ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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第二十一話『中沢君と名も無き思い出』③

「さあ、私たちを連れて行ってよ」

 

 なぜか刃渡り一メートルくらいある刃物で俺は元クラスメイトの魔法少女に脅されていた。

 端的に言い表すと、かなり意味不明な状況だが、一応の理由は分かる。

 それは俺が今、マギウスの翼の構成員である黒羽根のローブを着ているからだ。

 加えて、美樹さんは俺の見た夢の中では、あの巴マミと一緒に超巨大魔女と戦っていた。

 俺が見たのがただの夢だとしても、巴マミが見滝原から来た魔法少女で、彼女たちの仲間という可能性は充分ある。

 マギウスの翼に入った彼女を取り戻そうとしに来たと考えれば、とりあえずの辻褄(つじつま)は合う……気がする。

 しかし、連れて行ってと言われても俺自身初めて行く場所であり、これから入り方を教えてもらうところだった。

 とにかく、この場は刃を収めてもらわないことには話が進まない。

 やるべきことは敵ではないことの証明だ。

 小さく挙げていた手で、フードを外して顔を見せた。

 

「あのー、俺、中沢です……」

 

「は? 誰、っていうか男!? 男なのに魔法少女やってんの!?」

 

 余計に混乱した美樹さんは更に、俺の眼前の切っ先を近付けた。

 悲鳴を上げそうになるが、それ以上にクラスメイトの女子から記憶されていなかった事実に悲しくなる。

 色んな意味で泣きたい気持ちだが、こんな時に頼りになるヌルオさんが無反応なことが気になった。

 肩に乗っている彼へ目を向けると、真正面をじっと見据えている。

 視線の先には魔法少女の姿をした鹿目さんが同じようにヌルオさんを見つめ返していた。

 もしや、あの夢の中で見たように二人には繋がりがあったというのだろうか……!

 お互いに通じる想いがあるというのか……!

 

「また、ピンクが増えたね」

 

「黒いウサギさんが居る……」

 

 全然違ったーー!

 ただの見た目の印象を見合っていただけだったー!

 特にヌルオさんの方はカラーリングしか見てない。

 興味がないにも程があるだろ……。

 

「うわっ、そのウサギも喋るの!?」

 

 だが、急に黒ウサギが喋ったことで、美樹さんに向けられた剣の先端が驚いて逸れる。

 僅かに生まれた(すき)

 少し前の俺であれば見逃してしまっていただろう。けれど、今の俺ならその僅かな隙で充分だった。

 くるりと背を向けて、脱兎(だっと)の如く走り出す。

 

「あ、待て!」

 

 背後で美樹さんが叫ぶが、俺はすぐさま『世界の花展』の展示会場入り口に飛び込んだ。

 そこには花園が広がっていて、区分けされた花々が咲き誇っていた。正面は一本道になり、フラワーアーチがいくつか連なっている。

 天音月夜やみかづき荘の魔法少女たちの姿はどこにもない。先にマギウスの翼の拠点へ行ってしまったのだろうか。

 仕方なく、俺もペンダントを取り出して――。

 取り出して……困惑する。

 どうやって使えばいいんだ、これ……。

 そう。このペンダントがホテルフェントホープの鍵となるものだとは聞いていたが、その使い方までは聞いていなかった。

 必要になった段階で話してくれると思っていたせいで、俺はこのペンダントをどういう用途で使うのかも判断が付かない。

 分かりやすい台座か扉のようなものがあれば話は別だが、花園にはそういったものはどこを向いても見当たらなかった。

 万事休(ばんじきゅう)したところで、俺は駆け付けた魔法少女三名に囲まれる。

 美樹さんはサーベル、鹿目さんは弓、眼鏡の子に関してはリアルな造形の拳銃を向けられていた。

 こうなれば、さっさとぶっちゃけて許しを()うしかない。

 

「待って、待って。俺は魔法少女でもマギウスの翼でもないんだって」

 

「いや、アンタ、その格好。黒羽根って奴の服装でしょ? そのくらいは昨日の内に調べは付いてるんだから。言い逃れようたって無駄よ」

 

 あ、駄目だ。美樹さんは俺の中で話聞いてくれないカテゴリーに分類される魔法少女確定だ。

 他の話が聞いてくれそうな子に訴えかけよう。

 

「あの、鹿目さん? 俺、中沢。少し前に見滝原中から転校していったんだけど、一応元クラスメイト。覚えてない?」

 

「……そう言われれば、見覚えがあるような」

 

 鹿目さんは(いぶか)し気に俺の顔を眺める。

 クラスでの俺、どれだけ影が薄かったんだよ……。そろそろ俺も透明になってきそうだ。

 

「とにかく! 俺はまだマギウスの本拠地に行ったこともないんだよ! 連れて行きたくても、俺自身困ってるくらいだ!」

 

 必死に身振り手振りで潔白を示していると、今まで沈黙を保っていた眼鏡の子が口を開いた。

 

「あの、じゃあ、中沢さん……でしたか? あなたは何でそんな格好で街中を歩いてたんですか?」

 

「いや、まあ、それはマギウスの翼に入るため、かな?」

 

「じゃあ、アタシ間違ってないじゃん!」

 

 切れ気味で美樹さんが言う。

 無理だ。説明下手な俺じゃあ、話がややこしくなるだけでまったく好転しない。

 しばらく見守っていた様子のヌルオさんも見るに見かねて、会話に入ってくる。

 

「僕らはマギウスの翼に入って行方を(くら)ました知り合いが居てね。その子に会いに行くために加入したんだ。君らは誰で、何がしたいの?」

 

 彼の発言に真っ先に反応したのは鹿目さんだった。

 

「えっ、じゃあ、私たちと同じだね。私はまどか。こっちの剣の子がさやかちゃんで、こっちの銃の子がほむらちゃん。えっと、ウサギさんのお名前は?」

 

「“ウサギさんのお名前は”、ヌルオだよ。お嬢さん」

 

 からかうようにそう答えた。

 ウサギの姿でもどこか大人びた妖艶な雰囲気が漂っている。

 夢の光景が正しいのなら、この人も俺と同い年くらいだったような……。

 とりあえず、眼鏡の子はほむらというらしい。

 流れから言って名前だよな? どちらかというと苗字で教えてほしかった。

 

「じゃあ……ヌルオさんって呼べばいいのかな?」

 

「好きに呼んでよ。呼び捨てでも、可愛いバニーちゃんでも」

 

「じゃあ、間を取って『ヌルオくん』って呼ぶね」

 

 鹿目さんは年齢不詳のヌルオさんの呼び方を悩んだ挙句、君付けに決めていた。

 その響きがどうにも夢の中で呼んでいた『政夫くん』に似ていて、俺は複雑な気持ちになる。

 いや、今は夢の記憶は脳の片隅に留めておこう。

 魔法少女たちが完全に敵意を消したところで、軽く咳払いをして、俺は話し始めた。

 

「えーと、それじゃあ、状況を整理しないか? 俺も君らもマギウスの翼の拠点に行きたい。でも、行き方がいまいち分からない。分かっているのはこの場所が入り口であるらしいことと、このペンダントが鍵になるってことくらいだ」

 

「鍵? それが鍵ならどこかに鍵穴があるんじゃないの?」

 

 美樹さんは俺が考えていたようなことを口走る。

 しかし、ほむらさんはその意見を即座に否定した。

 

「でも、鍵穴があるような場所はこの辺りにはないですよ?」

 

「……言ってみただけでしょ。すぐそうやってアンタは、あたしの意見を否定して」

 

「そ、そんなこと……」

 

 急にギスギスし始めた少女二人の会話に、ヌルオさんが割り込む。

 

「ねえ、君らはここで愚にも付かないやり取りを時間を潰したいの? それともお友達を助けたいの? 後者だっていうなら、せめて喧嘩は後にしてよ」

 

「くっ……、ウサギなんかに何が分かるっていうのよ」

 

 突っかかる美樹さんだったが、それを彼は皮肉で返した。

 

「ウサギより脳ミソが小さそうなことは分かるよ」

 

「何ですって!」

 

「何でそんなにイライラしてるのは知らないけど、それを他人にぶつけても惨めになるのは君自身だ。そして、君は今、仲間からの信頼を失い、お友達を助ける機会までドブに捨てようとしている。これでも君は自分の言動が賢いだなんて思えるの?」

 

 少し前の俺であれば、言い過ぎだと感じただろう痛烈な批判。

 だが、ヌルオさんの性格を知った俺からすれば、彼の発言はどこまでも合理的に感じられた。

 一度挑発して怒らせたことでほむらさんから、感情の矛先を自分に変更させる。

 その上で熱くなった思考を、淡々とした行動の評価で容赦なく、冷却する。

 最終的に自分の行動の評価を自分自身で決めさせることで、否応なしに考えさせた。

 

「……それは……うん。あたしが悪かった。ごめん、ほむら」

 

 事実、それを受けた美樹さんは不本意ながらも自分の行動を(かえり)みて、謝罪した。

 ほむらさんもまた、彼女に控えめがちに謝る。

 

「いえ、その、私もせっかく美樹さんが考えてくれたのに、すぐに否定したりしてすみませんでした」

 

 一旦仲直りをしてくれた二人を見ていた鹿目さんは、ヌルオさんの見事な手腕に驚いた顔を見せた。

 

「すごいね、ヌルオくん。私が何か言う前に二人の喧嘩を止めちゃった」

 

「君がどちらかを庇えば、余計に(こじ)れただろうから何も言わなくて正解だよ。それにしても三人しか居ないんだから、もうちょっと仲良くできないの?」

 

「あはは……マミさんならもうちょっとうまく仲裁できたんだろうけどね」

 

 苦言を(てい)する彼に鹿目さんは申し訳なさそうに笑ってみせた。

 今の発言からして、やはり助けたい相手というのは巴マミで間違いないようだ。

 仕切り直しというように、ヌルオさんが前脚でぽむぽむと拍手する。

 

「それじゃあ、話を元に戻すよ」

 

「あ、待って」

 

 脱線した会話を立てなそうとした彼に美樹さんが止める。

 ヌルオさんの瞳が面倒そうに彼女へ向いた。

 

「……何? 今度はどうしたの?」

 

「いや、アンタにも謝っておかないといけないと思って。ごめん、喧嘩止めようとしてくれたのにウサギなんかとか言っちゃって」

 

「いいよ。僕は自分の発言を謝るつもりないし」

 

「……アンタ、いい性格してるって言われない?」

 

「挨拶の次くらいには言われるね。はい、じゃ、今度こそ話戻すよ」

 

 律義にも謝ってきた美樹さんを雑に流して会話を戻す。

 だが、不思議なことに彼女は怒るどころか少し笑っていた。彼の会話技術のなせる業なのか、ウサギ姿の恩恵かは分からない。

 話の主導権がヌルオさんに回ると、ものすごく安心感がある。

 

「ペンダントは“鍵”ではなく、“鍵のようなもの”と説明されていた。どこにも()める場所がないのなら、いっそかざしてみるというのはどう?」

 

「かざす? 例えばどこに?」

 

 俺が尋ねると、ヌルオさんは周囲を見て、フラワーアーチを前脚で()し示した。

 

「例えば、あそことかは? 空間と空間が繋がるなら、その境目となるものは分かりやすく目で見えた方がいいからね」

 

 その説明に、否定の魔法の応用の空間転移を思い浮かべた。

 あの魔法もシルクハットや布を入口や出口として、別の場所と繋げることができる。

 確かにその理屈だと、分かりやすいアーチが入口になるのは想像しやすい。

 俺はすぐさま、アーチの方に向けてペンダントに付いているシンボルマークをかざしてみた。

 その瞬間、フラワーアーチの中央に大きな輝く円が生まれた。

 円周上に小さな鳥居のようなものが生えていて、中心には『開』という漢字を少し崩したような字が浮遊していた。

 次第に内側の景色が見えてくる。

 

「や、やったよ! ヌルオさん! 開いたよ!」

 

「よかったね。じゃあ、行こうか。そちらさんはどうする? 連れて行って、中でもつまらない仲違いするようならここに置いていきたいんだけど」

 

 振り返ったヌルオさんは、魔法少女三人組に呼びかける。

 彼女たちは頷き合った後、代表して鹿目さんが言った。

 

「うん。喧嘩なんてしないから私たちも連れて行って」

 

「それならどうぞ、ご勝手に」

 

 ヌルオさんが許可を出したことを確認して、俺は円の中に飛び込んだ。

 続けて、後ろで三人の足音が聞こえてくる。

 一瞬にして、景色は花園から豪華で立派なホテルの前に変わっていた。

 ここがホテルフェントホープ。マギウスの翼の本拠地。

 

「あれ? ペンダントが……」

 

 持っていたシンボルマークが金色から黒に変色していた。

 一回使うとこうなるのだろうかと呑気に考えたが、ヌルオさんは怪しむような目を向ける。

 

「もしかしたら、招かれざる客を連れ込んだせいかもね。念のために捨てておいて」

 

「えっ、でも、それじゃ出れなくなるんじゃないか?」

 

「僕の予想が正しければ、そのペンダントはもう使えないだろうし、このウワサを消せばどの道、現実世界には帰れるよ。最悪、否定の魔法で強行突破してもいい」

 

「うん、分かった」

 

 悩むまでもなく、俺はその黒ずんだペンダントを足元に捨てた。

 ヌルオさんが危険だというなら、その判断を疑うつもりはない。

 元より、戦闘時に身体は貸しているのだ。命ならとうの昔に彼に預けている。

 後ろから僅かに遅れて来た魔法少女と共にホテル前の階段を駆け上がると、その上にあるエントランスの両開き扉を開けて中へ入った。

 

「中沢君。後ろの三人の誰かに黒羽根のローブをあげて」

 

「いいけど……俺たちはどうするんだ?」

 

「ここまでくれば、もう服装なんてどうでもいいよ。それに()は振りでもあんな格好したくないしね」

 

 何をしようとしているのか、何となく察して俺は頷いた。

 

「分かったよ」

 

 ローブを脱いでそれを彼女たちに差し出した。

 キョトンとしている魔法少女三人組に俺が説明する。

 

「俺たちはこれから独自行動するから、カモフラージュ用のこれあげる。三人分はないけど、一人が着れば、黒羽根が新しい魔法少女を連れて来たように見えると思う」

 

「あ、じゃあ、私が着ておくね」

 

 鹿目さんがそのローブを手に取って、頭からすっぽりと被った。

 サイズも彼女の体格にあったものに変わっていて、俺が着ていた時よりもよっぽど似合っていた。

 こんな怪しげなデザインでもやっぱり女の子用だったのだと改めて感じる。

 俺はそれを見届けた後、ヌルオさんに肉体を明け渡し、意識を奥へと引き下げた。

 服装はいつものローブコートになっていて、最後にトレードマークのシルクハットが頭に被さる。

 

「ええ! 男なのに!?」

 

「……変身した!?」

 

 驚いてぽかんと口を開けている美樹さんと、目を丸くしたほむらさんへヌルオさんが言った。

 

「それじゃあ。君らのお友達も見つかるといいね」

 

 彼女たちに背を向けて、エントランスホールを駆けて行く。

 あれ……? 今、彼女……。

 ヌルオさんは何も言わなかったが、俺にはそれがどうしても引っかかった。

 立ち去った彼の視界に映った鹿目さんは、フードの下でどこか泣きそうな表情を浮かべたように見えた。

 

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