ウマ娘VRAINS   作:スラッシュ

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兄として、従者として

デュエル・スター杯トレーニング期間の2ヵ月前

 

 ――無限に広がり続ける仮想現実世界、LINKVRAINS。

 

 広大な電脳空間の中では、悪質なハッカーや犯罪者が非合法なプログラムの使用や、秘匿性の高いワールドで違法な取引を行う事も多い。

 

 LINKVRAINSの管理を行うSOLテクノロジー社も、優秀なセキュリティチームや人工知能による取り締まりを日々強化しているものの、撲滅には未だ至らないのが現状だ。

 

 そんな監視の網から逃れ、次の悪事を企む彼らには懸賞金がかけられており、SOLテクノロジーの人間ではない所謂バウンティーハンターと呼ばれる者達がその追跡、捕縛を行い金を受け取る事もある。

 

「速やかに投降しろ。カウントは3だ」

 

 犯罪者を前にして、指を鳴らして警告するこの男、ブラッドシェパードもその1人だ。

 元々彼はバウンティーハンター達の中でも特に高い検挙率を誇る凄腕であり――

 

「――はい、おしまい」

 

 同じく高い実力を持つパートナー、ゴーストガールと組んだ事で更に多くの犯罪者の捕縛に成功している。

 

「おい、カウント2で動く手筈だっただろう」

「この前はそう言って私より先に1人で動いたじゃない」

 

「全く、お前は……」

 

 ガンマンの様な帽子とマント姿のブラッドシェパードは、相棒であるゴーストガールに苦言を呈したが、以前連携を乱したのは彼であった。

 

「兄さんは過保護なのよ」

「此処でその呼び方はやめろ」

 

 危険の付き纏う仕事ではあるが、この2人はどんな獲物も確実に追い詰めて捉え続ける最強のコンビだった。

 

 

 ――そして、現実では。

 

『――本日のインタビューは、今年度の宝塚記念で見事1位の栄光を掴んだマヤノトップガン――』

 

「母さん、調子はどうだい?」

「あら、健碁! それにエマちゃんまで!」

 

「お久しぶりです」

 

 病院のベッドの上で体を起こして2人を出迎えたのは、ブラッドシェパードである道順健碁の母親だ。

 

「私は花瓶の水を代えてくるわ」

「ああ、頼んだ」

 

 異母兄妹であるゴーストガール、別所エマは2人に気を遣って病室から出て行った。

 

「またウマ娘のニュースを見ていたんだね、母さん」

 

「そうなの! このマヤノトップガンって娘が本当に可愛くて早くてね――」

 

 他愛無い世間話だが、健碁はそれを幸せそうに聞いていた。

 何故なら、こんなにも何気ない時間は数年前の事故で彼の右手と母親の両足と共に失われてしまっていたのだから。

 

「……そっか。なら、レースを見に行こうか」

「そうね、見てみたいわ……え?」

 

 彼の言葉に母親は驚いた。その顔を見てしたり顔で笑った彼は母親に言った。

 

「先生が言ってたんだ。容体が安定してきたから、ちゃんとリハビリすれば年末には車椅子での外出が出来るって!」

「え、お母さんそんな話聞いてないけど?」

 

 母親の言葉に、指を鳴らすと担当医師が入って来た。

 

「先生?」

「いやはや、実は先週から息子さんにお伝えしたのですが、検査が終わる前ではお母様に伝えないで欲しいと言われまして……」

 

「健碁!」

 

 叱りつける様な声で息子の名を小さく叫んだが、母親の顔は何処か嬉しそうだ。

 

「ははは、サプライズ、サプライズだよ母さん!」

「全くもう……だから最近検査が多かったんですね」

 

 医者が謝り、健碁も2人に謝った事で詳しい説明がされ、医者は最後に「お大事に」とだけ告げて部屋を出て行った。

 

『有馬記念でブライアンさんと走るって約束してるの!』

 

「まあ、そう言う訳だから有馬記念だっけ? なら、もしかしたら見に行けるかもしれないね」

「そっか……母さんもリハビリ頑張るわ」

 

 握り拳を見せて張り切る母親の姿に心の底から喜んだ。

 なので健碁は、母親に質問をした。

 

「そうだ。何か欲しいモノはないかい? 母さんの外出記念って事で!」

「まだ気が早いわよ。それに、私は健碁やエマちゃんが元気でいてくれたらそれでいいわ」

 

「遠慮しなくてもいいから!」

 

 母親として息子やその妹の身を案じているが、健碁としては本当に母親の為に何かしたいと思っている。

 

「そんな事言われても、欲しいモノなんて……あ」

 

 彼女はテレビに映るマヤノトップガンを見た。

 

「そうね……あの娘のサイン、とか」

 

 若干遠慮がちに口に出したのは、マヤノトップガンのサインだった。

 

 勿論健碁はそのリクエストに答える気満々だ。

 

(なら中央に行かないと……サインの貰い方はどうする? 練習時間の終わり際が良いらしいが俺が行くのは不味いか? エマに頼むべきか……)

 

「兄さん、入るわよ」

 

「ん? ああ、良いぞ」

 

 花瓶を手にエマが帰って来た。しかし、普段なら2人の談笑の為にもう少し遅く入って来る筈だ。

 

「廊下で聞こえたんだけど、実は私もマヤノトップガンのファンなんです」

「まあ、エマちゃんも!?」

「ええ。なので、兄さんには是非私の分もサインをとって欲しいなぁって思ったんですよ」

 

「おいおい、これは母さんの外出記念なんだぞ?」

 

 なんて言いつつ、母親と腹違いの妹が同じ話題で盛り上がるのを内心喜んでいたが、その妹が端末を見せてくると彼はとても驚いた。

 

 それは健碁とエマ、2人の知り合いとのやりとり。

 暗号化されているが、普段から同じ暗号で報告を行っている彼は直ぐにその文章を理解した。

 

「なっ――!?」

 

 兄に端末を手渡し、エマは母親との会話を続けた。

 

「マヤノちゃん、今年のデュエル・スター杯に出るって知ってますか?」

「ええ、勿論! 昨年優勝したブライアンさんに奨められたって!」

「それで今SOLテクノロジー社の方でコーチを募集してるんですよね。

 募集期間はあと1週間だけど一般枠はもう応募者が数千人を超えているとか」

 

「デュエルね……あ、健碁はデュエルが強かったのよね」

「ですから、今からでも応募したらもしかしたら当選するかも! 大会実績とかは必須ではないみたいですし」

 

『ねぇ、デュエル・スター杯のコーチの選考ってSOLテクノロジーが一任しているのよね?』

『急だな。確かに今回のデュエル・スター杯はLINKVRAINSを中央に繋げて、両競技の更なる発展を目指しているから、KC社からはデンシティの住人の中から選考する様に要請されているが……』

『暗号でも真面目なのね。ブラッドシェパードは推薦できないかしら?』

『何? いや、アバターでのコーチは既にこちらで著名なデュエリストを用意しているから無理だ。

 一般枠ならまだ手はあるが……』

『なら、それを一枠兄さんに頂戴。勿論、後で振り込むから』

『いや、それ位なら金は不要だ。ボーナスだと思ってくれて構わない』

 

(財前……! 何がボーナスだ! 俺はこんな祭りに参加したりしないぞ!

 第一、顔写真も無しでどうやって……!)

 

 心の中で悪態を吐いていると、財前から更にメッセージが送られてきた。

 

『恐らく読んでいるんだろう、ブラッドシェパード。ゴーストガールから既に君の情報が送られてきた。登録は無事完了した。

 一次選考は突破出来るので、後は実力で二次選考と面接に受かってほしい』

 

「それなら、私健碁とマヤノちゃんのツーショットが欲しいわ!」

「良いわね! 私もその写真は是非見てみたいわ!」

 

 母親とエマはもし健碁がコーチになったらで盛り上がっており、健碁は息子として、兄として、その責務に追い詰めれていた。

 

(覚えておけよ、エマっっ!! 財前っっ!!)

 

 唯一の不安点だった火傷跡のある顔も、人気の高いマヤノトップガンのファンからの恨みを受けにくいと言う事と、事故にあった母親の為という涙ぐましいエピソードにより無事解消された。

 

 本人は、やはり最後まで不服だったが。

 

 

 

10月 第二週

 

「……」

 

「どうしたの、シュナウザーコーチ?」

 

 こうしてマヤノトップガンのコーチとなったブラッドシェパード、もとい道順健碁、改めシュナウザー。

 

 ネットリテラシーの重要性を理解している彼はマスクとサングラスを着用した上でシュナウザーのニックネームを名乗り、自分の個人情報をひた隠しにしている。

 

 因みに火傷跡を理由に、公式サイトの紹介ページでも同じ顔写真を掲載させている。

 

「なんでもない。今日のトレーニングを始める」

「はーい!」

 

 マヤノトップガンはこんな怪しい風貌の男であっても怖がる事無くトレーニングを受けていた。

 それは彼女の持つ直感で彼の優しい内面を見抜いての事だったが、それを知らない健碁はそんな彼女の警戒心の無さが少し心配だった。

 

 しかし、彼の中で既に彼女の印象は人懐っこい素直なウマ娘から、恐ろしい程に感の良いデュエリストに変わっていた。

 

「【サイクロン】の効果で、コーチの右のセットカードを破壊!」

 

(永続罠【ドローン・コードン】で【幻獣機ドラゴサック】の破壊効果からモンスターを守るつもりだったが、アテが外れたか)

 

「【幻獣機ヤクルスラーン】の効果でコーチの手札の左から2番目のカードを墓地に送くっちゃうよ!」

 

(制限カードの【死者蘇生】を選んだか。運の良い……)

 

 最初は只運が良いだけの初心者かと思っていたが、1戦目より2戦目、2戦目より3戦目とその実力は増していき、徐々にデッキの内容を把握している彼を圧倒し始めていた。

 

「――あー、また負けた!」

「初日で負けるつもりはない」

 

 この実力なら毎週デュエルしているだけで優勝出来るだろう。

 彼女の勘の鋭さと理解力の高さを理解して、健碁はそう結論付けた。

 

 しかし――

 

「――ねぇねぇ、シュナウダーコーチ!」

「どうした? 今日のトレーニングはもう終了しただろう」

 

「私、このカードを使ってみたい!」

 

 そう言われて見せられたのは彼女のデッキに入っていないカード。

 

「……だが、これを使うならデッキ内容を大幅に変更する事になるぞ?」

「それでいいよ! ねぇ、お願い!」

 

 両手を合わせて可愛らしい仕草でお願いしてくるマヤノトップガン。その後ろでは、彼女のトレーナーが苦笑いしていた。

 

「分かった。次回のトレーニングまでに完成させておく」

「わーい! ありがとうございまーす!」

 

 笑顔でお礼を言う姿が、無茶ぶりをする時の妹と重なった。

 何か嫌な予感を感じたが、それは的中する事となる。

 

 

10月 第四週

 

「マヤノ、次はこれが良い!」

「このカードの効果、どうやって使うのか気になる!」

「これはどうかなぁ?」

 

 毎回毎回、トレーニングの度にマヤノトップガンは彼に新しいデッキをせがんだ。

 

 その度に望みのデッキを完成させられたのは、彼がバウンティーハンターとして恒常的に相手を研究し対策したデッキを作ってきたからだろう。

 

 しかし、そんな彼にも流石に限界があった。

 

「マヤノトップガン。デュエル・スター杯の本選では、デッキの変更は行えない。

 本気で勝つなら、デッキコンセプトを決めて1つに絞り、残りの日数で微調整を繰り返すべきだ」

 

 子供相手に怒る事はしなかったが、言い聞かせる様に彼女にデッキを選ぶべきだと説明した。

 

「でも、このデッキじゃ優勝出来ないもん!」

「じゃあどんなデッキなら優勝出来るんだ?」

 

 そんな事がどうして分かるのか? とは聞かなかった。彼女の持つ勘は未来を見通しているかの様に正確だと理解しているし、彼女は自分の勘を疑わない。

 

「それは、分からない……」

「……そもそも、今回のデュエル・スター杯のルールじゃ作れるデッキにも限りがある。迷っていれば、それだけ他の選手に後れを取るぞ」

 

 健碁はそう忠告するがマヤノトップガンは結局デッキを決めずにその日のトレーニングは終了した。

 

「……あの」

「ん? なんですか?」

 

 トレーニングが終了すると、マヤノトップガンのトレーナーが近付いてきた。

 

「すいません。マヤノは、ちょっと飽きっぽい所があって……」

「……あの理解力の高さなら、分からなくもない」

 

「でも、好きな物や興味を引く物が見つかればきっと今より真剣にデュエルと向き合ってくれると思うんです! ですから、もう少し時間を下さい! お願いします!」

 

 そう言って頭を下げてくるトレーナーに知り合いの男と同じ誠実さを感じ、健碁は返事を返した。

 

「……分かりました。こちらでも、何か案を考えておきます」

 

 そしてその日の夜――

 

「――それは兄さんが悪いわよ」

「……? どういう事だ?」

 

「仕事の時の兄さんってこんなに堅物なのね。バウンティーハンターの時みたいにもっと臨機応変にいかなきゃ」

 

「臨機応変……?」

 

「マヤノちゃんは、兄さんのデュエルに飽きてるのよ」

「それは理解している」

 

「分かってないわね。

 兄さん、今日は何のデッキを使ったの?」

 

「当然【ドローン】だ」

 

 戦闘機や軍事の分野に関心を持つ、所謂ミリオタの一面を有する彼は【ドローン】の名前を持つ機械族のデッキを好んで使っていた。

 相手を妨害し素材を揃え、リンク召喚による直接攻撃とバーンダメージの波状攻撃でライフを削る彼の戦術は強力だが……

 

「その【ドローン】デッキ、初日からずっと使ってるんじゃないの?」

「……そういう事か」

 

 エマに核心を突かれ、漸く気が付いた。

 マヤノトップガンはデッキを変えていたが、対戦相手である自分はずっと同じデッキを使っている。

 

 これでは逆だ。

 大会に参加し、様々な対戦者と戦う事を想定するならデッキを変えるべきなのは自分の方だった。

 

「そういう事」

「……エマ、頼みがある」

 

「はいはい、兄さんの頼みだもの。マヤノちゃんの生写真で引き受けてあげるわ」

 

 

10月 第二週

 

 シュナウザーがマヤノトップガンとの問題解決に向かっている中、ウマ娘と大きな問題を抱えているコーチがもう一人いた。

 

「――今日のトレーニングは此処までです」

「そうか。では帰らせて頂きます」

 

 終わりだと言われた彼女は、腕に付けられたデュエルディスクを外すと直ぐにトレーニング室を出ていこうとし、反省会をすると思っていたトレーナーは慌てて席を立った。

 

「あ、エアグルーヴ!? す、すいませんスペクターコーチ、失礼します!」

 

「いえいえ、お気をつけてお帰り下さい」

 

 慌てて出ていくトレーナーを小さく手を振って見送りながら、エアグルーヴのコーチであるスペクターは仕方ないかと頭を振った。

 

「やれやれ。どうやら私は女帝様に大変警戒されているようですね」

 

 トレセン学園の生徒会副会長を務め、その実績から女帝と評されるウマ娘、エアグルーヴ。

 

 デュエル・スター杯はレース実績が少ないウマ娘が出場する傾向にあるが、そんな事は関係ないとばかりに参加していた。

 

 その意図は誰にも分からない――が、スペクターはおおよその検討が付いていた。

 

(学園での様子を観察していれば、彼女の参加は尊敬するあの皇帝が関係しているのは容易に想像がつきます。ですが、生真面目なあの性格では私との相性は最悪ですね)

 

 そんな風にエアグルーヴを分析していると、トレーニング室に彼女のトレーナーが戻ってきた。

 

「……スペクターコーチ! よかった、まだいましたか」

「おや、どうかしましたか?」

 

「いえ、彼女……エアグルーヴは機嫌が悪い様ですが、やっぱり進捗はしっかり確認したくて……」

 

「なるほど、生真面目なの貴方もですね」

 

「え?」

 

「いえ、トレーニングの進捗ですか。いいでしょう、確認しましょう」

 

 スペクターはこれまでのトレーニングを思い出す。

 彼女がスペクターから距離を置いているのは、最初に顔を合わせた時からだ。

 

 彼は常に敬語で、普通の人であれば紳士的で社交的な彼の言動に嫌悪感を抱く者は少ない。

 だが、エアグルーヴや学園内の一部ウマ娘はそうではないらしく常人から逸脱した彼の精神性を警戒する者もいる。

 

 メンタリストの様に振舞いながら、その中にある弱点を探られている事に不快感を抱いてしまうのだろう。

 

「トレーナーさんもお分かりであると思いますが、私は彼女に大変嫌われています。私の指導も、半分以上は聞き流されていると思います」

 

「そう、ですね……」

 

「このままだと非常に危険です。デュエルは対戦相手とのコミュニケーションが大事です。目の前に立っている相手に関心を抱き、興味を持って相対するからこそ勝利の糸口が掴めるのです」

 

 そうして掴んだ糸口で、容赦なく相手の精神を揺さぶり続けてきたスペクター。

 

「予習はしている様ですが……対人経験が得られないのは困ります」

「なるほど」

 

「そこで、1つだけ彼女に私への関心を向けさせる方法を思いつきました。

 良ければ、私に協力していただけませんか?」

 

 スペクターはトレーナーに1つの案を提示した。

 

 何の事はない。彼女と1対1で話し合う場が欲しいと頼んだのだ。

 

 

「おはようございます」

 

「……スペクターコーチ」

 

 日課である学園の花壇での水やり。

 後ろから挨拶されたエアグルーヴは日常の一コマに影が刺した様に感じていた。

 

「花に強い関心があるとお聞きしましたが、女帝自らが花の手入れとは驚きました」

 

「……どういう意味だ? 私が植物を育てているのがそんなに不思議か?」

「いえいえ、滅相もない。かく言う私も植物……特に木が好きです」

「ほう、それこそ意外だな」

 

「長い年月をかけて育った大樹に身を寄せると、母親と共にいる様な安心を得ます。貴方は、逆に小さな花達を愛娘の様に愛でているようですが」

 

「やはり対極的だな」

 

 その言葉で会話を打ち止め用とした様で、エアグルーヴは口を閉じた。

 しかし、スペクターは止まらなかった。

 

「私個人を嫌っているのは重々承知しております。しかし、デュエル・スター杯に参加をする以上、貴方には目標等の何らかの理由がある筈です。違いますか?」

「仮にあったとして、それを話すつもりはない」

 

「そうですか? 私としてはレースに対してストイックな貴方が多忙な中、拘束時間の長いデュエル・スター杯に参加する理由には大変興味があります」

 

「知る必要は――」

「――例えば、皇帝様に参加を促されて、とか」

 

「っ」

 

 皇帝――その言葉に、エアグルーヴは僅かに動きを止めた。

 

「女帝である貴方が唯一尊敬して止まない生徒会会長、皇帝シンボリルドルフ。彼女に言われたのなら参加するは決定事項でしょう」

 

「……」

 

 ジョウロを持ったまま、苦虫を嚙み潰した様な表情を滲ませていた。

 

「しかし、何故彼女は貴方に参加を? よりによってあのデュエル・スター杯に?」

 

 スペクターの全てを知った上で惚けているかのような声色に、エアグルーヴの腕は振るえる。

 

「去年、第一回のデュエル・スター杯はナリタブライアンが1位に輝きましたね。

 2位は――で。皇帝は……」

 

「貴様――会長を侮辱するつもりか!」

 

 ずっとスペクターに顔を向けずにいたエアグルーヴは我慢できずに激昂し、彼を強く睨みつけた。

 

「とんでもない! 私も貴方の気持ちは察します。尊敬していた人物の失敗や敗北は大変受け入れがたいモノです」

 

「よくも抜け抜けと……!」

 

「本当です。私にも、同じ経験がありましたから」

 

 スペクターはハノイの騎士であり、そのリーダーであるリボルバーに強く心酔している。

 そのリボルバーも、そして自らもプレイメーカーやイグニス達に敗北し、失敗に終わった計画も多く存在する。

 

その記憶を持つスペクターの顔に、初めてエアグルーヴは共感した。

 

「……ですので、私には皇帝の意図が分かります」

「……なんだと?」

 

「あの気高いシンボリルドルフが、自らの敗北を副会長である貴方に拭って欲しい……等とはきっと頼んだりしないでしょう? 恐らく、他でもない貴方の為に参加を促している筈です」

 

「私の為に……」

 

 その意図を考えようとするエアグルーヴだが、分からない。

 

(そういえば会長は『あの場でしか得られないモノがある』と言っていたような……)

 

「……さて、私はもう行きます」

 

 スペクターはエアグルーヴに背を向けて歩き出す。

 

「っ、待て!」

 

 そこに、彼女から静止の声をかけられた。

 

「……どうかしましたか?」

 

「……いえ、後ほどデュエルトレーニングで」

 

 言い掛けた言葉を飲み込んで、乱れた口調を整えて別れの言葉を口にした。

 

「ええ、お待ちしております」

 

 去っていく背中を見ながら、エアグルーヴは1つの推測を立てていた。

 

(あの男は、会長の意図に気が付いている……?)

 

 副会長であり常に彼女の隣に立っている自分はまだ理解出来ていないのに、あの不気味で得体のしれない男はシンボリルドルフの真意に気付いている。

 

 そんな訳がないと思いつつも、彼女はその可能性を疑わずにはいられなかった。

 

 

《エアグルーヴのやる気が上がった》

《スキルPtが30上がった》

《エアグルーヴの絆ゲージが5下がった》

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