ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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第二十四話『かごめと甦る皆殺しの救世主』②

 魔法少女。魔法。奇跡。

 私がそれらの単語から想像するのはメルヘンチックで、明るいファンタジーな世界観。

 でも、実際目の当たりにした光景は、そういったフワフワした心地よいものとは違った。

 殺伐としていて、後悔や怨恨が溢れる陰惨な世界だった。

 誰かを傷付けようとして、誰もが傷付いているような、そんな不幸せな場所。

 最初は成り行きだった。

 でも、今は自分からもう一度、その場所に足を踏み入れようとしている。

 理由は色々ある。でも、一番の理由はそう……。

 なかったことにしたくないからだ。

 あの、どうしようなく乱暴で、どうしようなく極端で、なのにどうしようもなく温かな彼との出会いを、なかったことにはしたくなかった。

 だから、私は知ろうと進む。

 自分が踏み込んだ世界とどう関わるかを決めるために。

 このはさんたちと一緒に行動させてもらっているのもそのためだ。

 

「かごめさん。今日は魔女退治のためのパトロールに付き合ってもらうわ」

 

「はい。よろしくお願いします!」

 

 このはさんへ勢いよく返事をすると、私の隣に居た葉月さんが微笑んだ。

 

「うんうん。元気があって大変よろしい! でも、かごめちゃん。気張りすぎもよくないからね」

 

 そう言って、私の肩をポンと叩く。

 ビクリと身体が揺れた。その時、ようやく自分の身体が強張(こわば)っていたことに気付いた。

 全身へ必要以上に力が入っていたみたい。

 

「あ、ありがとうございます……葉月さん」

 

「呼び捨てでいいって。気楽に行こうよ、気楽に」

 

 ズイッと顔を近付けて、私にウインクをしてくれた。

 緊張を(ほぐ)してくれることに感謝しつつ、距離感の詰め方に少しだけ戸惑ってしまう。

 

「葉月。あなたは少し緊張感が足りないわよ。今、この街に居る敵は魔女だけじゃないんだから」

 

 苦言を(てい)すこのはさん。

 だけど、そんな彼女にも葉月さんは悪びれない。

 

「はいはい。分かってるって。でも、なんか感慨深いな。アタシたち以外とは関わろうとしてなかったこのはが、率先して誰かの世話を焼くなんて。お姉さん、嬉しいよ」

 

「ッ! 誰がお姉さんよ。むしろ、あなたの方が妹っぽいじゃない!」

 

 いつもの冷静な外面からは想像も付かないほど、子供みたいな反応をするこのはさんに私は目を(しばたた)かせた。

 すると、少し離れた場所に居たあやめさんが駆け寄って、声を上げる。

 

「めずらしー! このはも葉月も人前であんな風に騒ぐの初めて見た」

 

「そうなんだ」

 

「そーだよ。えーと……」

 

 目線を私へ上げたものの、多分名前が分からないから言葉に詰まったしまったのだろう。

 

「私はかごめ。佐鳥かごめって言うの」

 

「かごめ! あちしはねー、あやめって名前なんだ。ねーねー、かごめ。それ何? それ何?」

 

 私が抱えているものに興味津々で聞いてくる。

 せっかくだからと思い、私は一度咳払いをして声を整えた。

 

「<初めまして。私はかごめちゃんの一番の友達の、アルラウネのアルちゃん。よろしくね>」

 

「えー、すごい! 喋った! あるうらねって何?」

 

「<“アルラウネ”、だね。植物の精霊みたいな存在と思ってくれればいいよ〉」

 

「へー、精霊! なんかすごそう!!」

 

 目をキラキラさせて、新鮮な反応を見せてくれるあやめさんにこっちまで嬉しくなる。

 最近はあまり腹話術をする機会も減っていたこともあり、しばらくアルちゃんとしての会話に夢中になっていた。

 ハッと気付いて、視線をずらすと困ったような表情のこのはさんと、苦笑い気味の葉月さんの目があった。

 

「あ。す、すみません……私、周りが見えてなくて」

 

「いや、リラックスするように言ったの私だし、あやめを楽しませようとしてくれたのは分かるから、ね。まあ、あれだよ。気を取り直して、パトロールにしゅっぱーつってね」

 

 気を遣って明るく(おど)けてくれる葉月さんの台詞に、かえって申し訳ない気持ちになる。

 集中力に欠けていた自覚はある。

 力み過ぎず、それでいて周りをよく観察できるようにならないと。

 改めて意識を切り替えた私は、つつじの家の魔法少女たちと共に陽の落ちた街を巡回する。

 歩きながらこのはさんから聞いた話によると、魔法少女にはそれぞれナワバリとして、魔女を狩る区域を決めているのだという。

 ただ、神浜市のようにある程度の魔法少女が密集している街では、ナワバリの区切りが明確になっておらず、それによって魔法少女同士で争いになることもしばしばあるそうだ。

 だから、ある程度、決め事として同一の魔女との戦闘に参加した場合は、その魔女が落としたグリーフシードの使用権を認めているらしい。

 

「元は、ななかさんたちと私たちだけのルールだったけれど、今は浸透してるわ」

 

「へー。そうなんですか。じゃあ、いつも決まった場所をパトロールしてたり、とか?」

 

「それだとなかなか魔女を見つけられないわ。知っているかと思うけど、魔法少女のソウルジェムは定期的に浄化しないと魔力を維持できなくなる。魔法を使えなくなることはもちろん、最悪の場合、魔女になる。だから、他の魔法少女とかち合うことになっても魔女を探すの」

 

 グリーフシードの争奪は、魔法少女として生きるために必要なことと割り切らないといけない。

 そう、このはさんは教えてくれた。

 あれ、でも、それなら……。

 

「私が魔法少女になることって、このはさんたちからすれば、デメリットしかないんじゃ……」

 

 私が聞くとこのはさんは(わず)かに目を伏せた。

 

「確かにそういう側面もあるわ。でも、言ったでしょ。魔法少女のソウルジェムが濁り切ると魔女になる。()()()()()()()()()()()()になるなら、それもメリットと呼べる」

 

「このは。そういう言い方は……」

 

 葉月さんがこのはさんの発言を(たしな)めようとするけど、私は首を振ってそれを止めた。

 

「大丈夫です、葉月さん。このはさんは包み隠さず、教えてくれようとしているだけなのは分かってますから」

 

「そ、そう? なら、いいんだけど。このはは言葉をオブラートに包むってことを知らないから」

 

 その発言にこのはさんは憤慨(ふんがい)する。

 

「知ってるわよ! かごめさんが言った通り、あえて私は言っているの! それになりたての魔法少女は大抵は魔女になる前に戦闘で死亡することの方が多いわ」

 

「……これがオブラートに包んだつもりなら、このはの言葉は(とが)り過ぎだよ。オブラート、破けちゃってる」

 

「ねーねー、おぶらーとって何?」

 

 三人の会話を聞いて、私はクスリと笑った。

 確かにこのはさんはズバズバと物を言うけど、葉月さんは葉月さんで気を回し過ぎるところがある。

 そして、二人の話を分かっているのかそうじゃないのか、あやめさんがとぼけた発言をする。

 三人一組で調和が取れている気がする。

 ほんの少し、ほんの少しだけ、逆沢さんと私と……みことさんの三人で会話していた時を思い出した。

 あの時は流されるだけだったけど、思い返せば、初めてアルちゃんの腹話術なしでちゃんと話せた貴重な時間だった。

 また、あの頃みたいに三人で話せる時が来るかな……。

 来たらいいな……。

 そんなことを考えていると、見覚えのある顔を視界の端で(とら)えた。

 センター分けの髪型の男の子。

 逆沢さんと瓜二つだけど、全く真逆の彼の名は──。

 

「中沢さん……?」

 

 彼は二人の女の子を連れて、どこかへ向かおうとしていた。

 二人とも知らない子だ。

 何故かは分からない。だけど、私にはそれが酷く不吉な出来事の前触れに思えた。

 

「かごめさん。次の場所へ移動するわ」

 

「あ……」

 

 私はこの言いようの感情を言葉にしようとするが、上手くいかない。

 

「どうしたの?」

 

 このはさんに尋ねられた私は、再び、中沢さんが見えた方を向いた。

 だけど、そこには彼の姿も一緒に居た女の子二人もなかった。

 

「いえ、何でも、ないです……」

 

「そう。じゃあ、行きましょう」

 

 多分考え過ぎだ。

 別におかしなものを見た訳でもない。

 だから、大丈夫。

 そう自分に言い聞かせるように私はこのはさんたちに続いてその場を離れた。

 

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