トゥインクル・シリーズ――スターウマ娘を目指すウマ娘達にとっての大きな舞台であり、多くのファンを魅了する一大レースシリーズ。
デュエルモンスターズ――今や世界経済の中心となったカードゲーム。最先端のネットワークシステムを持つ都市デンシティではVR空間LINK VRAINSが発展を続け、そのメインコンテンツを担っている。
この2つに直接的な繋がりはなかった。
レースとカードゲーム……競合相手でもなければ共通点もない二大エンターテインメントだったが――
「――提言ッ!
トレセン学園理事長の名においてここに――
新レース、URAファイナルズの開催を宣言するッ!!」
次世代のウマ娘を教育する日本ウマ娘トレーニングセンター学園にて、新レースが発表された。
その出走条件は宝塚記念、有馬記念と言ったG1レース同様、ファン投票である。
強いだけ、早いだけのウマ娘ではなく、多くの人々に愛されたウマ娘だけが輝けるレースなのだと言う。
『――故に』
――会場に集まった多くのトレーナー達の困惑と驚きが歓喜に変わる中、突然会場内に会見席の理事長以外の声がスピーカーから響いた。
『今レース開催に伴い、レースシリーズとは異なるファン獲得の機会を用意した』
その声に多くのトレーナー達は困惑した。
しかし、少数の若いトレーナー達は目を見開いていた。
「社長……!?」
「まさか、あのデュエルモンスターズの――」
『それが、デュエル・スターズ杯!!
ウマ娘は最速、最強のデュエリストとなって栄光を掴むのだ!!』
「――っ!?」
ソリットビジョンにより会場にデュエル・スターズ杯のタイトル映像が流れだし、その終了までの十数秒間、静寂が続いた。
「……ふざけるな!」
「何がデュエルだ!」
しかし、トレーナー達の多くはデュエル・スター杯の開催に非難の声を浴びせた。
ウマ娘達はレースで雌雄を決し、多くの人々に愛されてきた。
それが突然、参加資格をカードゲームによって左右されるかもしれないとなっては黙っていられる筈もなかった。
「せ、静しゅ――」
『――黙れ!!』
理事長の制止の声、それすら切り裂く様な一括。
『デュエルの世界を甘く見る愚か者共に用などないわっ!!
これまでのトレーニング時間に追加して、大会開催までの1ヵ月間、最低2時間のデュエルトレーニング!! これが出場ウマ娘への絶対条件だ!!
走る事から逃げた者や、デュエルを蔑ろにする者に
突き付けられた条件に多くのトレーナーはそんな無茶なと心の中で思った。
ウマ娘のレーストレーニングはトレーナーやウマ娘によって異なるが、誰も手を抜かないしウマ娘達の多くが必死に、それこそ限界まで努めている。
この声の主はそのメニューを一切変更せずに別のトレーニングを追加しろと言っているのだ。
『秋川理事長、こちらからは以上だ。詳細は後日発表する』
「……りょ、了解ッ!」
唖然としながら、声の主に返事を返す理事長。
デュエル・スター杯同様、URAファイナルズの詳細も後日正式に公表するとして会見は終了したのだった。
――それから2年後。
「……此処が、トレセン学園か」
(事前に調べていたが、広いな……)
KCと書かれたロゴのバスから、黒い学生服に青い髪の青年が降りて来た。
彼の名前は藤木遊作。
LINK VRAINSやそこから繋がるネットワークの世界を幾度も救った英雄――プレイメーカーでもある。
しかし、その事を知っているのは極僅かな人間だけであり、彼自身も己の正体を隠している。
「……草薙さんの従兄……
そんな彼がトレセン学園にやって来たのは数少ない戦友、草薙翔一の願いだった。
「……『2階にあるトレーナー室で待っています』。
学園の中にトレーナー専用の部屋まであるのか」
腕に付けた端末――旧式モデルと呼ばれるカード収納タイプのデュエルディスクから目を放した彼は校舎へと向かって歩き出した。
「……男子?」
「見た事ない制服……」
「見学?」
「腕のアレって、デュエルディスクじゃない?」
授業終わりの学生であるウマ娘達は皆、通り過ぎる遊作を見て物珍しそうにしている。
(デンシティではウマ娘は珍しかったが、此処では人間の俺が珍しいのか……いや、女子校に男子がいるのが珍しいんだろう)
途中で見つけた職員にトレーナー室の場所を訪ねて数分、目的の部屋に辿り着いた遊作が扉を開けると――
「――待っていたよぉ! 遊作君!」
「……どうも」
思っていたよりもテンションの高い歓迎に、少し間を空けて返事をした。
「キミがゆーさくクン?」
「ああ……」
「わたし、ハルウララ! よろしくね、ゆーさくコーチ!」
「歓迎ッ! トレセン学園にようこそ、遊作コーチ!
期待ッ! 我が学園の希望、ハルウララにデュエルの星の栄光を!」
「はい」
印獏トレーナー、ハルウララとの顔合わせを終えた遊作は理事長室に共に向かい、デュエル・スター杯出場ウマ娘ハルウララの専属コーチとして最終手続きを終えた。
『……これで16人。全ての専属コーチの手続きは終了か』
机の上には、会見の時に怒号を轟かせた声の主がパソコン端末の越しに控えていた。
『藤木遊作と秋川理事長の両名に不足がなければ、俺は退席させて貰う』
「最後に、ひとつ聞いても良いか?」
表情も声色も変えずに、遊作は声の主に質問を投げかけた。
「既にハルウララ、彼女がデュエル・スター杯で使用できるカードリストは確認しています。だが、去年の出場ウマ娘達のリストと比べて明らかにデッキパワーが低下していると感じました。何か理由はあるんですか?」
遊作の質問に秋川理事長は驚き、パソコンの主は少しだけ声に笑みを含めて返した。
『ほぅ……なるほど、ファン獲得の為に腕利きの学生に泣きついたか、印獏トレーナー?』
「あ、いや、それは……」
『俺の手元の資料によると、ハルウララを第一希望に指名したコーチはそいつただ一人……バレないとでも思ったか?』
印獏トレーナーは目に見えて冷や汗をかいており、表情にも焦りが浮かんでいる。
『まぁいい……藤木遊作。その質問の答えは簡単だ。
デュエル・スター杯出場ウマ娘。彼女達が使用するカードは事前に運営委員会と学園で調査を行い、本人の性格や個性に適した物を選別している。
そして、その調査には当然出場レースの成績も含まれている』
「っな!?」
(やはりか……)
驚く印獏トレーナーと対照的に、遊作は表情を一切変えない。
『ウマ娘、ハルウララ……出走レースの大半がビリ、良くても後ろから数えた方が早い順位……敗者であるそのウマ娘にとって、デュエル・スター杯はURAファイナルズを含むファン投票のレースへの起死回生の一手だろうな……』
心底ウンザリしたとばかりに低い声。
レースに負けても笑顔でいられたハルウララも流石に難しい顔をして聞いており、秋川理事長と印獏トレーナーの脳裏には会見の怒号が思い出された。
『……甘過ぎて反吐が出るわ!』
結果を出せないハルウララを切り捨てる様な声に、それでも遊作の足は前に向かった。
「それはちがう」
静かで、確かな否定。
『……何?』
「ハルウララ、彼女の強さは俺が証明する。デュエル・スター杯で、必ず」
力強い遊作の意外な宣言に、声の主は黙り――スピーカー越しに着信音が鳴り響いた。
『……急用が出来たので、これにて失礼する。
藤木遊作。その名を覚えておこう。その凡骨ウマ娘と共に、デュエル・スター杯の頂上に立てるのならな』
それだけ言うと、声の主は電話を切った。
「…………」
「……ゆ、遊作君っ! 遊作くぅん!!」
突然涙を流しながら飛びかかってきた印獏トレーナーを遊作は体を少し動かして躱すと、そのままソファーに激突した。
「ゆーさくコーチ!」
代わりに、ハルウララが後ろから彼を抱きしめた。
「は、離れてくれ……!」
「ううん! ウララ、絶対ゆーさくコーチと一緒に頑張るよ!
絶対、ぜぇったい! 優勝しようね!」
「そうだ! 俺達なら、絶対にやれる!」
「同意ッ! 私も全力で応援するぞ!!」
遊作の見せた熱意に感化されてか、それから十数分もの間に理事長室は気合の声が響き続けた。
理事長室から出て、遊作は校門へと歩いていた。
専属コーチはコーチング以外の時間や食事、就寝等をデュエル・スター杯運営委員会が用意したホテルで過ごす事が定めれている。
学生である遊作はその時間に通信教育も行い、出席日数を確保しなければならい。
「終わったか」
「っ、了見……!」
そんな彼を昇降口で待っていたのは白い髪の青年、
遊作の幼少期を奪い、未来さえ失いかけたロスト事件。
ハッカー集団であるハノイの騎士はロスト事件の首謀者と繋がっており、リーダーであるリボルバーを名乗り、プレイメーカーと何度も戦った旧敵こそがこの青年。
だが、遊作がハノイの騎士を追う理由であった誘拐事件から彼を救ったのが目の前の鴻上了見本人だったと判明した後は、何度か共闘した事もある。
「プレイメーカー……まさか、こんな場所でお前と再び相まみえるとはな」
「リストで名前と写真を見た時は、まさかとは思ったが」
「ハノイはネットの全てを監視している。そして今、LINK VRAINSはこのトレセン学園と繋がろうとしてる。それも今までとは明らかに違う速度で。その内部調査に私が出向いたが……どうやら杞憂だったようだ」
了見は鋭い眼差しを緩めると、不敵な笑みを浮かべた。
「ならば、コーチとして再び貴様と雌雄を決するのもやぶさかではない」
「ああ……俺も受けて立つ」
遊作もその言葉に関心を見せ、笑って頷いた。
「それに、相手は俺達だけじゃない」
「そうだったな」
「わー☆ LINK VRAINSの看板アイドル、ブルーエンジェルがコーチなんてファル子感激~!」
『私もとっても可愛いウマ娘の専属コーチになれて嬉しいよ! 一緒に、優勝目指して頑張ろう!』
「はい!」
「はい、これでいい?」
「ああ……ありがとうございます」
「……ねぇ、何時まで敬語なの? マヤノは別に気にしないんだけど?」
「……なら、俺はこれくらいでいいか?」
(母さんとエマにせがまれたとはいえ……カウントを見誤ったか)
「うん! これからよろしくね、シュナウザーコーチ!」
「うぉぉぉお! LINK VRAINS一の熱血デュエリスト! ソウルバーナーさんがコーチになってくれるなんてぇぇぇ! うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
『うぉっ!? い、いきなり泣くなって……!
そもそも、何時の間にそんな肩書き付けられたんだぁ……?』
「よぉぉぉし! 頑張るぞぉぉぉ!」
こうしてウマ娘達と多くのデュエリストにとって初めての挑戦が始まった。
此処から始まる戦いのロードの結末は、
まだ誰にも分からない。