シニア級 10月第一週
ウマ娘達がデュエルで覇を競うデュエル・スターズ杯。
その出場ウマ娘の一人であるハルウララの専属コーチとなった藤木遊作。
彼は自身が担当するハルウララをより良く知る為にレースのトレーニング風景を離れた場所で観察していた。
「画面越しでは見ていたが、あれがウマ娘の身体能力か……」
他者とのコミュニケーションが苦手である彼がコーチとしてスターズ杯に参加した理由は、彼の相棒として長い間共に戦った草薙の存在があった。
ハルウララのトレーナーである印獏は草薙のいとこであり、ファン投票が条件である大きなレースへの出走を目指す彼女達の為に遊作を頼ったのだ。
「だが、あの足でも最速とは程遠いのか……」
ジュニア、クラシック級までの2年間、ハルウララはレースシリーズで余り良い順位は取れないでいたのだが、シニアになってからはG1入賞などの目覚ましい活躍を見せ始めている。
だが、少し遅かった。
彼女と同じか、更に優れた戦績を積み上げたウマ娘は多くいる。このままレースに出走を繰り返しても、目標のレースに出れるかは怪しい。
「やはり、デュエル・スターズ杯での優勝は絶対。
そして、課題は3つ」
学園のターフを懸命にし走る彼女を観ながら、自分に言い聞かせる様に遊作は課題点を呟いた。
「1つ、彼女のデュエルタクティクスの向上。
2つ、デッキの構築。
3つ、その強化」
遊作は腕のデュエルディスクを起動した。
その中には昨日の手続きの際にインストールされたアプリがあった。
アプリを起動させながら、背の低い学園長の説明を思い出す。
『確認ッ! デュエル・スターズ杯でそれぞれのウマ娘が使用できるカードは既に大会運営の方で送られたと思うが、使用できるカードはそれだけではない!
追加ッ! ウマ娘達が非出場ウマ娘とデュエルする事で、彼女達のカードの一部が使える様になる!』
「今のハルウララの使用カードでの大会優勝は困難……このルールは活用しなくては……」
後でハルウララに他のウマ娘となるべく多くデュエルする様に言おうと、考えたところで遊作は頭を振った。
「……いや、デュエルは誰かに強制されてするモノじゃない」
彼自身の最も辛く苦しい過去が脳裏に浮かんだ。
結局、ハルウララ自身の意思を尊重する事に決めると、目の前のカードリストに目を通しながらトレーニング終了を待った。
サポートカードイベント
デュエルする権利をあげる!
昼休みの校庭にて、デュエルディスクを構えたハルウララと彼女のルームメイトであるキングヘイローが向かい合っていた。
「ウララさん! デュエル・スターズ杯であなたが優勝できるかどうか、一流である私が試してあげるわ!」
「うん! キングちゃんとデュエル出来るの、楽しみだよ!」
傍から見れば上から目線でハルウララを見下している様にも見えるかもしれないが、一流を名乗るキングヘイローは内心、ハルウララを案じていた。
(ウララさん……デュエル・スターズ杯の出場はあなたも望んでの事だと聞いたわ。けれど、スカイさんやエルさんまで出場する以上、優勝は生半可な力では成し得ない……!)
「よーし、ウララがせんこーだね!」
「全力で掛かって来なさい!」
「「デュエル!」」
ハルウララのLP: 4000
キングヘイローのLP: 4000
最初のターンはドロー出来ず、ハルウララの手札は5枚。
無邪気な彼女は引いたカードが思わず「おおっ!」っと声を出して喜びながら、モンスターをフィールドに召喚した。
「まずは……【瓶亀】をしょーかん!」
【瓶亀】
☆4 ATK200
現れたのは背中に悪い笑みを浮かべる人面柄の瓶を背負った赤い亀。しかし、最初のターンは攻撃が出来ない上にその攻撃力はとても低い。
「亀!?」
「そして、カードを2枚伏せて……ターン終了!」
攻撃力の低いモンスターを攻撃表示で晒したハルウララに、キングヘイローは困惑するがその後に伏せられたカードを見てすぐに冷静に戻った、
(攻撃を誘っているのか、【瓶亀】の効果を狙っているのか……どちらにしろ、私はただ一流のデュエルをするだけ!)
「私のターン、ドローよ!」
デッキからカードを引き抜き、キングヘイローの手札は6枚になる。引いたばかりのカードと既にあった手札から最適な動きを導き出そうとするキングヘイロー。
「キングちゃんのスタンバイフェイズに、ウララは罠カードを使うよ!
【強欲な瓶】を2枚だよ!」
「なんですって!?」
しかし、先に動いたのはハルウララ。
「【強欲な瓶】の効果でカードを1枚ドローするよ! そして、【瓶亀】の効果もはつどー! 【強欲な瓶】を使ったから、1枚ドロー!
もう一回、【強欲な瓶】でドローして、【瓶亀】で更にドロー!」
いきなり4枚ものカードをドローしたハルウララに驚くキングヘイローだが、ハルウララの本気を感じて安堵の混じった笑みを浮かべた。
「なら、今度はキングが一流のタクティクスを見せてあげるわ!
私は手札からレベル8モンスター、【神獣王バルバロス】を捨てて魔法カード【トレードイン】を発動! デッキからカードを2枚――」
「――ダメだよ、キングちゃん! 手札から【灰流うらら】の効果をはつどー!」
「っ、やっぱり入っているわね……!」
突然、ハルウララの手札から彼女と同じ名前のカードが墓地に送られ、幽霊の様な儚げな少女がキングヘイローの【トレードイン】を無効化した。
「デッキからカードを手札に加えるのはダメ!」
「上手いわね……これで私の手札は4枚。けど、それは織り込み済みよ!
魔法カード【シャッフル・リボーン】! このカードは私の墓地のモンスターを特殊召喚するカード! 蘇らせるのは、【トレードイン】の為に捨てた【神獣王バルバロス】!」
【神獣王バルバロス】
レベル8 ATK3000
赤い槍と青の盾を持った人型の上半身と黒い獣の下半身を持つ王が現れる。
その力は【シャッフル・リボーン】の効果で封じられているが、王者の風格と力は立ち姿から溢れている。
「こ、攻撃力3000!?」
「まだよ! この【神獣王】をリリースして、手札の【獣神王バルバロス】を特殊召喚するわ!」
【獣神王バルバロス】
レベル8 ATK3000
先の【神獣王】と比べて大きくなった装備と鎧を身に纏っており、何者にも妨げられていないその覇気はフィールド全体に伝わってくる。
「攻撃力は変わらないけれど、【シャッフル・リボーン】で蘇らせた【神獣王】はエンドフェイズに除外されてしまうからこっちの【バルバロス】がお相手するわ!
バトルよ! 【獣神王バルバロス】で【瓶亀】を攻撃!
“キングス・ランス!”」
「わわっ!?」
迫りくる槍の一撃に、ソリッドビジョンと分かっていてもハルウララは身構えてしまい、その間に【瓶亀】は粒子となって消えて行った。
ハルウララのLP: 4000→1200
「カードを1枚伏せて、ターン終了よ!」
キングヘイローの手札は1枚に対してハルウララは6枚だが、フィールドとライフポイントで先んじたのは間違いなくキングヘイローだ。
沢山の選択肢があるハルウララに対して、敗北へのプレッシャーを与えている。
「ライフがいっぱい減っちゃったけど、今度はウララの番だよ! ドロー!」
しかしそんな事でめげる事無く、笑顔を浮かべてカードをディスクに置いていく。
「【ナチュル・パンプキン】をしょーかん!」
【ナチュル・パンプキン】
☆4 ATK1400
かぼちゃの姿のモンスターが現れてその場に座り込んだ。
その見た目で察せるが、レベルも攻撃力も低く【獣神王】を倒せる様なモンスターではない。
「【ナチュル・パンプキン】は召喚した時、キングちゃんのフィールドにモンスターがいれば、手札の【ナチュル】を特殊召喚出来る! この効果で――」
「そんな簡単にモンスターを並べさせないわ! 発動なさい、【スキルドレイン】!」
キングヘイローのLP: 4000→3000
自分のライフポイントと引き換えに発動されたのはフィールドのモンスターの効果を無効化する永続罠【スキルドレイン】。
【ナチュル・パンプキン】の効果だけでなく、【獣神王】の効果も無効化する多大な影響力を持ったカードだ。
「ええっと……あ、だったら【ナチュル・ハイドランジー】の手札から特殊しょーかん! 【ナチュル】モンスターの効果をはつどーしたターンなら、手札から出せるよ!」
【ナチュル・ハイドランジー】
☆5 ATK1900
地面からニョキっと生えて来たのは3本のアジサイ、その花弁の下の影にこちらを覗く目玉がそれぞれ備えられている。
「なるほど、効果が無効になっても発動した事にかわりはない……けれど、そのモンスターでどうやって【バルバロス】を倒すのかしら?」
「勿論、皆と一緒にだよ! 装備魔法【団結の力】を【ハイドランジー】にくっつける! 攻撃力はウララのモンスターの数だけ800ポイント、パワーアップ!
これで【スーパーナチュル・ハイドランジー】になったよ!」
【スーパーナチュル・ハイドランジー】ATK1900→3500
「バトル、【ハイドランジー】で【獣神王バルバロス】を攻撃!
“雨の日もいっしょ”!」
突然雨が降り始め、ぬかるんだ地面に足を取られた【バルバロス】。
その間に【ハイドランジー】が取り囲むと、次々と花が咲き【バルバロス】の姿は消え去った。
キングヘイローのLP: 3000→2500
「っく……!」
「【パンプキン】で、キングちゃんにダイレクトアタック!」
続けてモンスターのいないキングヘイローに向かってかぼちゃが大量に投げつけられる。
「……甘いわ、ウララさん!
手札の【速攻のかかし】を墓地に送り、効果を発動するわ! 直接攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了させる!」
「そんなっ!?」
突然飛び出してきた【かかし】がかぼちゃを叩き落し、目に見えない速さでその場から消えていった、
「……でも、次のターンでキングちゃんを倒しちゃうもん! 手札を1枚伏せて、ターンエンド!」
「そうね。
でも、はたしてウララさんにその権利はあるかしら?」
攻撃を受けてか、手札がない状況でも好戦的な笑みを浮かべるキングヘイロー。
「キングのターン、ドロー!
私は墓地の獣戦士族の【神獣王バルバロス】と機械族の【速攻のかかし】、2枚のモンスターを除外して――現れなさい! 【獣神機王バルバロス|Ur】!」
【獣神機王バルバロスUr】
☆8 ATK3800
3種類目にして最大級の【バルバロス】は、肌が黒くなっており武器と鎧は赤色になり盾の代わりに2つ目の赤い武器を装備し、より凶暴に見える。
「このカードは本来自身の効果でダメージを与えられないけれど、今は【スキルドレイン】の効果で無効になっているからウララさんのライフを0にする権利を持っているわ」
「むむむ……でも、そうはさせないよ! トラップカード【六花の薄氷】! このカードはキングちゃんのモンスターの効果を無効に出来るカードだけど、植物のモンスターをりりーすすれば、そのモンスターとお友達になれるよ!」
ハルウララのフィールドから、【ナチュル・パンプキン】が消えて代わりにキングヘイローの【獣神機王バルバロスUr】が、彼女のフィールドに移った。
「ちょっと! その権利はあげていないわよ!」
「やったぁ! これでウララの勝ちだね!」
(このままターンを渡せば、【獣神機王】は私のフィールドに戻って来る……けれど、ターンを渡して生き残る保証はない。
なら、此処は――)
「――まだよ!
墓地の【シャッフル・リボーン】の効果を発動するわ!
私の表側表示のカード、【スキルドレイン】をデッキに戻してカードを1枚ドローするわ!」
キングヘイローは最後に残った罠カードをデッキに戻し、デッキの上に手を伸ばした。【スキルドレイン】が消え去った今、彼女の場には1枚のカードも残されていない。
「ドロー!」
引いたカードを見てキングヘイローは――動いた。
「私は手札からマジックカード【死者蘇生】を発動!
蘇りなさい、【獣神王バルバロス】!」
【獣神王バルバロス】
☆8 ATK3000
「わわわっ! でも、ウララのモンスターの方が強いよ!?」
「けれど、もう【スキルドレイン】は無いから【獣神王】の効果は有効よ。
【獣神王】、貴方に私の為に槍を振るう権利をあげるわ!
墓地の【神獣王バルバロス】を除外して効果発動! ウララさんのカード2枚、
【ナチュル・ハイドランシー】と【獣神機王バルバロスUr】を破壊するわ!」
【神獣王】が槍を二度振るうと、その衝撃がハルウララのフィールドにいたモンスター達を襲い、砂埃を巻き上げた後には何も残らなかった。
「モンスター達が!」
「これで終わりよ、【獣神王バルバロス】でダイレクトアタック!」
「うわぁぁぁ!」
ハルウララのLP: 1200→0
「負けちゃったぁ……」
「ウララさん、大丈夫?」
実際にダメージを受ける訳ではないが、直接攻撃の迫力と敗北による脱力で地面に倒れたハルウララの身を案じるキングヘイロー。
「ねぇ、もう一回しよ!」
しかし、彼女が手を伸ばす前にハルウララは笑顔で立ち上がった。
「え?」
「キングちゃんとのデュエル、すっごく楽しかったからもっとやろうよ!」
しかし、その言葉と同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「はぁ……教室に戻りましょう」
「えぇ……もっとデュエルしたいのに……」
「キングは何度でも挑戦を受けるわ。後でまたやりましょう」
「あ、じゃあ授業が終わったら!」
「トレーニングがあるでしょう?」
「なら、トレーニングの後!」
「ウララさんはデュエルトレーニングもあるでしょう?」
「じゃあ、お部屋に戻ったら!」
「はぁ……寮長に怒られない時間までよ」
すっかり楽し気なハルウララにキングヘイローは困った様な笑みを浮かべながら教室に戻って行った。
《やる気が上がった》
《ドロー力が10上がった》
《キングヘイローのヒントLvが1上がった》
通常のトレーニングが終了したハルウララは、デュエル・スター杯出走ウマ娘の義務であるデュエルトレーニングの為の部屋にやって来た。
「ゆーさくコーチ!」
「来たか、始めよう」
そして彼女のトレーナーである因獏は少し離れた場所でその様子を見ていた。
(今のウララなら、きっと11月のJBCスプリントでもきっと戦える。
けど、やはりファン数の獲得は初開催で大盛り上がりを見せたデュエル・スター杯での活躍は必須。トーナメント戦だから、勝ち上がればそれだけ多くの試合に参加出来て、ファンも増える筈……デュエルモンスターズはからっきしだけど、俺もトレーナーとしてハルウララや遊作君の手助けをしなくては……!)
「通知を受け取った。誰かとデュエルをしたんだろう?」
「うん! キングちゃんとのデュエル、すっごく楽しかった!」
「そうか。実際に使ってみてどうだった?」
そう言われたハルウララは自分が負けた原因を懸命に思い出し、最後にカードを引かれたのを思い出した。
「うーんとね……私と同じ名前のカード、あの子がもう1枚引けてたら勝てたんだと思う!」
「灰流うららか……確かに強力なカードだが、入れ過ぎると自分のデッキの動きが鈍くなる。だが、確かに複数枚の投入は検討すべきだな」
ハルウララの意見を参考にデッキのカードを調整していく。
それが終わると遊作はデュエルディスクを装着した。
(現実世界でのデュエルは久しぶりだな……)
勿論、コーチとしてハルウララの対戦相手になる為だ。
「行くぞ、ハルウララ」
「負けないからね、ゆーさくコーチ!」
残念ながら幼少期の頃、楽しかったデュエルを強制され強くなった彼に、誰かに教える技術など無い。
(だが、彼女がデュエルを楽しもうと真剣にカードと向き合うなら俺と戦いの積み上げこそ、きっと糧になるはずだ)
手加減、遊び……そんな物とは縁遠い敗北の許されないデュエルに身を置き続けていた遊作だったが、今はただ目の前の少女の為に全力でデュエルをする。
「【六花の薄氷】が見え透いている。【地砕き】で先にモンスターを破壊だ」
「攻撃力アップのカードはダメージステップに発動するべきだ。
攻撃宣言時に使うなら、【聖なるバリア―ミラーフォース】を発動する!」
全力での勝負の結果、ハルウララは勝利どころかライフを削るのにも苦労していた。
「……もう1回!」
「熱くなり過ぎている。一度休憩だ」
「でも、次は勝てそう――」
「――ウララ、ニンジンジュースだぞ」
「やったぁ!」
ごねるハルウララにジュースを渡して休憩させた因獏トレーナーは、彼女が離れたのを見て遊作に声を掛けた。
「その、ウララはどうですか……?」
その声色には不安が混ざっていた。勿論、ハルウララが全敗しているのを見続けていたので、仕方がない事ではなるが。
「心配はいらない。
彼女の実力は高い。まだ伸び代もあります。足りないのはそれに見合うだけのデッキだけだ」
「やっぱり、使えるカードが弱いから……」
大会運営がそれぞれのウマ娘に用意した使用できるカード。
知識の無い因獏トレーナーだが、あの校長室のやり取りでやはり気になっていた。
「それも恐らく時間が解決してくれる」
そう言って遊作は端末に表示された5枚のカードを印獏トレーナーに見せた。
「これは……」
「彼女が学園でデュエルをした事で手に入れたカード達です。大会までに彼女はもっと多くの学友とデュエルをする。そこで手に入れたカード達は、きっと彼女に答えてくる」
遊作の言葉に、自分がハルウララに対して抱いている信頼と同じモノを感じたトレーナーは視線を愛バに移して、頷いた。
「……ええ、ウララは多くの人に愛されてますから」
「ねぇ、早くデュエルしよー!」
ニンジンジュースを飲み終わったハルウララは、満面の笑みで手を振ってコーチを呼ぶのだった。
ハルウララが使用できるのは、桜や春に関するカードやナチュル等の野菜系植物族、そして亀や強欲、貪欲なシリーズです。彼女は果たして、立派なデュエリストになれるのか……