一人の魔法少女が居た。
その子は、家族や周囲から拒絶され、まったく自分に自信が持てなくなってしまった。
自分の居場所がないと感じた果てに願ったものは、“透明な自分”。
だけど、彼女が本当に望んでいたのは、周囲の人間に自分の存在を認めてもらうことだった。
本当に透明になったせいで家族からも見えなくなった彼女は、とうとう自分の家さえ捨て去る
これが悲劇でなくと何だと言うのか。
別の居場所ができたから大丈夫? 家族やクラスメイトより大切にしてくれる人たちが居るから他の人から見えなくたって平気?
そんな訳がないだろう。
家族から認められず、学校からも排除され、本来送れたであろう青春を手放した。
この状況を彼女にとっての幸せだというのなら、それはあまりにも彼女の尊厳を軽んじている。
だって、そうだろう?
彼女は結局、依然社会の輪から追放されたままだ。
理不尽に居場所を奪われ、自信と存在意義を見失い、どうにか自分の存在を
そんな不条理は許さない。君はもっと報われるべきだ。
自分の願いと本当の想いの落差を思い知っても、絶望に
〈家族も、クラスメイトも、君の心の強さと清らかさを知って、必ず君を受け入れる。その世界は誰もが君を正しく見てくれる。そこが君の本当の居場所だよ、二葉さなさん〉
もちろん、新たな知り合った理解ある友達とも仲良くすればいい。
公園で、本屋で、たまたま入ったラーメン屋で、偶然ばったり出会ったその人たちとも絆を結べばいい。
何故なら、君はもう無色透明ではないのだから。出会う機会はいくらでもある。
大勢の人に囲まれて幸せに微笑む彼女を眺め、僕はその幸せを祝福した。
一人の魔法少女が居た。
その子は、大好きだった祖父を失い、傷つきながらも、
お金さえあれば店を守れると考えた果てに願ったものは、“大金の当たりクジ”。
しかし、実の母と祖母に当選金を丸々持ち逃げされ、残ったのは徒労感だけ。
更に苦労を背負い込み、気張って虚勢を張り続ける性格の一因となった。
これを理不尽と呼ばずに何と呼ぶのか。
明るく元気に振る舞えているから問題ない? 弱い自分を見せられる仲間ができたからもう安心?
そんな訳がないだろう。
敬愛していた祖父を失い、彼が遺したものさえ朽ちて行き、それでもなお伸ばそうとした手すら肉親によって踏み躙られて、身の丈に合わない努力を
この状況を彼女にとっての幸せだというのなら、それはあまりにも彼女の安寧を侵害している。
だって、そうだろう?
彼女は結局、依然必要以上の苦労を強いられる環境に身を置いたままだ。
弱音が吐ける場所が一つ増えたくらいでは、彼女の背負わされた苦難の重さは
そんな不条理は許さない。君はもっと報われるべきだ。
自分が叶えたものさえ横取りされて、なお憎しみや怒りに囚われなかったその魂はもっと正当に評価されるべきなのだ。
〈君の大好きな御
虚勢の要らないありのままの陽気さで周囲を照らせばいい。
苦労に圧し潰されながら無理に笑わなくても、自然と元気な姿を見せられるはずだ。
何故なら、君はもう空元気で笑顔を浮かべる必要はないのだから。君はありのままで“最強”を目指せばいい。
偽りのない満面の笑みで家業を手伝う彼女を眺め、僕はその幸せを祝福した。
二人の魔法少女が居た。
その子たちは、親の都合で無残にも生き別れになった双子の姉妹だった。
片や姉は、見栄でやらされた
育った環境の差から、せっかく出会った彼女たちはお互いを拒絶してしまう。
それでも思い悩んだ果てに願ったものは、“お互いを嫌わないこと”。
なのに、二人が安心して共に居られる場所は、日陰で暗躍する組織のみ。
固い絆で結ばれた双子の姉妹は、日の当たる場所では穏やかに笛も奏でられない。
これを無慈悲と取らずに何と取るのか。
二人の親が決めたことなのだから仕方がない? 日向でなくとも共に居られるのだから充分救いがある?
そんな訳がないだろう。
親同士の勝手な決断で血の繋がった姉妹は引き裂かれ、自由までも取り上げられて、表立って共に遊ぶことすら許されていない。
この状況を彼女たちにとっての幸せだというのなら、それはあまりにも彼女たちの意思を蔑ろにしている。
だって、そうだろう?
彼女たちは結局、依然親の所有物のように扱われ、どれだけお互いの絆を叫んでみても
そんな不条理は許さない。君らはもっと報われるべきだ。
育った環境によって、大きくズレてしまった価値観や思考の差異を理解した上で、それでも共に在りたいと切に祈ったその魂はもっと正当に評価されるべきなのだ。
〈君らの両親は離婚などせず、君ら姉妹は二人仲良く自由に暮らしている。誰に
両親に見守られながら、暖かな日差しの中で姉妹は重なる美しい音色を確かめ合えばいい。
やりたくもない幾多の稽古事も、押し付けられた大量の家事も、責め立てるような視線もない。
何故なら、君らの自由を縛られ、引き裂かれる
楽し気に笛を演奏し続ける仲良し姉妹を眺め、僕はその幸せを祝福した。
肝心なところでタイミングを逃し、失恋した魔法少女が居た。
大丈夫。君の告白は間に合った。晴れて君は想い人とカップルだ。
空回ってなんていない。
面倒見のいい君は報われるべきだ。
自分の想いを素直に表現できない、不器用な魔法少女が居た。
安心して。君は誰より素直だし、周囲はそんな君が大好きだ。
自分を嫌いになる必要なんてない。
対話に誠実な君は報われるべきだ。
気が弱く、要領が悪いせいで自信が持てない魔法少女が居た。
平気だよ。君の中には強い芯がある。それを発揮する機会に恵まれなかっただけ。
人だけじゃなく植物や、動物と触れ合ってきた君は誰に対しても和やかに接することができる。
優しく芯のある君は報われるべきだ。
善悪関係なく真実を撮って伝えているが、どこか物足りなさを感じていた魔法少女が居た。
問題ない。君が撮るその写真は誰もが心打つ真実が秘められている。
周りに流されず自分の主張を貫けるたくましさがその映像にも表れている。
どこまでも公平で
皆、皆、救われるべきだ。
丘の上に咲き誇るアツミゲシの花をレンズにして、愛しい彼女たちの見ている夢を眺めながら、僕は一人一人の幸せを祝福していく。
彼女たちの幸福だけが何より気掛かりだった。
緩やかに、痛みすら抱かぬまま、僕に融けていってほしい。
理不尽な現実に冒されないように、不条理な絶望に汚されないように。
ひたすら夢の中で幸福を甘受し続けてほしい。
それが今まで魔女にならず、魔法少女として生きてきた彼女たちが僕が与えられる贈り物。
ああ、愛している。愛している。
どうか、どうか幸せになってほしい。
すべての魔法少女にこの幸福を
……そう。だから──。
「お前だけは許さないぞ、中沢……」
顔無し手品師と組んで魔法少女の解放を阻んだこと。
あれは僕の力不足が招いた結果。魔法少女の解放ができなかったのは、ひとえに僕が弱かったから。
ゆえに咎めない。その件で怒りを向けるつもりはない。
魔法少女でもない身でこの結界に入り込み、魔法少女を目覚めさせたこと。
あれは僕の作る夢の精度の低さが招いた結果。魔法少女が目を覚ましたのは、ひとえに僕が作る幸福が脆かったから。
ゆえに咎めない。その件で文句を言うつもりはない。
現実に帰りたくないと嘆く魔法少女を無理やり絶望の世界に引き戻したこと。
何があろうと認めない。断じて許しておけない。
“後悔しても、絶望しても、それでも楽しいことがなくなる訳じゃない”……?
“辛い現実が待ってる世界で、それでも良いこともあるって思って、生きて行ってほしい”……?
ふざけるなよ。狂っているのか。
一体誰が破滅しか残されてない世界で生きていけるっていうんだ!?
良いこと? 些細な不安や悲しみで我を失い化け物に成り果てる彼女たちにそんなものがあったからと言って何になる?
無くなるんだよ。楽しさも幸せも、時と共に劣化するんだ。
辛いことや悲しいことがその楽しさを容易く凌駕し、優しい思い出を上書きしていくんだよ。
“自分を許せる日が、きっと来るから?”
“俺も一緒に頑張るから?”
今まで取り繕っていただけでも奇跡なんだよ!
もう頑張り過ぎるほどに努力してきた。充分に戦ってきたんだ。
これ以上、何をどう頑張れと言うつもりなんだ。
泣いていたじゃないか。嫌だと言っていたじゃないか。
それをお前は無理やり、夢から引きずり出したんだ!
無責任で身勝手で衝動的なだけの言葉で惑わせ、魔法少女の
未来なんて在りもしないもので釣り、希望なんて妄想を彼女へ塗り込んだ。
許せない許せない許せない許せない────絶対に許さない。
お前だけは何を置いても許してはいけない
必ず、殺してその痕跡すらも残してはならないと心に誓った。
「僕がこの手で必ず殺す……。一片だって残しておけない……」
僕の魔法で即座に融かし尽くすか。
……それは駄目だ。それでは魔法少女のための世界に不純物が混じってしまう。
もし万が一に、狂い果てた
殺した上で、結界内から排除しなければならない。
「なら、この場に呼んで……」
「その必要はありません、上条様」
顔を動かす必要はなかった。
この結界内はすべてが僕の目、僕の耳。
背後から現れた魔法少女に、座り込んだ状態で質問する。
「どうしたんだい? 君にも“不当な差別のない神浜市”という世界を与えたはずだけど」
マギウスの翼の中には、夢の中を自由に動く権利を与えた魔法少女が居た。
一人は黒江。彼女は夢の守護者を自ら買って出てくれた。
そして、もう一人が彼女。
「自分はあなたの守護者。あなたを害する者から守るためにこの場に居ります」
「僕は君の幸福も願っているんだけどね……。
敵など居ないのだから守るも何もない。
まして、魔法少女に手を汚してほしいとは欠片も思わない。
何も期待していない。何も望まない。
ただ眠っていてほしい。安らかに幸福に包まれていてほしい。
「いいよ。君がそれを望むのなら任せよう」
ただし、それが願いだというのなら、僕は否定しない。
魔法少女から何も奪いたくない。無条件で彼女たちを肯定し続けたい。
「ありがとうございます。必ず……あなたのお役に立ってみせます」
優美さを感じさせる一礼の後、彼女は結界内を移動し、この空間から去って行った。
僕の役に立つことのどこに幸せがあるのか想像もできないが、献身的に人に尽くすことで幸福を感じる魔法少女も中には居た。
彼女もまたその類だろう。
難儀なものだ。夢であればもっと自由で、安らかなものであればいいのに。
いや、それは僕のわがままか。
どんな形でも幸福を感じていてくれるのなら、それだけで充分過ぎる。
「僕は
だから、祈ろう。彼女たちの最期が幸福で満たされたものでありますように、と……。