【美少女】なんか知らんのだが部屋にウマ耳ウマ尻尾の美少女が現れたんやが【降臨】   作:カフェイン中毒

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スマンな、今回は掲示板ないんや


宝塚記念の青薔薇

 宝塚記念、栄えあるG1レースには様々な人の想いが渦巻いている。特に出場する競走馬やその馬主にとっては夢のレースなのだ。G1に出場するということはそれだけの実力を備えた競走馬であるということは言うに及ばないが、宝塚記念は人気投票での出走になっている。それはつまり、実力だけではなくファンからも熱い支持を持っていることを意味していた。

 

 そんな、色々な人間の思惑が交差する晴れ舞台に、ウマ娘が出走する。当然ながら日本の競馬を取り仕切るJHAとしても全会一致の決定ではない。そもそもがウマ娘自体の謎もあり懐疑的な声も多いのだ。彼女らが名馬の魂を継いでいるということ自体を疑問視する声もある、がそれはJHAの幹部陣、特に花田が否定をしている。さらには直接ウマ娘と触れ合った職員なども口をそろえて彼女らは名馬の生まれ変わりだと主張している。

 

 そもそもがインパクトが強烈すぎた。ウマ娘全員がこの世の物とは思えないほど顔が整っており、それがアイドル顔負けの練度で歌う動画が拡散されたことが始まりだった。そして畳みかけるようにレースの動画が投稿されたのだ。ただの徒競走ではなく、2000mを時速60㎞で疾走するウマ娘のレースは彼女らの存在を強烈に世間に刻み付けた。

 

 さらにその大本である代表の男は若くして大富豪とも言うべきやり手の投資家、相続した莫大な土地と潤沢な資金にものを言わせてウマ娘専用のレース場から始まり坂路からウッドチップコースまで一つのトレーニングセンターともいえるような設備を自前で揃えてしまった。JHAは往年の名馬の生まれ変わりというドラマ性を保有するウマ娘をどうするか相当悩みに悩んで提携という形で落ち着いた。

 

 「では、本日はよろしくお願いします。本当によろしいんですか?」

 

 「ええ、大丈夫です。選出された18頭の馬主さんからも許可を貰っています。むしろ乗り気でしたよ。「今の競馬が昔の競馬よりどれほど進めたかを示せる」とね」

 

 「……負けませんよ、うちのウマ娘は」

 

 「はは、馬主さん方も同じことを言っています。それで…彼女、ライスシャワーさんはどこに?」

 

 「控室にいるハズです。会いに行きますか?かなり驚かれるとは思いますが」

 

 「ええ、是非とも」

 

 宝塚記念の当日、事故により補修が必要となってしまった阪神競馬場に代わり、京都競馬場にて行われることになったそれの打ち合わせをしていた男と花田は話を詰め終えて席を立った。事務室の扉を開けてすでに客がいっぱいの京都競馬場の関係者専用通路の中を歩いていく。

 

 今回、ウマ娘側の代表として選ばれたのはライスシャワー、斗馬元騎手と邂逅したことにより前の自分の夢を継ぐと宣言した彼女は宝塚記念に出走することが可能になったと男が告げた瞬間誰よりも出走を希望し、鬼気迫る走りでその権利を勝ち取ったのだ。今回はミスティストリームの移動がないので大多数のウマ娘は男の地元に残ってはいるがついてきたウマ娘ももちろんいる。それはライスシャワーの宝塚記念のためのトレーニングの相手をしたウマ娘たちだ。

 

 「ライス、入るぞ」

 

 男が控室の扉を軽くノックして声を掛ける。中からライスシャワーのうん、という声を確認してドアを開け、その中に居たライスシャワーを見て花田は目をむいた。何だ、これはと。本当に同じウマ娘なのかとすら思った。限界ギリギリ、いやそれ以上に引き絞られた体に大きく深い呼吸の音、触れれば切れそうなほどに鋭い瞳。花田が模擬レースを見に行った時に見せていた気弱で優しい微笑みを浮かべていた女の子とはとても思えない姿だった。

 

 彼女は二人が入ってきたのを見て椅子から立ち上がり、ゆっくりとこちらに歩いてくる。勝負服に身を包んだ彼女の腰元から軽い金属音、花田が眉を上げたのを見たのかライスシャワーはくるりと向きを変えて背中を向けると腰元を指さした。腰の大きなリボンの中央に馬用の蹄鉄が2本、外れないように念入りに縫い付けられていた。

 

 「それは…」

 

 「うん、私の…ライスシャワー号が最後につけていた蹄鉄、です。一緒に走りたくて…お願いしてつけてもらいました」

 

 「そうか、そうだよな…君は、いやすまない。私の立場からは君に勝てとは言えません。ですが、悔いなく走ってくださいね」

 

 「はい、今日はありがとうございます。ライス、頑張るね」

 

 花田は目の前の少女が放つ豪圧ともいえる威圧感に半ば冷や汗をかきながら激励の言葉を残して部屋を後にする。波乱の予感を頭の中に押しやり、それでもなおよいレースになるだろうという期待感に胸を膨らますのだった。

 

 

 

 『今年もあなたの、そして私の夢が走ります。本日は快晴に恵まれました京都競馬場より宝塚記念、出走馬の紹介をさせていただきます。まずは1番人気ゴングドラム、鞍上は豊騎武』

 

 「よし、ライスいくぞ、マックイーン、ブルボン、マヤ、スズカ、スぺ。ちょっと待っててくれよ」

 

 パドックに呼ばれたライスシャワーと一緒に回るために男は控室から出る。いつもより言葉少なく、標的と定めた競走馬…豊騎が騎乗するゴングドラムを睨みつけるという生ぬるい表現では済ませないほどの熱い視線を注ぐライスシャワーと一緒にパドックに出る。

 

 『最後、本日特別に競走馬と一緒に出走するウマ娘のライスシャワーになります。こちらから見てもゾクゾクするほど気合が乗っているのがよくわかります』

 

 姿勢よく歩くライスシャワーを見た観客はゴクリと息をのんだ。本当に、走るのか何ていう問題ではなくなんだあれはという未知のものを見る視線。かつての鬼であったライスシャワー号と同じ…極限までそぎ落とした体に、鬼が宿る、そう称されてしかるべきだろう。可愛い女の子が走るという話題だけで集まった観客も、元のライスシャワー号のファンも、そして出走する競走馬に夢を託しに来たファンたちも一様に感じる、強さがそこにはあった。

 

 いつもならウマ娘を見る競走馬たちも今回ばかりはライスシャワーを見もしない。異様と言ってもいいパドックが終わり、ゲートに入る競走馬たち、そして最後に増設されたゲートにライスシャワーが静かに収まる。

 

 「ライスさん、落ち着かれているようで何よりですわ」

 

 「はい、彼女の全力、フルパフォーマンスを発揮できると推定します。私の菊花賞を阻んだあの走りで」

 

 「そうだね。正直幾度も止めようかと思ったけどライスの意思には勝てなかったから、な。あとは無事に帰ってきてくれれば」

 

 それでいい、という言葉を飲み込んで男は自分と同じ関係者席に座る斗馬に目を向ける。彼は京都競馬場にやってきてから一言も発することなくライスシャワーを見つめており、ライスシャワーの「行ってきます」という挨拶になにかを言おうとして言えず、という様子で見送っていた。きっと、思うことは山ほどあるのだろう。

 

 何の因果か阪神競馬場ではなく嘗てのライスシャワー号を予後不良に追い込んだ京都競馬場での宝塚記念、そしてそこを走るのは同じ魂を持つウマ娘のライスシャワー。偶然であってもそこに何かを感じたくなるのが人間というものだろう。実況のゲートイン完了の合図にシンと会場が静かになる。

 

 ガタン!という音を立ててゲートが開かれる。競走馬たちが一斉に飛び出しライスシャワーもほぼ同時に疾走を開始する。大外固定の馬群の中に入らないようにするため、内に行くことは許されない。流石はG1レースに出走する競走馬たちは地方のダートで行ったレースとは違い、速い。ライスシャワーが付けた位置は大外の6番手、豊騎が乗るゴングドラムは4番手の内に入っている。

 

 「やっぱり、ライスちゃんあのお馬さんについてくことにしたんですね」

 

 「ええ、出走馬を見たトレーナーさんの判断ね。それにあの人が上にいるんだから」

 

 「ライスちゃん、頑張ってたもんね。マヤ、頑張って応援するよ!」

 

 スペシャルウィークとサイレンススズカ、マヤノトップガンのそう分析する声。そう、ゴングドラムは今年のダービー馬だ。さらに騎乗するのは伝説のスーパージョッキーである豊騎武。生半可な実力ではかなわない組み合わせに早々にライスシャワーは狙いを絞ったのである。初めて披露されるウマ娘の先行策、競走馬相手に通用するかは未知数だが、勝利する可能性に懸けることにした。

 

 『さあハナを行くのは3番人気のフェンネルリーヴ、続いてブライトモーニング、1馬身離れてアンギュレーズ、そしてゴングドラム。その真横につけるように大外ライスシャワーが付いていきます。1000mを通過しました』

 

 2コーナーを危なげなく回った競走馬とライスシャワー、そしてその目の前にあるのはいくつもの夢を奪ってきた心臓破りの淀の坂だ。斗馬がグッと唇を噛んで拳に力を入れる。かつての相棒が散った坂に今、相棒の生まれ変わった少女が再び挑んでいる。その心中は穏やかではないだろう。それでもやめろとは言えない。代わりに出るのは

 

 「いけっ…!ライスシャワー…!」

 

 そう絞り出すように言葉をこぼす。すると会場のあちこちから

 

 「いけっ!」「のぼれぇー!」「ライスシャワー!いっけーーー!」「魅せてくれよ!ヒーロー!」「ライスシャワー!」「負けるな~~!」「ぶっ飛ばせ!」

 

 嘗てのライスシャワーのファンだった観客たちからも、声援が飛んだ。その声を皮切りに他の競走馬のファンたちが自分の夢を託した馬と騎手へ応援の言葉を叫ぶ。会場がかつてないほどに白熱する。レースのひりつく緊張感と高揚感が会場を激しく包み込んでいく。

 

 『ライスシャワー上がってくる!淀の坂を駆けあがっています!あの日の続きが今ここにあります!応えるようにゴングドラムに鞭が入った!』

 

 ライスシャワーに声援が届いたかは分からない、が彼女は淀の坂に対して減速することなく、真正面から突っ込んで駆け上がる。減速どころか上り坂で加速するという常軌を逸した走りがじりじりと横並びだったゴングドラムの前へ出ていく。豊騎はその姿を見た瞬間、背骨に氷を差し込まれたような感覚に陥った。まずい、このままいけば負ける、引き離されれば終わりだ、と。近代での上り坂を下った先、つまりは下り坂でのスパートではなく上り坂のスパートを強制される。鞭を入れない選択肢はなかった。

 

 『ライスシャワー!3コーナーを超えました!順番変わりまして1番手フェンネルリーヴ、そしてその後ろすぐに並ぶようにゴングドラムとライスシャワー!』

 

 観客はここで気づいた。おかしいと。どうして一番内にいるゴングドラムに外ラチギリギリ、つまり通常よりも長い距離を走るライスシャワーが併走しているのか、距離は外の方が明らかに長い、それはつまり…ライスシャワーがこの競走馬たちよりもハイペースで走っていることを意味している。どこに、そんなスタミナを持っていたのか。

 

 そう、これが男の見出した勝ち筋。ライスシャワーはどうしたってステイヤーだ。中距離よりも長距離で輝く。だが今回はそれが生きた。宝塚記念の2200m、外ラチギリギリを走れば距離はそれ以上に伸びる、男は逆にそれを利用した。ライスシャワーの規格外のスタミナがあれば、彼女にとって少し短い2200でも伸ばすことが出来る。短距離向けの瞬発力による加速を苦手とするライスシャワーへの必勝の策。それは加速できる距離を延ばすこと。外ラチギリギリを走ることで距離を伸ばし、加速分の距離を稼いでしまえばいいというぶっ飛んだ発想だ。

 

 もちろん距離にすれば少しの差、だがその少しがライスシャワーの加速を許している。そして上り坂からの下り坂をさらに加速して駆け降りるライスシャワー、ここで彼女の最高速を出す。命知らずの決意の直滑降に、悲劇を知るファンから悲鳴が上がった。

 

 『ライスシャワー上がる!ライスシャワー上がる!フェンネルリーヴを抜いた!だがゴングドラムも並んだ!どっちだ!?最後の直線に入ります!』

 

 実況にも熱が入る。最後の直線、400mという少し長い距離。他の競走馬も鞭が入り、スパートをかける。ライスシャワーとゴングドラムは並んだまま。男は椅子から立ち上がり、手をメガホンのようにして叫ぶ。

 

 「「勝てっ!ライスシャワー!!」」

 

 その声は、同じく立ち上がった斗馬と重なった。そして、声が届いたのか、届いてないのか…芝を抉らせてライスシャワーが最後の加速を開始した。

 

 「…入りましたわね」

 

 「はい、領域(ゾーン)です」

 

 訳知り顔でそう会話を交わすウマ娘たちに男は立ち上がったまま言葉の意味を思い出す。領域(ゾーン)、ウマ娘の限界のさらに先に到達した者にのみ許される豪脚。ダートレースにおいてスマートファルコンが見せたものと同質の現象。つまり、限界以上で行われる体が壊れるかゴールをするのかのチキンレースが始まったのだ。

 

 『ライスシャワーきた!ライスシャワーがきた!ゴングドラム届かないか!?』

 

 じりじりと、ほんの少しずつではあれどゴングドラムと豊騎の先を行く。限界の最高速、さらにその先に行くライスシャワーを見て吠えたのはゴングドラムだった。もっと先へと進む乗騎を奮い立たせる鞭の音、負けじと加速するゴングドラム。髪を暴れさせ、瞳を青く光らせながら疾駆するライスシャワーとほぼ横並びでゴール板を駆け抜ける。そして、徐々に減速して、止まった。とりあえずの無事に男は魂が抜けるように椅子に倒れ込んだ。

 

 『写真判定を行います。暫くお待ちください』

 

 男はその言葉を聞かずにもう一度立ち上がると厩務員たちに紛れてコースに走り寄る。汗だくのライスシャワーに駆け寄り、無事かどうかを確かめる。

 

 「あ、お兄様…えへへ、ライス…帰ってこれたよ…!」

 

 「…!ああ!お帰りライスシャワー!よく、頑張ったな」

 

 ぽすん、と力が抜けるように男に倒れてくるライスシャワーを受け止めて、掲示板を見る。確定の文字に19番、ハナ差。ライスシャワーの勝利だった。ゴングドラムに乗った豊騎が近づいてくる。

 

 「…やられたよ、ライスシャワー。今回は君の勝ちだ」

 

 ヒィン、とゴングドラムが鳴いた。お前、強いなとでもいうかのように。そして、遅れて走り寄ってくる音。斗馬が、我慢しきれずにコースの中に入ってきたらしい。

 

 「斗馬さん、ライスね、勝ったよ」

 

 「ああ、ああ…!おめでとうライスシャワー…ありがとう」

 

 観客の声援が、祝福のエールとして降り注いでいた。

 




 お待たせしました。最新話ですごめんなさい。掲示板ないのはお許しください。いやまあ多分掲示板あった方がいいとは思うんですけどどうしても全部表現したくなったのでこうなりました。

 次回はこのお話の直後から掲示板でスタートとなります。ウイニングライブはなんだろなー。やっぱりこういうお話書きたくて書いてますけど直接描写へったくそですねえ…

 ではでは次回にお会いしましょう。感想評価よろしくお願いします。

K2編少し続けていい?

  • ええで
  • あかん
  • 掲示板やれ

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