ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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外伝 鉄黒色の薄弱

『中沢君。本当に大丈夫? 無理してない?』

 

 電話で環さんにそう聞かれて、俺は元気よく歩きながら返事をする。

 

「はい! 大丈夫です。まだ魔法は戻りませんけど、それでも俺なりにユニオンのためにできること探してみます!」

 

 空元気とまではいかないが、多少強がってそう言い切った。

 優しいみかづき荘の皆と一緒だと俺はきっと甘えてしまう。

 八雲さんに言われたように自分自身と向き合うためにも、俺は一人だけで行動した方がいい。

 それに『銀羽根』の……上条の残してしまった力の残滓は俺が始末を付けないとならない問題というのもある。

 できれば、環さんたちが知らない内に解決してしまいたい。

 “銀の塔”で『ウワサの銀羽根』を倒し切れなかったのは、きっと俺の力不足が原因だ。

 強くなる。

 そのためには誰かに頼っていたら駄目なんだ。

 

『何かあったら、いつでも連絡して。中沢君だって、ユニオンの一員なんだから皆を頼っていいんだからね?』

 

「分かってますよ。それじゃ、失礼しますね」

 

『あ、待って。フェリシアちゃんも何か伝えたいことがあるって、今変わるからね』

 

 通話を終わらせようとした時、深月ちゃんが俺と話したいことがあるらしく、環さんに代わって電話に出た。

 

『……中沢』

 

「どうしたんだ、深月ちゃん? 何か俺に話があるのか?」

 

 珍しく沈んだ声を聞いて、俺は一旦足を止めた。

 

『どうしたもこうしたもあるかよ! ずっと顔を見せに来ないと思ったら自分の家に引きこもって、元気になったら今度は一人で行動したいって何なんだよ!?』

 

 びっくりするほど大きな声で怒る深月ちゃんの声が俺の耳を刺す。

 不意打ち気味で鼓膜へ叩きつけれた声量に、一瞬クラッと意識が飛び掛けたが、次に聞こえた声が俺の意識を呼び戻す。

 

『そんなに……オレたちと一緒に居るのが嫌なのかよ……。約束破るのかよぉ!』

 

 泣いていた。

 深月ちゃんは電話の向こうでしゃくり上げるように泣いていた。

 俺は、自分の行動がそこまで彼女を傷付けていた事実に衝撃を受ける。

 

「ちがっ、違うよ。嫌だなんて……」

 

 ──思っていない。

 そう言おうとして、言葉に詰まる。

 だったら、どうして一度距離を置こうとした?

 どうして、あの後、俺は一緒に居ようとしなかった?

 

「……ごめん。怖かったんだ」

 

『何がだよ……』

 

 鼻を啜る音が聞こえた。

 電話越しで良かったと思う。

 そうじゃなかったら、涙を流す深月ちゃんの前で慌てふためいて、まともに話せなかったかもしれない。

 

「深月ちゃんや環さんたちが、いつか魔女になって死んでいくことが怖かった。それを一番近くで見ていることが怖くなって逃げてたんだ……」

 

 俺は魔法少女じゃないと。

 ただ部外者でしかないと。

 そう自分に言い聞かせて、責任を負うことから目を逸らしていた。

 傍に居れば、嫌でも魔法少女たちの絶望へのカウントダウンを思い知らせる。

 

『…………やっぱり嫌だったんじゃねーか』

 

「うん。情けないよな、俺。深月ちゃんを説得してたあの時は必死でそこまで考えられてなかったんだ。でも、時間ができて冷静に考えたらさ、俺が、その皆をこ、殺さなくちゃいけない日が来るかもって頭を過ぎって……。それっぽい理由付けて、皆と距離取ってた。でも、俺なりに何とかするって覚悟決めて、マギアユニオンに参加した」

 

 “殺す”。

 “命を奪う”。

 そんな物騒な単語を口にするだけで震えてしまう。

 

『だったら、今度は一緒に居てくれよ! オレが、魔女になるその日までは……!』

 

 喉の奥から絞り出すような彼女の言葉を、俺は受け止める。

 年下なのに俺なんかよりずっと覚悟を決めている深月ちゃんの言葉は、(なまり)のように重かった。

 やがて必ず来るだろう自分や友達の死と真剣に向き合っているからだ。

 

「今の俺は力がない。()()()が来ても、深月ちゃんたちに何もしてあげられない」

 

『っ……やっぱり何だかんだ言って、中沢はオレたちと距離を置くんだな?』

 

「ううん。それは違うよ」

 

 俺の言葉を信じられない深月ちゃんは声を張り上げ、否定する。

 

『違わねーだろ!? じゃあ、何で一人になろうとしてんだよ!』

 

「皆と一緒に居るために」

 

『……!』

 

「今度は逃げないために、俺はもう一度一人だけで自分と向き合いたいんだ」

 

 嘘偽りのない本心からの台詞だった。

 逃げてばかりの俺が言っても信憑性に欠けるのは重々承知の上だ。

 それでも、俺が言わなきゃいけない言葉だった。

 否定の魔法。

 それは俺が魔法少女と共に居るために必要な資格だ。

 身を守るためだけじゃなく、いざという時……魔法少女の誰かが魔女になったその時に、俺が責任を持って命を奪うために。

 

『わかったよ。……じゃあ、中沢が魔法を取り戻したら、その、あれだ……オレと一緒にどっか遊びに行くぞ! いいな?』

 

「え? それはもちろん、いいけど。深月ちゃん、どこか行きたいところがあるのか?」

 

 急に話が飛んだ気がして若干の戸惑いがあったが、今までの埋め合わせも兼ねて遊びに行くこと自体に異論はなかった。

 

『場所は……まだ決めてないけど。でも! ゼッタイだぞ? 絶対絶対、遊びに行くからな? 約束守れよ!』

 

「う、うん。いいよ。約束する……」

 

 やたら念を押してくる深月ちゃんに気圧(けお)され、承諾する。

 信用ないのかな、俺。でも、実際、約束破っていた訳だし、信頼度が低くても仕方ないのかもしれない。

 

『やった! なら、ちゃっちゃと魔法を取り戻せよ? オレ、待ってるから』

 

「あ、うん。可能な限り、頑張ります」

 

 待たれてしまった!

 でもね、深月ちゃん。そんな簡単に取り戻せたら苦労はしないんだよ。

 うう……プレッシャーだなぁ。

 胃が痛くなる思いをしつつ、別れを告げてから、通話を終わらせる。

 ズボンのポケットにスマホを押し込んでから、一息吐いて気持ちを切り替えた。

 

「さて、と」

 

「それで、どこへ向かいます?」

 

「そうだな。まずは……って誰!?」

 

 自然な流れで聞かれたからつい答えてしまったが、この場には俺しか居ないはず。

 びっくりして(あた)りを見回すと、後ろからひょっこりピンク色の髪の少女が顔を(のぞ)かせる。

 そこに居たのは環さんの妹、ういちゃんだった。

 

「ういちゃん!? 何でここに居るんだ?」

 

「お散歩をしてたら、中沢さんが歩いている姿が見えたのでご挨拶しようしてたんです。でも、電話で話している様子だったので声を掛けられなくて……」

 

「あー。それで電話が終わるまで着いて来てくるはめになったのか」

 

 分かる。俺も話しかけるタイミングを見失う方だから、その気持ちはよく分かる。

 

「えっと、俺これからまた魔法を使えるようになるために、自分と向き合おうと思っててさ」

 

「行き先に()てはあるんですか?」

 

「いや、当てってほどのものじゃないんだけど、北養区の方に行ってみようかと。山があって自然豊かな場所らしいから、その、一人で精神的な修行とかに向いてそうだなって」

 

 漠然としたイメージだが、山=修行場だと思っている。

 だから、北養区の山で瞑想とかしてたら、自分自身と向き合えそうな気がして、俺は北に向かって歩いていた。

 地理的にも俺が住んでいる新西区と隣接していることもあって、交通手段を使わずに徒歩で行けるという魅力もあった。

 世知辛いが、お小遣いが多くない中学生に取って交通費は地味に痛い出費だ。神浜市は広いので隣接区以外だとどうしてもバスに頼らざるを得ない。

 

「私も着いて行っていいですか?」

 

「えー……それはちょっとなぁ。遊びに行く訳じゃなくて、一応、修行的なことをしに行くからさ。一人で鍛錬っていうのか? そういうのしないとだし……」

 

 ここで駄目だとはっきり言えないのが俺だ。

 なまじ立ち直るキッカケをくれたういちゃんには、強く出られない。

 向こうが察して、諦めてくれるのがベストなんだが……。

 

「でも、中沢さん。一人だとメンタル折れちゃうところありますよね?」

 

「うーん。ない、とは言わないけども。でも、あくまで自分自身と向き合う精神的な修行だから……」

 

「あと、北養区って慣れてないと道に迷いますよ? 私も小さなキュゥべえだった時に道を覚えるまで時間かかりましたから」

 

 そうだよね。山だもんね。初めて行くと、道分かんないよね。

 この辺の地理に疎い俺がそんな場所に行って迷わない訳がない。

 途中で迷子になって、心が折れて泣き崩れる未来が見える。

 

「でも、ほら、環さん心配すると思うし。だからね?」

 

「大丈夫です。お姉ちゃんには今日は遅くなるかもって伝えてありますから」

 

 おーう。駄目だ。この子、ほわほわ系に見えて結構頑固だ。

 俺じゃあ、説得はできそうにない。

 思えば、モキュゥべえ時代から強引なところあった気がする。

 

「えーと、それじゃあ、お言葉に甘えて。案内頼めるかな?」

 

 これ以上問答を続けたところで彼女を追い返すことは無理だ。

 諦めて、俺が折れるとういちゃんは嬉しいに頷いた。

 

「ありがとうございます。じゃあ、早速向かいましょう。私に着いて来てください」

 

 こうして、俺はういちゃんと共に北養区まで向かうことになった。

 本当は一人でしばらくは行動するつもりだったのだが、しょうがない。

 ういちゃんが魔法少女としてどのくらいの強さがあるかは分からないが、それでも相当なブランクはあるはずだ。

 もしも万が一、危機的な状況になったとしても彼女にはすぐに逃げてもらおう。

 むしろ、何かあったら、俺が身体を張って逃すくらいのつもりで居よう。

 それなら、精神的に誰かに頼ることにもならないだろう。

 自分に言い訳をしつつ、俺はういちゃんに導かれ、歩き始める。

 そうして、ふと思い出して独りごちる。

 

「何だかちょっと懐かしいな」

 

「何がですか?」

 

 前を歩いてくれるういちゃんが振り返って尋ねてくる。

 独り言のつもりだったが、聞かれたからには話した方がいいだろう。

 

「いや、口寄せ神社の時もこうやって、ういちゃんに導いてもらったなって思い出して」

 

「ありましたね。あの時の私はもきゅもきゅ言ってるだけの小さなキュゥべえでしたけど」

 

 苦笑いした彼女に、俺も笑い返す。

 

「そうそう。全然何言ってるのか分からない上、どんどん先に行っちゃうんだもん。あれは困ったよ」

 

「ごめんなさい。でも、中沢さんはちゃんと着いて来てくれましたよね」

 

「まあね。あの時の俺はガムシャラだったから」

 

 ヌルオさんに関わるなと釘を刺されても、誰かの役に立ちたかった。

 そう言えば、その気持ちが俺にとっての原点だったのかもしれない。

 誰かに必要とされたい。

 誰かの役に立ちたい。

 その気持ちが俺を動かしていた。

 だから、俺はあの時、自分から危険に飛び込もうとしたんだ。

 

「中沢さん」

 

「あ。ごめん。なんかちょっと考え事してて……」

 

 会話の最中でういちゃんを放置してしまったことを謝るが、ういちゃんは前を向くように視線で促しながら、声を潜め(ひそ)た。

 

「前の方から沢山の魔法少女の魔力反応を感じます。あと、何か穏やかじゃない話し声も」

 

 魔力反応!?

 それを聞いて、俺も身構える。

 同時に魔力の流れを見る力が、完全に失われている事実にショックを受けた。

 魔法だけじゃなく、感知能力までなくしているなんて……。

 いや、落ち込んでいる場合じゃない。

 

「ういちゃんは下がってて」

 

 耳を澄ませつつ、屈んで前方へ近寄っていく。

 周囲は新西区と北養区の境目にある建設現場だ。

 ただ、建設途中で中止になったのか、雨ざらしになって錆びた資材や、ちぎれたブルーシートがなんかが散乱している。

 比較的新しい住宅地のある新西区だが、中心地から外れるとこういう放置された現場跡地がいくつかある。

 塗料が剥がれ落ち、掠れた文字で『安全第一』と書かれたガードフェンスの端から、そっと道の先を覗き見る。

 曲がり角の先には、赤地に黒いラインの入ったベストを着た少女が五、六人居た。どの少女も一様に『牙が生えた口』の模様が描かれた赤いバンダナで口元を隠している。

 俺の目からは一昔前のカラーギャングのように見えるが、ういちゃんの話からすると全員魔法少女なのだろう。

 カラーギャング風の魔法少女たちは、誰かを取り囲むように立っている。

 

「だーかーら、聞いてるのはこっちなんだよ! 奴は今どこに居るんだよ! 答えろ!!」

 

「わ、私は何も知らないの……。教えてほしいから、聞いて回ってたの……」

 

 囲まれている少女に見覚えはなかった。

 ただ、彼女の方は一目で魔法少女だと分かるような()で立ちをしている。

 何せ、黒い魔女帽子にマントを羽織っているからだ。

 魔法少女と呼ぶより、いわゆる魔女っ子みたいな格好といった方が正しい。

 

「じゃあ、何で奴の名前を知ってんだ!」

 

「そうだ! お前、マギウスの翼の残党なんだろ? 知ってること、全部吐けよ!」

 

 魔女帽子の少女はカラーギャング風の魔法少女たちに威圧され、完全に萎縮(いしゅく)している。

 雰囲気や表情から見ても演技ではないことがはっきり分かった。

 

「マ、マギウスの翼? 皆、言ってたけど、何のことだかさっぱり分からないの……」

 

 マギウスの翼を知らない?

 じゃあ、マギウスの翼が崩壊した後に魔法少女になった子なのか?

 カラーギャング風の魔法少女たちは多分だが、八雲さんが言っていたマギウスの翼に恨みを持つ別の街の魔法少女だろう。

 何も知らない新米魔法少女を、外から来た魔法少女たちが情報収集のために脅している。構図としてはこれで間違いない。

 何とか気を引いて、魔女帽子の子を助けられないか考えていると、再び、カラーギャング風の魔法少女が一喝する。

 

「じゃあ、何で奴の名前を知ってたんだよ! 話がおかしいだろうが!」

 

「お、同じ学校の先輩と後輩ってだけなの……。同じ部活で色々指導してくれたけど、アリナ先輩が魔法少女だって知ったのもつい最近で、居なくなった後だったの……」

 

「え……? アリナ先輩って、アリナ・グレイのことか!?」

 

 思いも寄らない名前が出て来て、俺は声を漏らしていた。

 その瞬間、一斉にその場に居た全員の視線がこちらを向く。

 

「誰だ! そこに隠れてる奴、出て来い!」

 

 ヤバい!? ミスったーー!

 自分のうかつさに後悔するが、今更、隠れても意味がない。

 俺は大人しく道の角から出て、彼女たちの前に姿を(さら)した。

 

「男……? 何だ、お前は?」

 

「え、いや、ただの通行人ですが……」

 

「ただの通行人がアリナ・グレイの名前を何で知ってるんだ!」

 

 ですよねー! ちょっと無理があったか。

 いや、まだ何とかなる。

 

「や、やだな。アリナ・グレイって言うとこの街では有名人ですよ? ほら、個展が開けるくらいの天才アーティストだって」

 

 そう。最近知ったが、アリナ・グレイは自称ではなく、本物アーティストだった。

 まだ十代ではあるが、その作品は大人たちからも評価される芸術家。一般人が名前を知っていても何ら不自然ではない。

 

「そうなのか?」

 

「本当みたいだな。ネットで検索すると作品が出るくらいには有名らしい」

 

 カラーギャング風の魔法少女たちはスマホを弄って画面を見せ合う。

 お、隙ができてる! 俺はこの場から逃げるよう片目でウインクして、魔女帽子の子に逃げるよう合図した。

 彼女は俺のウインクに気付き──。

 

「……? っ!」

 

 パチリとウインクで返してくれた。

 って、そうじゃなーーい!

 何でだよ! 何でウインクをウインクで返すんだよ!?

 それに反応したのは、よりにもよって、カラーギャング風の魔法少女だった。

 

「お前、今、アイツに片目を閉じて合図したな?」

 

「い、いやー、片方の目に砂が入って瞬きしただけですよ?」

 

「じゃあ、何でアイツも同じように片目を閉じたんだ?」

 

 うっ。魔女帽子の子が逃げずに余計な反応したせいで俺まで疑われ始めた。

 

「お、同じように片目に砂入ったんじゃないですかねー? ほら、ここ砂ぼこりが立ちやすいみたいだし」

 

「そうなのか?」

 

 カラーギャング風の魔法少女の一人が聞くと、傍に居た別の魔法少女が答える。

 

「まあ、この辺は山から吹く風で砂が舞ってるから可能性としてはあり得るな」

 

 意外にこの子達、素直な良い子かもしれない。

 そう思い始めた矢先、魔法少女の一人が俺の右手に視線を向けて、何かに気付く。

 

「あっ! コイツ……宝石の付いた指輪を中指に()めてるぞ!」

 

「そう言えば、神浜市には“銀羽根”って言われた魔法を使える男が居たって情報があったな。もしかして、コイツも……」

 

 ああ、ヤバい。

 急いで誤魔化さないと。

 

「な、何言ってるのか、全然分からないですけどー。男がアクセサリー付けてたらいけないんですかー?」

 

「確かにそうだな……」

 

「わ、分かってくださって何よりです」

 

 よし行けそう!

 安心した瞬間、一人の魔法少女が俺の方に急接近して、顔の前に曲がった刃のナイフを近付ける。

 

「だけど、お前、何で()()()()()()()()()()()()()()焦ったんだ? おかしくないか?」

 

 ()わった眼光が俺の顔を覗き込む。

 決め手は表情。

 俺の反応は分かり易く顔に出ていた。

 俺が本当にただの何も知らない一般人なら、指輪を指摘されて焦る理由がない。

 

「宝石の付いた指輪が、アタシらの間でどういうものなのか知ってる奴の反応だ。違うか?」

 

 あぶら汗が噴き出て、背中をぐっしょりと濡らす。

 駄目だ。まずい。何かこの場を切り抜ける考えが浮かばない。

 視線が曲線を描く刃へ吸い込まれる。恐怖で体が震えて、歯がガチガチと音を立てる。

 

「……やめだ。ここで戦う素振りも見せないなら、ただの一般人だ。行っていいぞ」

 

「は、は、はい……。ありがとう、ございます……」

 

 俺から興味をなくしたカラーギャング風の魔法少女はナイフを魔力の粒子にして消した。

 ヘナヘナと座り込んだ俺はその場からどうにか立ち上がり、逃げようとした。

 

「じゃあ、さっきの続きをするか? なあ?」

 

「ひっ……」

 

 魔女帽子の子に再度、矛先が向けられる。

 今度は全員がナイフを魔力で作り出し、取り囲んでいた。

 尋問じゃない。

 今度は拷問をする気だ。

 俺はその光景を見て、なお動けなかった。

 

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