ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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第二十一話『かごめと誓いの少女たち』④

「そろそろ五分くれぇ経つが、まだ来ねーな。……一人くらいは()っとくか?」

 

「やめてください、逆沢さん。そこに居る人たち、皆、怯えちゃってます」

 

 逆沢さんの口から物騒な問題発言が飛び出した頃、路地の手前に二つの人影が現れる。

 一人は赤いメッシュの入った黒髪ロングヘアの女の子。前髪は緩くアーチ状に切り揃えられている。

 もう一人はやや黒みがかった青色のツインテールの女の子だ。

 赤いメッシュの子は小柄だけど、意思の強そうな瞳でギラギラと周囲に敵意をばら撒きながら直進して来る。青髪のツインテールの子の方が身長や体格は良いけれど、半歩遅れて、その後ろを続く様子から赤いメッシュのこの方が立場は上のように見えた。

 

「お望み通りに来てやったぞ。お前らが樹里サマの手下共を(さら)ったっていう連中か?」

 

「あーあ。正座までさせられてかわいそ〜。でも、仕方ないよね〜。負けた方が悪いんだからさ」

 

 威圧感を振り撒く赤いメッシュの少女と、のらりくらりとした態度の青髪ツインテールの少女の二人組は何もかもが対照的だった。

 正座で座らされていた赤マスクの少女たちは二人を見て、安堵と歓喜の混じった声を上げた。

 

「次女さん! 三女さん!」

 

「あたしらを助けに来てくれたんですね!!」

 

「お待ちしてました! 早くコイツをぶっ殺してやってください!」

 

 その声に反応して、赤いメッシュの少女の目がギロリと彼女たちを睨む。

 

「……なんだ、その態度は。お前ら、“プロミストブラッド”としての自覚はあんのか?」

 

「ひぃっ……。い、いや、あたしらは……」

 

 鋭い視線に射竦(いすく)められたマスクの少女たちは怯えた様子で慌てて弁明を始めようとする。

 

「チッ、言い訳は後で聞いてやるから、今はもう黙っとけよ。それより、そこの黒服野郎」

 

 眼光を向ける先が捕まった手下たちから、逆沢さんへと切り変わる。

 

「お前が『顔無し手品師』とかいう奴だろ? 聞いてるぜ。男なのに魔法が使えるんだってな」

 

「ほーん。俺サマも有名になったモンだな、オイ。で、そういうオメーはどこぞ誰だよ?」

 

 好戦的な笑みを浮かべた赤いメッシュの少女は名乗りを上げた。

 

「自己紹介が遅れたな。二木(ふたつぎ)市の魔法少女。プロミストブラッドの次女、大庭(おおば)樹里(じゅり)だ」

 

 青髪の少女もそれに追従するように名前を告げる。

 

「同じく、プロミストブラッドの三女の笠音(かさね)アオだよ。よろしくね~」

 

「プロミ……何だって? 消費者金融業の回しモンか? てか、姉妹なのに苗字違うとこは突っ込んでいいヤツか? それともデリケートな話題か?」

 

 怪訝(けげん)そうに聞く逆沢さん。

 一応、家庭事情とかは踏み込んでいいか確認するんだ……。デリカシーの欠片もないのに、そういうセンシティブな部分を気にするのは正直意外だった。

 アオさんが人を食ったような笑みを浮かべて答える。

 

「プロミストブラッド。二木市出身の魔法少女グループだよ~。あと、組織内での義理の姉妹関係になっただけだから気にしないでいいよ~」

 

「おう、そうか。俺サマは『顔無し手品師』。逆沢さんだ」

 

 逆沢さんがそう名乗ると、路地の手前側で立ち尽くしていた中沢さんが口を開いた。

 

「そ、それは……お前のじゃ、な……」

 

 けれど、樹里さんが道端の小石でも見るような眼差しだけで、その続きを押し留める。

 

「何だ、コイツ? 欠片も魔力を感じない。お前らの仲間か?」

 

「知らねーよ、()()()()()。偶然居合わせた一般人だろ」

 

 逆沢さんは中沢さんに目線すら向けず、そう言った。

 

「なッ……お前」

 

「うーん。でも、この子の顔、なーんか見覚えが……」

 

 アオさんは動揺する中沢さんの覗き込む。

 多分、印象が違い過ぎるせいで逆沢さんと完全に一致しないまでも、顔立ちが同じことに薄っすらと気が付いたせいだろう。

 

「アオ。一般人なんざ放っとけ。おい、お前、怪我したくなかったらさっさと失せな」

 

「お、俺は……俺は……」

 

「失せろっつってのが聞こえないのか?」

 

 樹里さんに凄まれ、唇を噛み締めた中沢さんは物言いたげにしながらも背を向けて走り去っていく。

 ういちゃんはその背中を複雑な表情で見送っていた。

 追いかけないのと聞こうとしたけど、事情を知らない私がそれを聞くのは違う気がした。

 それに路地の前に立ち塞がる樹里さんたちが、魔法少女であるういちゃんを中沢さんと同じように大人しく素通りさせてくれるとは思えない。

 

「おい。そっちの奴も魔法少女じゃないだろ」

 

「かごめはいいんだよ。俺サマの連れだからな」

 

「怪我しても知らねーぞ」

 

「安心しろよ。怪我すんのはオメーらだけだ」

 

「何だと……?」

 

「いや、怪我じゃ済まさねぇな。殺すから」

 

「上等だよ。ウェルダンにしてやるよ!」

 

 着崩した制服姿だった樹里さんは逆沢さんからの挑発を受けて、指輪から魔力を発現させた。

 一瞬にして、黒いチャイナドレスと白いミニスカートを組み合わせた衣装に早変わりする。

 だけど、派手にあしらわれた炎の模様がモノトーンな印象を掻き消していた。

 背中には大きな翼の付いた竜を模したリュックサックを背負っている。

 

「ウェルダンだか、フォンダンだか知らねーけど、掛かって来いよ。こっちは散々待たされてんだ」

 

「お望みどおりにしてやる!」

 

 竜型のリュックサックにチューブで繋がった真っ赤な長い銃のようなものを構える樹里さん。

 

「わわっ、次女さん! あたしらが居るって忘れてませんか!?」

 

 マスクを付けたままでも分かるほど、ギョッとした顔で慌てふためく魔法少女たち。

 

「はいはい~。忘れてないですよ~っと。皆、身体をわたしに()()()

 

 フリルの付いた藍色の水着のような露出の高い衣装に変身したアオさんが軽い口調でそう言った。

 

「三女さん! そういうことなら……分かりました。お任せします。存分に使ってください」

 

 樹里さんが構えた筒の先から燃え盛る炎が噴射される。

 あの銃は火炎放射器だったの……!?

 それとほぼ同時に正座で座らされていたマスクの少女たちは、全員まったく同じ動きで跳ね上がるように立ち上がった。

 寸分のズレもなく、動く彼女たちは綺麗に四方へ散開して火炎から逃れる。

 まるで機械じみた精密な動作だ。さっきのアオさんとのやり取りから考えると、もしかして、これがアオさんの魔法……?

 それを考える間もなく、炎が路地内の地面を舐めるように燃え広がっていく。

 

「炎!? わ、わたしたちも早く逃げないといけないの!」

 

 今まで言葉も発さずに私の傍でおろおろと成り行きを見ていたかりんさんが上擦(うわず)った声を上げる。

 

「あ、多分、今はじっとしてた方が安全だと思います」

 

「え!? な、な、何を言ってるの、あなた。炎が、こっちに炎が迫って来てるのっ!」

 

 状況から考えれば、その(あせ)りはもっともだ。かりんさんの主張は何も間違っていない。

 でも、彼女は知らない。

 逆沢さんの魔法を。

 逆沢さんの強さを。

 私は知っている。

 いつだって彼の後ろで見ていた私は、知っている。

 この場所が一番安全だってことを──。

 真っ赤に燃え盛る灼熱(しゃくねつ)の炎が地面を滑るように流れて、私たちを呑み込もうと迫る。

 発せられる熱が。

 爆ぜるような音が。

 焼けつくような光が。

 私たちを今にも覆い尽くそうと膨れ上がる。

 ……だけど、それは叶わない。

 

「邪魔だぜ」

 

 黒いトンファーが大きな布へと変わり、打ち振るわれた。

 翻った布地が今まさに雪崩れ込んできた炎を削り取る。

 消火じゃない。

 “消失”。

 火の粉すらも残さず、紅蓮の炎は掻き消されていた。

 黒く焼け焦げて変色したコンクリートだけが、火炎がそこにあった事実を教えてくれる。

 鉛筆で描かれた絵を消しゴムで消すかのように、あるいは積もった埃(ほこり)(ほうき)で|掃《は)くように、綺麗さっぱり消去された。

 

「……すごいの」

 

「これが、否定の魔法……」

 

 目を皿のように見開いて、かりんさんは感嘆(かんたん)の声を出した。

 否定の魔法を知っていた様子のういちゃんでさえ、言葉少なに見入っていた。

 

「……マジかよ。話には聞いてたが、本当に樹里サマの魔法を消しやがった」

 

 樹里さんもまた伝聞で知っていたようだったけど、想像以上だったらしく、動揺する素振(そぶ)りを見せる。

 

「新鮮な反応ありがとな。だが、こっちはつい最近、魔力の炎は見たばっかでよ。食傷気味(ぎみ)なんだわ。つーワケで……オメー、もう死んどけ」

 

 逆沢さんが大きく踏み込んで、残っている炎へ飛び込んでいく。

 

「っ……言わせておけば、図に乗ってんじゃねー!」

 

 樹里さんが構えた火炎放射器から、更なる炎を放ち、逆沢さんを迎え撃つ。

 さっきよりも噴き出される火炎の量が明らかに増えていた。

 激昂する樹里さんの感情がそのまま威力に反映されたかのように、膨張した炎が逆沢さんの姿を完全に呑み込んだ。

 

「ああっ……あの人、燃やされちゃったの!?」

 

「大丈夫です」

 

「だ、だって、今炎の中に……」

 

「このくらいでどうにかなるような人じゃないので」

 

 自分でも驚くほど、逆沢さんを心配する気持ちが()いて来なかった。

 むしろ、心配なのは……逆沢さんがやり過ぎてしまわないかの方だ。

 

「ハッ、樹里サマに喧嘩を売るから、こうなるん……ッ!!」

 

 勝ち誇る表情を浮かべられていたのも(つか)の間。

 樹里さんの顔から笑みが消える。

 ゆらりと炎の柱の中で黒い影が揺らめいたかと思うと、樹里さんを目掛けて炎の膜を破るように勢いよく飛び出した。

 

「チィッ!」

 

 彼女は現れた影へ反射的に回し蹴りを叩き込む。

 間髪入れずに放たれた鋭い一撃。だけど、蹴り上げたものは逆沢さんではなかった。

 端の焦げた黒い布切れ。

 打撃を受けた布はその瞬間、無数の金色のコインへと変わり、大きく散らばった。

 その一枚が樹里さんの近くで燃える炎の上へ落ちた。

 次の瞬間、そのコインが黒いハンカチ程度の布へと変化し、中心から白い手袋をした手が突き出る。

 突如出現した手は樹里さんの首へ伸びた。攻撃を打ち込んだ布切れがコインに変わり、四散したせいで注意が逸れていた樹里さんは回避することができない。

 

「ぐっぁ、お前ぇ……」

 

 食虫植物のように獲物へと動く腕は彼女の首を()め上げる。

 魔力で満ちた空間であれば、逆沢さんは布を入り口にして転移することができる。

 魔法で生み出された樹里さんの火炎は、逆沢さんにとって自由に移動できる道でしかない。

 前に廃屋でこのはさんの霧の魔法を利用した時と同じだ。

 それでも樹里さんは火炎放射器を手放しはしなかった。

 

「も……や、してっ、やるっ!」

 

 火炎放射器のトリガーを引こうとした樹里さん。

 そんな彼女の肩を誰かが叩いた。

 絞め上げられた樹里さんは視線をそちらに向け、愕然とする。

 

「お前……何で、そこにっ」

 

 そこにあったのは炎の中に右腕だけを突き入れた逆沢さんの姿だった。

 樹里さんの斜め後ろに立っていた彼はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「俺サマさ、実は左利きなんだよ」

 

 左手にトンファーを握り締めた逆沢さんは、炎から飛び出た右腕に首の根を掴まれている樹里さんへそれだけ告げる。

 直後、激しい横薙ぎの打突が逃げ場のない彼女の頬に叩き込まれた。

 首を動かすことすら封じられた樹里さんは、その直撃を受けてだらりと腕を垂らす。

 抱えていた火炎放射器は地面に落ちると同時に粒子に分解され、空気に溶けるようにして消えた。

 周囲で燃え盛っていた炎もまた、吹き消されたロウソクの火のようになくなる。

 炎が消えた時、逆沢さんの右腕は元通り彼の右肩と繋がっていた。

 私はそれを確認すると、逆沢さんの近くまで走っていく。

 

「こ、殺してないですよね?」

 

「ああ、まだな。トドメを刺すのはこれからだ」

 

「刺さないでください!」

 

 私がそう言って止めると、逆沢さんは嫌そうに眉を(ひそ)める。

 

「いや、コイツは殺していいだろ? こういうのセートーボーエーっていうんだぜ」

 

「もう勝負はついてます。誰が見たって、逆沢さんの勝ちじゃないですか」

 

「そうとも言えねーぞ。まんまとやられた」

 

「え? それってどういう……」

 

 逆沢さんの口振りに私は疑問を抱くものの、すぐにその答えに気付く。

 アオさんと、それからマスクの……プロミストブラッドの人たちが居ない!

 逆沢さんに首を掴まれていた樹里さんの目がカッと見開かれ、彼の胸を蹴り付ける。

 蹴った反動を利用して、逆沢さんの手から逃れた。

 そして、地面で転がり、距離を取ってから跳び起きる。

 

「けほっ……こっちも殺す気でやったんだ。単純な戦いなら樹里サマの負けだ。けど、あくまで目的は救出。手下共を逃がせれば樹里サマたちの勝ちだ」

 

「大したモンだな。あの火炎は目眩(めくら)ましでもあったワケだ。戦闘狂に見えて、オメー案外、周り見えてんじゃねーか」

 

「一応、これでもプロミストブラッドの幹部やってんだ。ま、キレてたのは演技でも何でもねーけどな」

 

 樹里さんはそう言って、()れ上がった顔で不敵に笑う。

 下がった目蓋(まぶた)は裂け、口の端から血が(したた)り落ちている。不自然に前へ傾いた姿勢は三半規管に異常が出ているせいだろう。

 それでもなお、瞳に宿る意思は折れてはいなかった。

 最初に仲間が居る場所ごと居る場所ごと、燃やそうとすることで仲間の命を何とも思っていないと印象付けたのも作戦の内だったんだ。

 炎の弾幕で逆沢さんの前を覆ったのもそう。

 分かり易く炎を集中させることで、そこに視線が向くよう誘導していた。

 コンクリートにできた焦げ跡もよく見れば、いくつか隙間がある。炎が路地全体に回らなかったのも逆沢さんが消しただけではなく、仲間が逃げる道に燃え広がらないようしていたせいだろう。

 

「それでオメーはどうやって俺サマから逃げるつもりだ? あの一撃には否定の魔法は加えちゃいねぇが、まだ視界だってブレてんだろ。タネの割れた炎の目眩ましはもう通じねぇ。それともまだ切り札あんのか?」

 

 逆沢さんの問いに樹里さんは笑みで返す。

 

「樹里サマが逃げるって? そいつは何の冗談だよ。まだダウンの一つも取られちゃいねー。こっからが本番だろうが」

 

 私にでも分かるほどの虚勢。それは彼女自身が一番よく分かっているはず。

 彼女は私が見てきた中でも一際強い魔法少女だ。

 だからこそ、力量差が分からない訳がない。

 戦えば、間違いなく殺されてしまうと理解しているだろう。

 

「第二ラウンドだぜ。逆沢ァ!!」

 

 それでも樹里さんは火炎放射器を手元に作り出し、逆沢さんと私へ噴射口を向ける。

 

「良い啖呵(たんか)吐くじゃねーか! そんなら望み通り、殺してやんよ!」

 

 縦に握った空の拳の上に一枚のコインが生成される。

 逆沢さんは親指をグッと引き(しぼ)り、狙いを定めた。

 指弾の構えだ。

 否定の魔法を()めた必殺の一撃が今まさに放たれようとしていた。

 駄目だ。私にはもう止められない。

 

「──そこまでにしておいてくれるかしらぁ……」

 

 語尾が消え入りそうなダウナーな声音がその場に響く。

 決して大きな声量じゃないのに、耳へ残る不思議な声。

 その声の主は、私たちの頭上、路地の真横に組み上げられた鉄パイプの足場に(たたず)んでいた。

 浅黄色の(すそ)の短い着物を纏った灰色の髪の少女。くたびれた目付きをしている。

 何より目を引くのが、額から伸びる一本の黒い角。魔法少女の衣装の一部だとしても異質に映った。

 

「誰だ? オメー」

 

「っ!? 姉さん!」

 

「オメーの姉ちゃんか。いや、血の繋がらないアレか。プロミネンスなんたらの」

 

「プロミストブラッドの長女、紅晴(くれは)結菜(ゆな)よ……」

 

 自己紹介をした着物の少女、結菜さんは手に握った棘付きの棍棒で樹里さんを刺す。

 

「そこの妹がお世話になったみたいねぇ……」

 

「おう。気にすんな。オメーもまとめて世話してやんぜ。あの世に行く世話で良けりゃな」

 

 怒気を薄らと滲ませる結菜さんに対し、逆沢さんは軽い調子でそう返事をする。

 相変わらず、物騒この上ない挑発を誰彼構わず向ける人だ。

 

「……あの世、ね。そんなものが本当にあるとして、私たちに行く権利があるのかしらぁ……」

 

 結菜さんはどこか遠い目で自嘲めいた言葉をポツリと漏らす。

 

「あ? 妙なこと言うんだな、オメー。あの世に行く権利なんて考えたこともなかったぜ。さては哲学者だな?」

 

「ただの戯言よぉ……。それより、可愛い妹を返してもらえないかしらぁ……」

 

「嫌だね。コイツは殺す。オメーも殺す。んでもって、逃げたヤツらも見つけ出して殺す」

 

 蛮族を超えた蛮族の発言。一体、何が彼をここまで殺意に駆り立てるんだろう……。誰か教えてください。

 

「そんなとこで偉そうにしてないで早く降りて来いよ。二人がかりで良いぜ。まとめて秒で殺してやるから」

 

 血の気の多いで片付けるにはあまりにかっ飛んでいる逆沢さんの台詞に、結菜さんは溜め息を吐く。お気持ち、お察しします。

 

「ケモノに言葉を使った私が愚かだったわぁ……仕方ないわね……」

 

「お。やる気になったか。いいぜ、来いよ。何人で来ても俺サマには勝てねぇだろうがな」

 

「ええ……そうねぇ。あなたには敵わない。だから……別の人を狙うわぁ……」

 

「オメー……それは」

 

 口の端を緩く上げ、薄ら笑いを浮かべた結菜さんは、持っていた棘付き棍棒で足元の鉄パイプを叩いた。

 甲高い金属音が響き渡ったかと思うと、突然、結菜さんの立っていた鉄パイプ足場とは反対方向にあった仮設足場が崩れ落ちる。

 何かの仕掛け? それともそれが結菜さんの魔法?

 そんなことが脳裏を過ぎるけど、それよりも上から落下してくる無数の鉄パイプが私の思考を塗り潰す。

 視界のすべてがスローモーションになって見えた。

 音が遠く聞こえる。

 必死の形相で走り寄る逆沢さんの顔が目の端に映った。

 どんな時でも太々しい態度の彼が、初めて動揺する姿を見て、私は──。

 

「……かごめっ!」

 

 逆沢さんの叫びだけがはっきりと耳に届いた。

 

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