もう何度目になるかも分からない光の衝撃波が、正面から俺の全身を打ちのめす。
「がっ、ぐっぎぁッ……」
大型のトラックに
脳みそが液状にシェイクされて、鼻や口から流れ出て来そうだった。
転がった身体はすぐに地面へ叩き付けれて、転がりながら滑り続けて、ようやく止まる。
衝撃のエネルギーから解放された俺は、遅れてやってきた激痛に
「ああっ、がっがああああっ、ぎっ、が、ああああああああああぁぁー!!」
ああ、痛い痛い痛いっ!
どこが痛いのか判断も付かない激痛の嵐。
全身を
涙と、鼻水と、涎が、
逆流してくる鉄味の胃液で呼吸もままならない。
それでも。
それでも、身体をひっくり返して、うつ伏せの体勢にする。
痛みと熱で
そうして、またガタガタの身体で、彼女と
「……いい加減諦めたら?」
頭上から、冷たい声が
見上げた先には、ピンク色の長い髪は魔力の光を放ち、逆巻くように揺れていた。
髪よりもほんの少しだけ淡い一対の翼が、緩やかに羽ばたいて軽やかに着地する。
「げっほっ……がっはっ……諦めるって、何を……?」
呼吸が落ち着くと、酸欠気味でぼやけていた痛みがより鮮明になって、身体中を駆け抜けた。
会話をして少しでも激痛を紛らわせないと、そのまま意識が飛んでいってしまいそうだ。
「何を? 決まってるでしょ。“いろは”を取り戻す事を、よ」
「……なんだ、そっちのことか」
「それ以外に何があるって言うの? 馬鹿みたいに攻撃を浴びて、ボロボロになるだけの行為に、他の意味なんてある?」
彼女は、吐き捨てるように言う。
キツい言葉だ。優しい環さんと同じ顔と声で言われると、結構心にクるものがある。
まったくの別人と割り切ろうにも、彼女も間違いなく、環さんなのだから踏ん切りも付かない。
でも、こうは考えられないだろうか。
「俺をボロボロにすることに……心が痛む、とか?」
「そんな訳ないでしょ。むしろ、スッキリしてくるくらい」
「そっか……はは」
女子に好かれないのは今更だし、嫌われるのにも最近ちょっとは慣れてきた。
「スッキリするか。それなら、まあ……意味はあるかな?」
「何を言ってるの?」
震える脚を前後に開いて、身体の重心を少しだけ落とす。
握った両手の中に、一つずつ真っ白なトンファーを生み出した。
質問には答えずに、俺は翼を生やした少女へ聞く。
「あなたはさ、“魔女としての環さん”なんだろ?」
「そうだよ。私はあの子の半身。あの子の絶望、あの子の穢れ、あの子の……『呪い』」
翼の羽ばたきが、光る衝撃の津波になって押し寄せる。
線ではない。壁だ。
猛スピードで突撃してくる巨大な魔力の壁。
トンファーの先端を交差させ、顔と首にある宝石だけはきっちり守りを固める。
「ふっぐがぁああああぁぁ!!」
質量攻撃に俺の身体が激突して、軋みを上げて後方へ
握り締めていたトンファーは、魔力を吸い取り切れずに崩れて消える。
でも、今回はどうにか転倒せずに、重心を降ろして着地を成功させた。
「……呪い、か。でも、記憶ミュージアムのウワサ空間で俺たちを助けてくれたよな?」
「あれは“いろは”との約束だったから。あなたたちが死のうがどうなろうが、どうでもいい」
「だとしても、あなたは環さんに寄り添ってくれた! ……本当は俺が気付いてやるべきことだったのに。魔法少女じゃない、俺が受け止めてやらないといけないことだったのに……」
魔女になりつつある環さんのことは、逆沢の記憶で知った。
環さんは、自分がもう魔法少女じゃ居られないっていうのに、落ち込んだ俺を気遣って家に様子を見に来てくれていたんだ……!
自分が自分じゃなくなるって不安と、大切な仲間の敵になってしまうって恐怖を抱えて、それでも他人のことを優先して考えてくれていた……。
そうだよな。言える訳ないだろうが。
魔法少女の皆に、自分の魔女化が進行しているなんて話……できる訳がない。
──俺だ。
俺だけが、話を聞ける位置に居た。
俺だけが、悩みを打ち明けても許される存在だった。
「見っともないよな……? 何のための部外者だよって思うよな……? 距離作って逃げてた頃と何も変わってない! いや、それ以下だ! 魔法が使えなくなったことで卑屈になってっ、迷惑かけてっ、その挙句に身体を乗っ取られて、環さんを殺そうとした!」
あいつの……、逆沢の言ってた通りだ。
本当に俺は役立たずの“カス野郎”だ。
そのくせ、一丁前に皆から認めてほしいって英雄願望持ってやがる!
救えないにも程がある。
吐露した言葉に、翼の少女は能面のような顔に不快の色を浮かべた。
「……何それ? いろはを助けられなかった言い訳? 何にもできずに、あの子の前であんな醜い争いを繰り広げてたあなたが!」
耳に届いた彼女の叫びは、光の衝撃波よりもよっぽど俺の心に痛みを与えてくる。
その通りだ。返す台詞も見当たらない。
神浜ミレナ座で、俺は何もできなかった。
武器を弾いたり、向けられた攻撃を防いだりするだけ。
魔法少女へは攻撃をできなかった……。
瀬奈みことを殺してしまった時のように、覚悟も納得もないまま殺してしまうんじゃないかって、そう思ったらできなかった……。
今更になって、自分が持っている力が、意思ある存在を簡単に消してしまえるものだって気付いたから……。
「分かってるんだよ、俺だって。覚悟も信念もない空っぽなカス野郎だってことくらい!」
もしも、俺がヌルオさんだったら、軽口交じりに華麗に解決して、皆に頼られてただろう。
もしも、俺が逆沢だったら、堂々と拳を握って、難しい問題ごと強引に殴り飛ばしていただろう。
でも、ここに居るのは俺なんだ。
誰からも必要とされない、誰からも応援されない、“中沢アキラ”なんだ……。
「ヒーローになれないことくらい、嫌気が差すほど分かってる。本当は皆……俺じゃない『顔無し手品師』を望んでる。だから──!!」
再び、白いトンファーを形成して構えを取った。
今にも倒れてしまいそうな脚に、可能な限りの感情を込めて立ち続ける。
「せめて──あなたのサンドバッグくらいにはなってやれる!」
俺がスポットライトの当たらない脇役でも、それくらいなら
「……それがあなたの諦めないこと? いろはを取り戻す事でも、私を倒す事でもなく、ただ感情をぶつけられるだけの的になる事が!」
「ああ、そうだよ」
ピンク色の瞳に、明確な怒りが宿る。
何もなかった空に、桃色のオーロラが生まれた。
高低差のない白の地面は、真っ黒に濁り、亀裂が入っていく。
魔力の流れがさっきまでとは比べ物にならないほど収束し、膨張している。
「だったら、受け止めてみせてよっ! いろはが誰にも分かち合えなかった絶望を! 誰にも
翼の少女の左腕の甲に巨大なクロスボウの弓が形作られる。
引き絞られた弦には、漆黒の矢が
黒く、黒く、どこまでも濁り切ったその色は、環さんがたった一人で抱え込み醸成させた感情……。
……いや、目の前の少女が環さんと一緒に背負ってくれていた想いだ。
当たれば、きっと今度こそ俺は助からない。
だけど、逃げる訳にはいかなかった。
「来いよ……全部、俺が受け止めてやるっ!!」
環さんの絶望も、穢れも、呪いも全部俺が受け止めて、
あって良かったんだって。それがあったから、あなたたちは気高いんだって。そう思ってもらうために。