ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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第十八話『中沢君と噂の守り人』⑥

 激しく舞い散る魔力が横並びの座席を掻き消し、あるいは融かし落としていく。

 ずっとヌルオさんの内側から彼の姿を見ていたけれど、外側から改めてその規格外の強さが分かる。

 バイオリンと弓で白兵攻撃をしつつ、音を奏でて毒音符を飛ばして遠距離攻撃をこなして戦う上条も強いが、それを()なしているヌルオさんは一枚上手(うわて)だ。

 怒気に満ちた上条の(にら)みを、余裕を持った笑みで跳ね除ける。

 

「まだ生きていると知った時点でこうすべきだった……! みふゆさんの意見なんて尊重せずに、お前を消しに行けば良かったんだ!」

 

()えるなよ、マギウスの子犬君。自分が弱かったせいで起きたミスを他人のせいにするべきじゃない。君はこう思うべきだ。自分の実力がなかったから、あの白髪さんをあり得ない講和に乗り出させてしまったのだと」

 

 灰色の毒音符が黒い布が(すく)い取り、呑み込んでいく。

 バイオリンの弓をステッキで弾き、鈍器として振るわれたバイオリン本体を避けた挙げ句に踏み付ける。

 接戦のようでいて、常に優位に立っていた。

 だが、ヌルオさんには制限時間がある。

 戦い始めて、どのくらいの時間が経過したかで戦況は一気に逆転されかねない。

 二人ともまだ俺やモキュゥべえの存在に気付いていないようだ。

 物陰に隠れて様子を伺うか? ……駄目だ。どこに隠れても二人の魔法の余波で簡単に消し飛ぶ。

 第一、ここまで来たのはヌルオさんに会うためであって、安全な場所で観戦がしたい訳じゃない。

 行くぞ……一、二の三で起き上がって叫ぶんだ。

 行くぞ……。行くからな……。

 一、二の三だぞ。一、二の三。

 ……本当に行くからな。行くったら行くんだ。

 ……………………やっぱ、十ぐらい数えようかな?

 十、九、八、七、六、五……。

 

「モッキューーー!!」

 

「ちょ、待っ……」

 

 心の準備ができる前に俺の傍に居たモキュゥべえが雄叫(おたけ)びを上げた。

 素早く移動しながら戦闘を繰り広げて二人の目がこちらに向く。

 

「中沢君……?」

 

「中沢!? お前、どうしてこんな場所に……」

 

 程度に差はあるもののヌルオさんも上条も驚いている。

 それでも、戦闘の手を止めずに戦っているのは流石としか言いようがない。

 ええい。ここまで来たら、二の足を踏んでる場合じゃない。

 

「ヌルオさん! 上条! 俺は、今、自分の意思でここまで来たんだ!」

 

 思いの丈を言葉に乗せる。

 ヌルオさんの思っている庇護者でも、上条の思っている被害者でもない。

 俺はここに戦いに来たのだ。

 

「マギウスの翼のやってることが許せない! だから俺はそれに協力する上条を止めるために来たんだ!」

 

 まっすぐに上条を見つめて、そう言い切った。

 偽りのない本心だ。どういう理由でマギウスの翼に加担しているのかは知らない。

 それでも、上条には何も知らない人たちを不幸にするようなことはしてほしくなかった。

 俺の友達で、尊敬できる奴で、格好いいって心から思える男だからこそ、悪事に手を貸してほしくなかった。

 しかし、言ってしまった後で、激しい動揺が押し寄せる。

 もう少し言葉を選ぶべきだったか? 上条が戦っている理由とか聞いてからいうべきだったか?

 恩知らずだと思われたか? 友達にならない方がよかったって思われたか?

 口の中が乾燥する。胃が締め付けられる。声が出なくなった。

 

「中沢君」「中沢……」

 

 ヌルオさんと上条が同時に俺の名前を呼ぶ。

 そして……。

 

「早くそこから逃げて!」「早くそこから逃げろ!」

 

 怒鳴るような大声が重なって響いた。

 

「……へ?」

 

 とっさに何かの気配を背後に感じて、振り返る。

 巨大なトンネルが見えた。

 深く、長い、大きな穴。

 真っ暗で先が見えない暗黒の空洞。

 それが巨大な化け物の開いた口だと気付いたのは、俺が丸呑みにされる直前だった。

 呑み込まれる寸前、俺の身体は――ちゃんと動いた。

 真横に転がるように飛び退いて、間一髪で逃げ出す。

 心臓はバクバクと脈動して、小便を漏らしそうなほど恐ろしい。

 それでもすぐさま、床を()って、距離を取ると改めて、その化け物を直視した。

 筒状のものをいくつも縦に繋げたような胴体を持つ黒い巨大魚。

 顔面の大半を占める眼球には、髭の生えた男性の肖像が映っている。

 これが記憶ミュージアムのウワサの本体か。

 

「中沢君」

 

 俺のすぐ前に飛んできたステッキが床に突き刺さり、布状に開いた。

 それを入口にして、さっきまで上条と奥で交戦していたヌルオさんがすぐ(そば)に出現する。

 

「どうして、君はこんなところまで来たの?」

 

 背を向けたまま、シルクハットのツバを指で摘み、より目深(まぶか)に被り直した。

 

「俺、ヌルオさんと一緒に戦うために来たんだ。さっき言った通り、上条を止めるためもあるけど、俺自身がヌルオさんの役に立ちたいって思ったから」

 

「……足手まといだって言っても聞かないんだね」

 

「うん! それでも俺はヌルオさんと一緒に居たいんだ!」

 

「まったく、聞き分けのない子供だよ、君は」

 

 彼は後ろ姿でも分かるくらい大きな溜め息を吐いてみせた。

 それから、振り向くことなく手だけを俺へ差し出す。

 

「でも、ウワサの怪物相手に少しは動けるなら、多少は使えるかもしれないね」

 

「ヌルオさん……」

 

 その言葉で俺は今までの苦労がすべて報われた気がした。

 奥の座席に居た上条が床を蹴り、巨大魚のウワサを庇うように立ち塞がった。

 俺を見る目は、いつもの優しい眼差しではなかった。

 

「中沢……。お前が本当に自分の意思で、そいつと居るっていうなら、僕はお前を敵として見ないといけなくなる。それでも――いいのかい?」

 

 返答次第ではお前は敵だ、という上条。

 それを目にしても俺の心は変わらなかった。

 

「うん、ごめん。でも、これが今の俺なんだ……。俺が自分で選んだ答えなんだよ」

 

「……そうかい。なら、お前もその手品師同様、消えてもらう」

 

 白い仮面から露出した上条の顔から冷徹な視線が(そそ)がれる。

 想像していたよりもずっと辛かったけれど、それでも俺はヌルオさんの手を取った。

 透き通った黒い光が身体を包み込み、俺の意識は奥へと引いて場所を譲る。

 次に口から発せられた声は、ヌルオさんのものだった。

 

「消えるのは僕らじゃない。君らだよ。半端者の子犬君」

 

「半端者? 僕のどこが!」

 

 噛み付くように言う上条に、ヌルオさんは理路整然と述べる。

 

「中沢君への対応すべてさ。本当に君がマギウスの翼とやらにどっぷり浸かっているなら、知人だろうと友人だろうとウワサの中に放り込めばよかったんだ。魔法少女でもない彼は君らにとって何の価値もない存在なんだろう?」

 

「……それは」

 

「その反応が半端だって言ってるんだよ。筋の通った理論も展開できず、かといって開き直れもしない。宙ぶらりんの行動指針。てっきり洗脳か強要でもされているのかと思ったけど、その半端具合じゃ素みたいだね」

 

 黒いステッキを生み出して、その先端を上条へ向けた。

 

「それならもう手加減は無用だよねぇ?」

 

「手加減だって? ……何を言って」

 

 言い終わる前にステッキが開いて、布に変わる。

 その布から十本のステッキが生えてきたかと思うと、トビウオのように宙へ飛び出した。

 落下するステッキが布に変化するとそこから、新たにステッキを撃ち出す。

 狙いを付けたのは奥で浮かぶ巨大魚のウワサではなく、手前に立つ上条。

 凶弾と化したそれらは容赦なく、彼を襲う。

 

「……『ギフト・ゾナーテ』!」

 

 しかし、それを青白いバイオリンでの演奏で生まれた灰色の毒音符が彼を覆うように纏わりつき、全身を灰色の膜で覆い尽くして防いでみせた。

 膨張した灰色の膜は、音符のたまの部分に変形し、上条のそのものが毒音符に呑まれているようにも見えた。

 否定の魔法によって、その膜を削られていくが、完全に消し切る前に内部で演奏する上条が毒音符を新たに増やして、膜を維持し続ける。

 役目を終えて布に戻ったステッキはそのまま、灰色の毒音符に呑み込まれ融かされていった。

 前に、大量の小さな魔女たちを一気に倒したあの大技すら上条には通用しないのか……!

 

「これの程度が本気だというなら、拍子抜けもいいところだね……」

 

 連射されるステッキを乗り切った上条は憎まれ口を叩く。

 だが、ヌルオさんはそこで彼に向って走り出す。

 僅かに驚愕した上条だったが、腐敗の防護壁に覆われている自身に突進してくるヌルオさんを嘲笑の笑みで迎えた。

 

「中沢の身体だから、僕が魔法を解除するとでも? そのまま、腐り落ちて死ねばいい!」

 

 明確に俺に向けられた悪意に、心が締め付けられる。

 だけど、もうそれで折れるほど俺の覚悟は(もろ)くはない。

 

「ねぇ……耳なし芳一(ほういち)の話って知ってる?」

 

 唐突にヌルオさんは上条へ語りかける。

 接近する敵の口から出るには意図の分からない台詞に警戒した彼はそれを無視した。

 しかし、それはヌルオさんが見せた最後の慈悲。自分の失態に気付く最後の機会だった。

 手に握られていた布が掬い取るようにそこに巻き付く。

 灰色の防護壁から唯一出ていた()()()()()へと。

 

「な……っ!」

 

 考えてみれば当然のことだ。

 触れるものをすべてを融かし尽くす腐敗の魔法。

 もしもそれを足先まで適応してしまえば、彼の身体は魔法によって地面へと沈み込んでしまう。

 だから、足先だけには膜の外側に出しておく必要があった。

 加えて、先ほどのまでの攻撃はすべて顔や肩のみといった上半身しか狙わなかった。

 まるで足元から意図的に注意を逸らすかのように限定された箇所への攻撃。

 それもこれも、ヌルオさんによって行われた思考の誘導。

 見ている俺自身、彼の眺める視点を通じて、ようやく理解できたほどに巧妙だった。

 足先を絡め取られた上条の身体は、ヌルオさんの腕力によって持ち上げられ、その先にいるもの目掛けて振り下ろされる。

 そこに浮かぶ巨大魚のウワサへ。

 

「やめっ……」

 

「さあ、合体魔法の時間だよ」

 

 腐敗をもたらす魔法の鉄球となった上条の身体を布の持ち手で振り回す。

 上条の頭には咄嗟(とっさ)に魔法を解除するという方法もあっただろう。

 だが、それを行えば、全身で巨大魚のウワサと激突することになる。

 魔法で身体強化されていても、大打撃は避けられない。

 これがヌルオさんの言っていた“手加減しない”という言葉の意味だ。

 落下する腐敗の鉄球がウワサの化け物を一撃で融かし尽くす。

 

『誼lzsdrvn椰lefjslhrila;ssjja啞ldslfjlevlasja亞lksdafjalersjjfjk;vnk――!』

 

 断末魔の叫びを上げる巨大魚のウワサはその巨体を液状にして、床へと撒き散らされ、次第に消えていく。

 それを確認してから上条の身体を、持ち手の布ごと遠くへ放り投げた。

 彼を飛ばした方向に背を向けて、壊れた鉄格子の門を潜ろうとする。

 

「……待て……顔無し手品師……」

 

 顔だけ振り返ったヌルオさんの視界には、融けた床の穴から這い上がる上条の姿があった。

 咳き込みながら胸の辺りを押さえている仕草から、相当な損傷を受けている様子だった。

 

「ウワサ退治にご協力感謝。また手伝ってよ」

 

「ふざけるなっ! どれほど人を馬鹿にすれば気が済むんだ! 僕と戦え!」

 

「悪いけど、向こうで連れを待たせてるんだ。ウワサの本体を倒したから、ここも時期に崩壊する。貴重な時間を無駄にしてまで、ボロ雑巾と遊ぶ気にはなれないよ」

 

 ヌルオさんはそれだけ言い残すと、歯牙(しが)にもかけず、門の内側へと入って行った。

 門を潜る瞬間、悔しさを押し殺したような上条の声が僅かに聞こえた気がした。

 暗闇の中で細いロープの上を綱渡りした後、本で埋め尽くされた床や本棚が並ぶ場所を越えて、大きな階段が続く場所へと辿り着く。

 その階段上に居たのは、七海さんと彼女に()ぶわれた環さん。

 肩を押さえた深月ちゃんに、大盾を構えて顔を強張らせた二葉さん。

 そして、マスケット銃を持った金髪のロールヘアの魔法少女。

 水名神社で見たことのある少女だ。確か、名前は巴さんだったか。

 七海さんは背中の環さんを庇いながら、巴さんの猛攻から逃げ回っていた。

 控えめにいっても穏やかではない状況だということは何も知らない俺でも理解できる。

 巴さんがこちらに向くと、どこか虚ろな目でヌルオさんを見た。

 

「あら? 上条君はどうしたの?」

 

「彼なら帰ったよ。きっと見たいテレビ番組でもあったんだろうね」

 

「そう……なら、あなたも私が片付けないといけないのね」

 

「お片付けがしたいなら、まずはその散らかった思考回路をどうにかしてみたら?」

 

 キャッチボールにしては剣呑すぎる会話を続けていると、追われていた七海さんがヌルオさんの方を向いた。

 

「ヌルオ! 彼女は普通じゃないわ。会話は無意味よ!」

 

「自分はまともなつもりなのか……。まあ、いいや。ここのウワサは潰したよ。骨組みは廃墟を元にしているから完全消滅はしないと思うけど、これだけ中身を弄ってたら間違いなく崩壊すると思う。早く逃げた方がいいよ」

 

 辛辣な突っ込みをしてから、七海さんに脱出するように(うなが)した。

 彼女はこくりと一つ頷くと残りの二人を連れ、階段を上がって行こうとする。

 

「行かせると思うの?」

 

 巴さんが七海さんの背後をマスケット銃で狙おうと構える。

 そこに既に投げていた黒いステッキが突き刺さり、マスケット銃を消滅させる。

 

「やらせると思うの?」

 

 新たにステッキを生み出しながら、ヌルオさんが尋ねる。

 七海さんは振り返ることなく、その間に階段を駆け上がっていく。

 ヌルオさんがしくじることなど欠片も考えていないのだろう。俺と離れていた一週間で相当な信頼感を得ていたらしい。

 最上階には出口があるのかと思い、意識を向けるとそこには黒羽根に囲まれた茶髪の小さな少女の後ろ姿が見えた。

 茶髪のロングヘアで小さな背丈の少女。

 俺はあの映像の中で最後に映った少女の名前が頭に浮かんだ。

 灯花ちゃん。

 映像の中でそう呼ばれたあの少女なのか。

 だが、沈みかけていた俺の思考はそこで打ち切られた。

 

「掴んだ希望の先には何もなかった……」

 

 七海さんを取り逃した巴さんが急にそんなことを話し出す。

 ヌルオさんに向けてではなく、どこか別の方向を向いているので独り言だろうか。

 

「私たち騙されていたの!」

 

 突然、声を荒げて大袈裟な仕草で虚空に語りかけている。

 今度は背を向けて、悲し気な声を絞り出した。

 

「このままじゃ皆……」

 

「ねえ、ミュージカルなら他所でやってくれないかな? 無理やり観客にされるのは苦痛でしかないんだけど」

 

 切れ味のいい毒舌も彼女には届いている様子はない。

 もう一度、こちらを向いた時、彼女の姿は黄金の装飾を身に付けた純白の衣装に変わっていた。

 

「絶望を振り撒く、魔女になってしまう!」

 

 膝下にかかるほどの広いヴェールを被り、更にその上に王冠を()せていた。背後には無数の矢が突き刺さったのような円環状の飾りを背負っている。

 

「……コスプレレベルが上がったね。仮装大賞に応募してきなよ」

 

 僅かにヌルオさんの声に緊張が混ざる。

 手元で静かにステッキの端を引っ張り、長さを伸ばした。

 

「みんなが救われるの。その権利があるの。私が……そう、私が絶対になんとか!」

 

 同時に後ろに手を回し、数本のステッキを高く投げた。

 最上階にまで届くほどの高さまで飛翔したステッキは重力に従って落下を始める。

 

「してみせる!」

 

 その言葉と同時に数えきれないほどの量のマスケット銃が出現し、彼女を中心にして展開される。

 だが、引き金が引かれる前に、ヌルオさんは大布を頭から被った。

 一瞬にして、景色が切り替わり、真下で黄色く爆ぜる閃光が見える。

 空中で広がる布を使って、空間移動したヌルオさんは更に傍で落下中のステッキを掴む。

 片方を投げ、片方を布に変えた。同じように入口と出口にして空間を移動する。

 その短い移動を繰り返して最上階へ辿り着くと、息を切らして駆け上がってきた七海さんたちを壁の大扉へと誘導した。

 その鮮やかな手腕に、俺はあの無意味な会話は七海さんたちが標的にされないように時間稼ぎをしていたのだと気付かされる。

 

「まずいね。想定以上にしつこいようだ。先に行ってて」

 

 しかし、ヌルオさんは何かに気付くと七海さんに先に行くように言って、扉の向こうへ突き飛ばす。

 

「ちょっ……」

 

 真下から階段を破壊しながら黄色の巨大な光の大砲が迫って来るのが見えた。

 ここまで突拍子もないと恐怖も麻痺して、俺の心も動かない。

 ヌルオさんはビニールシートほどの大きな黒い布を生み出すと、それを広げて迎え撃つ。

 アリナ・グレイの時と同じようにもう一枚出して、相手に撃ち返すのだと思ったが、この場でそれはできないことに気付いた。

 もし、その手法を行えば、周囲にどれくらいの規模の被害が出るか想像も付かない。

 少なくとも、今も脱出中の七海さんたちは確実に巻き込まれる。

 否定の魔法で迫る光の砲弾を処理できなければ、俺の人生はここで終わるかもしれない。

 それでも俺の心には何の後悔も湧いてこなかった。

 

「……僕と心中したいの?」

 

 どうだろう?

 死にたい訳じゃないけど、それでも今日この場所に居ることが誇らしく思う。

 そういえば、あのモキュゥべえはどこに行ったのか。上条との戦いの時にはどこにも居なかったようだが、逃げてくれていることを祈る他にない。

 足場の床が光に砕かれ、広がった黒い布に包まれる。

 激しい閃光と轟音が収束していく。それとは別に黒い布からは澄んだ光が放たれた。

 何故か俺には、その光が何を意味するのか薄っすらと感じ取れた。

 きっと、これがヌルオさんの“本来の”否定の魔法……。

 俺の意識はそれに耐えきれず、その時点で遮断された。

 最後に聞こえたのは……。

 

「モッキュー!」

 

 あの間の抜けた甲高い鳴き声だった。

 




記憶ミュージアム編終了です。
尺の都合で出番をカットやオミットしましたが、概ねまとまりよくできました。

読者の皆さん、よいお年をお迎えください。
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