何が起きたのか。
一部始終を見ていた私でも説明することは難しかった。
ただし、分かったことは一つだけ。
それは──。
「ん~エキサイティング! 魔女の片割れとただの少女の間に生まれた友情! ま・さ・に希望のテーマとしてはベリーベリーグッドだヨネ~!」
黄緑色の立方体に頬ずりして満足げな表情をする元マギウスの魔法少女。
アリナちゃんがかごめちゃんを結界の魔法で閉じ込めたってことだけ。
騒然とする
「アリナ」
「あれあれ~、教授。どうしてアリナが裏切ったのかドントアンダースタンなのご様子?」
「いいや。『掌握の魔法』で君の内面は把握していた。君が神浜を守るためにミラーズの最奥を封じた事も知っていた。私の協力を申し出たのも、同じく元マギウスの灯花や柊ねむから目を逸らさせるためだと理解できている」
言い当てられたのか、得意げだった表情はすぐに消えた。
「……だったら」
「そうだよ、アリナ。私は君がこの計画を阻止するために行動を共にしていた事も承知の上で、あえて泳がせていたんだ」
何もかもお見通しだったと、里見はアリナちゃんが言う前に答える。
その様は、悪戯イタズラの証拠を隠していた小さな子供を先回りして諭さとす大人の構図そのもの。
里見は、私が幼い頃に信じていた“この世の全てを知り尽くしている大人像”を崩さず具現化したのような存在だった。
「ただ、裏切るタイミングはもう少し先だと考えていたよ。逃走経路や計画の完全破綻を考慮するなら、鏡の魔女の融合時を狙うはずだ、と。……まさか面識もない一人の少女の命を救うために全てを不意にするほど、浅はかだったとはね。……一般人を使い潰していたマギウス時代の罪滅ぼしかい?」
「勘違いしてるみたいだケド、アリナは、アリナがウォントするのテーマをブロークンされたくないだけだカラ。それにアナタのメイクキングする世界は退屈そうなんだヨネ〜?」
アリナ・グレイは里見に対して、堂々とそう宣言する。
逃げ場はなく、手の内を見透かされ、実力だって圧倒的な格上相手に
「……退屈、か。そうか、それは何とも手厳しい評価だね……」
そのあまりにもふてぶてしい態度には、里見も予想していなかったようで
すごいな、アリナちゃんは……。
私と違って、ちゃんとキラキラしてる救いの魔法少女をやってるんだもん。
でも、このままだとアリナちゃんもかごめちゃんと一緒に里見に殺されちゃう……。
どうにかしないと。
どうにか……。
中沢アキラ。
私のアキラちゃんのコピー元の存在で、以前抜け殻同然に消沈していたところを暗示の魔法で操っていた相手。
経緯は分からないけど、『否定の魔法』だけじゃなく、銀羽根のウワサのカケラの魔法も使えるみたいだった。
なら、今の状況を打開できるのは彼しか居ない。
だけど、彼の目には希望の色はない。
あるのは、後悔と無力感だけだ。
怒りが
「何を……してるの? あなたはかごめちゃんを助けに来たんじゃないの?」
筋違いだとしても。私に言う資格がなくても。
それでも、私には言わないという選択肢はなかった。
「助けてよ。ねぇ、お願いだから、かごめちゃんを……私の友達を助けてよ」
諦めに染まった瞳に助けを求める。
口にして分かった。私はいつだって、この言葉が言いたかったんだって。
私が、そして私の中の
私が過去に繋がった時に入ってきた、神浜の滅びを願う想いは、代替案でしかなった。
ただただ友達を助けてほしかった。それだけだったんだね……。
だったらもう、することは一つだけ。
「──『お願い』」
「……!」
絡まった視線を通して、彼に魔法をかける。
里見はそんな私たちを向いて、聞き分けのない子供を
「何をしようと無駄だよ。その少年は『掌握の魔法』で身動きも取れない。それに直接戦闘をしても、彼が私を倒す事は不可能だ。私があえて、君の魔法を制限していないのもより深く絶望を……」
「『私を、殺して』」
彼の身体が、一瞬だけ大きく
肉体を支配していた里見の魔法が粒子状に分解され、白い衣装がそれを取り込んだ。
「馬鹿な……くっ、止まれ」
想定していない事態に里見が動揺しつつも肯定の魔法を掛け直す。
でも、その僅かな数秒の隙。
その隙だけで指先から銀のコインが飛ぶには充分だった。
弾かれたコインが私の眼前まで届く。
磨き抜かれた鏡みたいな、艶やかな銀色に私の顔が反射して映った。
ああ、こんな顔するんだ。
社交的な対面を保つための顔とは違う、ホッと弛んだ表情。
見たことのない。知らない顔。
きっと、ずっと奥底にあった私の
こんな風に、笑えるんだ。笑っていいんだ……。
帆奈ちゃん……私ね。
私、帆奈ちゃん以外に友達できたんだよ。
今度、どこかで会えたなら、その話をするね。
だから、今はもう一人の友達のために祈らせて。
……かごめちゃん、どうか生きていて。
私が消えれば、里見にかごめちゃんを殺す理由はなくなる。
これが私にできるたった一つの冴えた選択。
コインの後ろで正気に戻った中沢アキラが、私を呆然とした顔で見つめていた。
それがおかしくて、思わず噴き出した。
全然、アキラちゃんに似てないね。
けど、人形の割りには使えたよ。
さようなら。私の都合の良いお人形さん。
かごめちゃんをしっかり守ってあげてね。
歪んだ鏡は砕けて消える。
もう鏡が見たい景色は見れたから。
きっとそこに後悔なんてある訳ない。