「どーゆー事なんですか!?」
「何がなのです?」
のほほんとお菓子を食べている、この可愛さ全振りのお子様同僚に今日という今日は文句を言ってやる。
「何が、じゃないですよ! 私が考えた“かごめさんアルティメット神化チャート”のことですよ!」
ビシッと指を突き付けて言う。
しかし、こちらの気持ちを知ってか知らずかクリーム塗れになった指先を舐め取ながら返した。
「ああ、あの最序盤で
「ぐふっ……」
無邪気な顔で、私の心を容赦なく抉ってくる。
興味なさそうというか、そんなものもあったね的な反応してくるのが一番辛い。
いっそ、覚えてないと言ってくれた方が、こっちもキレてやり過ごせたものを……。
「お、覚えていたなら、何で教えてくれなかったんですか!?」
「まどかが既に計画を始めてるから、何の意味もないって話をしてほしかったのですか?」
「うっ……そ、そうですよ〜! 必要ないもの作って、一喜一憂してた私が馬鹿みたいじゃないですか!」
「みたい、じゃなくて馬鹿なのです。あむ……」
まったく悪びれる素振りも見せずになぎささんは、カップケーキを頬張る。
こちらに目もくれない辺り、本当にどうでも良さそう……。
私が美樹さんの後を引き継いだのが気に食わない、という風にも見えない。一体何を考えているのか分からない子だ。
うう、この子の取り扱い説明書がほしい……。
「そんなに私の事が嫌いなんですか……」
「? 結構気に入ってるのですよ? 無駄な努力を一生懸命にやっているところとか」
キョトンとした顔でなぎささんが首を傾げる。
「せ、性格が悪い……」
酷過ぎる。何でこの子があのお優しい女神様のお気に入りなんだろう……。
恨みがましい目で見つめていると、彼女は肩を竦めた。
「一応、言っておいてあげると、まばゆの役割はかごめをこの場所に呼ぶ事だったのです」
「どういう事ですか?」
「そのままの意味なのです。かごめと
何を伝えても元の場所に戻ったら記憶の修正が入るから会話自体が無意味なのです、となぎささんはバッサリ言い切った。
そこまで言われれば、私にも読めてくる。
「つまり私は夢を通して、かごめさんを引っ張ってくる役目でしかなかったと。そう言いたい訳ですね?」
「そういう事なのです。チャートだの何だのは、まばゆが勘違いして意気込んでただけなのです。まどかも別に頼んでないのですよ」
思い返せば、女神様からの明確な指示はかごめさんを連れてきてほしいという事だけだったような……。
いや、でも、ほら。次代の神様候補を導くという大役を任された身としては、やっぱり最大限尽力したい訳でして。
「私、かごめさんのために、頑張って考えてたんですけど」
「だから、まどかもなぎさも止めなかったのです。必要な役割を果たしている以上、その他の裁量は自由なのです」
あー……分かってきた。
つまり、これって──。
「私のためのメンタルケア、だったんですか?」
「そういう事なのです。なぎさみたいに自由気ままにやれる奴も居れば、まばゆみたいに何か役割がないと落ち着かないって奴も居るのです」
ガックリと肩を落として、私はソファにもたれ掛かる。
大役に
それが、私……。
なんという
一生の不覚です。もう人としては死んでますけど。
「えー、じゃあ、何ですか? この件って実は、なぎささんが主導だったりするんですかー?」
「あ。急に投げやりな態度になったのです」
……投げやりにもなりますよ、それは。
私、完全に無能な働き者じゃないですか。
不真面目な相方の隣で、真摯に使命を果たそうとしていた自認が今
「そう腐るな、なのです。
「やっぱり私、ただのピエロじゃないですかー!」
憤慨して顔を思い切りあげて起きると、そこにバナナの皮を投げつけられる。
痛っ……! な、何してくれてるんですか、この子……。
「ピエロはサーカスの花形! 演目の合間に観客を笑わせる重要なエンターテイナーなのです! ピエロを舐めた発言は、このなぎさが許さないのです!」
かなりの熱量でお叱りを受けてしまった。
何なの……ピエロガチ勢? どこに心の地雷があるかさっぱり分からない……。
いやいや、話題が盛大に横道に逸れてる。惑わされるな、私。
顔にぺったり張り付いたバナナの皮を剥がして、脱線していた話を戻す。
「す、すみませんねー。ピエロに
「分かればいいのです。まどかの企みについて、なのですか? ……まあ、昔自分が味わった事を試練としてぶつけてるだけなのです」
あら? 普段から歯に衣着せぬなきざさんらしくない、遠回しな言い方だ。
ここはいつもの仕返し……いや、恩返しも兼ねて追及せねば!
「えー? もうちょっと詳しく教えてくださいよー。減るものじゃないでしょー?」
「ウザめの後輩なのです……。なら、話してあげるのです」
なぎささんから語られたのは、私が考えた“かごめさんアルティメット神化チャート”など比べ物にならない内容だった。
それは、かごめさんが魔法少女との交流を深める中で、『恋人役』と『親友役』を選定し、そして、彼女はその両者の命を失わせるというもの。
残酷という言葉だけでは言い表しきれない、陰湿で悪質な計画に私は口を閉ざした。
「その『恋人役』が“中沢アキラ”、『親友役』には“環いろは”を候補として計画していた訳なのですが、運命の歯車がクルクル狂って、それぞれの配役が“中沢アキラのコピー”と“鏡の魔女の半身”へとズレてしまったのです。かえって、人的被害は最小限に抑えられそうなのは不幸中の幸い……」
「……もういいですっ!! それ以上、聞きたくありません!」
話の最中に、私は叫んでいた。
腰掛けていたソファから立ち上がって、クッションの上に座っていたなぎささんを無理引き起こした。
私よりもいくらかの背の低い彼女を睨み付ける。
なぎささんは、真っ直ぐに私を見つめ返していた。
そこには、後ろめたさもなければ、開き直った意思も感じられない。
「それがあなたたちの計画ですか!? かごめさんの愛する人たちを奪って、絶望に突き落とす事がそんなにも必要なんですか!?」
「これが
淡々とした、けれど、確固とした信念に裏打ちされた言葉。
なきざさんは
彼女たちが、私を関わらせまいとした理由が分かった。
美樹さんが、女神様から理から切り離されて、ここから堕ちた理由が分かった。
「あなたたちは、全部背負う気なんですね? 魔法少女の幸せのための踏み台として、神様になったかごめさんに裁かれようとしているんですね?」
滅ぼされるべき悪役として、倒されるための敵役として、彼女たちは覚悟を決めている。
だから、泥が他の者に掛からないように最大限の配慮として知らせなかった。
「誰かの祈りは、誰かの呪い。誰かの希望は、誰かの絶望。何かを求めた瞬間から、何かを奪う事に繋がるのです」
「そんなのは、あんまりじゃないですか……」
「あんまりだから、どうにかするのです。そのために新しい神様が……新しい概念が必要なのですよ」
──何もかも全部救う存在を誰も待ち望んでいるのです。
彼女は私にそう断言する。
でも、それじゃ、あなたたちはどうなるんですか……?
汚れ役を買って出て、映画の悪役みたいに倒されて、終わりですか?
「もう……止まれないんですか?」
「まどかは魔法少女を救うという願いのために、“最高の友達”の願いを諦めさせたのです。魔法少女の終わりを作るために、“最愛の人”を地獄に縛りつけたのです。それを無意味にする事だけは絶対に認められないのです」
……ようやく、腑に落ちた。
どうして、この子が女神様のお気に入りなのか。
どうして、美樹さんや私では役割を果たせなかったのか。
なぎささんは、心の奥で女神様と繋がっている。
一蓮托生の関係。
友達でも、家族でも、仲間でもない。
『共犯者』という絆で結ばれている。
ある意味でこの世で最も強固な繋がり。
私は、彼女から手を離して、その場に座り込む。
「まだ、共犯者の席は……空いてますか?」
「……まばゆ」
「ここまで聞いておいて、自分だけ綺麗なままで居ようとは思いません。どこにも居られない宙ぶらりんの私を拾ってくれたのは女神様だけですから」
私は、決める。
私は、進む。
「ほら、私ミステリアスな女子ですから。悪役参謀も似合いますよ、きっと」
報いを受ける時が来るのなら、その時のために決めておこう。
かごめさんが私を成敗しに来た時に、名乗りをあげる名台詞を。
私は
かつては魔法少女で、今は神様の
未来では、あなたの敵です。