ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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第十九話『かごめと誓いの少女たち』②

 私は逆沢さんと、そして、昨日から一時的に協力関係を結んだななかさんチームのメンバー──美雨さんとかこさんが一緒に行動していた。

 当初は協力関係を渋った逆沢さんだったが、美雨さんのセーフハウスを自由に使用して良いという条件で、市外の敵対的な魔法少女を追い出す間に限り、ななかさんチームと手を組んだ。

 

「ってか、何でオメーら二人はこっち来てんだよ。ななかんとこ、行けばいいだろ?」

 

 逆沢さんがそう聞くと、美雨さんは肩を竦めて答える。

 

「そうしたいのはやまやまネ。でも、ワタシたちまだお前、完全に信用してないヨ。お目付け役必要ネ」

 

「信頼関係を築く上でも、お互いのメンバーの交換して連携させた方がいいって、ななかさんが……」

 

 まったく信用してないと思われるのはまずいと思ったのか、慌てた素振(そぶ)りで、かこさんがそう付け加えた。

 

「あん? メンバーの交換? ひょっとして、まさらたちのことか? アイツら別に俺サマの仲間じゃねーぞ。たまたま、同行してただけだ」

 

「え? でも、まさらさんとこころさんは逆沢さんの味方だって」

 

 かこさんが言うには二人は自分から逆沢さんの仲間だと名乗ったそうだ。

 確かに成り行きで一緒に居たのは本当だけど、あの二人、特にこころさんは逆沢さんにすごく恩を感じていた様子だったから、そう名乗ってもおかしくない。

 まさらさんの方は表情からは読み取れなかったけど、意識を失っていた逆沢さんを誰よりも真剣に守っていたことから考えて、こころさんと同じように内心では逆沢さんへ感謝の気持ちを抱いていたのかもしれない。

 

「仲間でいいんじゃないですか? 短い交流でも一緒に戦ってくれたことありましたし」

 

 私がそう言うと、逆沢さんは腕組みをして少し考えた後、(うなず)く。

 

「ま、そうだな。俺サマが損するワケでもねぇ。本人が納得してりゃそれでいいか」

 

「納得してもらったところでさっさと捜索するヨ。この周囲で変なバンダナマスクの奴、目撃したいう情報あたネ」

 

 美雨さんが促したところで、本格に捜索が始まった。

 緑が多い区と聞いてはいたものの、当然ながら野山しかない訳ではなく、飲食店や商店などもある。

 道路もコンクリートで舗装されていて、想像よりはずっと人工物はあったけれど、どこか閑散として人の出入りは少ない。

 区内には大きなお嬢様学校や大規模な天文台もあるらしく、都市部の喧騒から離れた避暑地のような雰囲気が漂っている。

 事前にななかさんから聞いた話によれば、人口密度のせいか魔女の発生率も低く、比較的ではあるけれど活動範囲にしている魔法少女は少ないのだそうだ。

 

「捜索ねぇ。こんな山の方に居るとしたら連中、何してんだよ? 市外の魔法少女ってのはマギウスの翼とかに恨みがあるんだろ?」

 

 逆沢さんはあまりやる気がないようで、落ちていた小振りの枝を(もてあそ)びながら、美雨さんに質問する。

 

「そんなこと、ワタシが知る訳ないネ。でも、山の中、秘密基地作る気かもしれないヨ」

 

 美雨さんの方は魔力で作り上げた爪状の武器で邪魔な枝を切り落としながら、ズンズン進んで行く。

 

「秘密基地……。ちょっと憧れちゃいますね。読みたい本を持って、そういう場所で時間を気にせず、読書してみたい」

 

 かこさんの発言に私も興味を(そそ)られる。

 

「確かにそういうの楽しそう……」

 

「かごめさんも読書が好きなんですか?」

 

 小さい(つぶや)きのつもりが、かこさんにしっかり聞かれていたらしく、私は恥ずかしくなった。

 

「え、いや、私は読むよりも、自分で書いたりする方が……」

 

「へー! どんなものを書くんですか? 小説ですか?」

 

「どっちというと詩、とかです……」

 

 自分の個人的な趣味を話すのはかなり恥ずかしい。

 今まで私の方に焦点が当てられることはなかったので、(おさま)っていた人見知りがここに来て、ぶり返す。

 

「詩ですか! いいですね。私は詩集も好きなんです。かごめさんはどんな詩を書かれるんですか? 定型詩ですか? それとも自由詩?」

 

 かこさんの琴線に触れてしまったのか、最初の印象よりも積極的に尋ねてくる。

 キラキラした眼差しで質問攻めにされ、私の声はどんどん(しぼ)んでいく。

 

「じ、自由詩……かな」

 

「良かったら今度読ませてください」

 

「いい加減にするネ、かこ。ワタシたち、遊びに来た違うヨ。これ、敵を探すための行為。そういう話、後ですればいいネ」

 

 先を進んでいた美雨さんが振り返って、かこさんを(しか)った。

 ビクッと姿勢を正したかこさんは、浮かれていたことを自覚してか申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「すみません。私……」

 

「別に仲良く話する構わない。でも、場所と状況考えないと駄目ネ。いつ、向こうから仕掛けてくるか分からないなら尚更ヨ」

 

 美雨さんはぴしゃりと、かこさんにそう告げる。

 反省したかこさんは見るからに意気消沈してしまい、しょんぼりと俯きがちに周囲を見回す。

 助けられた形だけど、これではかこさんが可哀想に思えてしまう。

 私は小さく、かこさんに耳打ちする。

 

「……今度、書いてる詩、持って来ますね」

 

「かごめさん……。ありがとうございます!」

 

 かこさんの感極まった声が漏れ、キッと美雨さんが私たちへ(にら)む。

 今度は私も怒られると思い、首を亀のように縮こませた。

 

「話聞いてなかたカ? ここは……!」

 

「この辺りには居ねーよ。ソウルジェムの魔力の反応がねぇ。だから、オメー、そんなにカリカリしてんなよ」

 

 私やかこさんを庇うかのように逆沢さんは、美雨さんの前へ来る。

 身長差は逆沢さんの方が十センチ以上高く、彼女を見下ろすように立っていた。

 けれど、美雨さんは(おく)した様子もなく、毅然とした態度で言い放つ。

 

「そういう油断が命取りヨ」

 

「油断? 俺サマのは“余裕”っつーんだぜ」

 

「ワタシはななかにこっちのメンバー任されたネ。お前も従ってもらうヨ、逆沢」

 

「俺サマはななかに協力してやってる立場だ。下に付いたワケじゃねー。俺サマは誰にも従わねぇ。やりてーことをやるだけよ」

 

 二人とも我が強く、お互いに一歩も引かない。

 睨み合いを続ける逆沢さんたちに、私とかこさんの方が狼狽(うろた)えてしまいそうだ。

 一触即発の緊迫した雰囲気の中、逆沢さんは何かに気付いたのか、視線を美雨さんから外し、(ふもと)の方へ向けた。

 

「どした? ワタシの気迫に怖気付いたカ?」

 

「何寝ぼけたこと言ってんだ、オメーは。チワワに見つめられて、ビビる虎が居るかっての。それより、見ろよ」

 

「誰がチワワネ。それで、どこ見るヨ?」

 

 顎で示した方へ美雨さんが視線を向けた。

 私とかこさんも同じように顔をそちらへ動かす。

 だけど、鬱蒼(うっそう)と生い茂った木々に阻まれて、とても先の方までよく見えない。

 それは美雨さんも同じだったようで(いぶか)しむ目を逆沢さんへ向けた。

 

「逆沢、適当なこと言って誤魔化してないカ?」

 

「魔力の感知能力死んでんのか、オメー……。しゃーねーな。じゃ、目視できるとこまで行くぞ」

 

 頭をガシガシ掻いた後、逆沢さんはもどかし気に溜め息を吐いてから私を無造作に持ち上げた。

 

「え? ちょ……逆沢さん!? 何をする気ですか?」

 

「かごめ。舌噛むからちぃと黙っとけ。オメーらは後から自力で来いや」

 

 美雨さんたちにそれだけ言い残すと、逆沢さんは私をお姫様抱っこで腕に乗せる。

 まさか、嫌な予想が頭を過ぎる。

 その予想が的中したと理解したのは、浮遊感と流れる風を浴びた後のことだった。

 何と逆沢さんは私を抱えたまま、急斜面を滑り降りて行く。

 

「ひぃ……っ!」

 

 無意識に喉から短い悲鳴が流れ出る。

 猛スピードで降っていく逆沢さんはそんな私とは対照的に上機嫌に笑っていた。

 

「はっはー! 行っくぜぇぇぇーー!!」

 

 風で舞い上がる前髪。

 緑色の景色が凄まじい速さで通り過ぎていく。

 斜面に生えた樹木や枝と激突しそうになる度、逆沢さんは左右へ逸れて華麗な回避を披露(ひろう)する。

 遊園地の絶叫マシーンアトラクションなどとは比べ物にならないスリルが私の脳を揺らした。

 永遠に思えた緑と茶色の世界が、突如視界から切れる。

 そして、再びの浮遊感……。

 目に映ったのは空の青さと綿あめのような白い雲。

 ああ、空ってこんなにも綺麗なものだったんだ。

 スローモーションカメラで撮影したみたいに私の瞳は空をゆっくりと捉えていた。

 だけど、次の瞬間には重力という、忘れかけた絶対の力が働き始め、真下へと急速に引き寄せられる。

 

「逆沢さん逆沢さん! 落ちてます! 私たち落ちてますぅ!」

 

「知ってけど?」

 

「何その余裕っ!? ああっ……!」

 

 私たちが居た場所がどのくらいの位置だったのかは分からない。

 ただ、着地した逆沢さんの足が砂と土煙を派手な音を立てて巻き上げるほどには高所だった。

 だけど、しっかりと抱き締めてもらっているからか私の身体には想像していたよりもずっと小さな衝撃しか訪れなかった。

 バクバクと心臓が波打ち、口の中に乾燥していた。

 

「し、死ぬかと思いました……」

 

「大袈裟なヤツだな、オメーも。怪我一つなかったろ?」

 

 素直な感想を言うと、呆れた表情で私を地面に下ろす。

 この人、多分、恐怖とかないんだろうな。

 まったく羨ましく思えない。

 誰か、逆沢さんにブレーキを付けてあげてください。

 切実な私の想いを構う訳もなく、逆沢さんは指で空を指差す。

 

「ここまで来りゃあ、オメーもアレ見えんだろ?」

 

「“アレ”?」

 

 見上げた先には、見たこともない奇妙な赤色の物体が浮かんでいた。

 しばらくすると、浮遊していた赤色の物体も私たちに気付いたようで、段々と近付いてくる。

 想像よりも大きなそれは、矢じり型の大きな(たこ)のようだった。

 その(タコ)の上に小学生くらいの女の子が居た。さながら魔法の絨毯のように彼女は凧の上に乗っている。

 桃色の髪をしたその少女は一瞬だけ逆沢さんを見て、驚いた表情をしたが、すぐに表情を引き締めてから口を開く。

 

「お願いします! 助けてください!」

 

「助けてって……何があったの?」

 

 私が尋ねると、桃色の髪の少女は縋るような目で言う。

 

「私の……知り合いが、牙みたいなマークのマスクをした魔法少女たちに絡まれてて……それで」

 

 彼女は余程切羽詰まった状況なのか、たどたどしい口調で必死に説明しようとする。

 だけど、そこまで聞いたところで逆沢さんが被せるように少女へ告げる。

 

「ソイツは都合が良いな。ちょうど、俺サマも探してたとこだ。んで、ちょいと質問なんだが……そのヘンテコな乗りモン、何人乗りだぁ?」

 

 二つの瞳を爛々(らんらん)と輝かせて、逆沢さんはそう聞いた。

 それは、ようやく獲物をあり付けることを確信した飢えた獣ような笑みだった。

 

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