ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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第十二話『かごめとつつじの花の少女たち』④

 打ち抜くように振るわれた黒いトンファーが、三人組の魔法少女を狙う。

 捻りを利かせて撃ち出した一撃は、滑らかな曲線を描き、少女たちの頭をかち割ろうと迫った。

 風切り音さえ響かせたトンファー。だけど、それは寸前で──受け止められていた。

 止めたのは三人の中で最も小柄な少女、あやめさんだった。

 

「このはに酷いことしたの、アンタなんでしょ! あちしが許さないんだから!」

 

 一歩前に(おど)り出た彼女は、長いポールと弓形に広がった巨大な刃が繋がっている武器を持っていた。

 斧と表現するにはあまりにも独特な形状。

 魔法少女たちが華やかな見た目とは不釣り合いなほど物騒な武器を持っていることは今までも見てきた。

 けど、これは別格だ。

 長い棒に巨大な刃を貼り付けただけの乱雑な武具。

 その大きな刃の武器がトンファーの殴打を押し留めている。

 逆沢さんは(いぶか)しげに片目を(つむ)った。

 

「妙な手応えだ。技術的なモンじゃねぇな。ってこたぁ、……あれか? 特殊な体質か? もしくは魔法」

 

 ……体質ではないんじゃないかな?

 もしかしなくても、普通に考えて魔法だと思う。

 

「これがあちしの力! 残す力! 守りの魔法! どんな攻撃だってへっちゃらの無敵の魔法なんだから!」

 

 力強くそう答えるあやめさんに対し、逆沢さんの反応は冷淡だった。

 

「無敵、ねぇ。んじゃ、どういう魔法なのかちょいと検証させてもらうぜ」

 

 逆沢さんの頭の位置が一瞬にして大きく下がる。

 屈み込んだ、と私の脳が認識するまで数秒かかった。それほどまでに俊敏な動作。

 離れた場所で全体像を見ている私ですら()()だ。

 間近で対峙(たいじ)しているあやめさんは完全に翻弄され──。

 

「え。な、何!?」

 

 動揺と共に一歩下がる。

 皮肉にもその行動がもっとも悪手だったと理解するのには、彼女は一瞬もかからなかっただろう。

 無防備なあやめさんの足首をむんずと掴むと、立ち上がるついでのように持ち上げた。

 

「ちゃんと(さわ)れてんなぁ。てこたぁ、物理的な干渉はできる。んでもって……」

 

「あやめから手を離しなさい!」

 

「逆沢くん。それ以上はちょっと許せそうにないかな……?」

 

 このはさんと葉月さんが武器を構えて、逆沢さんへあやめさんを解放するように迫る。

 だけど、そんな二人に逆沢さんは、()()()()()を武器代わりにして飛び掛かった。

 

「そぉらぁぁよぉぉ!」

 

「うひゃあああ!」

 

 悲鳴を上げて文字通り、振り回されるあやめさん。

 

「なっ……!」

 

「嘘でしょ……!?」

 

 あまりの凶行に目を()くこのはさんたちに、容赦なく、あやめさんを叩き付ける。

 尋常ではない腕力で縦横無尽に揺さぶる彼女は目を回している様子だったものの、ダメージを受けている様子はなかった。

 このはさんたちもなるべく刃を当てないようにはしているけれど、何度か薙刀の柄や斧の腹と衝突している。

 普通なら到底無傷では済まない。

 そもそもあれほどの勢いで振り回されれば、いくら魔法少女の身体が頑丈だと言ってもあやめさんの細い足首の骨が無事であるはずがない。

 だけど、あやめさんが持つ“守りの魔法”がそれを可能としているんだろう。

 

「揺れや遠心力みてーな直接的な危害以外の影響は受けてる。他のヤツらにぶつけても大して威力が出てねぇ辺り、肉体の硬質化もしてねぇ。ぜいぜい、“致命的なダメージにのみ適応される無効化”ってとこか」

 

 それだけ言うと興味を失ったようにあやめさんの身体を上へ放る。

 

「うわわっ……」

 

 空になった逆沢さんの手のひらに黒いトンファーが握られていた。

 

「悪かねぇが──『無敵』を名乗んのは、ちょいとばかしフかしが過ぎるぜ?」

 

「……こふッ……」

 

 薄っすらと黒い魔力を帯びたトンファーの一撃が逆さまで落下するあやめさんの腹部に決まる。

 否定の魔法。

 あらゆる魔法を打ち消す、無慈悲なその力が彼女の無敵の護りを突き崩す。

 

「あやめッ!」

 

 吹き飛ばされたあやめさんの小さな身体を、斧を捨てた葉月さんが全身を使って受け止めた。

 あやめさんの衣装は魔法少女の華やかなものから、制服姿に変わっていた。

 抱き留めた葉月さんの腕の中で両目を閉じて、意識を失ったように動かない。

 

「わりぃわりぃ。固有魔法の魔力膜だけブチ抜く程度に加減したつもりだったんだがよ。肉体とのリンクまで途切れちまったか」

 

 悪びれた素振りも見せず、軽い調子で片付けた。

 

「……よくも、あやめを……」

 

 キッと()め上げるこのはさんに、逆沢さんはこう返す。

 

「一丁前に被害者面か? 先にちょっかい出して来たのはオメーらだろうがよ」

 

「……それは、あなたたちが、私たち家族を再三苦しめてきたからでしょう!?」

 

 このはさんは叫ぶ。

 それは彼女の降り()もった理不尽への発露だったのだろう。

 

「更紗帆奈の悪意に私たちがどれだけ振り回されて来たか! あなたは知らないでしょう……!?」

 

 まるで傷口から(したた)る血液のように吐き出される怒りと悲しみ。

 私はこのはさんの中で根付いた憤りがどれほど深いものかを改めて教えられた。

 だけど、その悲憤(ひふん)は逆沢さんには通用しない。

 

「おう。知らねーな」

 

「っ……」

 

「だいたい、俺サマはサラサハンナってヤツのことも、みことの友達で他の魔法少女をイジメて回ってたことくれぇしか知らん。ツラを(おが)んだこともねー。はっきり言やぁ、俺サマもかごめもほぼ無関係だ。そんなヤツが過去にしたことで文句付けれんのは気に食わねー……だがよ」

 

 そこで一旦、逆沢さんは言葉を区切った。

 

「オメーらがやられた八つ当たりをしてーってんなら、理解(ワカ)る。ソイツはオメーらの勝手だし、実行すんのも自由だ。オメーの好きにすりゃあイイ。できるモンなら、の話だけどな」

 

 にんまりと笑う彼にはさっきまでの冷めた怒気はなかった。

 綺麗さっぱり溌剌(はつらつ)とした笑顔を楽しげに浮かべてさえいる。

 

 

「ここまで言やぁ、もうゴチャゴチャした御託(ごたく)は必要ねぇよな? これがヤッタヤラレタの報復合戦ってんなら、ここは一つ……──強ぇえ方の暴力で(シメ)ようぜ!」

 

「あなたは……何を、言ってるの……?」

 

 このはさんは引き気味で声を漏らす。

 目の前の存在が理解できないんだろう。

 怒りでも、憎しみでも、悪意ですらない朗らかに語られる攻撃性に。

 逆沢さんはそんな彼女の様子を眺めながら、まるで遊びのルールでも話すように語る。

 

「オメーらには『コネクト』って合体魔法があったよな? それを俺サマに撃ち込んで来い。俺サマはソイツをブチ抜く大技ってのを披露(ひろう)してやる。俺サマにブチ込めたらオメーらの勝ち。俺サマがブチ込まれたらオメーらの勝ち。どーよ? シンプルだろ」

 

 いきなり突き付けられた話に彼女たちは当然のように動揺していた。

 だけど、すぐに冷静に戻ったのは葉月さんの方。

 

「このは! ()()()

 

「葉月………」

 

「このままダラダラ戦ったって、逆沢くんに勝てる見込みはないでしょ。それに気を失ってるあやめを背負って逃げ切れる相手でもない。だったら、イチかバチかでも賭けてみようよ。ね?」

 

「……そうね。やるしかないのなら、二人で……っ!」

 

 葉月さんの言葉に決意を(あら)わにしたこのはさんは、キッと敵意を()めて逆沢さんを(にら)み付ける。

 けれど、魔法少女二人の強い視線に(さら)されている彼は、呆れたように言った。

 

「“二人で“、だぁ? 寝ボケてんのか。オメーらは”三人組”なんだろ? ソッチのガキも叩き起せよ。じゃなきゃ、始めらんねーだろ」

 

 葉月さんに抱えられているあやめさんを、トンファーの先で指し示す。

 脊髄反射のようにすぐさま反応のは、やはりこのはさんだった。

 

「馬鹿を言わないで。あやめは今、意識を失って倒れてるのよ!?っ」

 

「ソウルジェムと肉体を繋いでいた魔力の流れが一時的に切れただけだ。魔力を流してやりゃ、流れはまた繋ぎ直せる。それとも仲間外れにでもするんか? 目が覚めたらお仲間は死んで、役立たずの自分だけが訳も分からず生き残りましたって? そりゃあんまりってモンだろ」

 

 逆沢さんの台詞に嘲笑の類いは一切含まれていない。

 むしろ、この場で戦力外として数えられようとしているあやめさんへの気遣いすら感じられた。

 

「あやめっつったっけ? ソイツだって、オメーらと同じ感情を抱えてんじゃねぇのか。だから、危険を承知でわざわざこんなとこまでやってきたんだろ?」

 

「……それはっ……。だけど!」

 

 このはさんの心情としては、あやめさんまでむざむざ巻き込みたくはない。

 そんな気持ちが詰まった言葉と噛み締めた唇から読み取れた。

 年齢や戦力以前に彼女はきっとあやめさんを対等に見ていないんだろう。

 肩を預け合う仲間ではなく、あくまでも庇護者や守るべき妹分。

 それはとても美しくて立派で、でも、残酷なまで理不尽な境界線。

 葉月さんは会話には一切口を挟まず、それから一度目を閉じて、だき抱えたあやめさんの手のひらへ触れた。

 あやめさんの身体が淡く発光した後、彼女の姿は桃色と白を基調としたアイドルめいた衣装に変わる。

 首下に黄緑色をした紅葉型の宝石が光の粒から生まれると、黒い眼帯を左目を覆うように現れ……。

 

「あれ……、あちし、意識飛んでた? 背中に柔らかい二つの感触。あ、葉月か」

 

「その感触でアタシって理解されるのには物申したいんだけど……」

 

 困ったような笑みを浮かべて、あやめさんを立たせると葉月さんはこのはさんを見る。

 

「葉月っ、あなた!」

 

「あのさ、このは。やっぱりさ、アタシら、これでも一連托生(イチレンタクショー)でやってきたでしょ? この後に及んであやめだけ、遠ざけたりすんのは違うかなって思う訳」

 

 だからさ、と葉月さんは一拍置いて──。

 

「アタシら、三人の……『つつじの家の姉妹』の絆、見せつけてやろうよ!」

 

 『つつじの家の姉妹』という単語は私にはよく分からなかったけど、それでもこのはさんとあやめさんにははっきりとその真意が伝わったことだけは確かだった。

 決意に満ちた表情で三人は手を繋ぎ合わせる。

 ニヤリと逆沢さんは口の端を吊り上げた。

 

「イイぜ、来いよ。サラサハンナへの(うら)(つら)みに八つ当たり。ぜーんぶまとめてブン殴って来い。俺サマも殴り返してやるからよぉ!」

 

 このはさんを中心にして、あやめさんと葉月さんが彼女の両手をそれぞれ握った。

 

「だったら、お望み通りにしてあげる! 葉月。あやめ」

 

 このはさんの号令に二人は頷き、そして、声を重ねた。

 

 

 

「「「──『コネクト』──!」」」

 

 

 荒れ果てた天井や壁を突き破り、一つの巨大な絆の力が具現する。

 

 




入院してしばらく、執筆できませんでしたが、ぼちぼち仕事も復帰できてきたので投稿を再開します。
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