黒髪のウマ娘と茶髪のウマ娘は目の前の男性を見上げながら顔を赤らめていた。普段の彼女たちを知っている者からしてもこのような彼女たちを見るのは初めてと言うかもしれない。
これが彼女たち……キタサンブラック…サトノダイヤモンドが一目惚れをした瞬間だった。
―――五分前―――
私とダイヤちゃんがトレセン学園に入学して数日が経ちました。そして今日の私たちはテイオーさんのトレーナーさんとマックイーンさんのトレーナーさんに会いに行くためにトレーナー室まで向かっている。
私達が憧れているウマ娘を育てた人に自分たちのトレーナーに就いて欲しいと思ったから。引き受けてくれるかは分からないけど…まずは頼んでみない事を何にも始まらないという結論に至った。だから今、私とダイヤちゃんはトレーナーさんの元に向かっている。
だけど、まだトレセン学園に来て時間が経過していない事もあって……私とダイヤちゃんは迷ってしまった。トレセン学園はとても大きい。トレーニング室なども完備されている事もあって普通の学園に比べれば圧倒的に広い。
「どうしよう…ダイヤちゃん」
「まずは誰かに聞いてみようよ」
「そ、そうだね!」
そして私達は通りがかりの男性に声を掛けて見る事にした。
「あの…少し聞いても良いですか?」
ダイヤちゃんが話し掛けると男の人は振り返った。
「良いよ、何だい?」
そして冒頭に戻る。
私とダイヤちゃんは声を発する事が出来なかった。まるで金縛りにでもあってしまっているのではないかと思ってしまうほどに動けない。
「…どうしたの?急に固まっちゃって、何か聞きたい事があったんじゃないのかな?」
目の前の男性は優しい笑みを浮かべながら私達に語り掛けていた。私は何か答えなくちゃと焦ってしまった。
「わ、わ、わたしのトレーナーになってくれませんか!??」
頭で理解するよりも早く口が動いてしまっていた。口で言って数秒が立って私は自分が口にした言葉の意味を理解する事が出来た。
「え……」
男の人は困惑しているのが伝わる。急に自分のトレーナーになってくださいと言われれば戸惑うのは当たり前。私だって急に「トレーナーにしてくれ!??」と言われたら困惑してしまう。
困惑しているのは目の前の男の人だけではなく隣のダイヤちゃんも驚いているようで口を開けたまま固まってしまっている。
「…なんでかな?僕の記憶では君と僕は今日が初対面だと思うんだけど」
「は、はい。初対面です」
「それじゃあ何で僕を?このトレセン学園は僕以外にも優秀なトレーナーは五万と居るよ」
「なんでもです!私はあなたに担当して欲しいです!!!」
自分でもこんなにグイグイと行く、自分は初めてで少し内心は戸惑ってしまう。何でか分からないけど本能がこの人にトレーナーになって欲しいと叫んでいる。
この人じゃなきゃいやだ。さっきまではテイオーさんのトレーナーさんに自分のトレーナーになって欲しいと思っていたけど…一瞬でそんな事が頭の中から飛んで行ってしまった。
「……え~…まずは落ち着こうね。君たちにとってトレーナーはこれから共に歩んでいく大切な人だよ。だからこんな風に一時の感情で決めるのは止めた方が良いんじゃないかな。色々と考えて、意見を聞いて自分を輝かせてくれる素晴らしいトレーナーと契約を結んだ方がいいんじゃないかな」
多分、このトレーナーさんは私のことをしっかりと考えて口にしていることだと思う。トレーナーさんによっては良くなるかもしれないし、悪くなるかもしれない。だからトレーナーは慎重に選ばなければならないのは私だって分かっている。
「そ、それでも私はあなたをトレーナーにしたいんです」
いつもの私ならここら辺で引き下がっていたかも。だけど今回はどうしても引き下がりたくない。トレーナーさんも私の勢いに押され気味な感じで…かなり困ったような顔を浮かべている。隣に視線を移すとそこには…今まで一度も見たことのないような顔を浮かべているダイヤちゃんがいた。
なんか頬の筋肉がまるで仕事をしていないような感じで。トレーナーさんの方を見て顔を赤らめている。こんなダイヤちゃんは初めてで一瞬驚いたけど……すぐに分かった。ダイヤちゃんも私と同じような気持ちを抱いているのだと。この感情を言葉で表すのは難しいけど…味わったことのない気持ち。
「う……じゃあ、仮ならどうかな?」
「仮ですか?」
「うん。だから本当のトレーナーさんが決まるまでの仮のトレーナーとしてなら…良いよ」
トレーナーさんはかなり悩んだようで今も苦渋の決断をした後のような顔をしている。本当はちゃんと正式なトレーナーになって欲しいですが…これ以上辺に押し過ぎたら仮のトレーナーすらやってくれなくなってしまうかもしれないですし。
「それで大丈夫です!いずれはトレーナーさんを正式なトレーナーになってもらいますから!!」
今はどんな形であってもトレーナーになって欲しい。それがたとえ『仮』だったとしても。
「まあ、納得してくれてよかったよ。それじゃあ「あの!!」」
隣から聞こえてきた大きな声に体がビクッと反応してしまった。その声の主は私の隣で静かに事を見守っていたダイヤちゃんだった。ずっと一緒にいるけどこんな風な大きな声を聞くことはなかった。
トレーナーさんも急に大きな声が聞こえてきて私と同じようにビクッとしている。
「わ、わたしもトレーナーさんの担当になりたいです…」
さっきの声とは打って変わって蚊が鳴くような声でダイヤちゃんは言った。ここまで声が出ていないダイヤちゃんも珍しいなと思って視線を隣に移すと……今にも頭から蒸気が出てしまうんじゃないかなと思ってしまうほど顔が赤かった。
「え、キミも?さすがに仮とは言っても二人も同時に担当を持つのはマズイんじゃないかな。だからきみ…」
ダイヤちゃんは目に涙を浮かべてトレーナーさんのことを見ている。
「そんな目で見られても……」
明らかにトレーナーさんは動揺をしている。確かにダイヤちゃんから上目遣いでお願いをされたら断るのはとても難しい。
「ダメですか?」
ダイヤちゃんは最後の一押しをしてトレーナーさんも観念をしたようでため息を付いた。
「………分かったよ。でも、『仮』だからね。そこだけは勘違いしないでね」
「分かってますよ……必ずトレーナーになってもらいますけど」
「はい、分かりました………」
これがキタサンブラックとサトノダイヤモンドがトレーナーと出会った日。