薄暗いのか色がぼやけ、聞こえる音も雑音ばかり。
広いのか、狭いのか。
暑いのか、寒いのか。
誰か他に居るのか。
それすらも分からない。何も感じられない。
誰かに何か頼まれていた気がする……。
何だったっけ……?
ふとした拍子に意識が途切れ、記憶の前後が
「……邪魔をしないで!」
鋭い刃物で腕を、切り付けられた。
痛い……。
何で、こんなことをするんだ……?
邪魔って何がだ? 俺の存在が邪魔ってことか?
嫌われ者なんだな……。どこに行っても、そんな扱いばっかしだ。
「さっさと倒れて!」
肩が、切り落とされた。
ああ、痛い……苦しい……。
どうして、こんな目に合わないといけないんだ……?
誰か教えてくれ。
俺は、こんな酷い仕打ちを受けるようなことをしたのか?
「消えて無くなりなさい!!」
首が、切り飛ばされる。
助けてくれ……。誰でもいい……。
俺をこの地獄から救ってくれよ。
もう、いいから……。
俺が受け止めようなんて、思い上がったこと言いませんから。
誰かを助けようなんて、自惚れたことは二度と考えませんから。
だから、許してください……。お願いします……。
お願い、しますだから……。
『中沢さん。私たちに力を貸してください』
……え?
『みたまさんとやちよさんの目を覚ますために、中沢さんが必要なんです!』
なんだよ、それ……。
知らないよ、そんなこと。
俺なんかに頼むことじゃなかっただろ……?
こんな俺なんかに…………。
でも、誰かに頼ってもらえたのって、いつ以来だっけ……。
槍が振るわれる。
今まで何度も俺を切り刻んできた槍が、今度もまた俺を殺そうと伸びる。
『ヴォオオオオオォォォオォォォッ──!!』
刃の
それでも接触した部分をごっそり削られた。
焼けるような激痛が走る。
さっきよりもはっきりした痛みを感じる。
「……頭を落としたのにまだ倒れないの?」
ぼんやりとした目に槍を持つ女性の姿。
見覚えがあるような……ないような……記憶に霧がかかっているような感覚。
「いつもならとっくに消えてなくなっているのに……」
そうだよな。
俺は、いつもやられ役。
俺は、いつだって何もできずに負けるんだ。
見っともなく倒されて、主役を引き立てる名も無き敵。
期待される命じゃない。
むしろ、逆。
死んで喜ばれる存在だ。
無様に叫んで、惨めな姿を見せることだけを望まれてる。
『ヴォオッ、オオォオオォォ!!』
でも、今だけは……。
今だけは──!!
重たい脚を動かして、主役の元に突撃する。
槍を構える彼女の足場を、残った左腕で叩き割った。
「くっ、街が……。さっさと片を付けないとメチャクチャにされてしまう!」
弾け飛んだ瓦礫を足場に、主役が跳び上がる。
長く伸びた青い髪をなびかせ、夜空を駆けるその姿は波打ち際の水飛沫のよう。
美しさと力強さを兼ね備えた姿は、見る者すべてを魅了する。
これが主役。
これが望まれた存在。
俺みたいな、必要とされていない
「これで……終わりよ!」
青い魔力を纏った美麗な槍が、木偶の坊の俺の胸を貫いた。
光の帯が抉り抜いた大穴へ伸びている。
きっと、背中まで抜けた先で彼女は月の光でも浴びて、彼女は輝いてることだろう。
振り向く力もなく、崩れて倒れていく俺には、それを目にすることも許されない。
足掻いても、こんなものか……。
まあ、仕方ないよな……。
俺はやられ役で。
負け犬で。
──オメー。そればっかだな。
え……?
だ、誰……?
──“誰”だとぉ? カスは記憶力までカスなのか、オイ! この俺サマを忘れたとはどういう了見だ? ああ?
知らない……。
知らないよ、俺……。
あなたなんて、知らない……。
──そうかよ。でも、俺サマはオメーを知ってんぜ。嫌ってくれぇにな。
俺のことを……?
──オメーは、中途半端なカス野郎だ。“どっちでもいい”が口癖のヘタレだ。
……そうだよ。俺は何をやっても中途半端で、周りに流されて、自分の意見も持てないような情けない奴なんだよ。
──いつからだ?
……え?
──いつからだって聞いてんだ。オメーが中途半端なカスになったのは、いつからだって聞いてんだよ。
それは……最初からだろ。
──
俺がか……?
──思い出せよ。小学校に上がる前。幼稚園の頃、オメーは自分がこの世界の主人公だって信じてだろーが。
そんな昔のこと……もう覚えてない。
──思い出したくねーだけだ。あの頃のオメーは最強で、無敵で、自分こそが世界一だって疑わなかった。
……馬鹿みたいだな。俺なんてどこにでも居る凡人なのに。誰にも負けないものなんて、一つも持ってないのに。
──そうだ。小学生になって、自分の得意なものを自分より上手にできるヤツがいくらでも居るって知った。自慢できるモンが一つもないって気付いて、誰よりも卑屈になった。
当たり前だろ……。俺は特別じゃなかったんだ。そんな奴がプライドだけ持ってても惨めなだけだ。
──何で特別になろうとしなかった? 何で他人と勝負して勝とうとしなかった?
恥
──その時だぜ。オメーが自分の誇りを捨てたのは。オメーが自分を『肯定』できなくなったのは。
……だから何だよ! 肯定できる訳ないだろ!
俺は何も持ってなかったんだ! 俺は主人公になれるような人間じゃなかったんだ!
なりたくても……なれないんだよ。
俺みたいな奴は、どう頑張っても世界の中心なんかにはなれないんだ。
──どうして分かんだよ。
頑張ったよ! 頑張って、頑張って、それでも俺には何にもなかったんだよ! 勉強も、運動も、何一つ他人に誇れるものは見つからなかったんだ!
──カスがッ! 本当に頑張ったヤツはなぁ、自分で自分を誇れるんだよ! 努力した自分を褒めてやれんだよ!
じゃあ、俺は頑張る才能もなかったんだよ……!
──イイ加減にしろよ! オメーが自分を『肯定』できねぇのは、才能がないって逃げたからだ! 頑張っても誰にも勝てそうにねぇって諦めたからだ! 負けたからじゃねぇ! 戦おうとさえしなかったからだろーがよォ!
……俺は。
──今だってそうだ。戦わない理由を色々付けて、負けても仕方ねぇって顔してやがる。傷付けるのが怖い? もう誰も殺したくない? 馬鹿か、オメーは。皆、そうなんだよ! それを含めて戦ってんだ、
…………俺は、傷付きたくない。
──それが本音か、カス野郎ッ! 戦うってのは傷付け合うってことなんだよ。一方的に殴られて
俺は……お前とは違うんだ。
あの人とも……違う。
そういう風には、生きられない。
──だったら、今すぐ生き方を変えろ! オメーを頼ったヤツを裏切るんじゃねぇ! オメーを信じたヤツを
……簡単に言うなよ。
生き方なんて、そんな簡単に変わるかよ。
でも……そうだな。
俺を信じてくれた人も居た……。
お前も、俺を信じてくれるか……?
いつの間にか、目の前に居た俺とそっくりで、正反対の奴に聞く。
「なあ、逆沢……」
「キメぇこと言ってんじゃねーよ。
目付きの悪い俺は、そう言って俺を殴り飛ばした。
朦朧としていた意識は、その痛みで完全に
霧がかかった記憶は、はっきりと俺がすべきことを教えてくれた。
薄暗い闇が割れて、砕け散る。
濁った氷の表面のように。
闇が壊れて消えた後、初めて見えた夜空は思いの外、眩しくて、綺麗だった。
トンっと抜け殻から飛び出した俺は、仲間の元へ戻ろうとしている七海さんの背に声を掛ける。
「そこの魔法少女のお姉さん。まだ勝負は終わってないんですけど」
「人の姿をした、フェイスレス……!?」
当然、俺を見ても何も思い出してくれはしない。
そんなに長い付き合いでもないし、別段深い関係でもないから残当だけど。
……いや、嘘。ホントはかなり
「第二ラウンド、いいですか?」
白いトンファーを手にして、俺はこの舞台の主役へと挑む。