になったのは、あきらさん。

 とっさに右手に付いた籠手の甲でコインを跳ね除けようとして──彼女は倒れた。

 衣装が小豆色の制服に戻り、糸が切れた操り人形のようにその場に倒れ込む。

 

「あきらっ!?」

 

 そのただならない様子に動揺した美雨さんもまた、弾かれたコインで撃たれた。

 見開かれた瞳から意思が失われ、あきらさんと同じく、昏倒(こんとう)する。

 ななかさんだけは表情を険しくしながらも、二刀を交差するように防御の姿勢を取った。

 

「甘ぇよ。その武器、魔力でできてんだぜ?」

 

 コインは重なった刀を消しながら、直進し、彼女の額へと衝突。

 二人と同じようにななかさんも崩れ落ちる。

 

「何を……皆に何をしたんですか! まさか、本当に皆を……」

 

 残されたかこさんは気丈にも逆沢さんへ槍を向けて威嚇する。

 彼女自身、一人で彼に楯突いたところで勝ち目があるとは考えていないはずだ。

 それでも戦う姿勢を崩していないのはひとえに、仲間を想うが故の行動だ。

 

「安心しな。まだ殺しちゃいねーよ。ほら、オメーら魔法少女はソウルジェムが肉体から離れ過ぎると意識が落ちるだろ。原理はあれと一緒だ。ソウルジェムからの魔力が一時的に阻害されて、肉体とのリンクが切れただけだ」

 

 ゆっくりと後ろへ反っていた体勢を戻してから、横たわる三人の身体に乗っている卵型の宝石を拾う。

 話の流れから考えて、あの宝石がソウルジェムなんだろう。

 

「流石にもう知ってっと思うが、こいつはオメーら魔法少女の魂だ。割れたり、潰れたら死ぬ。まあ、とっくに生物としちゃ死んでるのかもしれねーが、あくまでここで言ってんのは意識が戻るかどうかだ」

 

 拾い集めたソウルジェムを彼はすぐ近くのテーブルに乗せていく。

 あんな小さな宝石が本当に魔法少女の魂……だっていうの?

 未だに内容が呑み込めない私だったけど、かこさんはその事実に驚いた様子も否定する様子もない。

 椅子に腰掛けた逆沢さんは指先でソウルジェムを弄りながら言う。

 

「だから、今、これを砕いたらこいつらは死ぬ。それは分かるよな?」

 

「やめてください! それだけは……」

 

「なら、オメーの知ってる魔法少女の居場所を全員分教えろ。そうすりゃこいつらは助けてやる」

 

 逆沢さんの提案はつまり……。

 

「私に……友達を売れってことですか……?」

 

 握られた槍は震えている。

 それはあたかも彼女の心の天秤が揺れていることを表しているようだった。

 

「別に嫌ならいいぜ。こいつら殺して、自分の足で探すだけだ。さっきも言ったが、俺サマたちは神浜の話を聞いて回ってんだ。この街を滅ぼすかどうかを決めるためにな」

 

「神浜市を、滅ぼすって……? そんなことはっ」

 

「許せないってか? だがよー、かこ。今のオメーに俺サマを止める力はねぇ。頼れる仲間はこの様だ。どうするよ? なあ……?」

 

 逆沢さんは問いかける。

 きっと悪意はないんだろう。

 きっと悪気はないんだろう。

 本人からすれば、単なる確認ぐらいのつもりだと思う。

 だけど、絶対的な強者から弱者への無意識な傲慢が滲んでいた。

 かこさんは項垂れ、目元が前髪に隠される。

 

「私は……」

 

 彼女は決断し、答えを伝えた。

 

「そうかよ」

 

 逆沢さんは短くそう返答する。

 そこでようやくパトカーのサイレンが聞こえ始めた。

 逆沢さんはみことさんと共に平然とファミレスの会計までやってくる。

 

「あ……」

 

 店員さんらしき男性が、逆沢さんを見て固まる。

 怯えようからして、さっきの乱闘騒ぎを見ていたのかもしれない。

 

「おう。オメー、店長に伝えといてくれ。もっと警備に力を入れた方がいいってよ。何せ、この街は治安がわりぃらしいからな」

 

「は、はい……」

 

「声に元気がねぇな。しゃんとしろよ、客商売だろ?」

 

 血の気が引いた店員さんをそうたしなめ、傍若無人な王様は退店する。

 みことさんは振り返って、店内をもう一度見た。

 そこに居たのは涙を流したかこさんが、ソウルジェムを倒れた三人の手に握らせているところだった。

 

「本当はもっと酷い目に遭わせてあげたかったんだけどなぁ……。でも、楽しみは後に取っておくほど大きくなるものだよね?」

 

 また独り言と同意を求めた問いかけの中間の言葉を紡ぐ。

 私はただ改めて、真実を噛み締めた。

 逆沢さんも、みことさんも“悪い人”なのだという真実を。

 

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