ナノカレコード~顔無し手品師のうわさ~   作:唐揚ちきん

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第六話『中沢君と怪しいお水』②

『ひとたび飲めば憂鬱は晴れ。あらゆる病気もペロリと治る。まずは一杯、まずは一杯。これさえ飲めば運気開運、運命開盛。家宝もドカっと転がり込むって寸法だ!』

 

 (いん)を踏んでいるのか、妙な節を付けて流れる言葉。

 俺は強引に「なんか! 面白そうなの流れてるよ! 行こう行こう行こう!」とひたすらテンションの上がった振りをして会話を打ち切り、追及を逃れた。

 「う、うん……」と頷いてくれた環さんは俺のテンションの上がり具合にドン引きしていたが、こればかりは仕方ない。

 それよりもこれから彼女と一緒に居る間、しばらくテンションの高さを維持しなければならないことの方が辛い。

 叫び過ぎて、血管切れそう……。

 

『集中力アップ。ダイエットに最適。不治の病もどんと来い。みんな飲んでる、みんな飲んでる。知らないのはあなただけ。フクロウ印のー幸運水ー!』

 

 ……何で後半ちょっとありそうなコマーシャル風なんだろう。

 集中力とダイエットに並ばされている不治の病くんはちょっと難易度高いけども。

 階段を下り、馬券売り場へと降りていく。

 環さんはまるでこんな場所に来る気はなかったかのような素振りで、周りを恐る恐る眺めていた。

 その手は食わない。工匠区は職人の地区だと八雲さんは言っていた。

 年頃の少女が何の理由もなく、うろつく場所じゃない。

 むしろ、この『フクロウ幸運水の噂』に興味がないなら、何で来たってレベルだ。

 さっきのやり取りから見ても分かる通り、彼女は気弱に見せてかなりのやり手……俺には分かる。

 隠している尻尾を掴みつつ、この噂を調査してみせる。

 

「集中力アップだってね! ダイエットにも最適とか最高だよね! イヤッフー!」

 

「……あの、中沢くん。大丈夫? いきなり急に明るくなり過ぎてるような気がするんだけど」

 

 仕方ないだろっ。もうこのテンションでやっていかないと、さっきの会話を打ち切ったのが逆に意味深になってしまう。

 何か不都合なことを聞かれて、誤魔化しましたって白状しているようなものだ。

 従って、俺はこの自分でもよくわからないハイテンションキャラを嫌でも演じなくてはならない。

 

「そんなこと、ないッフー!」

 

「ないッフー!?」

 

 謎キャラと化した俺の言動に驚愕を隠せない環さんを先導しつつ、スターを取って無敵になったマリオのようにピョンピョンと小刻みに飛び跳ねながら馬券売り場までやって来た。

 付いた先は想像よりも異質な場所だった。

 でかでかとしたフォントでこれ以上にない存在感を放っている『フクロウ幸運水』の看板。

 パラソルの付きテーブルセットでぼんやりとした目で虚空を見つめている客。

 壁際にはろくろ首のように首の伸びた人形が一列に並んでいる。

 剣道の防具を付けて下半身を机に埋め込んだ人なども居て、もう恐怖しか感じない。

 イヤッフーとか言ってられる雰囲気じゃない。どっちかっていうと嫌ッフーだ。

 

「……か、帰ろう。環さん。ここは、子供が来てはいけない場所だ……」

 

「ええ!? さっきまでの明るさはどこにいったの!? それに連れて来たの中沢くんじゃ……」

 

 素に戻って怯える俺に環さんが困惑気味に突っ込みを入れてくる。

 いや、無理だよ……怖いもん、ここ。

 怪物が出るとか、都市伝説っぽいとかじゃなく、普通に危ない薬物とかやってそうな現実感のあるヤバさがある。

 日常の延長線上にある闇というか、分かりやすい恐怖が蔓延(まんえん)している。

 魔法少女よりもお巡りさんに頑張ってほしい場所だ。

 

『あなたもさあさ、遠慮なく。幸運運ぶ、ありがたぁーいお水だよ』

 

 額縁を首に掛けた人たちが光った白目で瓶に入った飲料を俺や環さんに勧めてくる。

 何それ、というか、この状況に危機感を抱いていない環さん、強者過ぎるだろう。

 

「ええと……ありがと」

 

 ええーーーーーー!?

 受け取るの!? 渡した相手の格好もさることながら、何が入っているか分からない飲料を受け取るの!?

 そのまま、環さんは瓶の飲み口を傾けて、中身を一口飲む。

 飲んだぁー!

 得体のしれないものを流れるように飲んだぁー!?

 

「おいしい……。この水美味しいよ。中沢くんも飲んでみて」

 

 そんでもってこっちに流れ弾飛ばしてきたぁー!?

 絶対に嫌ッフーーーー!!

 

「えと、あの……宗教上の理由で人からもらった水飲んじゃいけないっていうか……」

 

 勧めてくる額縁ネックレスたちから目を背けるために、視線を彷徨(さまよ)わせる。

 すると、金髪を二つ結びにした小学生くらいの幼い少女が目を輝かせて、瓶を受け取っていた。

 

「え、タダなのか? マジで? やりぃ!」

 

 いけない!

 環さんは魔法少女だし、なんか鳥の化け物になるし、半分以上人間辞めてる強者だけど、こんな幼気(いたいけ)な子供まで危険な液体を摂取するなんて危険過ぎる!

 

「駄目ッフー!」

 

「あ、おまっ、何を……」

 

 少女の手から瓶をひったくると、そのまま、ラッパ飲みで中身を空にする。

 味としてはひんやりとして冷たく、すっきりとした飲み応え。高級なミネラルウォーターみたいな感じだ。

 

「ああ! オレのなのにぃ……じゃあ、そいつが飲もうとしていたの寄こせ!」

 

 しまった!

 俺が渡されそうになって渋っていた方の瓶が残っていた。

 ちょうど額縁ネックレスから、少女に手渡されそうになっている。

 させない! この子の人生は俺が守る!

 

「でぃやッフー!」

 

 額縁ネックレスの手に持たれた瓶。

 開いた状態になっているその飲み口に直接口を付けて、吸う!

 

「いい加減にしろ! この野郎!」

 

 二度も目の前で水を奪われた少女がとうとうぶち切れて、俺に掴みかかってきた。

 小学生くらいの少女とは思えない腕力で俺の身体は浮き上がる。

 何だこれ、火事場のクソ力って奴か。食べ物の恨みが少女の力を貸したのか。

 その瞬間、俺の咥えていた瓶は額縁ネックレスの手から離れて傾いた。

 急に水が喉の奥へ流れ込んでくる。

 むせ込んだ瓶を口から離しそうになるのを堪え、俺は力の限り、中身の水を吸い込んだ。

 もってくれ、俺の肺活量!

 持ち上げられた不安定な格好でなおも水を飲み込んでいく。

 

「うわあああああ! オレの水が! 何なんだ、お前ぇ!」

 

 鼻の穴から水が逆流しそうになりながらも俺は耐え凌ぎ、瓶の水を空っぽにしてみせた。

 ゲホゲホとむせ込みながらも、俺の中には確かな達成感があった。

 良かった。これで危険な薬物が入った水を飲む幼い少女は居ないんだ……。

 爽やかな笑顔を浮かべた俺に、小さな握り拳がもの凄い速さで迫り、鼻先数ミリでピタリと止まった。

 

「はッなッせッ! その馬鹿野郎だけはボコる! 絶対ボコる!」

 

「お、落ち着いて! お代わりもらおう。ね? ね?」

 

 視線を拳からずらすと、少女を後ろから羽交い締めにしている環さんが見えた。

 流石は強者……。

 感心する間もなく、俺の身体は投げ飛ばされて、床に激突した。

 

「いっ、(つう)ぅぅぅー……!」

 

 あまりにも痛すぎて身動きができない。

 手足を丸めながら情けなく涙を流す。

 だが、ハッと気付いて俺はポケットの中の宝石を確認した。

 よかった……傷も付いてない。

 ()()()、ヌルオさんの卵型の宝石だけは無事だった。

 安堵と共に起き上がると、少女と環さんはピエロ風の衣装の商人と話していた。

 

「オレ、まだ飲んでねぇぞ!」

 

「本当に駄目なんですか?」

 

『あな無念。幸運は一人一日一度きり』

 

 どうやら新しくもらえないか交渉しているようだった。

 だが、これ以上は出してくれない様子だ。

 良かった。流石にもう一本出されたら俺は飲みきれない。

 今だって、お腹の中でタプタプしている。

 

『明日のおいでを』

 

 ピエロがいうと奇怪な格好の連中は追随するように繰り返す。

 

『明日のおいでを』

 

 もうここ来たくない……。

 剣道の防具を付けた人が俺の方を向いて、看板ペーパーをちらりと見せた。

 『24』と書かれていた紙がめくれ、『23』の数字に変わる。

 

「な、何ですか?」

 

『………………』

 

 防具の人は何も言わない。

 何かのイベントのカウントダウンだろうか。

 まともな相手には見えないから、何の意味もない動作かもしれないけど。

 二人を置いて逃げるようにして馬券売り場から出て行った俺は、地上でさっきの少女に捕まり、詰め寄られていた。

 

「……何でオレが切れてるか、分かるよな?」

 

「えー……さっきの水、飲めなかったから?」

 

「そうだよ! ふざけんなよ!」

 

 路地の壁に背中を押し付けられ、胸倉を掴まれている。

 細い路地には不良がスプレーで書いた落書きだらけになっている。一際、目立つように書かれているのは『23』という数字だった。二十三歳の誕生日に書いたのだろうか。

 そういえば、これも広義の上では壁ドンに当て嵌まるのだとかクラスの女子が言っていたことを思い出す。

 というか、この子、本当に力強いな。

 

「いや、だってあんな危険な水、君みたいな小さい子に飲ませられないし……」

 

「余計なお世話だ! 馬鹿野郎! このオトシマエは付けさせてもらうぜ!」

 

 少女の拳が今度こそ俺の顔を定めて、振るわれる。

 この筋力で殴られたらかなり痛いかもしれない。

 そう思ったら突然鼻がムズムズしてきた。

 

「オラァ!」

 

「へくちッ……」

 

 くしゃみをした拍子に()()()顔が逸れ、拳が真横にずれて路地の壁にめり込んだ。……めり込んだ?

 力強いとかそういうことで片付けられる腕力じゃない。

 もしかして、この子も。

 

「うまく避けたみたいだが、次はそうは行かねぇぞ!」

 

「君も魔法少女なのか?」

 

「……お前、何でそれを」

 

 驚いた顔で少女は振り被っていた次の拳を止める。

 俺もまた驚きで次の言葉を止めていた。

 少女の正体に、ではない。

 ほぼ正面にあった『23』という数字が、いつの間にか『22』に変わっていたからだ。

 

 

 ***

 

 

「それで、お前は……魔法少女の何を知ってるんだよ?」

 

 なぜか俺は少女にたかられる流れになっていた。

 財布の中を無言で確認する。

 バスで来たので俺の残金は三千を切っていた。

 二千七百二十二円が俺の全財産だ。

 テーブルに並べられた料理の数を見た。

 全部で十二皿ほどある。すべて少女が頼んだものだ。俺の分は無料の水しかない。

 一皿の料理が五百円前後だと考えても五千円を超える計算だ。

 つまり――。

 

「全然足りない……お会計どうしよう」

 

「何だよ、お前、貧乏なのか?」

 

 カレーライスを食べた後、口元で舌なめずりをして、オムライスに手を伸ばす少女。

 どれだけ食べる気なんだ。しかもご飯ものばかりだし。

 

「中流階級だよ! 中の下かもしれないけども……ねえ、いくら持ってる? 俺は二千と七百……」

 

「一円もねぇよ」

 

 少女は焼き卵とチキンライスを頬張りながら、面倒に答えた。

 頭を抱えて青ざめる。

 

「ぬおおおおおおおおおおお。お皿洗い手伝ったら、お店屋さん、許してくれるかな?」

 

「さあな。頑張りな」

 

「ぬぁんで他人事なのぉ! 君もだからね! というか、俺水しか飲んでないよ!? 無銭飲食したの君一人じゃん!」

 

「キミキミうるせぇなぁ。オレには深月フェリシアって名前があるんだよ。お前は?」

 

「中沢だよぉ! どうしよう! 警察呼ばれちゃう!? 学校にも間違いなく連絡行くよね? 終わったぁー……俺の人生終わったぁー」

 

「……終わらねぇよ」

 

「え?」

 

 料理を食べ尽くした深月ちゃんはスプーンを置いて、俺をまっすぐ見つめた。

 

「学校に行けなくなっても、親が死んでも、それでもその程度じゃお前の人生は終わらねぇ。自分で終わらせない限りは唐突に終わったりしねぇんだよ」

 

「深月ちゃん……」

 

 俺は涙ぐんだ。

 今、そんな話をしているんじゃないんだ。

 現実的にはそうかもしれないけど、犯罪歴は社会的信用や今後の人生で確実に響いてくるんだ。

 どうしよう。マジでどうしたらいいんだ。

 頭を抱えてぶつぶつ言っていると、店長らしき年配の男性が俺の席までやってくる。

 気付かれた?

 お金なさそうな子供だけでお会計できないこと気付かれた?

 

「あ、あのお皿って洗えば」

 

「はい。すぐにお皿下げさせていただきます」

 

「いや、そうじゃなくて……お金が足りなくて」

 

「はい? ああ、それなら大丈夫ですよ。申し上げ遅れましたが、お客様が当店一万人目のお客様です! つきましては一万円分までは料理は全て無料とさせていただきます」

 

「へ? 一万円分無料……?」

 

「なんだ、じゃあ、まだまだ頼めんじゃねぇか。これとこれも持って来てくれ」

 

 お金の心配がなくなった瞬間、深月ちゃんは更に料理を注文する。

 あれでも気を使って制限していたことに驚きを隠せない。

 それにしても良かったぁー……。

 ホッとしてずるずると椅子からずり落ちそうになる。

 ()()()一万人目の客になっていなかったら終わっていた。

 ……“運よく”?

 財布の中を無言でひっくり返す。

 千円札が二枚、百円玉が七枚。そして十円玉が二枚ある。

 けれど二枚あったはずの一円玉はどこを探しても一枚しか見つからなかった。

 二十二円が二十一円に。

 ――『22』は『21』に変わっていた。

 きっちりと一万円分食べきった深月ちゃんを連れて、俺は数字に怯えながら街を歩いた。

 地面の亀裂に躓きそうになったり、落ちてくる鳥のフンを()()()回避する度にあの数字が減っている気がする。

 

「あー、オレもあの水飲んでおけばなぁ。さっきのお前みたいに良いことあっただろうになぁ。おい、聞いてんのかよ、中沢! お前のせいだぞ!」

 

「悪かったよ……。あ、ねえ、今そこの屋根にとまってた鳩の数、『12』羽じゃなかった? 数え直したら『11』羽しかいないんだ。ヤバいよ。減ってる……確実に数が減ってるよ」

 

「いや、普通に一羽どっかに飛んでっただけだろ。ヤベーのはお前のテンションだよ。何で下がってんだよ。上げろよ! 運がいいこと起きてんだんだろ?」

 

 深月ちゃんはそう言って口を尖らせるが俺には分かる。

 俺はどっちかっていうとツイていない人間。運が良くなってもドデカい良いことじゃなく、小さな悪いことが減っていることで気付けるほどには不運だ。

 だから、分かる。

 これは何か、まずい。

 うまく言えないけどまずいんだ……!

 

「俺は、幸運があろうとあんな怪しげな額縁ネックレスの人たちからもらった水なんて飲みたくなかったよ……」

 

 俺がボソッとそう呟くと深月ちゃんはきょとんとした顔で俺を見つめてきた。

 

「“額縁ネックレス”ってなんだよ?」

 

「え? 俺たちに水を渡そうとしてた人たちデカい額縁を首から下げてただろ? 下げるっていうか若干浮かんでた気もするけど」

 

「……それ、オレたちに水を飲ませようとしてた奴らだよな?」

 

「だから、さっきからそう言ってるだろ。あんな異様な格好してる連中からもらったもの、身体に取り込むなんて」

 

「中沢……。オレは今、()()()()()()()()()()()自分に水を渡そうとしてた奴の格好なんて気にも留めてなかったんだよ」

 

 深月ちゃんは真面目な顔で俺にそう伝えてくれた。

 それを聞いて思い出したのは初めて見た“噂をばら撒く人型の何か”。

 ヌルオさんがあれを刺し貫くまで俺は、アレを女子生徒だと認識していた。

 ここから導き出せることは、『フクロウ幸運水』を配っている奴はウワサであるということ。

 そして、あれがウワサであるならば、俺の身に起きている幸運は……。

 すぐそばで不自然に可愛らしい声音が聞こえた。

 

『あラもウ聞いタ? 誰カら聞イた? フクロウ幸運水のその噂!』

 

 俺はその声で分かる。

 ソレが噂をばら撒く存在だと。

 急に動き出した俺に深月ちゃんが何か叫んでいるが、それを聞いている暇はない。

 

『幸運ヲもたらすデもネ。だケどモご用心。【24】の幸運尽きタなラ、不幸がモリっとこんニチは。美味なる名水。ヒトたび飲めバたちマち幸セ。鬱憤・苛立ちどコへヤら』

 

 どこだ? どこに居る?

 噂の声が聞こえるならあのヒトモドキが必ず居るはず。

 

『ソれが嫌ナら幸運水を飲ミ続けルシかなイって、工匠区の馬券売り場ジャもっぱらノ噂。もウ悲惨!

【24】の幸運を全部使い切ったトキどうナるのカはまだ検証でキテないけド……ソの水ヲ飲んダあと、姿を消しテル女ノ子が何人カいるソうヨ?』

 

 見つけた!

 向こう側の歩道で二人の少女の間に挟まれるように話している。

 

『二杯なラ二杯ブん。三杯ナら三杯ぶン。積み重ネた幸運と、同ジだケの不幸ガヤッてクる!』

 

 俺はソレが居る方へ無我夢中で駆け出した。

 思考が加速しているのか、周りの動きがひどくゆっくりに見えた。

 視界の端で何かが近付いている。赤い乗用車だ。

 驚いた顔で激しくクラクションを鳴らしている。

 なんで?

 あ、俺、今、車道に踏み出したのか。

 それに気付いた時、車道を挟んだ歩道で目や鼻すらないソレが口を開いて笑っていた。

 激しい力で思い切り、後ろに引き寄せられ、スローモーションの世界から引き戻される。

 

「お前、何やってんだよ! 死ぬ気か!」

 

「いや……そうじゃないけど。そうじゃないけど」

 

 そうなりかけたのか。

 深月ちゃんに背中を掴まれたまま、脱力して街路樹の脇で座り込んだ。

 足元にふわりと落ちた赤いどこかのスーパーのチラシが俺に告げる。

 大特価セールの日は『11』が付く日。

 瞬きする間もなく。

 大特価セールの日は『1◆』が付く日。

 歪み、変化する数字。

 大特価セールの日は『1◇』が付く日。

 残りのタイムリミットは……。

 大特価セールの日は『10』が付く日。

 ――『10』。

 

 頼みの綱の宝石は未だ俺のポケットで眠っている。

 積み重ねた幸運が、不幸に変わるまでに目覚めてくれなければ、俺は……。

 




マイナスをゼロに戻すだけで幸運判定として作用している辺りが中沢君。
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