海軍中将も多くいれば一人ぐらい変わった人が存在する。『海軍』というのは海の平和を守るのが仕事。だから海賊という侵略者に対して命を落としてでも食い止める。それが海軍が存在する意義。だから『海軍』と『海賊』は絶対に分かり会えない平行線の上……のはず。海賊と仲が良い海兵など普通は存在しない。
だが、海軍本部中将の中に海賊から好かれている、海兵が存在する。その海兵の名はアーベル。史上最年少で海軍本部中将の座まで上り詰めた男。部下からの信頼も厚い。それだけなら普通の凄い海兵なんだが…彼は海賊から好かれやすい。海賊の中には彼であれば信頼しているという人物たちもいる。
そんな海兵は彼しか存在しない。
これはそんな海兵の物語
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「カイドウさん」
僕の目の前にいる数十倍は大きい怪物の名前はカイドウ。世界最強の生物と言って差し支えのない生物。彼に逆らえば『死』は確実。僕なんか弱い人間なんてカイドウさんが本気になれば一秒も持たない。
「なんだ?」
「何で僕はワノ国に呼ばれたんでしょうか? 海軍本部中将という立場なのであんまり四皇が治めている土地にいるのはマズイと思うんですけど」
「オレがお前をここに呼んだのは…話し相手としてだ。それに部下もお前を随分気に入ってるようだし、特にヤマトがお前を呼べとうるさくてな。それにお前を呼んでくれとねだる時だけ『パパ』と呼んでくれるからな」
いや、絶対にヤマトくんに『パパ』と呼ばれるのが嬉しいからでしょとは口が裂けても言えない。カイドウさんはこんな怖い見た目をしていても父親なんだなと思わされる。
「そうですか……」
正直な事を言うとそんな遊び感覚で御呼ばれするとかなり困ったりする。僕も一応、仕事がありますし、ここに来るためにも休暇を取れるように頭を下げている。それに海軍本部中将とまでなってくると自由な時間も少なくなっている。
「アーベル~~~~」
急に誰かが後ろから抱き着いてきた。後ろは振り返っていないがさっきの声と抱き着いて来るという行為だけで誰かは分かる。
「ヤマトくんだよね。前にも言ったけど急に抱き着くのは控えて欲しいんだよね。目の前にいる、キミの父上に首をはねられるかもしれないからさ」
カイドウさんもヤマトくんが抱き着いてきたことに関しては何にも言っていないが……僕は知っている。カイドウさんはヤマトくんのことに関してかなり気にかけているし、とても大切に想っている。そしてかなり重度の過保護。それに普通の父親であれば目の前で自分の娘が男に抱き着いているという光景は嫌なものではないのだろうか。まだ僕は父親になったこともないから分からないけど。
「い・や・だ!折角、アーベルに会えたのに抱き着かないなんて考えられない」
ヤマトくんは首を激しく横に振りながら答えた。
「いや、別に抱き着かなくても良いじゃないですか!」
「アーベルはボクのことが嫌いなの?」
「……っ……そんなはずないじゃないですか。勿論、ヤマトくんのことは好きですよ」
「そっかぁ…アーベルはボクのことが好き……ボクのことが…」
なんかヤマトくんは急に遠くを眺めながらボーっとしだしてしまった。ボクが問いかけても全く反応を返してくれない。かなり心配したが、ヤマトくんの表情はなんか昇天している時にするような幸せそうな顔を浮かべているから多分、大丈夫だろう。
そんなことを思っていると明らかに普通の人間とサイズが違う女性が姿を現した。僕の数倍はある身長で黄金のような綺麗な髪色をしている。
「…あらぁ…やっぱりここに居たわね」
「あ、お久し振りです。ブラックマリアさん」
「そんなに畏まったような口調じゃなくて良いといつも言っているけど一向に治らないわね」
いや、普通に考えてカイドウさんの部下の人たちの怒りを買うような真似は避けたい。もし、それを本人たちが良いと言ってくれたとしてもさすがにそれを鵜呑みには出来ないのが正直なところ。
「はい、さすがに砕けた口調で接するのは抵抗がありますのでこの口調で喋ることを許して頂けると嬉しいです」
「…本当に相変わらず堅苦しい物言い。お前さんを取って食おうとしているわけじゃないんだから、もっと気楽に話してくれた方が私としてはありがたいわ。だけど、お前さんがその口調が良いのなら強制はしないけどさ」
「それは良かったです。砕けた口調にするには無理がありますから」
紹介するのを忘れていましたが彼女の名前はブラックマリアさん。百獣海賊団の幹部の一人で強い人。体のサイズで言ってしまうのはどうかと自分でも思うけど……カイドウさんより身長の高い人で強くない人なんていないんじゃないだろうか。怪力で比べ物にならないだろうし。
「それはもう良いが……頭を撫でてくれないか?」
これを問われて二つ返事で『はい!』と言える人は居ないのではないか。ブラックマリアさんを見るために視線を上げると少し顔を赤らんでいるように見えた。こんな僕の身長の数倍もある人だけど…人間なんだなと感じる。
まあ、普通に自分よりも小さくて小人にも見える人に『撫でて欲しい』と言うのはかなり恥ずかしいことなんだろう。
「…いいですよ」
了承はしたものの、カイドウさんの部下の頭を撫でるという行為はカイドウさんの怒りを買う事ではないかと思ってカイドウさんを見ると……笑っていた。笑っていたと言ってもいつものように『ウォロロロ』と笑っているわけではなく小さな笑顔を浮かべている感じだ。
まるで我が子の成長を見守っているような印象を抱かせる。カイドウさんにとって部下は皆、子供なのかもしれない。
そしてブラックマリアさんは僕を手に乗せて頭の撫でられる位置にまで送ってもらった。そしてどう考えても小さい人間の手で優しく髪を頭を撫でる。こんなことの何が良いのだろうと考えながらも僕は彼女からストップが掛かるまで撫で続けた。
アーベルはブラックマリアの頭の上に居たために気付かなかったが彼女の表情はカイドウであっても見たことのないほど……にやけていた。表情筋が仕事をしていないのが誰でも分かるほどに。