ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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外伝 白銅色の動揺

『義を見てせざるは勇なきなり』

 

 それがボクがお父さんから教えてもらった大切な言葉。

 困っている人には手を差し伸べろ。差し伸べないで後悔する前に。

 その教えが今のボクを支える生き方の土台となって根付いている。

 魔法少女になってからもその信条は変わらない。

 ボク自身が人の頼みを断れない性質(タチ)なのも相まって、今じゃ「参京院のトラブルシューター」なんて呼ばれる便利屋扱いだけど、それでもボクは困っている人を放っておけない。

 

「あきらさん。あなたは逆沢さんと共に行動して、神浜市外からやって来たという魔法少女集団・プロミストブラッドの動向を探ってください」

 

 だから、ななかにそんな無茶振りをされたとしてもボクは引き受けないという選択はなかった。

 

「……一応、聞いておきたいんだけど、何でボクなの?」

 

「大人しいかこさんでは彼を制御しきれません。かと言って、()の強い美雨さんとは相性が悪く、前回の捜査時に独断行動を立腹している彼女と組ませれば衝突するのは火を見るより明らか。そうなると必然的に適任者はあきらさんしか居ません」

 

 それはまあ、分かる。

 ななかの性格上、逆沢君に着いてきただけのまさらさん、こころさんは信用していないから除くとして、誰かしらのお目付け役を着けておきたいのも分かる。

 だけど……。

 

「ななかが自分でやるって選択肢は?」

 

「ありません」

 

 凛としたまっすぐな瞳でそう答えた。

 

「…………」

 

 無言で見返すと流石の彼女もバツが悪くなったようでコホンと咳払いを一つしてから、もっともらしく語り出す。 

 

「誤解しないでください。別に私が彼を苦手に思っているからではありません。逆沢さんは野生の勘のような直感力を持っています。ああいう手合いには私のような打算的な人間よりも、あきらさんのような直情的な人間の方が反感を抱かれ(にく)いでしょうから」

 

「直情的って褒められてないよね? ……いいよ。確かに他の子に任せるよりも気が休まるし」

 

 面倒事を誰かに負わせる方がボクとしては嫌だ。

 

「そう言って頂けると思っていました。感謝します、あきらさん」

 

 それを見越しての判断だってことくらいはボクでも分かる。

 だけど、やっぱり困っていれば断れないのだから仕方がない。

 そんなこんなでボクは逆沢君と一緒に“プロミストブラッド”と名乗る魔法少女集団がこの街で何をするか調べる役目を請け負った。

 そこまではよかったんだけど──……。

 

「あ? 俺サマと一緒に行動? いいぜ。したけりゃ好きにしろよ。ただし、オメーが俺サマに着いて来れるかは知らんがな」

 

 当の逆沢君は拒絶こそしないまでも協調してくれる気配が皆無。

 かごめさんと離れてからの彼は、前にも増して融通が利かなくなってる。

 曲がりなりとも彼女と一緒に居た頃の彼は、かごめさんに対してだけはある程度の気遣いを見せてた。

 でも、今はまともに他人の歩幅に合わせるそぶりも見せない。こうして思うと、かごめさんって、逆沢君の外付けのストッパーだったんだなぁ。

 これだけでも充分頭を抱えたくなる話なんだけど、他にもう一つボクは厄介事を引き受けていた。

 

「アリナ先輩を一緒に探してほしいのっ」

 

 それはあの“元マギウス”、アリナ・グレイの捜索依頼。

 魔法少女になりたての御園かりんって子からの頼み事だ。

 アリナ・グレイ。

 マギウスと直接的な関わりのなかったボクでも知ってるくらいの大悪人の魔法少女だ。

 あの銀羽根事変の元凶だって元を辿れば、そいつだって話じゃないかっ。

 そんな悪い奴を探してほしいなんて正直御免(ごめん)だった。

 だけど、彼女は本気で行方不明になったアリナ・グレイを心配していて、ボクに助けを求めてる。

 そんなの放っておける訳ない。

 ボクはどうしたって、困っている人には手を差し伸べずにいられないんだ。

 

 

 ***

 

 

「そういう訳で今日はボクたち三人で街をパトロールするよ!」

 

 色々考えた末に、ボクは逆沢君とかりんを連れて、街を見回ることに決めた。

 プロミストブラッドの調査をしつつ、アリナ・グレイの捜索を行う。引き受けた以上は、両方ともやり遂げてみせる。

 

「ななかから任されたから今回はボクの指示に従って行動してもらう。それに異論はないよね? 逆沢君」

 

 何事も最初が肝心! あまり得意ではないけど、指揮系統をしっかりと理解させておく必要がある。

 ビシッと私が逆沢君にそう呼びかける。

 呼びかけるが……反応がない。

 

「あ、あれ……? 逆沢君?」

 

 ついさっきまで居たはずの彼の姿は影も形もなかった。

 気まずそうな視線を向けるかりんが口を開く。

 

「えーと……。あの人なら電線の上に……」

 

「え、電線って? あっ!」

 

 彼女が指差した方向を見ると、電柱同士を繋ぐ電線の上をスルスルと器用に歩いている逆沢君の姿があった。

 数秒しか目を離していないのに、既にかなり遠くまで進んでいる。

 その突拍子もない発想と行動力には驚き半分呆れ半分で見つめていると、突然何かを見つけたように駆け出した。

 

「ちょっ……何してるの!?」

 

 慌ててボクも走って追いかける。

 だけど、揺れる足場を物ともせずに彼は一直線で先へ進んで行った。

 ……何で安定した地面を走っているボクより早く進めるんだ!? そもそもそんな場所を走って平気なの?

 脚力には自信があったのに、逆沢君との距離は着実に離れていく。

 

「何なんだよ。ホントにもうっ!」

 

 こうなったら、先回りできるルートを予想して回り込んだ方が……。

 後を追跡するのを一旦やめて、目的地を割り出そうかと目を離した瞬間、かりんの声が響く。

 

「はっ、はっ……早過ぎなの。あ、あきらさん。あの人飛んだのっ!」

 

「は? えっ。と、飛んだぁ!?」

 

 反射的に視線を戻した先で、テールコートの(すそ)をなびかせて、逆沢君のシルエットが宙を舞っていた。

 何考えてるの! ここ、日暮れ前の住宅街だよ!? 

 電線を疾走する彼は今更だけど、当然人目を引いていた。

 当たり前だ。大道芸人だってしない奇行パフォーマンスを惜しげもなく披露(ひろう)してるんだから。

 道を歩く通行人はもちろん、窓から顔を出して彼を見てる人もそこかしこに居る。

 通報されていないのが奇跡なレベルだ。

 そんな衆人環視の中、突如跳躍を見せたものだから大変だ。

 悲鳴にも似た声がいくつも上がった。

 だけど、次の瞬間、空中を落下する逆沢君の姿は忽然(こつぜん)と消える。

 

「消えたの!?」

 

 かりんの言う通り、彼の姿はどこにも見えない。

 だけど、冷静にその方向を注視すれば気付ける。あれは……。

 

「魔女の結界に入ったんだ。ほら、あそこ。見て」

 

 ボクは人差し指で示す。

 住宅街を抜けた先にある空き地。そこを囲う壁の一部に、奇妙な文字のようなものが刻まれている。

 薄っすらと魔力を放つ、それは魔女の結界の入り口。

 

「何かのパフォーマンスでもやってるのか?」

 

「確か、手品師みたいな格好だったしな……」

 

 目撃した人たちが混乱している内に、ボクもかりんを連れて、結界内へと潜り込む。

 中へ入ると、青黒い空間が広がっていた。

 重ねられた巨大な食器が山積みになって、そこら中に散乱している。

 食器の山脈を超えた先、結界の中央には一際大きな平皿があり、その上には三本足のウエイトレスの魔女が居た。

 頭の代わりに車輪か歯車のようなものが生えたその魔女は、空中に浮かべた黒い腕を振るって、一人の魔法少女と戦っている。

 ピンク色のラインが入った白いフード付きのマント衣装。

 見覚えがある。確か……そう、彼女は環いろは。マギアユニオンのリーダーだ。

 

「やあっ!」

 

 彼女はくるりと弧を描いて、宙返りして魔女の腕を(かわ)す。

 同時に左腕に付いたクロスボウから魔力の矢を射った。

 逆さまになった彼女が撃ち込んだピンク色の矢が、魔女へと放たれる直前、環さんのマントの内側から包帯のような布地が伸びて、矢に絡み付く。

 ……!? あれは何!?

 布地に巻かれ、膨張して、禍々しい槍のような形状に歪んだ矢は、鮮やかなピンクから黒く濁った色に変わる。

 肥大化した魔力の矢は、魔女の頭部にある車輪へ深々と突き刺さった。

 

『──sdlidjjcnfjsnkx.kxfdgj

 

 黒板を爪で引っ掻いた時の音のような叫びを上げて、三本足の魔女の姿が消し飛んだ。

 カランと硬い音を立てて、平皿の上にグリーフシードが落ちる。

 宙で身を(ひるがえ)して、環さんはそれを拾うために屈んだ。

 

「やっぱりな」

 

 彼女の頭上から声がかかる。その声に反応して彼女は上を見上げた。

 ボクたちも中央へ移動しながら、視線を上げる。

 重なった皿の山頂で足を組んで偉そうに腰掛けた逆沢君が、環さんを見下ろしていた。

 

「あなたは、中沢君のコピーの……」

 

()()さんだ。そう呼べ。それよか、オメー……今の状態分かってんのか?」

 

「……そっか。あなたには分かるんだね」

 

 どこか寂しそうな、それでいてホッとしたような複雑な表情で環さんはそう呟いた。

 皿の山の天辺から大きく飛び降りた彼は、環さんの方へ歩み寄る。

 

「魔力の反応が魔女に(ちけ)ぇ。てっきり俺サマはみことが居るのかと思ったぜ」

 

「みことって、あなたを生み出した鏡の魔女のこと?」

 

「まあ、半分はそうだな。魔女になる前に分割された魔法少女だった頃の意識だ。ま、今は実体化してやがるがな」

 

「一緒に動いてるんじゃなかったの?」

 

「ワケあって決別したんでな。アイツの居場所は俺サマも探してるんだわ」

 

 のんびりと話をし始めた二人にボクは口を挟む。

 

「ちょっと今の話はどういうこと? 魔力の反応が魔女に近いっていうのは……」

 

 逆沢君は、最初からボクたちが結界内に入ってきたことに気付いていたようで、特に驚く素振(そぶ)りも見せずに答える。

 

「そのまんまの意味だ。コイツ、ほとんど魔女だぞ」

 

 さらっと言われた発言にボクは困惑する。

 

「で、でも、彼女は魔女化してないよ?」

 

「魔女、化?」

 

 その時、一緒に来ていたかりんが不思議そうにそう繰り返す。

 一瞬、その意味が分からなかった。

 だけど、逆沢君はポンと手を叩く。

 

「そうか。オメーはマギウスのヤツラのことも知んねぇんだったな。じゃあ、魔女化も知らねーか。魔法少女はソウルジェムが濁ると魔女になんだよ」

 

 何でもないことのように言う。

 ボクもそれを聞いて、ハッとなった。

 マギウスによって神浜市内では常識となった魔女化だけど、銀羽根騒動以降に魔法少女になった子は知らないんだ。

 ようやくまた神浜市で契約できるようになったキュゥべえが、魔女化のことを教えるはずがない。

 

「え……魔法少女が魔女に……。そんな、そんなの嘘なの」

 

「いや、嘘じゃねーよ。マジな話」

 

 ショックを受けるかりんに相変わらず、軽いノリで受け答えする。

 いや、確かに真実だけど、そんな雰囲気で教えていい内容じゃないよ……。

 

「えっと、そっちの二人は?」

 

「ん? ああ。コイツらは色々あってツルんでる魔法少女共だ。ショートのがあきらで、とんがり帽子の方がかりん」

 

 雑な紹介を受けて、環さんは頷いた。

 

「私は環いろは。マギアユニオンっていう魔法少女の互助組織をやってるんだ。よろしく」

 

「え、ああ。うん、よろしく……って、いや、それより話を戻そうよ」

 

 逆沢君は規格外だけど、彼女も彼女でマイペースな子だ。

 ここはボクが話を進めないと、話題がどこかへ流れていってしまう。

 

「ほとんど魔女っていう話、本当なの?」

 

 ボクが尋ねると、環さんは少しだけ困ったような笑みを浮かべた。

 

「うん……本当だよ。一応、ソウルジェムは濁り切ってないけど、もうグリーフシードでの浄化もできないの」

 

 さっき手に入れたばかりのグリーフシードを彼女がソウルジェムに近付けるが、穢れが外へ出ていく気配はない。

 沈殿した穢れはピンク色のソウルジェムの下半分を黒く濁らせていた。

 

「それ……環さんの仲間は知ってるの?」

 

「ううん。知らない。話してないから」

 

 視線を落として首を振る彼女の声はさっきよりも幾分沈んでいた。

 当然だ。自分がもう助からないなんて、親しい友達にだって話せる訳がない。

 魔女になるってことは、つまり、仲間に殺されないといけないってことだ。

 それ以上何も言葉が出て来なくて、ボクも同じように視線を落とした。

 だけど、逆沢君はそんな重い雰囲気なんてお構いなしに話を続ける。

 

「あれ? いろは。オメーはマギアユニオンは助け合う組織だって言ってなかったか?」

 

「……ああ、逆沢君は中沢君が聞いた内容知ってるんだもんね。うん、そうだよ。助け合いを目的とした組織だよ」

 

「じゃあ、オメーは何で助けを求めねーんだ?」

 

 心底不思議そうな顔で聞く。

 無神経にも限度がある! 何でこの人は環さんの気持ちがわからないんだ。

 カッと頭に血が昇り、気付けばボクは彼女の代わりに反論していた。

 

「そんなのっ、困らせるからに決まってるだろ!? 何で分からないんだよ!」

 

「は? 何言ってんだ、オメー。そんなの当然だろ」

 

 あまりにも真顔で返されたものだから、ボクはたじろいだ。

 

「当然って……」

 

「助けてもらうってそういうの引っくるめて、相手を頼るってことだろーがよ。違うか?」

 

「うっ。だって、それは……言われた方がどうしようもないことだった場合とかは……」

 

「んじゃ、聞くがよ。あきら。オメーが他人に助けてもらう時、オメーはソイツができそうなことだけ一々選んで頼んできたんか? 『コイツならコレくらいはやれんだろ』ってよ」

 

 その質問にボクは、答えることができなかった。

 だって、ボクは……。

 

「分からないよ……。ボクは困ってる人を助けたことはあっても、その逆はほとんどないから」

 

 いつだって、それが“当たり前”で、それが“正しいこと”だから。

 

「いろは。オメーは?」

 

「私もあきらさんと同じ、かな? よく分からないんだ。ずっと誰かを助けることでしか人と関わって来なかったから」

 

 環さんもボクと同じく『助ける側の人間』。

 だから、答えられないんだ。『助けてもらう側』の心情が。

 今度は逆沢君はかりんの方へ目を向けた。

 

「なら、かりん。オメーはどうだ?」

 

「わ、私? 私は……」

 

 彼女は一拍だけ悩んだ後、(せき)を切ったように語り出す。

 

「……ホントに助けてほしい時はとにかく助けてって頼ると思うのっ。相手に迷惑かけるとか、この人じゃ無理そうだとか、そんなこと考えてる余裕なんてないから、とにかくお願いするのっ。それで、断られたり、面倒くさそうに思われたり、『フールガール』って呼ばれたりもするけど、それでも頑張ってお願いするのっ」

 

 それは誰か個人を思い浮かべての言葉だと分かった。

 同時に思い知らされる。

 誰かに助けを求めることが、どれだけ切実で必死なものなのか。

 

「助けてもらうってのは、大抵はそういうモンだわな。振り払われるかもしれねー手を伸ばすってのは、オメーらが思うほど楽なことじゃねーんだ。それでも助かりてぇヤツは必死こいて言うんだよ。“助けてくれ”ってな。だからよ、いろは──」

 

 逆沢君は真っ直ぐに環さんを見て言った。

 

「結局んとこ、オメーは本気じゃねーんだよ。本気で助かろうともしてなけりゃ、本気で仲間を信じようともしちゃいねぇ」

 

 散乱した皿の山が徐々に薄らいでいく中、彼ははっきりとそう口にする。

 結界が消えて、周囲の景色は空き地に戻っていた。

 

「違うよ、逆沢君。私は魔女になることを受け入れてるだけ……」

 

「なら、何で話さねぇ? 納得してんなら堂々と宣言すりゃいい。俺サマはな、オメーが魔女になろうが、魔法少女のままだろうが、正直どっちでもいいんだよ。それがやりたいことなら貫き通しゃあいい。ただな、()()()()()()()()()()()()()()を悟ったみてーに語ってんのが気に食わねぇ」

 

「…………」

 

 環さんは彼の言葉に何も返さない。

 

「俺サマの知ってる環いろはって女は、もっとイカれたヤツだったぜ。存在消された妹を疑うこともなく探し回ってよ、魔女になったって聞いても、モキュゥべえになったって知っても絶対に諦めなかった。そんな止まり方を忘れたべらぼーなイカれポンチ(魔法少女)だったぜ」

 

 言いたいことを好き放題に言ってから、彼は黙ったままの彼女の脇を通り過ぎる。

 ボクは今の環さんに掛ける言葉を持ち合わせていなかった。

 ……悔しい。

 ……悔しいな。

 彼女が困っているのは分かるのに、分かりきっているのに、ボクじゃ手を差し伸べてあげられない。

 環さんが本当の意味で助かるには、環さん自身から助けを求めないといけない。

 ボクは知らなかった。

 知ろうとさえ、してこなかった。

 人を助けるってことは、片方だけじゃ駄目なんだ。

 “助けたい”だけじゃ駄目なんだ。

 “助けてほしい”が揃って、やっと成立するものだったんだ。

 そして、その台詞を彼女から最初に聞くべきなのはボクじゃない。

 だから、ボクは生まれて初めて、自分の信条を自分の意思で破る。

 悔しいのに、不思議と何故か、前に進めた気がした。

 

「環さん。……どうか、どうか頑張って!」

 

 頭を捻って、絞り出した割には、陳腐(ちんぷ)でありきたりな応援だった。

 それが今、彼女にどうにか言える唯一の言葉。

 

「……うん。ありがとう、あきらさん」

 

 この感情(オモイ)だけは伝わったのか、環さんは困ったように笑ってくれた。

 

「かりん。行こう」

 

「あ。はいなの。じゃあ」

 

 かりんは環さんへ小さく会釈するとボクと共に逆沢君の後を追う。

 ズボンのポケットに手を突っ込み、肩で風を切って歩く彼の背中からは感情は読み取れない。

 身勝手で粗暴。だけど、今回のことで彼がそれだけじゃないと知ることができた。

 それは良かったのか、悪かったのか。

 ななかは言っていた。

 

『逆沢さんに否定の魔法を使わせるよう誘導してください。好戦的なのに極力魔法を使わないように戦闘しているのは、恐らく彼の魔法は彼自身にも悪影響を及ぼすからでしょう』

 

 きっと、ななかの想定は正しい。

 

『特に“リジェクト”という力を使った際には、意識を一定期間失うほどの消耗を見せました。あの力を数度使用させれば、彼は己の固有魔法によって自滅するはずです』

 

 だけど、ボクはまだ逆沢君をほとんど知らない。

 彼が本当にこのまま、自滅することを良しとしていいのか、悩んでいる。

 幼い頃から、自分の根幹を支えていた信念が揺るがされたように、絶対的なことなんてこの世界にないのかもしれない。

 だから、今はまだあと少しだけ見ていたい。

 この否定の手品師が見せてくれるものを。

 




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