ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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追記

何故か文章が途中で、最初の文章をコピペしていたようです。
文字数が多くなっていたのはそのためでした。
特に変な操作はしていないので、理由は分かりませんが、余計な文章を削除して修正しておきました。

投稿してすぐ読んでくださった方々、すみませんでした。


第四十話『かごめと破滅への序章』③

 長く伸びた自分の髪の毛で覆われた少女の繭。

 透明な球体に押し込まれた彼女は、前衛的なウォータードームのようにも、悪趣味なナパージュケーキのようにも思えた。

 今まで色んなものをこの街で見てきたけど、それでも知っている人が異様な状態になっている姿は、言葉を失わせるには充分過ぎる迫力があった。

 いろはさんが、何かに孵化しようとしてるってこと……?

 魔女でも、魔法少女でもない。もっと別の、“ナニカ”に……。

 戦慄する私の隣で中沢さんは、とっさに顔を両手で覆うと背を大きく後ろを向いた。

 

「中沢さん……」

 

 魔女になったいろはさんを、魔法で元の姿のは彼だ。

 自分のせいでこの状況が起きていることに罪悪感を抱いてもおかしくない。

 

「や、八雲さぁん! 環さん、服着てないんですけどぉ!? こ、これってぇ、いわゆる、アラレもない姿って奴じゃないですかぁ?」

 

 違った……。

 ただ照れてるだけだった。

 確かに髪がベールのように巻かれているだけで、白い肌が多少見えているけど……それにしたって、こんな状態のいろはさんを見て第一声がそれなんだ……。

 裸というところに意識を()き過ぎて、かえって気持ち悪い。

 じろじろ見るのもあれだけど、大騒ぎするのも見ていて気分の良いものじゃなかった。

 逆沢さんはまさらさんの(きわ)どい衣装を揶揄(やゆ)していたけど、サラッと流していた分、年相応の男子の反応は……何て言うか結構キツい。

 

「ほ、ほら、隠して隠して!」

 

「あ、うん。そうねぇ……」

 

 みたまさんも同じように思ったのか、反応は冷ややかだった。

 やれやれと言わんばかりに緩慢な動作で、掛けられていた白い布を被せ直す。

 

「と、とにかくあれだな。環さんが大変なことになってるってのは分かったよ。それでも、俺の方も見てくれないか?」

 

 いろはさんの姿が隠されたのを確認してから、中沢さんは態度を取り繕う。

 

「あのね、中沢君。いろはちゃんの状態の解析も難航してるけど、それ以上に私が疲れてるのは……」

 

 引く気がない中沢さんに、みたまさんが説明しようとした中、調整屋の店内の扉が開かれる。

 入って来たのはやちよさんだった。

 前に見た時よりも美人だと思ったけれど、今回はメイクや服装が更に彼女の美しさを際立たせていた。

 

「あら、やちよさん。いつにも増して気合の入ったコーディネートねぇ。これからデート?」

 

「これから撮影があるのよ。それより、いろはの事は何か分かったの?」

 

「……今朝と同じよぉ。まだ詳しい事は何も……」

 

「昨日もそうだったじゃない!? 調整屋なんだから、あの子の事をもっとよく調べて!」

 

 私たちのことは目にも留めていない様子で、みたまさんの前に行き、彼女を問い詰める。

 みたまさんは引きつった笑みを浮かべながら、助けを求めるようにこちらを見た。

 見かねて、私が声を掛ける。

 

「あの、少し落ちかれた方が……」

 

「黙ってて! ……あなたは、かごめさん……だったわね。それに中沢君も」

 

 私たち二人の姿に今気付いた様子で目を丸くした。

 さっきまでの剣幕に怯えつつ、おずおずと挨拶を述べる。

 

「あ、七海さん。お、おはようございます」

 

「おはよう。って、何で調整屋に居るのかしら? 今、もう九時過ぎよ。学校はどうしたの? 学校は?」

 

「え、あの、それは……海より深い理由があると言いますか、山より高い背景がですね……」

 

 視線を泳がせ、何一つ中身のない言い訳始める中沢さん。

 誤魔化(ごまか)し方が雑過ぎる……。怒られるのが嫌だから、何か言われる前にとりあえずで言葉で喋っているみたいな感じだ。

 

「あなたね。前回あれだけ親御さんに心配させたのなら、しっかりと登校するくらいはしなさい」

 

「あ、うう……わ、分かってるんですけど。それどころじゃないっていうか……」

 

「言い訳しない! 間違った事をしている自覚があるのなら、まずは謝罪!」

 

「うっうっ……ごっ、ごめんなさいぃ」

 

 叱られて、泣いてしまった……。

 なんて心の弱い人なんだろう……。記憶ミュージアムや水族館で見せたあの気迫はどこへやってしまったのか。

 ひとしきり、平謝りして学校をサボらないことを誓って、ひとまずやちよさんからの許しを得る。

 二人の関係は知らないけど、ビックリするくらい中沢さんの立場が低いのは分かった。

 どんな魔法少女にも優位を崩さなかった逆沢さんと比べると、本当にこの人をコピーして生まれたのが不思議なくらいだ。

 

「や、やちよさんは、いろはさんのお見舞いですか?」

 

「ええ。今は意識はないけれど、声を掛けると少し表情に反応があるのよ」

 

 そう言った後、布を払い落として、容器の中のいろはさんに話しかける。

 

「いろは。私、これからモデルの仕事に行ってくるわ。夜にはまた来るから」

 

 彼女の言葉が聞こえているのか、繭の内側で膝を丸めているいろはさんがほんの僅かだけ微笑みを浮かべる。

 外の音は聞こえているのか。それともやちよさんのソウルジェムから放たれる魔力に反応しているのかは分からないけれど、外部からの反応に無反応ではないようだった。

 

「……みたま。夜までには何かしらの進捗がほしいわよね?」

 

 容器の方に顔を向けたまま、背中でみたまさんにプレッシャーをかけるやちよさん。

 

「ぜ、善処させてもらうわねぇ」

 

 強張った笑みで返すみたまさんの表情は、疲労の濃さを増していた。

 ……なるほど。これが、解析以上の疲労の理由なんだ。

 そう合点がいった時、またも入り口の扉から誰かが入って来る。

 

「この時間帯なら、やちよさんとはかち合わないと思いましたが……抜かりましたね」

 

「大学生は高校生よりもずっと時間に融通が利くから仕方ないわ。はあ」

 

 現れたのは二人の少女。

 やちよさんの姿を認めて、渋い顔をするななかさん。

 同じく嫌そうに吐息を漏らすこのはさん。

 二人も制服姿のところを見ると、中沢さんと同じく登校前なのだろう。もしくは登校してから抜け出してきたのかもしれない。

 そんな彼女たちを横目で見やるやちよさんの顔は険しかった。

 

「どうしたの? 今日は二人揃って創立記念日?」

 

 視線が重なると、二点の間でバチバチと電気が弾けるような擬音が聞こえてきそうなくらいだ。

 

「やちよさん。私たちはあなたと事を構えるつもりはありません。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……いろはさんは危険です。彼女はドッペル症とは違う。実際に魔女へと孵化した……」

 

「黙りなさい!」

 

 裂帛(れっぱく)の声音と共に、やちよの衣装が青を基準としたドレスに変化していた。

 槍を突き出すように構えた姿勢に至るまで、一連の動作が目で追えなかった。魔法少女は何人も見てきたからこそ分かる。

 少なくとも私が知る中で一番戦闘に慣れているのは、彼女だ。

 

「……それ以上、言葉を続けるようなら私は容赦しないわ」

 

「ですがっ」

 

 食い下がろうとしたななかさんを、隣に居たこのはさんが肩を叩いて止める。

 ななかさんは何か言いたげに目配せをしたものの、このはさんは首を横に振って無言の返答をした。

 それから、一歩前に出て、やちよさんへ向き直る。

 

「気持ちは分かるわ。私の大切な家族が同じようになったら、あなたとまったく同じ反応をすると思う」

 

「だったら!」

 

「でも! ……でも、私は家族と、その家族が暮らすこの街を守らないといけない。だから、やちよさん……分かってほしい。あなたと私は似ているから」

 

 このはさんは圧力を受けながらも、やちよさんに必死に呼びかける。

 

「環いろはさんには私自身、借りがあるわ。それでも今の彼女は、私たち魔法少女と同じだとは思えない。魔女じゃくなったとして、魔女以上の脅威が生まれるのなら……私は!」

 

「似ている? 私とあなたが? 随分と大きく出たわね、このはさん。いいわ、魔法少女としての経験の差を教えてあげる……」

 

 より一層、(まと)う気迫の濃度が上がる。

 

「くっ……」

 

 このはさんも対話を諦め、魔法少女の衣装に変身して薙刀を作り出す。

 その後ろでななかさんもまた、魔法少女の衣装へと臙脂(えんじ)色の制服を変化させた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。皆!」

 

 一触即発の雰囲気が漂う店内で、間に割り込んだ中沢さんが止めに入る。

 

「どいてなさい、中沢君。あなたまで巻き込むわ」

 

「落ち着いてくださいって七海さん。えーっと、そっちの……常盤(ときわ)さんと静葉(しずは)さんって言ったっけ? あなたたちも武器を消して!」

 

 目の据わったやちよさんを真正面にして、背後の二人にも顔だけ向け、武器を魔力に戻すよう(うなが)した。

 

「……武器をしまうなら、彼女を先にしてください。丸腰で猛獣に向き合うほど私は命知らずではありません」

 

「何ですって……?」

 

 ななかさんの挑発に、やちよさんが槍を握る腕を手が締まる。

 少しでも勝機を得るために、やちよさんの冷静さを完全に奪うつもりなんだ。

 

「わわっ。常盤さん、(あお)んないでください。七海さんも乗らないで。静葉さん、あなたは七海さんを説得しようとしてましたよね。なら、常盤さんを止めてください」

 

 戦闘に乗り気ではないこのはさんを味方に引き込もうとするも、彼女は中沢さんを怪訝(けげん)そうな目で凝視する。

 

「……あなた、何で私の苗字を知ってるの……?」

 

「えっ。あ、それは……」

 

「あと、話した事もないのに馴れ馴れしいのは何?」

 

「え、それはそうなんですが……そういう場合じゃなくないですかねぇ!?」

 

 このはさんは基本的に心を許した相手以外には対応がきつい。

 多分、中沢さんは逆沢さんの記憶から名前を知ったんだろうけど、ここで一度も出していない苗字を知っているせいで不信感が高まってしまった。

 私は流石に助け船を出そうと近付こうとして、それをみたまさんに手で制される。

 

「みたまさん……?」

 

「ここは彼に任せてあげて。あれでもやる時はやる子なんだから」

 

 そう言って、彼女は中沢さんに温かな目を向けた。

 私もそれにならって彼を見る。

 

「七海さん! 環さんが居る場所で魔法少女同士の争いするんですか? 誰よりも魔法少女が助け合うことを望んだからユニオンなんか作ったんじゃないですか?」

 

 やちよさんがその言葉に、僅かだけど、たじろぐ。

 表情は未だ険しいものの、いろはさんのことを引き合いに出したおかげか、さっきほどの威圧感はない。

 首を回して、今度はななかさんの方を向いた。

 

「常盤さんも! あなたの魔法は本当の敵を見極めるんでしたよね!? ここに居るやちよさんはあなたの敵なんですか!?」

 

 切羽詰(せっぱつ)まった中沢さんの台詞は芯に迫っていた。

 ななかさんの固有魔法について言及したことも、合理主義者である彼女の心に刺さったようで、手元の日本刀の切っ先が次第に下がっていく。

 

「静海さん! あなたは七海さんの境遇と自分を重ねたんですよね? 環さんと関係を、遊佐(ゆさ)さんや三栗(みくり)ちゃんと同じだって感じた。だったら、七海さんと敵対するなんて馬鹿げてますよ!」

 

「なっ……何で葉月やあやめの事まで知ってるの……? あなた、もしかしてストーカー……?」

 

 ドン引きしていた。

 自分だけならまだしも、大切な家族のことまで把握されていることで、はっきりと嫌悪の表情を(にじ)ませる。

 逆沢さんの記憶があるせいで、不自然に内情を知り過ぎていた。

 ある程度、情報戦をしているななかさんと違って、人見知りのこのはさんはそういう点に敏感だったのがアダとなったんだ。

 

「だーーっ! 墓穴掘ったーーっ! いや、何で知ってるか説明するから、とりあえず、全員武器を消して……」

 

 台詞を最後まで言い終える前に、再度、調整屋の扉が開いた。

 入って来たのは団体。

 先頭に居る三人は見知った顔。

 紅晴(くれは)結菜(ゆな)さん。

 大庭(おおば)樹里(じゅり)さん。

 笠音(かさね)アオさん。

 『プロミストブラッド』の三姉妹だ。

 ガンッと結菜さんの持つ棘付きの金棒が、注視を(うなが)すように床を叩く。

 そして、彼女は背筋が凍るような、(かす)れた声音で語り出した。

 

「ここに……魔女化から戻った魔法少女が居るって噂を聞いたわぁ。大人しく、その子の身柄を差し出しなさい……」

 

 完全に処理できる情報の容量(キャパシティ)を超えた様子の中沢さんが、突如白目を()き、裏返った声で叫んだ。

 

「カッ、カエレェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 

「えっ……」

 

 第一声が予想していたものと違ったらしく、結菜さんは戸惑いの表情を浮かべていた。

 




ちょうどいい区切りまで加工としましたが、随分伸びてしまいました。
キャラの数が多いと、どうしても間延びしてしまいます。

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