【美少女】なんか知らんのだが部屋にウマ耳ウマ尻尾の美少女が現れたんやが【降臨】   作:カフェイン中毒

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Kの依頼

 とある日の朝のことだった。ウマ娘たちの朝練の指導を終えた男は決裁の必要な書類を片付けてしまうために執務室にこもっていた。今頃ウマ娘たちはみんな揃って朝食にいそしんでいるだろう、ちなみに男もお盆の上で湯気をあげるコーヒーに様々な具が挟み込まれたサンドイッチをもって朝食を取りながら仕事に打ち込んでいるところだ。

 

 そんな男の執務室にある電話が盛大になり始めた。開けて置いた窓から男を見ていたミスティストリームが耳を撥ねさせて驚いている。男は馬用クッキーをミスティストリームに与えてから電話を取る。こんな早い時間に連絡が来るとはなかなか珍しい。

 

 「はいもしもし、○○です」

 

 『○○さんか?早朝に済まない、一人だ』

 

 「おお、K先生ですか。いえいえ、貴方から直接連絡が来たということはもしや……ウマ娘の誰かに問題が?」

 

 電話の相手は神代一人、ドクターKと呼ばれる神域の医師である。ひょんなことからウマ娘のかかりつけ医としてURAに協力してもらっているのだが、彼から連絡が来ることは珍しい、特に健康診断を終えた今となっては滅多にないことだ。何せ健康診断の結果はオールグリーン、つまり誰も病気やけがをしていなかったということなのだから。男が見落としていた何かがあるのかと若干身構えるが、ドクターKが発した言葉は男の予想外のものだった。

 

 『いや、そうではないのだが……貴方に頼みたいことがある。俺の患者の治療を手伝ってほしい』

 

 「……詳しく聞かせてください」

 

 男は顔を引き締めた。ウマ娘の誰かに問題がなかったというのは喜ばしいことだが、名医中の名医であるドクターKその人からの協力要請である、それも医療方面に関してはほぼど素人である自分に対して。ドクターKが話す事情では、脊椎損傷の患者がおり、手術を受け治療をしたのはいいものの、一時期歩けなかったことがPTSDになりリハビリを拒絶しているとのこと。年齢は18歳の女性、運よく運動能力が残る形だったらしい。

 

 『あなた方はホースセラピーを行っていると聞いている。もう一度、彼女に自分の足で立つ喜びを思い出させてやりたいのだ』

 

 「なるほど、それに関しては構いませんが……なぜ私たちに?あなたなら他の名医ともつながりがあるでしょう」

 

 『医療方面で考えればそうだ。だが……走る、歩くという行為で貴方方以上のプロを俺は知らない』

 

 「そこまで仰っていただけるとは責任重大ですね。分かりました、受け入れましょう!」

 

 『感謝する!日程はそちらに合わせる、付き添いは一也か俺が担当しよう。どこかで時間を取れないだろうか?直接会って資料を見せながら説明したい」

 

 「いえいえ、いつもお世話になってるわけですから。今日ならフリーですのでそちらの空いてる時間にお越しください」

 

 『なら一也を往診の後に向かわせる。実は主治医は彼だ、俺はサポートしてるにすぎん』

 

 「分かりました、お待ちしております」

 

 ドクターKの願いとは、歩行不能の患者に対しホースセラピーをしてほしいとのことだった。男としても、懇意にしている医師からのたっての願いとあれば無碍にするつもりもなく、受け入れることに否はない。ただ、ドクターKが協力を求めるほどの患者ということは相当深刻なのだろう。触れ合う馬については、一番信頼できる彼女にお願いするべきだ、といつの間にか1か月前に生まれたばかりのイグナイトドラムも窓から顔をのぞかせてるのを見て、クスリと笑う。

 

 「ミスティ、協力してくれるかい?」

 

 もちろん、とでもいうように嘶くミスティストリームを男は、優しく撫でてすかすのだった。ありがとうという男の言葉を聞いたミスティストリームは、ヒィンと短く鳴いて返事をする。それにつられたイグナイトドラムも鳴いて、男は破顔するのだった。 

 

 

 

 

 

 「すいません、今日はよろしくお願いします」

 

 「はい、お待ちしていました。結城紗枝さんですね?本日からよろしくお願いします。URAで会長を勤めている○○です」

 

 「ご協力感謝します、○○さん。快く受け入れて頂いて、俺もK先生もなんとお礼を言えばいいのか……」

 

 「気にしない。一也くん、URAは君たちに助けられてるんだ。なら、俺たちも君たちを助けるのは当たり前の話だ。そうだろ?」

 

 男と一也は年が近く、割とすぐに意気投合することができている。さて、と一也と握手をした男が患者である結城紗枝に向き直る。車いすに乗ったまま伏し目で地面を見ている。事前に一也とカルテを見ながら聞いた話だと、もう一度立つことができてもそれをまた失うかもしれないということに恐怖を感じており、立つという行為に及び腰になっている、という話だった。

 

 車いすで芝の上に入るのは不可能なので、今は硬いコンクリートの地面の上で触れ合う馬を待っている状態。乗って歩くのは当分先、とりあえず今日は触れ合うだけ触れ合ってもらい、楽しんでくれればいい。そうしていると、蹄鉄が地面を叩く音が聞こえてきて、それに重なる様に小さな足音も聞こえてくる。ミスティストリームだ、彼女は男を見つけると小気味いい蹄鉄の音を響かせて男にすり寄り、甘えだす。そしてもう一頭、母親についてきたイグナイトドラムが一也に挨拶とばかりに指を吸いだした。

 

 「では、結城さん。本日から貴方のパートナーになりますミスティストリームと、イグナイトドラムです。名前くらいは聞いたことあるかもしれませんが、気にせず接してあげてください」

 

 「は、はい。ニュースで見たことあります」

 

 「有名人ならぬ有名馬ですからね、しかし……本当にいいんですか?繫殖牝馬として現役と聞いていますけど」

 

 「いいんですよ。何せ人が大好きですからね」

 

 ミスティストリームは現在競馬界において至宝とも言うべき扱いを受けている。何せ日本で初めてクラシック3冠と凱旋門賞1着を成し遂げたサラブレッドだ。値段なんて青天井、言い値の段階に入っている。結城はそれについても知っている、実は彼女はウマ娘の隠れファンだ。グッズを買ったりはしたことなかったが、事故にあう前は良く配信を見ていたし1度だけレースを現地で見たこともある。そのウマ娘に育てられた馬に触れ合える、沈んでいた心に、少しだけ潤いが戻ってくる感覚を覚えた。

 

 ミスティストリームはそんな結城の様子を観察しており、鼻でイグナイトドラムをそっと押した。イグナイトドラムは母に促されてまだまだ幼く拙い歩き方で車椅子の結城の前まで歩いて、その膝にそっと頭を乗せた。結城はどうしていいか分からず、一也と男を交互にみる。撫でてあげてください、と男が言うとそっと流星をなぞる様にイグナイトドラムを撫でた。すっと目を細める幼駒にいつの間にか自分の顔が緩んでいたことに結城は気づく。

 

 「かわいいでしょう?」

 

 「はい……っ!?ウマ娘の……」

 

 「あ、バレちゃいました~。アストンマーチャンです。どうぞマーちゃんって呼んでください」

 

 結城に声をかけたのは、後ろからこそこそとやってきていたウマ娘、アストンマーチャン。斜めに被った王冠を揺らして車椅子の前にしゃがみこんで顔を合わせ、よろしくお願いします、と挨拶をした。唐突なウマ娘の登場に目を白黒させる結城にお近づきの印です、と自作のマーちゃん人形をプレゼントするマイペースっぷりを見せた。

 

 あとは任せようか、マーちゃん。と男が言うとアストンマーチャンは分かりました。と返事をする。一也と男は異性で年も離れているので少々距離を縮めるのには難がある。そこで男が白羽の矢を立てたのがアストンマーチャンだ。彼女は人の内面に入り込む、というか仲良くなるのが非常に上手い。良い友達になることだろう。

 

 

 男が一也が去ったあと、結城とアストンマーチャンの間には、沈黙が流れていた。しいて言うならイグナイトドラムがアストンマーチャンの指を吸う音と、ミスティストリームの撫でろアピールにさらされた結城の手がミスティストリームを撫でる音が寂しく聞こえるほどに、沈黙だった。結城は自分をおっとりとみつめるアストンマーチャンにどう声をかけていいか分からなかった。

 

 「結城さんは、やりたい事とか、ありますか~?」

 

 「へっ!?いや、あの……なにも……なくて……」

 

 「なにも、ですか?」

 

 「はい……」

 

 結城は、今まで受験のために勉強をしてきた、漫然とではあるがそれが将来のためだという両親の言いつけを守っていた。だが、事故ですべては無に帰した。受験日当日の事故が今までの努力と、その先の未来を全て奪い去った。何もない普通の女子高生から、それ以上を奪っていったのだ。

 

 「実はマーちゃんはですね、マスコットになりたいのです。今のライバルは、ミスティさん」

 

 「マス、コット?」

 

 「そうなのです。みんなに覚えてもらって、みんなに愛されていたい。貴方にも、もちろんなのです」

 

 マスコット、と結城はぽかんとオウム返しする。指を一本立てて説明するアストンマーチャンは大まじめで、自分にはない輝きのようなものが見えてしまって、結城は瞳を伏せて目を逸らした。俯いた視線の先にあるのは、わずかにしか動かない自分の足。リハビリ次第で回復の余地はある、と一也から説明を受けているが……希望を持ちたくなくて、リハビリをしたいとは思わなかった。

 

 「実はですね、マーちゃん……結城さんがやってくるってトレーナーさんに教わった時、一番に立候補しました」

 

 「え?」

 

 「写真を見た時に、びびっ。ときたのです。マーちゃん、結城さんをお気に入りにしました。仲良くなりたいのです」

 

 「わ、私と……!?」

 

 「はい。この人はきっと、私を覚えていてくれる、という何かを受信しました。理屈ではありません」

 

 ぽかん、としてしまう結城。直観、そんなものでわざわざ……?と微笑んだアストンマーチャンは懐から1枚のチケットを取り出す。レジェンドレース『桜花賞』と書かれたそれを両手で結城に差し出したアストンマーチャンは続けて

 

 「見に来てください。マーちゃん、頑張りますので。結城さんの希望に、マーちゃんがなります」

 

 燃える瞳で自分を見つめるアストンマーチャンが眩しくて、結城はまた……目を逸らした。 

 

 

 

 「すごい……」

 

 「何度かウマ娘のレースは見ているけど……今回はひとしおですね」

 

 「そりゃあ、そうですよ。ウマ娘はウオッカ、ダイワスカーレット、アストンマーチャンの3人立てですからね」

 

 男と結城、そして一也の姿は阪神競馬場にあった。結城にとってはとても眩しかったアストンマーチャンとの邂逅から1週間、春の陽気が眩しい頃にレジェンドレース「桜花賞」が行われる。結城はその間に、アストンマーチャンのことを調べていた。現役中に死亡してしまった悲劇の競走馬、そんな風に書かれた記事が多かった。

 

 目線の先にあるゲートの中では既に最内にダイワスカーレット、その3つ隣にウオッカ、大外から4番目にアストンマーチャンが入っており、彼女らに挑む競走馬たちも意気軒高とゲート内に収まる。それだけで結城は、謎の胸の高鳴りを感じていた。ウマ娘だけのレースでは感じないそれが不思議だった。

 

 ゲートが開き、凄まじいスタートダッシュを切ってウマ娘と競走馬が飛び出した。そしてその瞬間から、結城の意識は吹っ飛ぶ。熱にすべてが飲まれた。そして、気づいた時にはもう、勝敗が決していたのだ。ぱちぱち、と手を叩く男と一也、視線の先には赤い騎士服のようなドレスを着たアストンマーチャンが観客席に手を振っていた。倒れ込むウオッカと膝に手を突くダイワスカーレットが悔しげな顔を彼女に向けていた。

 

 「かっ……た……!?」

 

 「勝ちましたね。アストンマーチャン、1馬身差で一着。凄いな、自己ベスト超えちゃったぞ……」

 

 「改めてみると、速いなんてもんじゃないですね……消耗も激しい」

 

 ぽかん、とする結城に男が慣れたような、それでいてひどく驚いたような声を返した。レコード勝ち、とポロリとこぼした声にウオッカとダイワスカーレットが前後からアストンマーチャンを挟むように抱き着いた。アストンマーチャンはそのハグを受け止めた後に、するっと抜け出してふらふらとこちらに向かってくる。結城は自分を見るその燃え盛る目から目が離せなくなった。

 

 ふら、とアストンマーチャンが大きくふらついたところであっ!と声がでて、思わず足に力が入ってしまった。とっさに立ち上がろうとした自分に驚く、歩くことや立つことなんてとっくの昔に諦めるつもりだったのに、と。代わりに飛び出した男がアストンマーチャンを受け止めて、その体を支えながらラチまで歩いてくる。汗と土にまみれたその姿は、結城にとって何よりも美しく見えた。

 

 「見て、くれましたか?」

 

 「は、はいっ……!」

 

 結城の返事に、アストンマーチャンは満足気に目を細めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3か月後のURAに、車椅子の事務員が一人、新しく入社することになった。その人間と一番仲がいいウマ娘は、常に自分を模した人形を携えていたという。




 はい、何を書きたかったか自分でも分からず迷走してる気がする話でした。アストンマーチャンと病院関係の話は書きたかったのですが、私が書くとどうしても死ぬほど重くなってしまうので、こんな形になりましたね。

 ちなみにこの後、車椅子の事務員さんは奇跡的な回復を遂げます。そう!Kの一族のサポートとURAのホースセラピーがあればね!(無茶振り

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