ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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第十五話『かごめと後悔の羽根』②

 放課後、私と逆沢さんはまさらさん──正確にはまさらさんの中に逃げ込んだみことさんを探すため神浜市を巡っていた。

 当初は逆沢さんがまさらさんを学校まで送ったことがあるので、彼女の通う神浜中央学園に向かった訳だけど……。

 

「あ? アイツ、今日は登校してない? どういうことだ?」

 

「それが、まさらとは昨日の夜から連絡が取れてなくて……」

 

 運良く、まさらさんの友達で逆沢さんとも面識があるらしい粟根(あわね)こころさんと話せたものの、まさらさんは今日は学校に来ていないのだと言う。

 初対面になる私はお互い自己紹介を終わらせて、本題に入っていた。緊迫した場面を除けば、アルちゃんに頼ることなく、最後まできちんと自己紹介ができたのは実はこれが初めてになるかもしれない。

 

「電話も繋がらなかったんですけど、もしかしたら学校には来るかなって。休み時間にはちょくちょく校門前付近を気にしてました。……結局今日は来なかったんですが」

 

 こころさんが言うには、いつも連絡すればすぐには繋がらなくても、時間を置いて折り返しは必ず来ていたそうだ。

 丸一日も無視させるのは、出会った頃を除けば今回が初めてとのこと。

 

「つーか、こころはまだ校門前に居んだよ? もう下校時刻過ぎてんだろ?」

 

「いやー……私がこうして待ってたらまさら来てくれるかなって……」

 

「待ってりゃ向こうから来てくれるって、オメー、それ本気で思ってんのか?」

 

 こういう時に逆沢さんは相手を否定しない。

 本心なのかどうかをまず最初に聞く。

 こころさんは、僅かに押し黙ってから、視線を()らして首を左右へ振った。

 

「……思って、ないですよ。本気では思ってない。でも、自分から会いに行って拒絶されたらって思うと、足がさ、動かなくて、踏み出せなくて……」

 

 前にそれが原因で失敗したことがあるから、とこころさんは話してくれた。

 彼女は魔法少女の願い事で、“一度壊れてしまった家族を取り戻すこと"を願った。

 

「出て行ったお母さん、家に戻って来てくれました。でも、私が思い描いていた元の家族の形には……戻りませんでした。お父さんとお母さんの仲は噛み合わないまま、ギスギスした雰囲気がずっと続いていて……。それこれも私が自分の気持ちを押し付けて願ったせいです」

 

「ほー。そうだな。オメーのせいだな」

 

「ちょっと! 逆沢さん!」

 

 深刻な悩みを吐き出すこころさんに対して、生返事で返す逆沢さんに私は思わず反応してしまう。

 こころさんは私へ苦笑いを浮かべる。

 

「いいの。かごめちゃん。別に否定してもらいたくて言ったんじゃないから。もうそのことは吹っ切って、自分のために、自分の都合のために生きるって決めたの。でも、いざまた他人から距離を取られると、また私の方から近付いても上手くいかないんじゃないかって、気持ちがグルグルして、足が(すく)んじゃうんだ」

 

「ふーん。なら、(すく)んどきゃいいんじゃねーのか? 俺サマたちはまさらに用があるから探すがよ」

 

「ぎゃ、く、ざ、わ、さんっ!」

 

 あまりにも心ない言い草に私は彼を(しか)る。

 だけど、逆沢さんは気にしたそぶりも見せずに言う。

 

「あん? んだよ。待ってんのはこころの自由だろ。俺サマたちが探すのも自由だ。別にそんだけの話だろ? なあ、こころ」

 

「……はい。そうですね。全然間違ってない、です」

 

「それとも誘われ待ちだったんか? なら、着いて来てもいいぜ。何をしようが、オメーの勝手だ」

 

 ああ、もう! この人はさっきの話聞いていたんだろうか。

 我慢できずに私は口にする。

 

「だから、それが怖いって、こころさん言ってるんですよ! 嫌われてるかもしれないのに、距離を詰めて、まさらさんに拒絶されたくないって……」

 

「はあ? そりゃ道理が通らねーだろ。まさらが拒絶してぇってんなら拒絶させてやれよ。向こうにも嫌う自由くれーがあんだろ」

 

 駄目だ。この人、心の底から弱音とか泣き言とか、まったく頓着(とんちゃく)する気がない。

 傷付くなら傷付けよと言わんばかりだ。

 こころさんもこんな酷いことを言われたら、きっととてもショックを受けているはず。

 私はすぐにフォローするために、こころさんの顔を(のぞ)き込んだ。

 

「あ、あの、逆沢さんの発言は気にしないでくださいね! 優しさとか、思いやりとか、そういう成分が抜けている自由人理論っていうか……」

 

「……そっか。そう、ですよね。私が追うのも、それで嫌われるのも両方自由。我慢するのも、しないのも辛いなら──私は私の自由を選ぶ!」

 

「なんか吹っ切れたみてーだが、どうなんだ? まさら、探しに行くのか行かねーのか?」

 

「行きます! 私がまさらの居そうな場所、案内するから着いて来てください!」

 

 やる気に満ちあふれる表情に私は言葉を失う。

 ()き付けてはいけない人に、焚き付けてしまったというか。間違った方に人を誘導させてしまった気がフツフツと湧いてくる。

 

「よし、それでこその自由だぜ。そんじゃ、案内頼むわ」

 

 こ、この自由原理主義者は……。

 これで見つけやすくなったと喜ぶ逆沢さんを私はこっそりと(にら)む。

 当然、逆沢さんはどこ吹く風だった。

 この選択の結果、こころさんがまさらさんと仲違いしたらどう責任取る気なんだろうか。……多分、どうもしないんだろうな。

 

 

 ***

 

 

「……全然見つかりませんね、まさらさん」

 

 自宅を皮切りにまさらさんが好みそうな場所を回ったけれど、全て空振り。

 逆沢さんの魔力感知でも、まさらさんやみことさんの魔力の痕跡は見つけられていない。

 最後によくまさらさんと来ていたという川原へとやって来たけど……。

 

「ここにも居ないみたい。まさらが行きそうな場所は大体回ったんだけどね。人目に付かない場所っていうと……魔女の結界内とかなのかなぁ?」

 

 こころさんが溜め息交じりにそう漏らすと、逆沢さんは珍しく考え込むような表情を浮かべた。

 

「妙だな」

 

「何がですか?」

 

 私が聞くと、土手に上がる石段の手すりの上で器用に仁王立ちしていた逆沢さんは待ってましたとばかりに話し出す。

 どうでもいいけど、すごいバランス感覚だ。

 

「俺サマはべらぼーにオールラウンダーなのはもう言うまでもねぇことだが、中でも魔力の流れを観測する能力は殊更(ことさら)べらぼーにズバ抜けてる。その俺サマが魔力の痕跡を見落とすなんてあり()ねぇ」

 

「あっ、はい。そうですね。それにしても、まさらさん見つかりませんね。こころさん」

 

「オイ、流すな流すな。まだ話終わってねーから。あと、俺サマの取り扱いに小慣(こな)れんな」

 

 自慢がしたい訳ではない様子なので、私は黙って続きに耳を傾けた。

 

「この神浜市の治安はわりと終わってっけど、それでもここらの地区はまだマシな方だ」

 

「わりと終わってる……まだマシな方……」

 

 逆沢さんの歯に衣着せぬ物言いに、こころさんは精神的ダメージを受けていた。

 

「ポリ公だって、巡回してる。まして、少し前まで失踪者がわんさか出てた街だ」

 

「そういえば、水名神社で行方不明だった人たちが突然見つかったみたいなニュースがありましたね」

 

 一応、自宅が神浜市の外にある私はあまり実感がそう言った行方不明事件があったらしい。

 

「その一連の失踪事件はウワサってバケモンの仕業だった訳だが、ま、今はほぼ全滅したからソイツらの件は一旦、忘れとけ。話を戻すけどよ、俺サマは当初、まさらの透明化の魔法か、みことの暗示の魔法で人目を掻い潜って、街ん中に繰り出したと思ってた」

 

「違うんですか?」

 

「もし、そうなら魔力の痕跡が残ってる。こころが言っていたみてーに魔女の結界なら尚のこと、俺サマが知覚できねぇ道理がねー」

 

「だから、妙だと……。じゃあ、まさらさんは魔法も使わず、どこへ消えたって言うんですか?」

 

 私の質問にピンと人差し指を立てて、逆沢さんはニヤリと笑う。

 

「そこだぜ。さっき、話したよな、ウワサってバケモンのこと」

 

 大量の失踪者を出す原因になった化け物。

 本題ではないから、これ以上掘り下げることはないと思った要素を再び、話題の中心に戻す。

 

「ウワサの怪物は魔女と違って妙な特性を持ってやがった。中には例外も居たが、ほとんどのウワサは特定の条件を満たさないと出現しなかったのさ」

 

 そこで、今まで大人しく話を聞いていたこころさんが初めて口を挟む。

 

「ちょっと待って、逆沢さん。そのウワサっていうのはさっき逆沢さんが言ったように居なくなったって、私は聞いてましたよ。確か、それを操っていたマギウスの翼も崩壊して、今はもう居ないって話じゃ……」

 

「そうだな。俺サマの記憶でも無害だって認定された一体以外は消えた。いや、()()()はずだった。だが、もし“ヤツ”が完全に消滅せず、残ってやがったんだとしたら、この状況にも納得が行く」

 

「つまり、まさらは生き残ってたそのウワサに攫われたってこと……!?」

 

「まだ断定はできねーが、俺サマの勘はそう言ってる。で、だ。もしも、まさらを攫ったのが消えたはずのあのウワサ……だとすると、ツラを拝む条件にも想像が付くってモンよ」

 

 逆沢の話によれば、生き残っているそのウワサの性質は“魔法少女の救済”なのだと言う。

 魔法少女の幸福を心の底から望み、魔法少女が救われることだけを願っている、そんな存在らしい。

 

「……それだけ聞くと聖人君子みたいに聞こえるんですが」

 

「聖人君子だろうな。出した結論が、“魔法少女に苦しみを感じる間もなく殲滅する”ってモンじゃなけりゃな」

 

「待って、逆沢さん! そのウワサって……」

 

 何か思い当たる存在を知っているんだろう。

 こころさんの顔色が急変する。

 

「ま、最近魔法少女になり立てのヤツ以外は知ってるわな。『銀羽根』のことを知らねぇ魔法少女はこの街じゃモグリだ」

 

「モグリというか、魔法少女じゃない私は知らないんですが……」

 

「説明が面倒だな。端的に言やぁ、べらぼーに強くて、べらぼーに魔法少女の幸せを願った男が居たんだよ。ソイツの残した未練の……残骸だ」

 

 ほんの僅かだけど、逆沢さんの声に後悔の響きが混じる。

 

「あくまで俺サマの推理だ。実際、当たってるかどうかはまだ分かんねー。そこでだ、こころ。オメーの出番つー訳だ」

 

「私?」

 

「おうよ」

 

 こころさんへ視線を移した逆沢さんは自身が考えたプランを話し始めた。

 

「『銀羽根』の……いや、()()()の未練がまさらを攫ったんなら、『魔法少女の願い』を無碍(むげ)にするたぁ考えらんねー。だから、魔法少女のこころが本気でまさらに会いてぇと願えば、アイツは必ず、その願いを叶えようとする。たとえ、そのせいで自分が不利になったとしてもな」

 

「待ってください。こころさんは本気でまさらに会いたいから、私たちと一緒にまさらを探してくれたんですよ。逆沢さんの推理通りなら、とっくに願いは叶ってるはずですよ?」

 

 逆沢さんの推理には大きな穴がある。

 こころさんは既にまさらさんに会いたいと思って行動している。

 本当にそのウワサが魔法少女の願いを無条件で叶えようとする存在なら、もうまさらさんの居る場所に辿り着いているはずだ。

 だけど、逆沢さんはその矛盾を突き付けられても動じない。

 むしろ、その発言を待っていたのだろう。

 

「まさに『それ』だぜ、かごめ。俺サマが気になっていたのは」

 

 逆沢さんの二つの瞳は私から、こころさんへゆっくりと移された。

 そして、ただ静かにこころさんへと問いかける。

 

「こころ。……オメー、本当にまさらに会いてぇと思ってっか?」

 

 何を言ってるんですか、と私が言おうとして──止まる。

 こころさんの表情には、戸惑いではなく、後ろめたさがはっきりと浮かんでいた。

 

「まさらには会いたいと思ってます……。でも、それ以上にまさらへ会うことが怖くて……このまま、会わない方がいいって気持ちがなくならないんです」

 

 (しぼ)り出すような言葉からは、教えてもらった彼女の過去のトラウマが未だ心を(さいな)んでいる事実がありありと受け取れた。

 家庭から去っていたこころさんのお母さんは、魔法少女の願い事で戻ってきた後も噛み合わないままだと。

 その過去と今が重なって、こころさんは二つの相反する想いに苦しめられている。

 逆沢さんが焚き付けて、まさらさんへ会う方へ傾いたように見えた天秤は、実際には動いてはいなかった。

 

「じゃあ、こころ。オメーはまさら捜索から外れちまえよ」

 

「え……」

 

 強引にでも協力させるかと思っていた。

 けれど、逆沢さんはあっさりとこころさんを捜索メンバーから除外する決断を下す。

 彼は石段の手すりから大きくジャンプして、私たちが居る川原まで飛び降りた。

 そして、真正面からこころさんを見つめる。

 

「最初にも言ったろ。探す気がねぇなら、探さなくてもいいってよ。俺サマたちは別口で探すわ」

 

 逆沢さんのその言葉にこころさんは、納得した様子もなく、質問を一つ投げかける。

 

「……逆沢さんは何で、まさらを探してるんですか?」

 

「ああ。言ってなかったか。俺サマはまさらを探してんのはアイツん中に憑り付いてるみことってヤツだ。みことってのは……あー、説明ダルいな。色々端折(はしょ)ると元・魔法少女の幽霊みてーなモンだ」

 

 みことさんについて、かなり説明を省いて伝える。

 鏡の魔女の半身とか、魔法少女の人格とか、説明すると本題から()れてしまうので仕方ないことかもしれない。

 

「じゃあ、逆沢さんたちが探してる、その“みこと”って人は逆沢さんにとって、どういう存在なんですか?」

 

「どういう存在ってそりゃ、オメー……。んー? 確かに言われてみるとパッと出てねぇな。()いて言えば、……創造主()か?」

 

「逆沢さんのお母さんってこと、ですか?」

 

「いや、キメーよ! 俺サマはアイツに母性を感じたことは生まれてこのかた、一度もねぇし! ……んじゃ、(あるじ)か? いや、それもしっくり来ねぇな」

 

 逆沢さんとみことさんの関係性……。

 今まで気にしたことはなかったけど、確かにどういう間柄って呼ぶんだろう?

 親と子というには二人とも独立し過ぎているし、主人と従者というには強制力はない。

 私は少し考えた後、考え込む逆沢さんの代わりにおずおずと切り出した。

 

「……『家族』なんじゃないですか? みことさんと逆沢さんの関係は」

 

「『家族』、か。そんなモンだな。別に好きってワケでもないけど、気付いたら同じ場所に居て……何だかんだでつるんでる」

 

 多分、逆沢さんが思い浮かべているのはこのはさんたちのことだろう。

 血の繋がりもなく、出会って一緒に居る。上も下もないような関係性。

 こころさんはそれを神妙な面持ちで聞いた後、今度は私に尋ねてくる。

 

「それじゃあ、かごめちゃんにとってのみことって、どういう存在なの?」

 

「私にとってのみことさん……。そうですね」

 

 答え辛い質問だ。最初は間違いなく、人質と誘拐犯みたいなものだった。

 でも、話をしたり、一緒にこの街を回って、魔法少女に襲われたりする内に段々とそれだけじゃなくなっていた。

 

「……『友達』だって思ってます。みことさんはどう思ってるのかは、分からないですけど」

 

 少し苦笑交じりでそう答える。

 

「じゃあさ、二人にとって、そういう関係のみことさんが急に居なくなって、それを探してるってことだよね?」

 

「そうですね。急に居なくなって、それで私たちはみことさんを探してます」

 

「だったら! ……だったらさ、怖くないの? 二人は自分から離れて行った『家族』や『友達』にもう一度、会いに行くことに……上手く関係を戻せないかもしれないってことに何の恐怖も感じない?」

 

 それがこころさんにとって一番聞きたいことだったんだろう。

 逆沢さんのよく分からない説明に特に言及することもなく、ただみことさんとの関係性を尋ねてきたのは、自分と同じような恐怖を抱いていないかを問うためのものだった。

 

「感じねーよ。みことが俺サマを拒否ろうが、俺サマにはアイツに用がある。つーか、何も言わずに姿消したことの“オトシマエ”ってのは最低限付けさせねぇと気が済まねぇ」

 

 ブレることない逆沢さんの意見。

 この人のこういう部分は、本当に感心する。

 私はそこまで割り切れてないけれど、でも……。

 

「私も何で居なくなったのかは聞きたいです。それが私を嫌いになったのが原因だとしても、ちゃんとみことさんの口から聞きたいんです」

 

「……強いね。二人は私と違って、強い心を持ってる」

 

 視線を落として、呟くようなこころさん。

 彼女の顔を沈み始めた夕陽が照らす。

 夕暮れの河原は、どこか物悲しく、今のこころさんの心情を表しているように思えた。

 

「この河原でね。まさらに言われたんだ。『あなたはあなたのために生きればいい』って。『他の誰かのために生きる義務なんて、どこにもない』って、そう言われたんだ」

 

 彼女の俯いた顔が徐々に上がっていく。

 声のトーンも落ち着いたものから、感情の乗ったものへと変化していった。

 

「それで私は決めたの。『自分のために生きる』って、そう決めた!」

 

 こころさんの姿が制服から、魔法少女の衣装に変わる。

 

「まさらにもそう宣言したのに、どこかでまだ私の中には弱さがあった。自分の生き方を貫いて、傷付く覚悟ができてなかった」

 

 肌に貼り付く黒のインナーの上に黄色の衣服が噛み合うように纏われていく。

 黄色のナースキャップが一番最後に冠のようにこころさんの頭部に被せられると、彼女は目を(つむ)り、両手を祈るように胸の前で組んだ。

 

「もしもまさらを連れて行ったって言うなら、私もそこへ連れて行って! ──『まさらに会わせて!』」

 

 彼女の祈りに呼応するように夕暮れの河原に羽根が舞った。

 見えない鳥が大量に()ばたいて飛び立ったかのように、はらりはらりと羽根が舞い落ちる。

 

 黒い、どこまでも黒い羽根がこころさんを覆う。

 

「おっと待ちな。俺サマも連れてけや!」

 

 逆沢さんがまさらさんに目掛けて、黒い布を伸ばして彼女の腕に絡み付かせる。

 

「かごめ!」

 

 私へ伸ばされた逆沢さんの手を、私は何の躊躇(ちゅうちょ)もなく掴み取った。

 視界が……暗転する。

 小麦色だった夕暮れの河原は、黒い絵の具で塗り潰されたように書き換えられていく。

 次に私の瞳に映り込んだものは。

 

 

 ──黒い、世界。

 

 

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